分割

三鹿ショート

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 私は、彼女を愛している。

 たとえ深夜であったとしても、彼女の呼び出しに応えるべく、自宅へと飛んでいった。

 たとえ貯金を全て失うことになったとしても、彼女のために金銭を費やした。

 だが、私が彼女に望むことは、何も無かった。

 彼女が私の恋人であるという現実を失わない限り、どれほどぞんざいに扱われようとも、私には何の不満も無かったのである。

 だからこそ、彼女が私を裏切っているということを知ったとき、これは悪夢かと意識を失いそうになってしまった。

 しかし、意識を失ったところで、私の眼前で見知らぬ男性と宿泊施設へと消えていったという事実が変わるわけではない。

 物陰で涙を流している私の肩に、何者かが手を置いた。

 相手に目を向けると、その人物は私と同じように泣いていた。

「あなたも、彼女に裏切られたのですか」

 どうやら、先ほどの男性以外にも、彼女には交際相手が存在していたらしい。


***


 彼女と宿泊施設へと消えていった男性に接触したところ、彼もまた、涙を流した。

 我々三人は、彼女の恋人であると同時に、彼女に裏切られた仲間でもあるということだ。

 奇妙な関係であり、それぞれの相手に敵意を抱くべきなのだろうが、彼女に裏切られたという傷が深かったためか、我々は互いに慰め合った。

 やがて、我々は彼女の何処に好意を抱いたのかという話を開始した。

 その話を聞いていると、彼女に好意を抱いている部分が、全て異なっているということが判明した。

 私は彼女の顔の造形が好みであり、一人は彼女の豊満な胴体が好みであり、一人は彼女のしなやかな手足が好みだということだった。

 そこで、私は二人に提案した。

 それぞれが好意を抱いている部分が異なっているのならば、その該当部分をそれぞれが入手すれば良いのではないだろうか。

 私の提案に、二人は異論を唱えることなく、口元を緩めながら頷いた。


***


 我々は彼女を呼び出すと、胴体を固定し、その首と手足を切り落としていった。

 激痛に顔を歪め、喉を潰してしまうのではないかと思うほどの絶叫は、良いものだった。

 切り落とした手足から滴る血液を飲み物用の容器に満たすと、我々は同時に飲み干した。

 彼女は動かなくなってしまったが、二度と裏切ることが無いことを思えば、不満なことなど何も無かった。


***


 しばらくは部屋に飾った彼女の首を眺めるだけで満足していたが、やがて私は、あることに気が付いた。

 私は彼女の顔面に好意を抱いていたが、彼女の胴体や手足が無ければ、真に彼女を独占したことにはならないのではないだろうか。

 彼らが彼女の首を奪いにやってこないことを考えると、二人は身体の部分品のみで満足しているのだろうが、私は再び彼女に裏切られているような気分と化した。

 ゆえに、私は彼女の胴体と手足を奪うことにした。

 それらが揃っていなければ、彼女ではないからだ。


***


 胴体を持って行った彼は、寝床でそれを抱きながら眠っているらしい。

 彼が留守の間に侵入し、それを奪おうとしたが、部屋を出るところで彼と出くわしてしまった。

 彼女の胴体を目にした彼は目を見開くと、私に向かって突撃してきた。

 壁に背中を打ち付けてしまい、一瞬だが呼吸が停止してしまう。

 私が怯んでいる間に彼は私を何度も殴ったが、私は黙ってやられるような人間ではない。

 相手の股間を掴むと、其処に存在する一物を握りつぶした。

 それは味わったことが無い感触で、相手はあまりの激痛のためか、気を失った。

 相手が動かなくなった隙に、私は彼女の胴体を抱えると、急いで自宅に戻っていった。


***


 同じように、手足を持って行った彼から該当の部分品を奪うことにした。

 眠っているところを強襲したためか、胴体を持って行った彼よりも簡単に奪うことに成功した。

 自宅にて、私は奪った部分品たちを繋ぎ合わせていく。

 繋いだ箇所は不格好だったが、衣服を着用させれば、気になることはない。

 私は、再び彼女と対面することができた。

 嬉しさのあまり、彼女を思い切り抱きしめた。

 彼女は嫌がる素振りを見せることなく、私を受け入れてくれた。

 その日、私は初めて、彼女と繋がった。


***


 再び奪われては敵わないため、私は彼女と共に山奥へと引き越した。

 不便な生活をしなければならなくなってしまったが、彼女と二人きりの時間を過ごすことができるのならば、目を閉じる所存である。


***


 彼女と二人きりの時間というものは幸福なものだったが、私は段々と不満を抱くようになった。

 私がどれだけ愛の言葉を囁いたとしても、彼女は返事をしてくれないからだ。

 同時に、彼女は異臭を発するようになってしまった。

 これでは、彼女と共に過ごすことに我慢することができなくなってしまう。

 何か対策は無いかと考えたところ、即座に思いついたことがある。

 それは、再び彼女をこの世界に生み出すというものだ。

 そうするためには、彼女の両親の力が必要である。

 実現にもかなりの時間を要することになるが、彼女と再び愛し合うことができるのならば、我慢することも出来る。

 私は彼女に外出することを告げると、彼女の実家に向かって歩き出した。

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分割 三鹿ショート @mijikashort

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