閑話 クラス転移前日譚 親友と書いてライバルと読む、女の子ふたりの恋のさやあて ~恋に恋する不器用女子は、未だ、彼氏いない歴イコール年齢の、立派な処女です~(1)



 強敵と書いて「とも」と読む、なんて、世紀末なバトル漫画の中だけにしてほしい。


 どちらかと言えば、親友と書いて「ライバル」と読むとでも言えそうな状況だけど。


 私とキリコ――佐々木理子が仲良くなったのは、中学校1年生の時。


 当時の学級担任の先生が、「世のため、人のために、動ける人になろう」と呼び掛けて、主に道徳の授業で、いろいろなことを教えてくれた。


 その頃は、今よりもずっと純粋だった私は――今でもそれなりに純粋だとは思うけど、さすがに高校生になって、小学生レベルに近い純粋さはない――日頃から、世のため、人のために、何かをしようと頑張った。


 世のため、人のためにしていたのは、とても簡単なこと。


 授業と授業の間に、黒板を消している友達がいたら手伝う。

 落ちているゴミがあれば拾う。

 配布するプリントがあれば配る。

 バスや電車でおじいさん、おばあさんに席を譲る。


 それを七夕の短冊みたいな紙に書いて箱に入れておくと、先生が帰りの学活とかで紹介してくれて、教室の後ろに掲示されていく。


 私と競うように、そんな、ちょっとした、いいことを重ねていたのが、キリコだった。


 3か月くらい経って、夏休みが近づいて、クラスの半分くらいが、そういうことに飽きてきた頃。


 私はそういう行動が当たり前のものとして身についていた。


 そんな私と同じように、そういう行動を当然のこととして行っていたのが、キリコ。


 結果、私の隣には、いつの間にか、いつも、キリコが、いた。


 別に、「友達になろうね」とか、言った訳ではなく。


 私とキリコは、自然に、一緒に過ごすようになっていた。


 お互いに何も言わないけど、私はもうすでにキリコのことを親友だと思ってた。たぶん、キリコもそうだと思う。






 二人で過ごすと、関わる人も同じになる。


 夏休みを終えて、2学期にもなると、基本、女の子は、恋バナが中心だ。


 私は本好きで、ラノベ好きのオタク気質で、運動部とはいえ、運動量は少ない弓道部。

 キリコは、私みたいな大人しいタイプと一緒にいるにもかかわらず、運動は得意な方で、でも集団スポーツとかチームワークとかはちょっと苦手な、陸上部。


 サッカー部のイケメン系チャラ男くんとか、野球部のさわやか系スポーツマンとかは、私たちの的前からは外れていた。だけど、勉強ができて思いやりがある控えめな委員長系男子とか、ラノベ好きでオタク系トークが平気な卓球部男子とかは、的枠の中に入っていて。


 まあ、要するに。


 人としての本質が似ている私とキリコは。


 好きになる男の子も、よく似ていた、ということで。


 そして、いつも一緒にいることで、好きになった男の子と関わる時も、私とキリコは一緒にいて。


 そうすると、話す時は、私よりもコミュ力が高いキリコが、どっちかとというと前衛で、私は後衛となってしまい。


 親友に対して、醜くあさましい女だと自分でも思うけど、私は少なからず、もやもやを感じて。


 結果として、私はいつも、やってしまうのだ。


 キリコが何も言わなくても、キリコも、あの子が気になっていると、知りながら。


「……相原くんって、なんか、いいよね」


 そう、キリコと二人きりの時に、微笑みながら。


「……応援して、ね? キリコ?」


 先回りして、釘を、刺す。


「ま、任せて~。頑張って、ママユミ!」


 キリコがいつも、動揺を隠せてないことをわかっていても。


 私とキリコは、そうやって共に時間を過ごした。


 ………………ま、そうして、キリコに直接、釘を刺したからといって、私には、彼らに告白する度胸などなく。


 せいぜい、彼らがキリコに告白しないように、可能な限り二人きりにはしないとか、そんな妨害行為に一生懸命に取り組み。


 高校生になっても、私とキリコは、彼氏いない歴イコール年齢という、恋に恋する乙女歴史を重ねていたのだ。






 高校2年生になっても、私とキリコは、世のため、人のために、動いてしまう。

 そうはいっても、それほど、たくさんのことができる訳でもない。それに、大したことはしていないと思う。

 せいぜい、プリント配りの手伝いとか、黒板消しの手伝いとかぐらいだろうか。


 新クラスになって2か月、6月に入って。


 そんな、私とキリコのプリント配りに。


 王子様が現れた。


 ……いや、王子様は、おおげさな表現だとは自分でも思うけど。


 でも、まあ。


 そろそろ、親友のキリコと牽制し合ってないで、本当に、彼氏がほしいと思うようにもなっていて。


 はっきりいって、クラスでは全然目立たない、陰キャでぼっちの渡くん。4月はじめの、クラスの親睦カラオケも不参加だった人。


 ……参加したとしても、ほぼ、会話はなかったりするんだけど。


 髪を切ったらイケメンとか、そういう感じでもない、本当のフツメン陰キャ。でも、プリント配りを手伝ってくれる高校生男子とか、マジメないい人としか思えなくて。


 何度か一緒にプリント配りをするうちに、ちょっとずつ話すようになって。


 いつの間にか、お昼を一緒に食べるようになって。


 スマホでアドレス交換もして。


 好きなラノベの話とか、するようになって。


「『本好きの大出世』は、お、男としてちょっと情けないかもだけど、お母様との秘密の部屋でのやりとりは、ちょっと泣けた……」

「わ、分かります。すごく分かります……」


「『大都会の少年騎士』は、金がない時の、び、貧乏ケチケチ飯が本当に美味しそうで、実際に作ってみたくなるよね」

「なります、なります!」


 ちょっとだけ恥ずかしそうに話す、大好きなラノベの泣き所、感じ所が私と似ていて、共感できて、思わず身を乗り出してしまったり。


 しかも、私よりもコミュ力が高いキリコが会話の中心でありながら、私との話題もラノベを中心に多くて!


 ……それなのに、いつものように、キリコの視線が、時々、渡くんを探していることにも、気付いてしまって。


 高校では、私がキリコを誘って一緒に入部したアーチェリー部の練習が終わって。


 キリコと二人で帰る時に。


「渡くんって、いいよね……」


 私はそう言って、キリコに微笑む。


「だねー……」

「……応援、してね? キリコ?」

「あ、あはは……」


 いつものセリフを繰り出す私に、キリコは隠せていない苦笑いで答えた。


 その苦笑いでのごまかしで。

 実は、いつものように『任せて~』と言っていないことには、気付いていたんだけど。


 ……親友と書いて「ライバル」と読む関係は、もやもやが強くて、ちょっと辛い。





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