閑話 クラス転移前日譚 親友と書いてライバルと読む、女の子ふたりの恋のさやあて ~恋に恋する不器用女子は、未だ、彼氏いない歴イコール年齢の、立派な処女です~(2)



 あたしとママユミ――野間真弓の付き合いは、中1からだから、もう4年以上になる。

 ママユミはあたしの親友。それは間違いない。

 間違いないんだけど……。


『応援、してね? キリコ?』


 中1でひとり、中2でふたり、中3でもふたり、高1ではひとり、合計、6度の好きな人かぶりと応援要請。

 好きになりそうな、または好きになった男の子がかぶった時、いつもいつも、そう、先に言われてしまって。


 ママユミの……中1の時点で既に自己主張が見られて、中2、中3、高1と、あたしの人生を暗くするように、さらなる破壊力を増していったママユミの母性の象徴を自分の部屋で思い出し。

 ちょっとは女の子らしくふくらんできたかなぁ、と思えなくも、なくも、ない、くらいの、あたしの胸を、キャミの首のところに指をかけて引っ張りつつ、見下ろしてみるけど。


「……勝ち目は万にひとつもないよー」


 サイズ的に。


 そんな、女の子としての自信が持てないあたし。


 さすがに高2になって、彼氏いない歴イコール年齢は、あせりがある。


 今まで、応援して、とは言われたものの、結局のところ、ママユミが彼らに告白するという、積極的恋愛行動を進めることはなかった。


 ……まあ、あたしも、その、告白とか、そんな、簡単に、できるとは、思わないけどさ。


 でも、なんていうか。

 無理せず、自然に気が合うママユミとは、きっと、これからも一緒にいるだろうし。


 そうすると、好きな人がかぶり続けることも、十分、ありうるワケで。


 ライバルがママユミだとすると……。


 中3の修学旅行の大浴場で見た、ママユミの破壊力抜群の母性の象徴がぽわわんと頭に浮かぶ。


「……あたしが、女の子の全部を捧げても、アレには勝てそうにないんだよねぇ」


 はぁ、と、ため息が漏れる。


 それは。

 7度目の、ママユミとの、好きな人かぶりのせい。

 いや、まだ、本当にその人が好きなのか、あたしは、はっきりとは、よくわかんないんだけどさ。


「なんで、同じ人に、ひかれちゃうんだろ……」


 そんなの、わかってる。


 あたしと、ママユミが、本質的に、マジメで、一生懸命なところ、そういう人としての本質が、とてもよく似ているから。

 それでいて、ややコミュ力が高いあたしと、ややコミュ障なママユミの自然な役割分担が心地よく、お互いに離れられなくて。


「あたしだって、彼氏がほしいよぅ……」


 そんなつぶやきは、自分の部屋の中で、どこへともなく、消えていく。






 ある日の、お昼ごはんの時。

 教室で机をくっつけて、ママユミと渡くんと、三人で食べながら。


「……そ、そういえば、野間さんは、中学は弓道部だったって、言ってたよね」

「そうですよ」

「ちなみにあたしは陸上でしたー」

「陸上かぁ。佐々木さんらしい感じがするね」

「へ? そ、そうかな? えへへ……」

「キリコは活発なところがあるから」

「そうだね。佐々木さんは明るいし。あ、それで、弓道とアーチェリーって、どっちも弓矢だけど、どう違うのかな? なんか、気になって」


 渡くんの、そんな、素朴な質問に。


「む、胸に、弦が当たるか、当たらないか……」


 ママユミはそんな、意味不明な答えを……って、渡くん!? その視線はダメだよ!? そこは目をやっちゃダメなとこだよ!?


 わっ! ママユミ! そんな渡くんの視線で頬を染めるとか、あざとい!

 あざといよ!?

 ママユミ、今、自分からその話題にしたよね?

 いや、ママユミ、耳まで赤くなってきた!? 見られて本気で赤くなるなら言わなきゃいいのに!?


 ……ていうか、ママユミが自分の母性の象徴を男の子との話題にするなんて、今まであったっけ? ないよね? なかったよ、うん。絶対にない。


 え? ママユミ? 本気で、渡くん、落とそうとしてる? してるよね?


 わ、話題、話題変えなきゃ!


「二人とも中学生かっ!」


 あたしはそう突っ込みを入れて、ママユミと渡くんの肩をバシバシと叩いた。


 ……せ、せめて、肩ぐらいだけど! 肩ぐらいだけど! スキンシップで反撃しないと!


 ママユミがあの女の武器を使って本気でアタックしたら!


 あたしなんて、処女を捧げてもママユミには勝てそうにないんですけど!?


 どうすれればいいの!? って、あれ? 反撃? なんで、あたし……。






 ある日、渡くんが学校を休んだ。


『おーい、渡くんやーい、大丈夫かーい?』


 心配だから、授業中だけど、ママユミと渡くんとの、三人のグルチャにメッセを入れる。


『渡くん、大丈夫ですか? 心配してます』


 あのマジメなママユミも、授業中なのに、あたしと競うように、メッセを入れてきた。


 たぶん、どうしようか迷いながら、授業中にスマホをいじってたんだろうなぁ。

 そこで、あたしが先にメッセ、入れたから。

 あたしに対抗して、さ。もう。ママユミってば。


『ただの風邪。大丈夫です。心配してくれてありがとう。二人の優しさに感動です』


 渡くんからの返信は、あたしとママユミ、二人まとめて。


 ……感謝とか、感動とか、まっすぐすぎて。本当に、いい人だ。


 なんて返そうかな?


