第15話 〜the Secret of the Seal〜宇佐美瑠美の告白
ある夏の暑い日。季節的に蝉がうるさいはずなのに。最近は、全然鳴かない。この数年、だんだんと蝉が少ない「静かな夏」だった。今年は特に静かである。猫耳少女の故郷の「伊賀」では、会話している相手の声が聞こえないぐらい。大合唱であった。今年は、世界も時代も変わり「蝉」がいることに感動した亜依だった。しかし、それはかつて聞いていた鳴き声とは比べようもないぐらい弱々しく、寂しいものだった。
場所は宇佐美家の応接室。普段、6畳一間をハマーと一緒に住んでいる亜依にとっては、大空間。同じ部屋中に、なぜか上へ上がる階段がある。部屋にはイギリス王室でも使われてそうな赤い2人がけのソファーが3台。ソファーの下には赤い絨毯とレッドカーペット。約5mぐらいはありそうな天井にはシャンデリア。壁は本棚になっており、新旧たくさんの本が密集している。哲学、自然科学、料理本から、絵本に至るまで。
市内の図書館より、専門的で広い分野の書籍で埋め尽くされていた。まさに「宇佐美図書館」。里では、そんなに感じなかったが、現代日本では豪邸。
「あー、広いなー」
「うちの部屋の何倍ぐらいあるやろかー。なんか落ち着かへんなー。」
しかし、広く感じるのはどうやら部屋の広さだけではない。
数年ぶりに再会した亜依と宇佐美姉妹。積もる話があるはずなのに、重苦しい雰囲気。まるで、蛇に睨まれたカエルの気分だった。「蛇の眼光」の犯人はうさ耳のヘアバンドをつけた「宇佐美ララ」だった。宇佐美ララにとって、黒猫亜依は幼馴染。同じ家で育ったことを考えるともう一人の「姉」だった。瑠美より、歳が近い分親密さを感じていた。そんな亜依との再会の場面なのにしかめっ面だった。
「もー、二人ともなんなのよー」
ララの怒号が広い部屋をこだましていた。その後、無音状態が続く。重々しい空気だった。明らかに瑠美も亜依も固まっていた。
数分前の出来事、亜依はララの自宅に招かれた。本当は、ララと亜依だけがあって瑠美は顔合わせしないで後日、亜依と面会する予定だった。亜依はララも嫉妬するほど、師匠の瑠美にベタベタだった。
里にいた時も、ララですら一時期「この二人、くっつきすぎ。」とよく愚痴っていたものである。そう思って、
「お姉ちゃん、今日は私だけが亜依ちゃんと会うけどいいね?」
「いや、うー、あのー」
「いいわね!!」
「はい…」
半ば強制的に従わされた。
しかし、瑠美と亜依は鉢合わせになってしまった。応接室に誘導することは知っていた。だが、その日に限って家にある7つのトイレうち6つが故障してしまっていたのだ。ララと二人暮らしでトイレが7つあるのも驚きだが、狙っていたかのように6つも故障。使えるトイレは応接室にある車椅子も入ることができるバリアフリーなトイレのみである。
亜依が来る前に何度もトイレを済ませていたはず。しかし、もうすぐ亜依が来ると思うと急にお腹が痛くなってきたのだ。
ここぞというときに弱い姉妹であった。応接室から出てきてしまった瑠美を見たララは「あー、やっぱりお腹が痛くなってこもっていたんだ。」と理解した。案の定、亜依は瑠美に突進。「可愛い女の子好き」の瑠美にとって子供同然に育ててきた猫耳娘の亜依を受け止めてハグしたい衝動に掻き立てられた。
「ああ、もふもふして気持ちいい。しかも柔らかい。ララも捨てがたいが、亜依君の体。もふもふでふわふわをもっと楽しんでいたい。」
そう思いながら亜依をお姫様抱っこしていると、ララに怒られてしまっていた。
「もー、二人ともいい加減にして!!」
応接室に、客用の座り心地の良いソファーがあるにも関わらず、二人は正座させられていた。
「はぁ、なんか私駄々こねてる子供みたいじゃない。」
みたいと言うか、そのものという気もするがと思うふたりだが口にはしない。
「まあ、いいわ。二人ともとりあえずソファーにかけて。」
二人だけの密会だったはずなのに、姉と3人。
