第2章 異世界生活に物申す

第30話 タブレットはある。でもネットには繋がらない。それが問題だ。



 僕の手元にはタブレットがある。現代ではとっても便利なあのタブレットだ。指でタッチ操作ができるヤツですよ?


 だから、普通なら、疑問に思ったことがあれば、たいていのことはグーグル先生が教えてくれるはずだ。


 それがたとえ、『初めては済ませたんですけど、その次の、2回目のエッチって、どうやって誘えばいいんですか?』みたいなどうしようもなくくだらなくて、それでいてそのことで悩んでいる本人にはとてつもなく切実な、そういう質問だったとしても。


 何十億といるネット民が、どんな質問であってもいろいろと答えてくれるに違いない。あ、日本語だったら1億人くらいか。


 ……まあ、僕の悩みなんですけどね。


 ホント、2回目って、どうすればデキるんですかね?

 誰か教えてくれないですかね?

 相談相手は『遠話』でつながってる苗場くんぐらいなんですけど、ちょっとこれは、さすがに相談しにくいというかなんというか。


 残念なことに僕のタブレットは、僕の悩みに答えてくれることはない。


 だって、ネット環境がないから。ないんだな、これが。


 いや、正直なところ、現実逃避を内心でしているというのは、自覚してます、はい。


 なぜなら――僕は今、リコと二人で、奴隷商に来ているから、です。あ、もう一人、いますけどね。関係者が。


 現実逃避もしたくなるってもんですよ。


 人間がすぐそこで、売られているんですからね! 目の前で! しかも、僕たちはそれを買いに来たんですから!


 奴隷商? 何言ってんだって思ってませんかね? そんなもんあるワケないじゃん、とか、思ってませんかね?


 あるんですよ!


 だって、ここは、異世界なんだから!


 ネット環境なんて、あるワケないんですよ!


 異世界だから!! ついでに人権もありませんから!! 奴隷商はあるけど!






 まあ、誰に説明してるんだって話で。


 僕とリコは、クラス転移で召喚された国を脱出して、とある奥地の水源地の泉を確保し、そこで初むにゃむにゃに至りまして。その時にどうだったのかって話は、お願いだから聞かないで……。


 それから、リコの望みでちょっとだけ農業とか頑張って、小さな寝室だけの丸太小屋なんかも建てて。


 ……なんと、水魔法の水を与えると農業が楽勝で豊作だという、衝撃的な事実に気づいてしまいましたけどね。


 イチゴが、まるでリンゴみたいなサイズで実るんですよね……。


 まあ、それを頬張るリコが超カワイイので問題はないけど。


 たぶん、この世界のウサギとか、イノシシとか、クマとかが僕たちの常識よりもデカいのは、魔力が影響していて、農業でも、水魔法の水を使うことで似たような現象が発生しているのかなと、なんとなく結論付けてます。


 ……そもそも、こっちに召喚されてから、いろいろと学んだお城で教えてもらった魔法は、ずいぶんと前に召喚された時に現れた大賢者が残したという攻撃魔法ばっかりなんで。しかも、厨二な名前が付けられてるヤツ。


 僕とリコは、ちょっと特殊な魔法の使い方、してる。僕は自己流で、リコは直感流、かな? リコは大賢者の残した攻撃魔法も教わってたから使えるみたいだけど。


 まあ、それはいいとして。






 それで僕とリコがむにゃむにゃしてから1か月ほどして、リコに女の子の日がきて、とりあえず妊娠はしなかったと判明して、ですね。


 このまま、この水源地でサバイバル農業生活をするには、いろいろと僕たちでは不足があると考えまして。


 僕とリコは水源地の拠点を一度、離れることにしたワケです。


 で、森を抜けて、街道へと出て、町へ向かいました。そこはノーレナ王国のゲラドバという町でした。


 ノーレナ王国の通貨は持っていなかったので、ノーレナ王国の開拓者ギルドで改めて僕とリコは新規登録をして。もちろん、テンプレとかは発生しません。


 その場で、5つほど、換金してほしいとお願いしたんですよね。


 森の中で狩ったクマの頭を。あ、討伐証明部位の腕も出しましたよ。


 以前、フェルミナ王国のマラゼダの町で、頭は貴族に高く売れると聞いていたから。


 いや、びっくりした。大騒ぎになったから。


 そりゃ、ちょっとは騒ぎになるとは考えてたけど。


 それほど大きくない町の開拓者ギルドだったから、かもしれない。


 風呂敷みたいにクマの頭を包んでた布を取り払った瞬間、ギルドの職員さんの目がまるで空虚な深淵のように見えましたよ。5つ目を見せた時には死んだ魚のような目になってました。


 オークションか、買取か、と聞かれて、買取でお願いして。金貨が足りないと言われたので、金貨20枚分までは為替で頼んで。


 森の奥地の水源地を確保したことを説明して、開拓村をつくりたいから相談にのってほしいと頼んで。


 ギルド長が出てきて、いろいろと教えてくれて。


 土木建築全般ができる大工さんとその弟子たち、それから金具と武器の修繕なんかができる鍛冶職人の弟子ひとり。鍛冶職人は弟子だけなんだ……。


 大工さんたちは1年間で金貨5枚の契約、鍛冶職人の弟子は金貨2枚の契約。たぶん、ギルドが中抜きはしてるけど。


 そして。


 ギルド長が村人の確保は奴隷が早いと言ったから。


 さらには、とどめに。


「奴隷の女、ちゃんと買っとけよ。ヤれるトコがねぇと、開拓村、崩壊するからな」


 そんなことまで言われて。リコがすごい複雑そうな顔してて。


 そういう流れで僕とリコは中世の奴隷商の中にいるワケです、はい。


 僕とリコは今から奴隷を購入します。


 ……いや、異世界生活、精神的に厳しくないですか? 個人的にはもっと楽しめると思ってたんですけどね?





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