第14話 過去、現在、未来。【やっと出会えた】二人だけの同窓会。
もうすぐ世間の学生たちは夏休み。8日しか生きられない蝉が必死に鳴いている。セミはペアを見つけるために鳴いている。そして、人生?セミ生の最後に素敵な出会いを果たすもの。果たせないもの。しかし、8日後には「終わり」が待っている。だから、どのセミも必死に泣き続けている。
「未来につながる」と信じて。
さて、時間は朝8時。すでに気温は34.5℃。もう少しで人間の体温と同じになる。駅前の人々を見ると、USBの扇風機で涼んでいるJKらしき少女。汗だくになりながら通勤する中年のサラリーマン。「水筒忘れた!」とコンビニに駆け込む若いお姉さん。汗をかいた美少女を品定めしている怪しいおっさん。
ほとんどの人が「暑さ」にやられかけている。そんな中、ある一組の姉妹が汗だくになりながら「うんこ座り」していた。というより、何かを探している感じだった。
「うー、今日は一段と暑い!」
「大丈夫かね?辛かったら私がいてるよ。」
「ううん、大丈夫。」
宇佐美瑠美は妹のララを気遣った。しかし、姉にばかり任せるわけには行かないと一緒にいることにした。
「あー、おしっこに。」
「ここで漏らさないで。さっさとトイレに行ってきなさい。」
「あー、でも」
宇佐美ララは、公園のトイレにトラウマがある。以前、使用した時に一見爽やかそうなお姉さんに襲われかけたことがあった。しかも、もう少しで大事な体が台無しになるところまでいった。
それ以来、公園のトイレは使っていない。
「あのトイレ使うぐらいなら、漏らした方がいい!」
「それ、誰が処理するの?私、この後会社行かないといけないからできないよ!」
「紙チューブ見ながら、処理するから大丈夫。小さい方だし。」
「それなら良し!」
なぜ良しとしたのかは不明だが、ララは腰をプルプル振るわせながらうんこ座りである人物を待っている。
それは数年前に、行方不明になってからずっと探していた家族同然の幼馴染。ある意味、姉の宇佐美瑠美よりも身近な「姉」みたいな存在である。忍びの里にいた時。唯一、ララと仲良くしてくれた人物「黒猫亜依」を待ち伏せていたのである。
「なかなか、来ないなー」
「頭がぼーっとしてきた。」
瑠美はすでに限界を超えていた。普段は冷房の効いたオフィスで、電話とPCモニター。そして、部下たちと会話するのが彼女の仕事だ。彼女が「外回りしてくる」というと男性社員はもちろん。女性社員も「瑠美さんが外出るなら、私がいきます。」と外回りを勝手出る社員が続出する。
それが原因で、瑠美の外回りを取り合う流血事件。「ブラッディー・アウトサイド事件」に発展することもあったのだが、それはまた別の話。
とにかく、普段暑さとは無関係の環境にいてたので今の状況は「地獄」そのものである。妹の宇佐美ララも普段は冷暖房の完備した自室でニート生活をしていたので暑さには弱かったのだが、「亜依ちゃんと早く会いたい!」という思いでいっぱいで暑さに耐えていた。」
「なあ、ららちゃん」
「な、なあに。お姉ちゃん。」
「もし、漏らしたら。そのパンツどうするの?」
「ど、どうって。水洗いして、洗濯機で洗うよ。ってか、あまり話しかけないで。もう限界!!」
「汚れたパンツ。私にくれないか?」
ララは耳を疑った。そして、軽蔑の目を姉に向けた。普段は家事もやりつつ仕事もやる。昼には必ず一旦家に帰ってきた妹の昼ごはんを作って会社へ蜻蛉返り。ララも瑠美がいつ寝てるのかわからない。ぐらい、よく気のつく姉である。
そんな姉を尊敬していたし、姉のようになりたいとララは思っていた。しかし、その言葉だけは流石にドン引きした。
「お姉ちゃん、聞かなかったことにしてあげるから。もう言わないで。」
「はい。」
「それと、明日から私。自分のパンツは自分で洗う。お姉ちゃんと下着と一緒にあわわないでね!」
よく娘がお母さんに「お父さんと一緒に洗濯しないでよね!」と言われた時のお父さんのショック。大事に大事に育ててきて、大きくしたのに酷い一言。世の中のお父さんはそんな娘の一言にショックを受けたはず。そのショックを瑠美は受けていた。一瞬、意識を刈り取られそうになった。しかし、すぐに通常モードになる。
