第48話 今宵はどなたの血が流れるのでしょうね? (2)



 そして、一度、本家であるウェリントン侯爵家へと馬車と騎馬の群れは飲み込まれていきます。


 旦那様が先頭の馬車から降りて、次の馬車の私をエスコートして馬車から降ろします。


 そのまま、侯爵邸へと入り、玄関で侯爵邸の使用人たちの出迎えを受けて、お義父さま、お義母さまと合流致します。


 ここで、馬車は乗り換えでございます。


「……エカテリーナ、あなた、ずいぶんと肌が、綺麗ね?」


「お褒め頂き、光栄にございます、お義母さま」


 馬車の中でお義母さまからちょっとした疑いの眼差しを受けながら、それを受け流します。


 お義父さま、お義母さまと、旦那様、私の4人が乗るこの馬車が3台目となります。


 先頭は男性の上級使用人が乗る馬車です。スチュワートなど、フォレスター子爵家からの大夜会の出席者たちです。


 2台目は女性の上級使用人が乗る馬車です。本家の大夜会の出席者たちです。


 3台目が私たちです。


 4台目は女性の上級使用人が乗る馬車です。クリステルなど、フォレスター子爵家からの大夜会の出席者たちです。


 5台目は男性の上級使用人が乗る馬車です。本家の大夜会の出席者たちです。


 6台目から9台目はメイドやフットマンなどの下級使用人が乗る馬車です。

 控室で快適に過ごせるように、王宮の使用人と協力します。というか、飲み物や食べ物は王宮の使用人に触れさせないよう、こちらから持ち込んだ物のみ、控室で提供します。


 先頭の馬車の前に3騎の騎馬が三角形の陣形で、各馬車に4騎ずつの騎馬、9台目の馬車の後ろに、逆三角形の陣形を組んだ3騎の騎馬がいます。


 ……正直、ウェリントン侯爵家は王宮に攻め込むつもりなのだろうかと思ってしまいます。


 前世の大名行列というのは、こういう感じだったのでしょうか? もう少し、見世物的な、平和なものだったのではないかと、私がそう思いたいだけなのでしょうか。


「……それで、エカテリーナ。今夜、マンチェストルとは話を終わらせるのでしょう?」


「はい、お義母さま。大丈夫ですわ」


「まあ、任せると言ったからには、任せます。頼みますわよ?」


「ご期待に添えるように努力致します」


「………………そうね」


 ……その、間は、何でしょうかね?


「エカテリーナ、困ったらいつでも助けるから、心配はいらないぞ」


「あなたは黙ってらして」


「はい……」


 ……完全に尻に敷いてらっしゃいますわね、お義母さま。


 そして、お義父さまはなぜか私に甘いのです。娘が欲しかったと、私やケイト――義弟の婚約者のサラスケイト・ロマネスク伯爵令嬢にとにかく甘いのです。


 飴と鞭の飴なのかとも考えましたけれど、どうも、本当に娘が欲しかったらしいのです。


 旦那様のような女遊びなど全くない方なので、義理の父として大切に思っておりますわ。黙ってらっしゃるなら、侯爵としての威厳も十分ですし。


「リーナ、スラーのことは……」


「旦那様。ご友人が大切ならば、今ではなく、時間を戻された方がよろしくてよ? おとぎ話の魔女はお探しになりましたか?」


「……」


「見つけられなかったのなら、そのように黙っているのが賢明ですわ」


「……」


 ……お義母さま、扇で口元を隠してらっしゃいますけれど、たぶん、あれは、満足してらっしゃるはずですわね。ウェリントンは、夫を尻に敷くのが基本なのかしら?


 ウェリントン侯爵家から王宮まではそれほど遠くはありません。それだけ王都内でもいい場所に屋敷を所有していることも、ウェリントン侯爵家の力の強さとも言えます。


 王宮の大星殿と呼ばれる大きなホールの正面入口は公爵家のみが利用します。私たちウェリントン侯爵家は北西側の入口から入ります。


 停車した馬車からは、真正面に入口が見えます。

 さっと降りて、そのまま入ればすぐ済むことなのですけれど、そうもいかないのが高位貴族の面倒なところです。

 実家のケンブリッジ伯爵家なら、ささっと済ませていますわね……。


 まず、下級使用人の馬車からどんどん人が降りて、控室へと荷物を運んで行きます。

 護衛騎士のおよそ3分の1は既に馬を下りて警戒にあたっていますので、その馬を指定されたところへ繋ぎに行く使用人もいます。

 護衛騎士の中には、使用人と共に先に控室へと向かう者もいます。


 それから男性の上級使用人が降りて、女性の上級使用人をエスコートして馬車から降ろします。

 この頃には下級使用人はわずかしか馬車の近くにはいません。

 上級使用人は、この場に残る者と先に控室へ向かう者に分かれます。先に控室へ行く者は、きっちり、男性が女性をエスコートして向かいます。


 護衛騎士が全員馬から下りた状態になって、ようやく、私たちの馬車の扉が開かれます。

 そして、お義父さまがお義母さまをエスコートして馬車を降り、それに続いて旦那様が私をエスコートして馬車を降ります。


 私やお義母さまがエスコートされている後ろに、侍従や侍女などの上級使用人が付き従います。そちらはもうエスコートはありません。

 私たちの前に騎士が3人。左右に2人ずつで4人、後ろに3人、合計10人の騎士が警戒しつつ、控室へ向かいます。





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