「とりあえず、亜依ちゃん!!」
「はい、なんでしょう。」
「こっちに来て」
「はい、喜んで。」
幼馴染なはずなのによそよそしい言葉遣い。しかし、そんなことには気にせず。というより利用して。亜依をもふもふしようと企んでいたララだった。
「えっ、なんでそんなに遠いのよ。」
「もっと、近づけ」と亜依を自分のそばに寄らせる。ララの目は鋭く、鼻息は荒く、両手の指の動きはムカデの足を思わせるほど早い動きだった。
「へへ、良いではないか。良いではないか。」
JKにはあるまじきエロジジイの顔である。はげあたまのズラを被せたら完璧だ。
「へへへ、もう少しで。」
手を出そうとして瞬間。
「ドン」
「ふぎゃあ」
ララは情けない声を上げる。さらに惨劇は亜依にも。
「こ、こないでー」
なんと、犬の太郎が脱走してララの頭を踏み台にして亜依に襲いかかる。亜依は「犬が苦手」である。
「わーん」
太郎が今にも亜依の頭に噛みつこうと飛びかかっている。
「もうだめ。」
「…」
「…」
「…?」
「…!?」
頭に痛みどころか、飛びつかれた感覚するない。
「だから、太郎をハウスに入れておけと言ったじゃないか。」
瑠美は太郎の首根っこをひょいと掴む。「離せー、離せー」と言わんばかりに手足をバタバタ動かす。しかし、宇佐美瑠美はクノイチ忍者の師範にまでなってことのある人物。抵抗虚しく、太郎は動けなくなった。
「ララ、とりあえず太郎をハウスに入れておきなさい。
「はーい…」
「あと、私が帰ってきて二人で変なことしてたら怒るよ!」
「しないよ!」
「本当かな?」
「多分…」
「多分って」
困り顔の瑠美。亜依が「なんのこと?」と首を傾げている。
「とりあえず、太郎を戻してくるわ。」
ララの体の何倍もあるであろう、超巨大な応接室のドアを「バタン」を閉じたあと、しばらく静寂な時間となった。部屋の奥にあるアンティークな振り子時計が「カチカチ」と聞こえてきた。
二人は見つめあっていた。
先に声を出したのは亜依だった。
「師匠、お久しぶりです。もう会えないのかと思っていましたが、こうやって再会できて嬉しいです。」
先ほどまでの重々しい雰囲気が一変。久しぶりの師弟の再会の瞬間。まるで、さっきまでの出来事がなかったことにしたかのように。
「亜依くん、久しぶりだね。随分成長したね。」
「で、亜依くん。近況を教えてくれるかね?」
「はい、ではお話しします。」
亜依は話し始めた。わかっている範囲で、
亜依は、ある日急に眠気が襲ってしまったこと。
しかも、気がつくと意識は「幼女パンツ」の中だったこと。
今は、「ハマー」と名乗る忍びの家系に生まれた男性と一緒に過ごしていること。
そして、今は近くの高校でJK生活をしていることを話した。
「んー、一ついいか?」
「はい、なんでも聞いてください。」
「その、ハマーくんだっけ?」
「はい、仮の名前だそうです。本当の名前は何回聞いても教えてくれませんでした。」
「封印がとかけた時は仕方なかった…とはいえ、その男性と一緒じゃないといけないのか?」
「ん、どういうことですか?」
「話を聞く限り、その男。いわゆるコミュ障。いや引きこもりなんだよね?」
「そうなんです。」
「ウチも、最初は『あー、なんでこんな男に封印とかれたのかな?変なやつだったらすぐに逃げてやろー』って思ってたんです。」
「封印が解けてから、元の自分の姿に戻りながら。なぜだか、ご主人様の記憶の一部が流れてきたんです。」
「なんか悲しい記憶。断片的なので、詳しいことはわからないんです。でも、『寂しい人』っていうのがわかったんです。」
「ウチも里では、黒猫家でも私は煙たがれる存在。師匠がたまたま親代わりをしてくれてたから、なんとかやってこれました。」
「もう、元の世界に戻れんやろなー。って考えたら、なんか『今度は、私がこの人を支えたい。』って思ったんです。」
封印が解かれた時は、なんとなく「ハマー」のそばにいたいと思ってしまった。しかし、その理由というより感情を言葉にできなかった。