立ち直りの速さが瑠美のいいところ。会社で失敗してもすぐに立ち直って、解決策を講じる。
それから1時間。姉妹は全身、自分の汗で服をボトボトにさせながらもうんこ座りを続けていた。
「ララ、本当にここなのか?」
「うん、間違いない。」
「大きな池があったから、ここだよ!」
しかし、待てど暮らせど亜依が来る気配はない。
そんな時、瑠美はある事実に気がついた。
「そういえば、今日。日曜日だーーー!!」
「あーーー!!」
なんと、この姉妹。曜日感覚がなかったのだ。
「そういえば、今日はスーツ着たおじさんとか、スーツ着たおじさんとか、スーツ着たおじさんとかいないね。」
「ララ、どんだけスーツ着たおじさん好きなんだ…」
もうすでに二人の体力は限界。
「ということで私も今日は仕事お休みだった。早く気づけばよかったな。ごめん。」
「本当にそうだよ!もう、私の服。おしっこなんだか汗なんだかもうよくわからなくなってきたよ。」
「帰ろうか!」
「うん、その前にコンビニのトイレ寄っていい?」
「うん、寄ろう!」
「あっ、お姉ちゃんは一緒に入るの禁止ね!」
先に釘を刺された。
流石にさっきの「パンツくれ」発言を覚えている。しばらくの間はお風呂も一緒に入ってもらえなさそうだ。
「とりあえず、濡れたパンツ入れたいからビニール袋頂戴。」
「その間、ノーパンになるから私の…」
「いらない!!」
キッパリ断られてガックリとなる瑠美。
二人は違う理由で項垂れながら帰宅しようとする。
その時。
「あれ、ララちゃん?」
なんと遠くの方から、昨日も聞いたことのある声が。
「ララ、あれは亜依!!」
「うん、見ればわかる。」
「私は先に帰っておくから。できれば、うちまで連れてきた。」
「いやいや、近くにいてよ。」
「バカ言わないでくれ。私はか弱いんだ。早く家で涼ませてくれよ!」
深刻な問題である。瑠美はもはや立ってるのもやっとである。
「私一人だったら不安だって言ったじゃない。」
「でも、もう私も体力の限界だ。」
「じゃあ、これあげるから近くにいて!」
ララが瑠美に渡したのは、先ほどまで身につけていた。今ではボトボトで、雫が滴り落ちているストライプのパンツ。妹のパンツである。
「もう仕方ないなー。」
「あっ、クンクンしたり、ぺろぺろしたりしたら1週間家出するからね❤️」
「そんな、殺生なー」
と
意味のない会話をしながら、
「とりあえず、私はそっちの茂みで隠れている。」とララからさっと離れた。
だんだんと近づいてくる待ち望んだもう一人の姉のような幼馴染「黒猫亜依」。昨日とは違い、向こうは自分に気づいている。また、あの衝動が蘇ってきた。数年ぶりにやっと会える幼馴染。ずっと、会いたくて。会いたくて。本当に会いたくてしかたなかった女の子。
その女の子が一歩、また一歩近づいてくる。
なのに、その場を逃げ出したくなる。胸がドキドキ。呼吸は、はあはあ。頭の中は白くなりつつある。まるで、魂が自分の体から抜け出すような感覚。自分が自分であるかどうかもわからなくなり始めた。
「(亜依ちゃんと会うのこんなに苦しかったけ?)」
「(逃げ出したい。だけど)」
そう思っていると…
「あっ、やっぱりララちゃんやん。おひさー」
会うか会わないか、迷ってるうちに見つかってしまった。その場を逃げ出すこともできず結局。
「亜依ちゃん、久しぶりだね」
挨拶してしまった。
「おう、ララちゃん久しぶり♡」
「元気してた」
「元気にしてたよ!」
しかし、亜依をよく見ると様子がおかしい。というより、昨日見た姿とは違う。なんだか、小さくなっている。ララ自身もどちらかというと小さい方だ。しかし、そんなララがハグしても覆い被さってしまうぐらいのサイズ。小学5年生ぐらいの大きさになっていた。
「亜依ちゃん、その姿…」
「せやねん、急に小さなったり、髪の色変わったり、情緒不安定なったり」
黒猫亜依はつい数週間ほど前まで、封印されていた。ダイヤモンド紙おむつに、まだ謎が多い。昔、黒猫家と対立していた家の今でいうマッドサイエンティスト的な人物が開発し無理やりはかされた。
