第3話
ある時、『叔父さん』という男の人がこの家に来た。
ママさんの弟だという。
髪の毛もぼさぼさで、髭は伸び放題だ。
うす汚れてんなあと思ったら、何とかという『霊験あらたかな』山に行って、お札をもらってきたという。
この男は俺を見るなり首を傾げた。
「あれ、もうお札なくてもよかったかな?」
よくわからねえが、こいつの目は俺と同じものが見えるような気がする。
「やだ……正広、何よ」
「姉さんは僕が霊感あるの知ってるだろう。あそこの出窓、実は霊の通り道になってるんだよ。だからこのお札、もらいにいってきたんだ」
霊験あらたかなお寺で、特別に『ご祈祷』してもらったものだそうだ。
この叔父さんの話だと、あの黒いヤツは彷徨っている死んだ人の魂らしい。
「あのこ時々、窓に向かって『やんのかステップ』するのよ。パパが面白がって動画に撮ってたんだけど、それってもしかして……」
「こいつには見えてたんだろうな」
叔父さんは俺の尻をぽんぽんと叩いた。
「ふーちゃんの具合はどう? 今日は学校行ってんの?」
「ええ。最近は全然熱を出さなくなったのよ」
「あの子もうちの血筋を濃く引いてんだろうな。霊を寄せつけやすい体質なんだと思う」
ママさんちの家系は代々『霊感』が強いそうで、そういうものが見えたり、感じたりする人がたまにいるんだそうだ。
それで、『霊』寄せつけやすい二葉ちゃんはよく熱を出していたんじゃないかと、この叔父さんはいう。
ちなみにママさんはまったくないそうだ。
「でもこいつが来てくれたお陰で色々防衛してくれてるんだろうな。大した守護神だ」
頭を撫でようとした叔父さんの手をすり抜け、俺はソファの背もたれを降りて玄関へと向かった。
「二葉ちゃん、帰ってきたみたいね」
後ろでママさんがくすっと笑うのが聞こえた。
玄関先で少し待つとチャイムが鳴って、ママさんが鍵を開ける。
「ただいま! ママ、ヒロシ。あれ? まー君、来たの?」
「おかえりなさい、二葉ちゃん」
「おかえり、ふーちゃん」
二葉ちゃんは俺をもふってから、『まー君』と呼んだ叔父さんに抱きついた。
「でも、『ヒロシ』って誰」
ママさんと二葉ちゃんは俺を見る。
つられて叔父さんも目線を下げる。
「ここんちは『野原』だけど、何で主人公じゃなくてお父さんの名前にしたの?」
叔父さんは言ってから笑い出した。
「だって、呼びやすいんだもん」
そう言って、二葉ちゃんは俺を抱き上げた。
後で知ったが、某長寿アニメ番組の家族と同じ名前とのことだ。
「足、臭いのかな」
叔父さんが俺の前足を取り、くんくん嗅ぐ。
「ああ、肉球いい匂い」
二葉ちゃんはくすくす笑い、何やってんのよ、とママさんは呆れたように言うが笑っていた。
パパさんが帰ってきてから、今日は『すき焼き』というお鍋を囲んで、俺は缶に入っているちょっといい味のする飯をもらった。
☆
俺は猫。
名前はヒロシ。
義理を大事にする男。
今は野原家の飼い猫だ。
もう野良じゃない。
お札のお陰で、黒いヤツは来なくなった。
俺ものんびりすることができる。
今は、二葉ちゃんのピアノがどんどん上手くなっていくのを聞くのが好きだ。
モーツァルトはいいな。
聞いてて楽しくなる。
そして、もう一つの楽しみは『ち○ーる』だ。
だから、パパさんが動画や写真をあげやすいように色んなポーズをとってやるのさ。
生徒さんが増えるようにな。
おわり
守護神 大甘桂箜 @moccakrapfen
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