しかし、今なら言語化できる。
「あ、ウチ。ご主人様に自分の姿を重ねていたんやなー」
「だから、ほっとかれへんかったんやなー。」
そのことに気づいたのだった。
「確かに、ニートやし、コミュ障やし、ひ弱で幸薄そうな顔をしているけど。」
「亜依くん、ボロカスやな💦」
「本当に大丈夫か?」と亜依の今の生活を心配になった。
「でもね。うちのことを大切にしてくれようとしてくれるんよ。」
瑠美とララはハマーのぱっと見は悪い人には見えない。しかし、どう考えても亜依が苦労しそうなのは目に見えている。
瑠美は実の妹を溺愛していた。それと同じぐらい亜依を愛していた。
里で暮らしていて、亜依がまだ黒猫家にいた頃。彼女は幼子でありながら、「忌子」として家族みんなから遠ざけられていた。
「この化け猫が。」
「うわぁ、呪われてる。近づいたらだめよ。」
幼い子供にとって家族は、「鎧」そのもの。自分を守ってくれるはずのものだった。それが自分を傷つける者となっていた。普通ならグレルところである。しかし、そうならなかったのは母の存在があったから。
「亜依ちゃん。ごめんやで。ウチが必ず守ったげるからな。」
父も、祖父母も兄弟、従兄弟、従者に至るまで。亜依を冷たい仕打ちから守っていたのである。
とある雨の日。亜依はうっかり近づいてはいけないと言われていた母屋に入ってしまった。それを見ていた父親が。
「貴様!!化け物のくせに。俺のいうことが聞けんのか!もう、許さん」
5歳にも満たない女の子を筋肉質な丈夫な体を持つ40代男性が力一杯殴ろうとする。
ズゴッ!
「お母ちゃん…」
亜依が殴られる瞬間、必ず母親が割ってはいる。
「貴様まで。邪魔をするか!」
「あなたに何を言っても無駄ですね。だったら、私を殴りなさい。私がなぜこの家にいるかわかっているのならどうぞ。」
「うっ、またその話を蒸し返すのか…」
「呪いは母屋には移っていないみたいだし、今回だけは許す。今度はただじゃおかねー」
「大丈夫か?…さん。」
たまたま通りかかった瑠美が亜依の母親に声をかけた。
「あっ、先輩。」
「全くひどいことをする父親だな。」
「仕方ないです。黒猫家は猫を『疫病神』として、忌み嫌っている家系です。だからこそ、家名に『猫』の文字を入れて記憶を途切れさせないようにしているのです。」
「当主であるうちの人がそのしきたりを大事にするのは仕方ないことなんです。」
「にも関わらず、私は亜依を『普通の女の子』として産むことができなかった。それが悔しいのです。」
「お母さん、大丈夫?」
まだ幼い亜依は母を心配そうな顔で見つめた。
「亜依のせいでごめんね。大きなおじさんからいつも守ってくれてありがとうね。」
「よかったら、亜依くんをうちで預ろうか?」
瑠美は提案する。
「宇佐美先輩に甘えるわけにはいきません。」
「そうも言ってられないだろ?亜依くんに対する憎悪は異常だぞ」
「それでもです。私はこの子の母です。将来、この子にも子供ができる。大人である私が体を張って守らないと…それに、私はこの子が愛おしい。寝ている姿なんか見ていたらさっき旦那から殴られたことなんて忘れてしまうぐらい。それに、人質である私にとってこの子は生命線なんです。」
「ああ、そうだったね。いきなりの提案すまない。」
「いえ、先輩はそういう人です。困っている人を助けずにはいられない。だから、私先輩を慕っているんです。」
「でも、本当に困ったときは私を頼りなさい。必ず力になるから。」
「はい、その時はお願いします。」
そして、その約半年後亜依の母親は伝染性の流行病で亡くなってしまう。瑠美は、急いで亜依を自分の家へと招いた。
「亜依くん、これからお姉ちゃんのうちに来ないか?」
「お姉ちゃん、お母さんは?」
「お母さんは天国へ行っちゃったんだ。もう会えないんだ。」
亜依を少しでも早く宇佐美家へ迎えたいと考えた瑠美。納得しないとそれは実現できないと考えた瑠美は幼子に無情な宣告をした。