「封印解けて自由になってから、ウチおかしなってんねん」
「やっぱり…」
気がつくと、違う世界で目覚めていた。しかも、その世界での知識を埋め込まれて。亜依自身は何十年も眠っていたのと勘違いしている。そんな風に感じたララだった。
『なんか知ってるんか?』
「んー、知ってるというか…」
実は黒猫家と対立した家は結局、里でも「異端」とされていて誰も近づかなかった。しかも、亜依を連れ去ったあと、こっそりと一族ごと姿を消していた。
「これで、この世界の覇道は私たちのもの。異国の脅威も脅威ではないわー」という言葉だけを残して。
ダイヤモンド紙おむつの噂は聞いていたが、ララが知っているのは「呪い」と「肉体強化」ができるという断片的な知識しかない。
「(亜依ちゃんの霊力が弱っている?なんか、オーラが弱々しい。というより、安定しない。見た目は元気そうだけど。私だけでは力不足。お姉ちゃんの力を頼らないとな。)」
まだ、茂みに隠れている瑠美に目で合図をした。
「(お姉ちゃん、先に家に帰っていて。亜依ちゃん、連れて行くから)」
「(わかった。ララ。先に帰っているよ)」
流石は長年一緒にいる姉妹。その辺のラブラブ夫婦より通じ合っている。ひと足さきに自宅へと帰る瑠美だった。
「ちょっと込み入った話になるから、私のうちで話しない?」
「えーけど、ご主人様が帰ってくるから夕方までに帰りたいなー」
確かに、小さな体の両手に大きな買い物袋がぶら下がっていた。
「うち、夕飯の買い物の帰りやねん!」
「えっ、ご主人様⁉️」
昨日、亜依と一緒にいた男性。ララを助けた人だ。それが自分の命より大事な親友の旦那。亜依が結婚するとは思っていなかったララにとってショック。しかも、一度あっていて悪くはないと思っている人との結婚。
かなり複雑な心境のララだった。しかし、
「っていうことは、お腹がふっくらしてるのも…」
「残念ながら、それは幸せ太り。」
少し首をがっくりしながら。
「里にいた頃はみんなご飯たくさん食べてたから、たくさん作ってたんやけど。今のご主人様、結構少食やねん。」
「おかげで、うちが残飯処理をしてるんやけど。その分お腹にきてんねん。」
「夜のお勤めまだやのに。お腹だけが成長してんねん。腹立つわ!」
不満げにそう言う。
「それは、結婚も大変ね。」
とララは反応的に答える。
「(完全に人妻なのね、亜依ちゃん)」
と落ち込んでいると。
「(だめだ。落ち込んでいる場合じゃない)」
とララの本日の緊急ミッションを思い出す。
「そうじゃなくて。夕飯までには帰れるようなするから、直ぐに来て!」
「分かったから、あんまりてひっぱらんといて。ララちゃん、手痛い」
亜依を早く自宅に連れて行きたいと思うあまり力が入っていたらしい。
「ああ、ごめんごめん」
「ちなみに、何時に家に帰らないといけないの?」
人妻の親友にそう問いかけると、改めて亜依は里にいた頃とは違う人生を歩んでいるんだなーとしみじみ思いつつ、気遣うのだった。
「んー、特に門限とかはないけど。あの人、ほっとくとすぐにジャンクフード買って食べてしまいよるからなー。」
「できれば、ご主人様が帰宅する七時までには帰りたい。」
「んー、分かった。」
「とりあえず、うちの家まで来て。ここの近くなの?」
「えっ、ララちゃんもここの近く?」
「うん、そこの角を曲がったすぐ先!」
「あっこって高級住宅街やん。」
「えっ、そうなの?」
「うちは、三畳一間のボロアパートやからなー」
「まあ、うちが無理やり押しかけて人妻やってるからな。あんまり、贅沢は言われへんねんけどな。」
自宅に向けて歩きながら、近況報告を始めた。ララの自宅まで歩いて5分ぐらいの距離。簡単な報告しかできなかった。しかし、内容はほとんどが亜依の旦那の話ばかり。ララには惚気話にしか聞こえなかった。
面白くも話を聞かされてうんざりしながらも、亜依に悟られまいと目を見つめがら話を聴いていた。
「(やっと、出会えたのになー。二人だけの同窓会なのに…切ない気持ちになるって…複雑だなー)」
もし、結婚生活で少しでも陰りのある顔をしたなら。
