フォレスター子爵夫人の成り上がり ~高位貴族というのはとても面倒なので本当は関わりたくありませんけれど、お金がもらえるのなら仕方がありません。精一杯努力することに致しますわ~
第47話 今宵はどなたの血が流れるのでしょうね? (1)
第47話 今宵はどなたの血が流れるのでしょうね? (1)
大夜会は、10月の最終日に毎年、王宮主催で行われる国内最大の夜会です。
各領地での秋の収穫を確認した貴族たちがこの大夜会のために王都に集まり、冬を王都のタウンハウスで過ごします。それから翌年3月の半ばくらいまでが王都での社交シーズンです。
……前世でのあれです、参勤交代のようなものだと思ってもらえたらいいと思います。ただし、国王陛下と王妃さまに挨拶できるのは、二公爵、五侯爵とデビュタントの令息や令嬢がいる家のみです。
大夜会の流れは基本的にごく普通の夜会と同じです。というか、大夜会を真似て、各貴族家は夜会を開いています。
会場には飲食物がたくさん用意されていて、男爵位、子爵位、伯爵位と下位の貴族家から入場して交流します。ちなみに伯爵位以下には控室はありませんので、入場予定時刻に合わせて登城するか、入場予定時刻まで馬車の中で待つか、どちらかです。
侯爵家や公爵家は先に会場へ着いても、控室に入って待てばよいのです。特に侯爵家の控室には、寄子たちも顔を出すので賑やかになるそうです。
時間になれば、侯爵家、公爵家と入場して、最後に私たちとは異なる主催者側の入口から、王家が入場します。今は、三人の王子がまだ成人前なので、国王陛下と王妃さまのお二人となります。
国王陛下と王妃さまがその御座に腰を下ろされますと、公爵家から順に、侯爵家までが、挨拶を致します。
それが終わると、デビュタントを迎えた、白い衣装の令息、令嬢たちの入場になります。
今年は令息3人、令嬢6人の合計9人のデビューです。図書館仲間のアリステラさまもここに含まれます。
令嬢が余るのは、残念な話ですけれど、だいたい毎年のことでございます。だから、結婚が難しくなりますわね。
そして、デビューした令息、令嬢の家族が国王陛下と王妃さまに挨拶を致します。それも公爵家からという上から順に、でございます。
もちろん、デビューする者がいない爵位は飛ばされます。
公爵家や侯爵家からデビューする者がいる場合は、2回、挨拶をすることになります。
ここまで終えたら、次は国王陛下と王妃さまのダンスです。私もデビューしてから毎年、見てきましたけれど、本当に美しいダンスでございます。
そして、最後に、デビュタントの令息、令嬢がそのパートナーとダンスを踊ります。婚約者のいなかった私は、もちろんお父さまと踊りました。エスコートもお父さまでした。
そういう令嬢は多いので別に惨めではございません。ああ、デビューする令息の控室と令嬢の控室は用意されていますわね。
あとは、各自、お好きにご歓談ください、となります。ダンスを踊る方もいらっしゃいます。そういう方はあれですね、前世の言葉でリア充というあれですわね。
もちろん、帰ってもかまいません。私は去年まで、できるだけ早く帰っておりましたわ……。
そんな大夜会が、私の決戦の舞台でございます。
針子のサラたちに背中のボタンを調整してもらって、19歳にもなって成長を見せたお胸さまを慎ましく覆い隠すようにマダム・シンクレアのドレスをまとい、私は大夜会の舞台となる王宮へと向かう馬車に乗り込みました。御者のドットのエスコートで。
旦那様とは別の馬車でございます。
私の馬車には、クリステル、アリー、ユフィ、タバサが同乗しています。御者席にはタイラントおにいさまもいます。タバサは控えに残りますけれど、タイラントおにいさまはダドリー子爵家の一員として大夜会には出席の返事をしていますので、参加者の一人です。
クリステル、アリー、ユフィは三つ羽扇の襟のドレスを着ています。
旦那様の馬車には、スチュワートと旦那様の侍従が二人、同乗しています。
オルタニア夫人はお屋敷でお留守番ですわ。お義母さまと顔を合わせないようにするためだと私は思っています。
そして、騎乗の護衛騎士たちが、いつもの3倍、付き従っています。
「……今日は、護衛が多いわね」
「はい。今は戦時でございます、奥様」
「そう。だからなのね」
「護衛の数を増やすことで、未然に争いを防ぐことが重要ですし、襲撃があっても対処が可能になります。騎乗している騎士たちは若手の中でも実力者たちです。ご安心を」
護衛についてはやはりクリステルが詳しいです。
現在、フォレスター子爵家とその本家であるウェリントン侯爵家は、夜会で次期侯爵夫人に恥をかかせた――という難癖をつけたのですけれど――ライスマル子爵家とその寄親のマンチェストル侯爵家を相手として、一触即発の対立関係にあります。
平たく言えば、こちらが言いがかりを付けた上で経済的に圧力をかけたところ、今度は向こうが挑発してきたのでそれに挑発して返した、というところでしょうか。挑発して返したのは私ですわね。
互いに武門ではないとはいえ、寄子に武門の家はありますので、血が流れるような衝突が起きないとは言えません。ただ、この数十年は、国内でのはっきりとした武力衝突は起きてはいません。
それでも警戒は必要で、警戒しているから武力衝突が防がれているとも言えます。
メイドたち下級使用人の乗った馬車も続いているので、とても目立つ行列です。
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