「やっぱり、もう動かないんやね。」
「そうなんだ。」
「お姉ちゃんのとこに来るの嫌?」
「ううん、お姉ちゃんはお母さんに優しくしてくれた。お姉ちゃんのところに子供になりたい。」
「そうか。」
それから、実の妹のように育ててきたのである。
「もう、十分亜依は苦労してきた。もうこれ以上苦労しなくてもいいでないか。」
「亜依くんが、今のご主人様を慕っているのは分かった。」
「でも、正直、あの男に大切な亜依くんを預けるのは正直納得できない。生活できるのかどうか心配だ。
『というかニートのくせに嫁を取るなんてどんな神経してるんだ。』
そう、瑠美が思っていると。
座り直した亜依が口を開いた。
「あの人、ご主人様はウチの父とは違いました。無理やり押しかけたのに…やいやい言いながらもウチを受け入れてくれたんです。」
「ん?どういうことだ?ただのニートではないというのか?」
「私を…私が封印されていた。小さな女の子が穿くようのパンツを穿いて封印を解いてくれたんです。」
「!!!!!!」
瑠美は口を大きく広げた。まさしく、下顎が落ちるが如く。
女児パンツを穿いた男と暮らしているのだ。それで封印が溶ける!?
ただの変態男の元で、実の妹のように育てた弟子が生活している。瑠美は許せる範囲を軽く超えていた。
そんな瑠美の心情を知ってか知らないか。亜依は話を続けた。
「もちろん、ウチかて『ただの幼女パンツを穿いた男』なんて全力で引きます。もらってくれって言われてものしつけてお返しします。」
「あの人私が、『結婚しなさい』って言ったら涙流していたんです。」
瑠美はまだしっくりきていない。
「初対面で『結婚してくれ』っていうのも大概だな。」
「あっ、それは。もし、嫌な男だったらすぐ逃げたろうって思ってたんです。」
それで、怯んだすきに逃げるのが目的だったようだ。確かに怯んだんだが、ハマーは涙を流した。
「で、私気づいたんです。この人私が必要なんだなーって。」
「ご主人の話を聞くと、ずっと腹痛でトイレから出られないで約8年ぐらい引きこもっていたんだって。」
「多分、ご主人様は呪いにかかっているんです。なんの呪いかはよくわかりませんが。」
「それで、私が封印されていた女児用パンツ。最初はオムツの形をしていたんです。」
瑠美はハッとした。
「オムツの形だと!?」
「確か、甲賀の奴らが穿くタイプの呪具を開発していたと聞いていたが。」
「それを、亜依くんの封印に使っていたのか?」
「ああ、悪い続けてくれ。」
亜依は話を続ける。
「それから、封印が解かれた影響か?それとも、ご主人様のことをほっとけないと思ってか?私、ご主人様と一緒になりたいって本気で思うようになったんです。」
「亜依くん。もしかして、それに説明書のようなものが付いていなかったかね?」
「説明書?そういえば、18歳以下の使用は控えてください。夜の使用も控えてください。って書いてた紙がそうなんかな?」
「間違いない。それは『ダイヤモンド紙おむつ(大人用)』だ」
シリアスな雰囲気なはずなのに、イマイチ締まらない。亜依は吹き出しかけたが。
「確かに、ご主人様は『紙おむつのはずなのに、なぜか女の子用のパンツに変わったんだ。』ってずっと言ってたけど、ホンマやったんですね。」
「甲賀の里の奴は子供不足に悩んでたから、子供用に日用品を工夫して子宝に恵まれるように発明品を数々作っているのは聞いていた。ダイヤモンド紙おむつもその一つで、生まれた子供が病気で死なないようにいろんな術式が組まれたアイテムなんだ。」
「あー、なるほど。だから、ご主人様…ハマーさんはあの封印具を付けた途端に元気になったんやね。」
少し言いにくそうに、瑠美は口を開く。
「ただ、問題もあって。」
「病弱の人がゲンキになるから、まあ、副作用ぐらいはありますよね。」
「あっちの方の元気はなくなるんだよ。」
元気になるのに、元気がなくなる?