「亜依ちゃん、別れなよ。君には笑顔が一番」と声をかけて無理やりにでも自宅に連れ込むつもりだった。
しかし、旦那の愚痴を話している時も楽しそうだったのだ。
「全然、愚痴になってないじゃない…」
「ん、なんか言った?」
「ううん、何にも!」
「そうか!」
そうこうしているうちに、宇佐美家の前に到着した。見るからに大豪邸。赤煉瓦の壁で囲まれている。自宅には大きな庭と車庫。門には動くものに反応する防犯カメラが設置されている。門も生体認証式でララ、もしくは瑠美の瞳を照合しないと鍵が開かないシステムになっている。
門を入ってからも、車が2台置かれている。最近流行りのハイブリッドカーである。しかも、自動運転機能がついているやつである。
門から玄関まで約10m。変なライオンの形の下ライオンの像の口から水が吐き出されていたり。なぜか鹿おどしが置かれていた。和洋折衷というより、無理やり洋の中に和を取り入れていてごちゃごちゃしている感のある庭だった。
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【亜依視点】
久しぶりの親友というより、可愛い妹との再会。ウチ、ずっと封印されとったからよくわからんのだけれど。なんかすっごく久しぶりな感じ。
封印されてから解けるまで、この世界の出来事とかが勝手にインプットされたらしい。ご主人様との会話の中でなんか違和感を感じていたからそう思っているだけかもしれないけど。
そんなことは今はどうでもいいわ。
だって、もう会えないと思っていたララちゃんに会えたんだから。しかも、今朝もご主人様と喧嘩。というより、私が一方的にボコボコにして。
「あー。やりすぎてしまったー。」って逃げ出して、いつも通学兼散歩道の公園に来てみた。すると、黒髪のまるで可愛い座敷童が上目遣いでウチの方を見つめてくるのを感じたんや。
「(あれはララちゃん。間違いない。)」
黒髪のショートボブの女の子って、この世界にもたくさんいる。学校でも割と多くいるし、通学途中にもよく見かける。でも、ララちゃんか違う女の子かの見分けは簡単にできる。だって、ウチがお母さん亡くして間もないころ。ずっと、一緒にいてくれた師匠のたった一人の妹さん。
最初は、師匠の後ろで隠れていただけだけど。毎日、一緒にご飯を食べているうちに、やがて一緒にお風呂に入ったり、外に出かけたりした。元々引きこもりだったララちゃんを誘ってクノイチの修行にも取り組んだっけなー。
実はうちもクノイチの修行ってあんまり好きじゃなかった。師匠が嫌いって言うてるわけじゃないんよ。師匠は大好き。うちを拾おうてくれた第二のお母さんみたいなもんやよ。
ララちゃんもうちも、当時はあんまり友好的な方じゃなかった。でも、二人でいると同じ修行仲間たちは仲良くしてくれた。里ではほぼ一人の状態だったけど。宇佐美師匠のおかげで、修行中は別世界だった。それは、ひとえにララちゃんのおかげ。上目遣いで「ちょっと困ってるんですぅー」って感じで見つめるから。
女の子ばかりの修行場だったけど。いや、女の子ばかりの修行場だったからこそ。「なんか守ってあげたい。」そんな意識にさせてしまう。そして、「亜依ちゃんも一緒じゃダメ?」って言うものだから、私とも絡まなきゃいけなくなった。
「亜依ちゃん、異端者だから付き合っちゃだめって言ってたけど。普通の女の子だよね。」
「亜依ちゃんの猫耳もふもふ。」
「カンチョー」
「痛い!!」
ってな感じのノリで修行していた。もちろん、修行なので体力的には辛い。だけど、そんな仲間たちと数年間。忍術の修行をした。
そんなプレゼントをくれた恩人であり、親友のララちゃんを見つけちゃったんだ。声をかける以外の選択肢はうちにはなかった。あの時、急に私がいなくなって心配かけちゃっただろうなー。
ララちゃん、なんかモジモジしていたけど。私は構わず叫んだ。「ララちゃん!!」
それから、ララちゃんに誘われて自宅まで行くことに。本当は、今日はご主人様16時に帰ってくる予定。でも、あの人ご飯食べた後は寝てしまう。ウチら新婚のカップルやで。まあ、うちJKで16歳ってことになってるらしいけど。でも、何もなしって。どんだけ朴念仁やねん。
