第35話 答え合わせとお願い(3)



「私が正解を得ている訳ではありませんが、それでもよろしければ」


 ……私が、ですわね。そうでしょうとも……敵ではありませんけれども、お義母さまとの対決はどうしても避けられませんわね。エカテリーナ、行きます。


「ライスマル子爵家、ヨハネスバルク伯爵家、そして明日のモザンビーク子爵家は、旦那様との友人関係を利用して、ウェリントン侯爵家からの援助を手に入れようとする蝿みたいな存在ですわね?」


「……奥様、言葉をお選びください」


「そういう家だから、圧力をかけて潰しても構わないと考えて、旦那様に次期侯爵としての自覚を持たせるための教材にしようとしたのね、お義母さまは」

「はい。それは、そうでしょう」


「だから、旦那様と私との結婚の契約に反するけれども、真面目で正論好きなボードレーリル子爵夫人をよく知る人物が旦那様のためだと彼女を唆して、そこの夜会に私が旦那様と一緒に出席しなければならないように仕向けて、同時にボードレーリル子爵夫人を処罰しなければならない状況も作り出した、ということね」


 そう言って私はオルタニア夫人を見つめます。それに釣られて、スチュワートもオルタニア夫人の方を見ました。

 オルタニア夫人は穏やかに微笑みました。


 ……正解、ということかしら。オルタニア夫人はなかなか読めないわ。


 お義母さまがボードレーリル子爵夫人を切り捨てられる役にしたのは、正論だけではやっていけない高位貴族の在り方を私に教えるためだったのかもしれませんわね……。


「その時に、ボードレーリル子爵夫人を切り捨てられるかどうかも試されていたわね。これはお義母さまから直接、答えを頂いているから、別にいいわ。私は、その時には切り捨てられなかったけれど」


「……それどころか、そのことを利用して、サンハイムの山荘、チェスター湖の別荘、マークスの谷の農園をご自分の物となさいましたし、私に契約を更改させて違約金を高くして、旦那様がミセス・ボードレーリルを自分から止めるように仕向けましたよね?」


「さあ、どうかしらね? そして、次は、旦那様の高位貴族としての自覚のなさを叩き直すために、潰しても構わない、旦那様のご友人の家を使えと、それぞれの家の詳細な資料を用意していたわね。かなり前もって、お義母さまは準備してらしたのでしょうね」


「そうだと思います。旦那様の友人ということで、その3つの家はずいぶんと前から調査対象でした」

「しかも、三つの家から、婚約破棄で手放したミンスクの港に匹敵する何かを奪い取ることを、お義母さまはお望みなのでしょう?」

「おそらくは」


 ……スチュワートも同じように考えていましたわ。


 旦那様の意識改革だけなら、3つも潰す必要はありませんものね。

 これは、お義母さまの、旦那様への……息子への当てつけなのかもしれませんわね。婚約破棄の慰謝料分、息子の友達の家から奪い取って、息子を反省させようという……高位貴族って、なんて困った存在なのかしら……。


「……それなら、圧力をかける家をライスマル子爵家だけに絞っている私は、お義母さまからしてみれば既に不合格ね。それでも、スチュワートはそう行動した私を止めなかったわよね? それどころか、お義母さまに、私を試すのはもう止めるべきだと進言しているわ。どうしてかしら?」


「三つの家から、それぞれ何かを奪わなくとも、奥様ならば、そのうちミンスクの港と同じくらいの収入を稼いでしまうだろうと考えましたので。それに、旦那様にとっても、ご友人の家を三つも追い詰めるのは逆効果かと」


「さすがにミンスクの港と同じくらいの収入を稼ぐのは難しいわよ……」


 ……もちろん、できるだけたくさん、稼ぐつもりではありますけれど。


「それだけでなく、ライスマル子爵家の一件で、旦那様をうまく操って、今後、旦那様と奥様がダンスを踊らないという、侯爵家としては望まない、奥様だけが望む結果が生まれています。それもこれも、大奥様が奥様を試すことをお止めにならないからです。ミセス・ボードレーリルの時に、奥様が不動産を手に入れた時も同じですよ」


「私、ダンス、そんなに好きではないのですもの。特に旦那様とでは……。あと、サンハイムの山荘は、絶対に欲しいと思いましたし」


「やっぱり! わざとですね! こうやって大奥様が奥様を試す度に、奥様はその期待に応えながらも少し大奥様の意図からずらして、ご自分の利益を得てしまいます! だから試さないでほしいとあれほど私は!」


「……つまり、お義母さまを何とかしないと、スチュワートとしては、私の行動で、フォレスター子爵家やウェリントン侯爵家にとって、よくないことになる可能性もある、と考えているのよね?」


 スチュワートが目をすっと細めて私を見ましたわ。これは前世でジト目と言われる視線ですわね。


「……奥様がご自分の利益を得ようとなさらなければよろしいのでは?」

「私が自分の利益を求めない訳がないでしょう?」

「……はぁ。そうですよね、知っております。あの、ケンブリッジ伯爵家の応接室で初めてお会いした時から、奥様はそういう方でした」


 さあ、ここからが勝負所ですわね。集中するのよ、エカテリーナ……。では、エカテリーナ、行きます。


「……私、自分の利益は確保するつもりですけれど、それでもウェリントン侯爵家にとって、悪い結果にはならないように最善は尽くします。だから、スチュワート、それに、オルタニア夫人。私に、協力してほしいの。お義母さまがもう私を試さないように。お願いできるかしら?」






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