亜依は全く意味を理解できない。
「元気になるのに元気にならないってどういうことなんですか?」
「男性としての元気がなくなるってことなんだ。」
「あれは実は失敗作で、里でも最初は『元気になった』って男性たちは喜んだんだけれど。夜になるとそのまま寝てしまうんだ。」
亜依たちがいた世界は、今いる世界とは違い。全く娯楽がない。スマホ、PC、テレビなどもちろんない。イメージ的には日本の明治時代ぐらいの文明である。そんな里での娯楽といえば。「子作り」ぐらいなのである。
なのに、この里では子供。特に男の子の数が圧倒的に少ないのである。一夫多妻制にしようと思っても、病弱。男性の体力がないため、結局は子供が生まれない健全すぎるコミュニティーである。
「つまり、ダイヤモンド紙おむつは副作用として使用後24時間は、全く力が出ないんだ。」
「それは、霊力も使い切るんだ。」
「霊力って、私たち忍びですよね?一応。たまに設定忘れてしまうけど。」
「設定言うな!」
「いろんな呼び方があるけど、うちの里では『霊力』って呼んでる。」
オーラ、体内パワー、妖力、霊力。呼び方は様々だが、本質は「生命パワー」である。ダイヤモンド紙おむつは、一時的に肉体強化するのだがそれは生命パワーを前借りしてるだけ。使用後は全身疲労と精神疲労が半端ない。
使用後に「うつ状態」と「眠気」が一気に襲ってくるのである。
「でも、うちのご主人様、使った後も平気なんやけど?」
「どういうこと?」
「そこについては…」
「ついては」
「私にも分からないのだよ。」
「そうでしょうね。」
瑠美のいる宇佐美家は戦闘の指南に特化した家系。瑠美が当主だったので、里のことにはある程度精通している。だが、「ダイヤモンド紙おむつ」は禁呪の一つ。瑠美でも、知ったのは亜依が突然いなくなったあと。
しかも、それを作ったのは。
「実は、ダイヤモンド紙おむつを作ったのは、あの『タケダ』家なんだ。」
「えっ、タケダ!?」
タケダは、伊賀忍者の割にはヒョロヒョロの一族。骨と皮だけとまではいかないが、全員目の下にクマがあり、肌は青白く、腕や太ももは細い。奈良の子鹿の後ろ足よりも細い。
それもそのはず、「タケダ家」は瑠美の物心着く頃から、ほとんど姿を見たことがない。一族はほとんど、自宅に引き篭もったまま。たまに女中が生活物資を調達に出るぐらい。数十年前に里の族長が亡くなった時に、初めてタケダの当主を目にしたぐらいです。
それ故、タケダは謎?
