第20話 そうして僕は彼女に奪われた。(1)



 ギーゼ師匠の指導を受けて、開拓者として、だいたいのことはできるようになった僕とリコ。


 毎日、ノルマとして、フタツノウサギを5羽。可能なら、ミドリイノシシか、クロイノシシを1頭、狩る。


 フタツノウサギは開拓者ギルドが雄なら銅貨20枚、雌なら10枚で買い取ってくれる。雌が安いのはペナルティらしい。

 1羽から肉串が30本以上、できるそうだ。毛皮の分も含めたら、買取価格の銅貨20枚はそんなものかと思う。自分たちでさばかなくていいのも助かる。


 雄を5羽で銀貨1枚。それで開拓者としては高収入らしい。普通の開拓者は1日で5羽も狩れないそうだ。ほら、僕らにはリコのスキル『直感』があるから……。


 本気でやれば10羽は軽いけど、狩り過ぎて問題になるのは避けたいということで、5羽と決めている。


 イノシシはミドリでもクロでも、1頭で銀貨3枚の買取だ。

 ただし、僕が狩った場合、ところどころ原型を留めていないことがあって、値引きされてしまうけど。早く、手加減になれないと。頭を爆散させないように。


 たいていの開拓者は、イノシシを狩ろうとしない。運搬が大変だから。血抜きも一晩かかる。

 森で木に吊るして血抜きをする時には、認識票を血で濡らして、イノシシの鼻先に押し付けることで、誰が狩ったイノシシか、判別するという。

 これはギーゼ師匠に教わった。イノシシの場合、血抜きしなかったら買取価格が下がる。


 僕たちの場合、僕が『身体強化』で、イノシシを1頭、ひょいっと担いで帰れるので、運搬には問題がない。

 王都の門でびっくりされるのにも慣れてきた。もちろん王都の門番の方も慣れてきたらしい。

 ちなみにリコは「力強くてかっこいいよ、テッシン」と言ってくれるので最高です。


 底辺の開拓者でも、ウサギ1羽で銅貨20枚、木賃宿は銅貨5枚で、飲んで食べて、とそれで十分なのだそうな。

 もちろん、森の奥の最前線の開拓者は、考えられないような金額を稼ぐ、らしい。ギーゼ師匠の自慢話だと、そうみたいだ。


 最前線ほどではないけど、コンスタントにイノシシを狩る僕とリコは、王都の開拓者ギルド関係では、とんでもない新人が現れた、と噂になっているらしい。

 だけど、その噂が僕たちに直接言われることはなかった。


 王城の苗場くんとの連絡も時々、行われている。


 僕とリコが王城を出てから、みんなの訓練は着実に厳しくなっていったらしい。

 僕の感覚では元々厳しい訓練だと思っていたから、それがさらに厳しくなったというのなら、本当に大変なんだろう。


 数日で、倫理の教科書の宮本くんが「やってられない。僕は出て行く」と宣言した。

 そこで引き留められるのかと思えば、「出て行きたいのなら勝手にすればいい。銅貨1枚の金もなく、どうやって生きて行くのか、知らないが」と煽られまして。


 宮本くんが「出て行くヤツには金貨10枚、渡すって決めただろ」と言っても、「その取り決めは、ここに残ると決めた時点で解消されている。さあ、出て行くがいい。ああ、飢え死にするなら、王都の外で死んでくれ。衛兵たちの手間が増える」と冷たく言われて。


 宮本くんはオタグループに引き留められて「き、金貨10枚、もらえないなら、出て行かない」と弱々しく答えたとのこと。


 うん。きっと宮本くんは反抗分子と認定されて、いずれ戦場に行く時には、激戦区に放り込まれるに違いない。要らない人材は、1年以内に戦場で名誉の戦死。それで、国の金銭的負担はなくなる。それくらいのことはやるだろう。


 中世社会は実力主義、弱肉強食の下剋上が基本。


 厳しい訓練で力を付けることはマイナスにならない。


 問題は、ハニトラと分断策の方かもしれない。


 既にメイドハニトラにハマった運動部男子や陽キャ男子は、個室を希望して、グループ部屋を拒否したらしい。杉村さんたちは止めたけど無理だったそうだ。

 おそらく、メイドに唆されてる。ちなみに、陽キャ女子も、イケメン騎士に堕とされたヤツがいるとか。そいつも個室希望だそうな。

 そのせいで僕たちがいた杉村さんたちの部屋には、堕ちなかった陽キャ女子が加わったそうだ。


 これは分断策だと思うけど、そんなことよりも自分の性欲という連中には通用しない。

 ちゃんと学べば、集団の力、団体交渉ってのが、どれだけ大切か、わかるんだろうけど、人権がまともに存在しない中世社会で、元の日本のゆるゆるな感覚のままだと、知らず知らずのうちに搾取されちゃうよね。


 僕の考えでは、それって『魔法使い牧場』の種牡馬と繁殖牝馬なんだけどね。知らないって幸せかもしれない。


 苗場くんは、1年後、再契約の時に王城を出るか、それよりも早く、戦場か、戦場へ行くまでに脱走することを考えてるという。

 なるほど、だから、先にこの世界へと踏み出した僕に、貴重なスキルの枠を割いたのか。


 ちなみに苗場くん、メイドさんで童貞を捨てたらしい。

 でも、それは童貞を捨てたかっただけで、唆されても個室を希望したりはしなかったとのこと。いろんな意味で苗場くんは斜め上を進んでる気がする。





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