第22話 師匠が実は有名人って知らなかったよ、はテンプレか。(1)



 王都脱出、王国脱出の二人旅は、とても順調。


 ギーゼ師匠の4泊5日の森の修学旅行を経験していてとても良かった。


 1羽、ウサギを狩ったら、その肉で三日は食事に困らないという。1羽のウサギを仕留めるなんて、我が相棒リコさまにかかれば、鼻歌交じりで瞬殺ですから。


 それなりに余裕があったので、移動中は、今まで試すことができなかった『身体強化』の限界に挑戦して、確認してみた。


 なんと、本気出せば、しっかり根付いてる樹木を1本、あっさりと引き抜くことができます。僕は人間ブルドーザーか。

 馬車で三日と聞いていた町は、その日のうちに半日もかからず通過しました。僕は人間新幹線か。

 およそ10メートルくらいの範囲を最速で移動すれば「テッシンのスキルって『瞬間移動』ってやつなの?」とリコに言われました。僕は超能力者か。


 いやいやいやいやいやいや、何コレ、マジですか? 僕の『身体強化』3つ分重ね掛けが最強すぎる。開拓者としての成功が約束されてる気がしてきた。


 なんか、イケメン神様、これくらいなら問題ないとか、パワーバランスは大丈夫だろうみたいなこと、言ってた記憶があるけど、それってつまり、これだけの力があってもヤヴァイ相手がどこかにいるって意味とも考えられるよね?

 異世界超怖いです……。


 そんなこんなで、僕の『身体強化』を使って移動したら、常識の範囲外の速度で国境の町にたどり着きました。

 それと、お姫さま抱っこのリコの感触は最高でした。秘密ですが。


 リコの『直感』とも相談して、この国と戦争してる北方の国々から離れて、南方の国へと移動するつもりでやってきたここ、マラゼダの町。


 王都以外のところでは初めての開拓者ギルド。途中の町は全部スルーでやってきたので。監視役の人たちが僕とリコの不在に気づいても、足取りを追えないように。


 三階建てぐらいの大きな建物だった王都の開拓者ギルドと比べると、平屋の一軒家なのでなんかしょんぼりした感じがする。


 認識票でギルドメンバーの確認をしてから、金貨10枚の為替を見せて、金貨を請求する。5日、待ってほしいとお願いされた。

 やはり田舎町では大金は簡単に引き出せないのか。為替は、手数料を払えば金貨10枚だけど、払わなかったら金貨9枚と銀貨90枚になる。銀貨もほしいから、手数料は払わない。


「できれば、早く、お願いします」


「ああ、できれば、そうしよう。こっちもそんな大金、下手に扱いたくないから」


 田舎の開拓者ギルドとしては、金貨10枚は困った大金になるらしい。


「それと、この町で一番信頼できる、一番いい宿を教えてください」


「あー、そもそも、宿がそんな数はないが?」

「その中でも一番のところで」


「……春風亭、だな」

「どこにありますか?」


「このギルドの斜め向かいの、三階建ての建物だ」


 教えられた宿に部屋をとる。フロント前に酒場が併設してる感じのザ宿屋。ちょっとRPGっぽくて興奮するよね。


 1泊朝食銅貨20枚で割り当てられた部屋は王都の野薔薇亭よりも広かった。これが物価の違いか? ギルドで確認したウサギの買取価格は同じだったのに。

 ただし、トイレはツボで同じ。リコがそれを見てリアルに膝をついた。僕も心の中でがっくりしたけど。たぶん、リコとは別の意味で。


 銀貨1枚で5泊分は先払いしておく。


 その日は今まで王都の野薔薇亭でそうだったように、リコとは背中合わせで寝た。旅の間は僕のマントの中で身を寄せ合って寝ることもあったので、ちょっとさみしかった。


 あ、僕らはまだヤってませんので。ギーゼ師匠の森の教えは守ってます。はい。別に聞きたくないと思うけど、キスもあの1回だけですよ。とほほ……。


 次の日は、リコと二人で森へ入った。


 イノシシでも狩って、宿代ぐらいは稼いでおきたいと考えたんだけど。


「あっちかなー。大物の感じ」

「よし。行ってみよう」


 リコの『直感』頼りに、森へと踏み入る。


 しばらくして、草木をかき分けるガサガサ音とともに姿を見せたのは、イノシシではなく大きな灰色の熊だった。

 熊は僕らとばったり遭遇して、後ろ足で立ち上がった。威嚇だろう。体長は僕の倍くらい、3メートル以上ありそうだ。

 リコの『直感』が鋭すぎる。大当たりだけどハズレという感じか。


「んひぃーっっ!」


 びっくりしたリコが変な悲鳴を上げながら、弓で先制して熊の右眼を射抜いた。びっくりしてても狙いが正確とかどんだけすごいんですか、リコさま。


 僕は熊の視界が奪われた左側へと回り込む。


 音か、臭いか、どっちかはわからないけど、右眼を奪われても、熊は僕の動きに反応して首を動かした。


 でもそれは、リコに対して左眼をさらしただけだった。


 リコの二射目が熊の左眼へと吸い込まれるように刺さる。たぶん、その痛みで、熊が首を激しく左右に振った。


 僕に対する警戒は消え失せたのか、忘れてしまったのか。まあ、熊の考えることはわかるはずもない。


 僕は助走から跳んで、近くの木を蹴ってさらに大きく跳び上がり、熊の脳天に向けてメイス2号を思いっきりぶち込んだ。


 熊の頭が爆散して、熊はがくんと膝をつき、倒れていく。その、倒れた熊の背中の上に、僕は着地した。


「……テッシン、倒したの?」

「あ、うん。リコの矢が、完璧に決まったから、楽にイケたね」


「びっくりして思わずやっちゃった。あ、さっきのテッシン、すっごくかっこよかったよー。えへへ……熊って、大きいねー」


「あ、うん。あはは……動物園でシロクマを見たことがあるけど、あれよりも、コイツはもっと大きいと思う」


「こっちの世界だと、大きくなるのかな? ウサギも少し大きい気がするよね?」


 フタツノウサギも、ヒトツノウサギも、僕が知ってるウサギよりはたぶん二回りくらいは大きい。


 何か、元の世界との違いが……って、魔法関係か。あり得る。





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