見た目のひょろひょろさから、軽んじられることも。
しかし、何故か「タケダ」家実力は戦闘に特化した宇佐美家に匹敵する。
瑠美の先代の当主がお酒に酔った勢いで当時の「タケダ」 の当主に喧嘩を売った。
「おい、タケダ家の若造。忍びのクセにヒョロヒョロだな。俺が、人肌脱いでやる。」
すぐに勝てると思っていたのに、ボロボロに負けてしまったことが一回だけあった。
そんなタケダ家が大きく変わったのは当主が代替わりした時。
「タケダトラトラ」に変わった時である。それまで、ほとんど出ることのなかった情報が一気に。というより、長年研究していた「カラクリ」の人体実験に「里」の外から調達し始めたことから始まる。
そして、とうとう里の人間にも手を出してから、里を追われることに。
「んー、あの家は謎だらけですからね。」
「夜になると、悲鳴と爆発音がなってましたからね。」
「そんなわけで、謎だらけなんだが。」
「当時から、ダイヤモンド紙おむつの開発をしていたそうなんだ。その名も『金剛力士のふんどし』」
「ダサっ!」
亜依は思わず口に出してしまっていた。
「多分、亜依くんは黒猫家では異端扱いされていて、そんな君が一人いなくなっても誰も気にしないだろうっと思ったのだろう。」
「当時、宇佐美家の食客になっていたことも知らない様子だったしな。」
「なるほど。じゃあ、封印のこともあんまり分かってないのですね。」
「そうなんだ。すまない。」
瑠美は申し訳なさそうに首をガックリ落とす。
「仕方ないですよ。あのタケダ家ですもん。」
「タケダ家が関わっているというのが分かっただけでも、私にとっては大きな一歩です。」
「というわけで、私もここで情報収集を続けるのでとりあえずはここでゆっくり生活するといいよ。」
しばらく、二人は無言になった。今二人は再開できて。また、穏やかな日々を過ごせるのだから。しかし、それは「束の間」の平和。あのタケダ家が「ダイヤモンド紙おむつ」。黒猫亜依の失踪事件に関わっていたのだから。
いつまた、襲われるか分からない。目的すらわからないのだから。
「あー、そろそろ帰らなきゃ」
時計を見ると、そろそろスーパーでタイムセールの時間。亜依はこう見えてJK人妻。主婦である。
すると、黒髪のうさ耳少女が応接室に入ってきだ。「お姉ちゃんたち、お話終わった?」
「お茶をもらってきたよ。」
「ごめんなさい。ララお姉さん…私メイドなのに。」
「いいわよ。さやりん。」
「あなたは、可愛い私たちの妹よ。」
「何かの役に立たないといけないってことはないから。」
「でも。」
「私たちのこと嫌い?」
「ううん、大好きですよ!」
「じゃあ大丈夫。」
「あと、今日は私たちの大切な親友が訪ねてきてるからお茶を出してあげて。」
「えっ、誰か来てるんですか?」
薄い緑色の少女は、青ざめた。
ララはその少女の背中をさするように手を置いて。
「大丈夫よ!私の親友だから。」
「私も一緒だから。」
「でも。」
深刻そうな少女にララは
「私のこと嫌い?信用できない?」
首を横に振った。
「なら、その人のことも信用して欲しいな?」
亜依は応接間の扉の外で、そんな会話が聞こえてきた。
ギィーーーー。
色ばかりではない。大きく重たい感じのいかにも応接間の扉という感じの重厚で無機質な空気の振動が部屋中を満たした。
そして、扉の向こう側に亜依はララともう一人、小さな少女を見つけた。
「ん。ララちゃんの隣に誰かいる。あれ誰だろう?」
「暗くて見えないな。」
亜衣に近づくに従って、まるでモザイクが晴れてくるように。その少女の顔が鮮明になってくる。
そして、緑髪の少女の全身が明らかになると思わず…
「あっ!」
「えっ!」
二人の少女は、声がハモった。
しかし、宇佐美ララと宇佐美瑠美は全くリアクションしなかった。
ダイヤモンド紙おむつ(大人用) 櫻絢音 @AyaneSakura
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