まあ、たまには心配させたらええってな感じで宇佐美家の自宅へお邪魔することにしたんや。
多分、師匠もいるからほんまに楽しみやなー。まあ、ここから近い。つまり、うちの家からも近いらしいので家さえ知っていればいつでも来られる。そうやって、宇佐美家に到着すると。大きなお屋敷に到着した。
「やっとここまで来た。ウチの状況が少しでも分かればいいんやけど…」
不安と再会の喜び両方ともを胸に抱きながら宇佐美家の豪邸の中へと進んで行った。
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「ただいまー」
ララと亜依は自宅の玄関を開けると…
「亜依ちゃん、危ない。」
なんと、犬に噛みつかれた。
「ごめん、亜依ちゃんいうの遅れた。ウチで買っている犬の太郎よ」
かなり下手な名前。グルルーと唸りながら、愛衣の左脚を味わっている。
「やめなさい、太郎ちゃん。」
犬の太郎はチワワなので、本気で噛んでも大して痛くない。しかし、愛衣は固まっている。実は大の犬嫌いである。日曜日の朝はハマーと一緒に公園へ散歩へ行くのが毎回行事になっている。そして、公園といえば「犬の散歩」である。犬がいない場所を探すのが難しいぐらい。
「きゃー、ご主人様。犬怖い!!」
全力でハマーの体にしがみついている。
「こらこら。年頃の女の子がおっさんの腕に胸を押し付けるんじゃありません。」
すぐに引き剥がされる。
「だから、犬怖いって言ってるやん。」
「はいはい、怖かったねー」
「でも、そんなにくっつかれたら歩けないよー」
「それに、油断したらまたプロレス技かけてくるでしょ?」
「昨日も、大阪プロレスー!!って言っていきなり四の地固めしたのを忘れたとは言わせないよ!!」
全くの自業自得である。それでも、ハマーとの散歩を義務にしているので、なんとか耐えているのだ。そんな犬苦手な亜依。
「ララ、太郎はハウスに入れたのかね?」
奥の扉から、ピンク髪のツインテール。黄金の瞳が輝いている少女が現れた。どうみてもJKぐらいの見た目で、平日の朝、晩に学生服を着て電車に乗っていても違和感がない。どちらかというと、同じJKでも思わずお尻の感触を確かめたくなる。そんな綺麗な形の体だった。
「あっ、お姉ちゃん!」
宇佐美ララは、びっくりしたように目を見開いていた。
「今日は、亜依の目の前には現れない」と言ってたのに、うっかり顔を合わせてしまったからだ。
「師匠!!」
「あちゃー、見つかってしまったか!」
「仕方ない。」
亜依は不意に走り出した。
「亜依ちゃん?」
数年ぶりに再開したうさ耳少女の目の前を通り過ぎ、瑠美のもとへ。
「❤️」
「?」
「!!」
「どーーーーん」
なんと、亜依は時速80kmぐらいのスピードで駆け出したと思ったら瑠美にアタック。まさに人間凶器である。そのまま、瑠美の背後にある超豪華なドアをぶち壊して
「お姉ちゃん、吹っ飛んだけど大丈夫かな?」
応接間から黙々と煙が。ララが奥の方を覗くと、亜依をお姫様抱っこで抱えているツインテール少女の姿が。高速道路の法定速度で突進してきた猫耳少女をガッチリ受け止めていたのである。
もちろん、亜依も無傷である。
「お久しぶりです。師匠!!ウチ、お会いできて嬉しいです!」
「亜依くん。おかえり!会わない間に、ずいぶん成長して!」
二人とも久しぶりの再会に、家族とも言える相手と同じ空間を共有していることに心から喜びを感じていた。
猫耳少女は普段旦那?からそっけなくされている反動もあってか、瑠美のほっぺたの感触を堪能していた。
「ああー、師匠のほっぺた柔らかい。」
完全にふたりの世界である。はたから見ると「百合」と勘違いされるぐらい。熱々の二人である。もちろん、二人に「家族」や「師弟」以上の感情はない。
「あのー、そろそろ二人とも離れてくれない!?」
黒髪ショートボブのうさ耳少女の赤い目線が瑠美と亜依を凍り付かせた。
「「は、はい!!」」
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