第2話

 急に暗くなったかと思ったら、大粒の雨が降り出した。

 ぴかっと光ってから、ごろごろと大きな音が鳴り段々近づいてくる。

 二度くらい、地面が揺れるくらいの大きな音がした。


 白猫の爺さんが出窓はいいと言っていたの、よくわかるよ。

 出っ張りの下にいたら、ちょっとしか濡れなかった。


 雷も雨も駆け足のように去っていったので、またお天道様が出てきたから俺も出窓の下から出てきた。


「ママー、猫さん、まだいるよ」

「あら、もうとっくにいなくなったかと思ってたのに」


 慌てて庭に出てきた二人は、お水と米をふやかした『おじや』というものをくれた。


 入れ物だけ置いて、また出窓から覗いている。


 今日はまだ何も食べてなかったから、俺も目の前の食べ物に眩んでがっついちまった。


 だが、その食べっぷりを見て、二人はにこにこしている。


 わざわざ俺のために用意してくれたのかな。


 人間にも親切なやつはいるんだな。


 食べ終わったら腹はくちくされて、寒くもなくなった。


 二人は何か話し合っている。

 飼ってもいいかな、とか、パパが帰ってきてもいたら聞いてみよう、とか。


 何だかよくわからねえが、俺は義理は大事にする男だ。


 飯の分、また黒いヤツが来たら、追っ払ってやるよ。


 暗くなると『パパ』という人間の男の人が帰ってきた。


 それから、この家に入れてもらった。



   ☆

 この家は、『パパさん』と『ママさん』、『二葉ちゃん』の三人家族だ。


 パパさんは朝『会社』に行き、暗くなったら帰ってくる。

 なんでも、去年『転勤』になって、この『借上げ社宅』に住んでいるらしい。


 ママさんも以前は『会社』で働いていたそうだが、二葉ちゃんが生まれてからずっと家にいるらしい。


 二葉ちゃんは『小学二年生』なんだが、体があまり丈夫ではなく、よく熱を出すのでずっと『学校』を休んでいるそうだ。


 なので、ママさんは家でできる『ピアノ教室』を開いている。


 でも、『生徒』さんは、今んところ『ママ友』の子供一人だけらしい。


 二葉ちゃんの調子がいい時は、ママさんがピアノを教えている。


 一番最初に聞いた曲は『モーツァルト』という音楽界の『巨匠』の曲だとママさんが言っていた。


 俺は今日も出窓で『レッスン』を聞いている。

 

 黒いヤツは時々来るが、俺が「やんのか、コラァ!」と脅せば大概消える。


 そうしているうちに季節が変わる頃には、生徒さんが増えた。


 何でも、パパさんが『SNS』とかいうのに、俺を撮影して投稿したところ『バズった』らしく、宣伝したら増えたのだという。


「かぎしっぽのご利益かしら」

 ママさんは生徒さんが増えたら『ち○ーる』を奮発してくれる。


 これがまた、格別なんだな。

 人間にはわかんねえだろうけど。


 もう一つ季節が変わると、二葉ちゃんも体が良くなり、毎日『学校』に行けるようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る