『渡くんって。ええと、どういたしまして?』


 うまく思いつかなくて、ちょっと変な感じになった。失敗。


『心配するのは普通のことです。大丈夫そうで安心しました』


 ……ママユミってば。私が渡くんの心配をするのは当然ですって感じに?


 あたし、このメッセ勝負で完全に負けてる!? さすが本好き! 文章が! いや、文章あんま関係ないけど!


 こっちからも仕掛けるしかない。応援と見せかけて……。


『苦しいって言えば、ママユミの母性がお見舞いで炸裂したよ?』


 どうだコレ! これでママユミはあせるはず!


『しません! でも、お見舞いには行ってもいいですよ?』


 ママユミが! あのママユミが男の子のお宅訪問に積極的になってる!?


 どうしよう!? ここは煽って、ママユミをもっとあせらせて……。


『あの胸に抱かれて眠れば風邪なんてすぐ治るから!』


『ちょっと、キリコ!』


 よし! 作戦成功!

 いや、でも、あたしがママユミの母性アピールしてどうすんのさ……。

 いや、そもそも、なんで勝負してんの、あたしは……。


『すごく嬉しいですが、本当に大丈夫です』


 渡くん……やっぱり嬉しいんだ……。


『嬉しいというのはお見舞いのことで』

『抱かれなくても、嬉しいです』


 ……ホントかな? 胸のことじゃないのかな?


『抱くって』

『きわどいよ、渡くーん』

『まあ、そこは、積極性があっていいと思うけどなー』


 あたしは、つい、ノリで。

 思ってもない方向へ、メッセを入れてしまう。失敗。うん、失敗。


『本当に、お見舞い、いいですか?』

『あ、このいいですか、は、行ってもいいですか、の、いいですか、です』

『えっと、抱きしめたりは、しませんよ?』


 ……ママユミの返しの方が、100倍、女の子らしいよぅ。


『そこは頑張ろーよー』


『頑張りません』


『本当に大丈夫だから。僕のことよりも、テストも近いし、しっかりテスト勉強をして、備えて下さい』


 ……渡くんって、ホント、いい人だ。


『あー、そーだねー。期末だもんねー』


『テスト週間だから部活がなくて動けるというのもありますけど、渡くんが大丈夫そうなので、テスト勉強を頑張ります』


 ……まぁ、ママユミの突撃を防げただけでも、よしとしよう、うん。






 とまあ、そんなことがあった翌日も、渡くんは続けて休んだ。


 二日続けて、渡くんが休んだことが、すごく、気になってる、あたし。


 ……ママユミに巻き込まれて、ママユミに張り合って、あたし、渡くんが好きになってる?

 それとも、あたしも、もう、自分から、ホントに渡くんが好きになってる?

 まだ、気になってるだけ?


 どうなんだろ……なんか、もう、よくわかんないや……。


『おーい? 渡くーん? ホントに大丈夫かーい? 2日続けてはさすがに心配なんだけどさ?』


『渡くん? 熱は何度ですか? ちゃんと食べてますか?』


 ママユミのメッセは、母性全開だ。お母さんみたい。あたしも心配してるんだけど、レベルが違う気がする、うん。


『大丈夫です。母が、念のために休め、と。まあ、この方が僕としても、テスト勉強もできるので』


 ……母、とか、ホント、丁寧な人だなぁ。


『念のため休み? もう治りかけ?』


『熱は何度ですか? 朝食は何でしたか? 何時間寝ましたか?』


 いや、だから、お母さんなの? ママユミ?


『今、熱は36.6で、朝食はりんごとヨーグルトで、さっき、ちょっとアイスも食べた。たっぷり寝た。今は数Ⅱのテス勉中。余裕で、大丈夫で、問題なし』


 ……そして渡くんの返信はマジメか。


『あいすー! うらやまー!』


 あたしはよくわからなくなってきた自分の気持ちを誤魔化すように、そんな返しを入れる。


『本当に大丈夫なんですか?』


 ママユミは本気の心配で返す。


 そんなママユミの本気っぽい感じに、なんだか、もやもやする。


『大丈夫です。ありがとう。野間さんが心配してくれて、なんだか心がぽかぽかします』


 あたしとママユミ、二人に向けたメッセじゃなくて、ママユミにだけ、向けたメッセに。


 ……なんで、あたしまで、ドキドキしちゃうんだろ?


 ちらり、とママユミの方を見る。


 授業中なのに、なぜか耳まで真っ赤になったママユミが見えた。


 ……渡くんのぽかぽかメッセの破壊力がすごいよ!?


 ママユミはたぶん、もう、渡くんのことが、ホントに好きだ。


 あたしは、どうなんだろう?

 ママユミの気持ちに引っ張られてるだけ? それとも、あたしも、渡くんが好き?


 ……渡くんが気になってるってのは、間違いないと思うんだけど。


 自分の気持ちに、まだ、結論が出せない。


 それは、今までの、あたしとママユミとの、関係が、あるから。


 もう一度、ママユミの方を見てみる。まだ、ママユミの耳は、赤くなったままだ。


 ……親友で、それでいて、恋のライバルでもある、みたいな、そんな、関係。なんか、いろいろともやもやするけど、でも、ママユミのことは好き。嫌いになれるワケがない。


 人としての、どこか、一番深いところが、すごく、あたしと似てる、人。それがママユミ。


 いつの間にか、自然と、一緒にいるようになった、あたしの、親友。


 大切な、親友。


 だから、よくわかんなくなる。


 あたしは、ホントに、渡くんのことが、好き、なのかな?


 ああ、もう。


 なんか、こういうのって、もっと本能でビュっと、動けたら。


 きっと、楽になれるんだろうなぁ……。





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