第12話 王城での研修期間は自己鍛錬の時間だと思いますが、え? なんで? メイドと?(3)



 勉強面も必死で頑張った。特に文字については、講師役の若い文官に、めちゃくちゃ質問して頑張った。

 元の世界で英語の授業にこれぐらい励んでいたら、絶対に赤点にはならなかったと思う。


 週に1度の休息日には、文官の見張りがいたけど、王城の図書室を利用させてもらって、さらに勉強した。

 見張りだけど、実質は家庭教師状態。もちろん見張りの文官さんに質問しまくりだったので。


 図書室には、杉村さんや苗場くんもよく一緒に行った。二人は情報がどれだけ重要なのか、理解しているんだと思う。


「勉強はもームリだよー」


 と、そう宣うのは佐々木さん。野間さんも佐々木さんに合わせて、休息日はのんびりおしゃべりして過ごす。そこに、ぼっち女子の高橋さんを加えて。

 あ、高橋さん、もうぼっちじゃないよね。ごめんなさい。


 由良くんは、部屋に残る女子を守るつもりで、一緒に残ってるみたいだった。由良くんの責任感には感謝しかない。気遣いができるいい男だ。

 え? 佐々木さんと野間さんが寝取られる? いやいや、そもそも二人は別に僕の彼女とかではないので……。






「トイレに、い、行きたい」


 そう、唐突に、苗場くんが言い出したのは、ある日の夕食後のことだった。


 僕たちの部屋は男子3人のため、杉村ルールで2人以上のトイレの見張りを立てると、部屋が女子だけになる。だから、オタグループの男子と協力して、トイレには行くようにしていた。


 由良くんが部屋に残り、僕と苗場くんはそれぞれ燭台を手にして、オタグループの部屋に声をかけて、「ついでに拙者もトイレでござる」と言った萩原くんと三人でトイレへ向かう。


 宮本くんが「おまえも行けば部屋が僕のハーレムになるのに」とか今地くんに言って、他の女子たちがそれを聞いて笑ってた。オタグループと女子たち、ずいぶん仲いいよね?


 トイレは最初に苗場くん、次に僕、最後に萩原くんの順番で済ませた。


 萩原くんがトイレに入ると、小さな声で苗場くんが話しかけてきた。


「……渡くんは、こ、ここを、出て行く、つもり、かな?」


「な、なんで、そう思うの?」


「なんとなく、し、真剣さが、違うと思って」


「……そ、それは」


「で、出て行くのなら、ぼ、僕のスキルと、つながってほしい」

「スキルと、つながる?」


「ぼ、僕のスキル、の、ひとつ、は、『遠話』といって、離れていても、話が、できる、スキル」


「苗場くん、スキルの話は……」


「もちろん、く、くわしく説明は、しないから。でも、出て行く人と、残る人がつながってるのって、たぶん、こ、この先、必要になると、思う」


「それって……」


「僕のスキルは、せ、設定した相手の頭に、直接、話しかけられる。相手は、返事をしようと、考えて、あ、頭の中で、応答できる」


「それ、念話っぽいやつ? テレパシー?」

「それの、長距離が、可能な」


「すごいスキルだ……」


「……僕、神様の前で、7つのスキルを、て、提示されて、さ」


 ……7つ? 僕は9つだった。やっぱり、人によって選択肢の数も違ったのか。


「……その、並べられたスキルの、最初の3つが、ま、魔法関係だった」


「……おもしろい話をしてるでござるな」


 トイレを済ませた萩原くんが会話に加わった。ちょっとびくっとしたのは、気配の消し方がうまかったからだろうか。

 そういうスキル……あ、忍者的なアレか? 持ってそうな気がする。ござるだし?


「萩原くん……は、萩原くんは、神様から、いくつのスキルを、提示された?」


「7つでござる。最初の2つが魔法スキルでござったよ」


「わ、渡くんは?」


「僕は……ま、まあ、最初の3つが魔法スキルだったけど」


「多かったのでござるな」

「お、多かったんだね」


「あー、うん。なんか、ごめん」


「あ、そ、それはいいんだ。どうせ、3つしか選べないんだし。でも、ぼ、僕はね、魔法スキルが、最初に3つ並んでるのを見た時に、『これって、地雷、なんじゃないか』って、思ったんだ」


「……拙者、それは、思わなかったでござるな。2つでござったし」


「魔法スキルを、選ばせようと、してる、そ、そんな風に感じたよ」


「……言われてみれば、最初に魔法スキルが並べてあるのは、意図的で間違いなさそうでござるな」


「でも、実際、ま、魔法スキルばかりを選ぶと、バランスが、悪くなり過ぎる」


「……なるほど、地雷でござるな」


「だから……」


 苗場くんが、僕を見た。


「……魔法の訓練で、魔法を、使えてないか、もしくは、わ、わざと、魔法を隠してる、のか、ど、どちらにせよ、魔法以外の、スキルを優先したと、考えられる、わ、渡くんは、ここに残る、よりも、で、出て行くんだと、だから、真剣なんだって。残るのなら、魔法スキル、隠す意味が、ないし、ね」


「渡氏は、出て行くつもりでござったか……」


「萩原くんたちは?」


「拙者たちは、最初は、その、出て行くつもりでござったが、その、女子と、その、仲良くなったことで、宮本氏が『とりあえず1年! 稼いでから出ることにしよう!』と言い出したのでござるよ……」


「ああ、言いそう……」


「陽キャ男子と脳筋男子は、既に城のメイドとまぐわってござる。あれも出て行く気はないでござろう」


「えっ……」


「ハニートラップ、に、かかった、み、みたいだ、ね」


 はあ、と苗場くんがため息をついた。


 ……あいつらメイドさんとヤってんの? それなんてエロゲ? 嘘だろう? 異世界のメイドさんえっちという至高の夢を現実に?


「おそらく、出て行くのは、渡氏、一人でござるよ……」


「そ、そうなんだ……」


「ぼ、僕は、残る者と、外に出る者は、いろんな意味で、支え合った方が、いいと、思う。僕の提案、お、覚えておいて、ほしい」


 そう言って、苗場くんが部屋へと歩き始める。


 僕と萩原くんは、黙ってその背中に従ったのだった。


 ……ちなみに、僕たちは部屋のみんなからトイレは大きい方だと思われました。時間がかかったからね。いや、別に、そういうの恥ずかしがる年齢じゃないけど。





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