第13話 発見とすれ違い。追いかける小さなJKの萌えるジェラシー。
時間は朝8時。小さなうさみみJK、宇佐美ララは今日も汗だくになりながらもそれでも自宅から徒歩30分もある公園であんぱんを食べながら待ち伏せていた。つい1週間前まで「引きこもりニート」だった彼女にとって、過酷な環境である。
「あー、暑い。だるい。眠たい。」
「家に帰ってガリガ⭕️くん食べたい。」
「あー、うん⭕️したい。」
JKが決して言ってはいけないワードを言いたい放題である。しかし、ララは気にしない。誰に何を思われようが関係ないからだ。
ただ一人を除いては。そう、それは黒猫亜依。彼女の幼馴染であり、家族であり、姉のような存在。彼女の唯一の親友でもある。
「あー、やっぱりスク水とかいう奴を着てこればよかったかなー」
「まさか、こっちの世界ってこんなに蒸し暑かったなんて。」
「引きこもりには辛い。」
そう、彼女はJK初日。スク水を「制服」と勘違えしていた。男性、特に中年男性からはいやらしい目で見られていた。しかし、ララは全く何にも感じない。亜依以外の好意も敵意も欲情も一切興味ないからだ。その気になれば、「女性の裸体」を待ち望んでいる変態男しかいない混浴風呂に入れるほどである。彼女に恥じらいという言葉はないのか?と思えるほどである。
実は、高校通学の初日。彼女は吊り革を持って立っている間も、中年男性からお触りされまくっていた。胸、お尻、太もも。女性にとって大事なぶぶでさえも。触りたくられていた。が、「蝿が止まっている?」ぐらいの感覚である。特に何も感じない。
たまたま、その場を見ていた「鉄道警備隊」の隊員が発見したため、その男は連れて行かれてしまった。
「お嬢ちゃん、怖かったね。」
と声かけられても。
「はい?私別に何も怖くないですけど?」
と、自分が痴漢されていたという認識がなかった。それぐらい、亜依以外の人間に何されようが彼女にとっては些細なことなのだ。
しかし、待ち伏せている間にたまたま通りかかった男の人に声かけられて諭されたため今は学校指定の制服を着ている。しかも、初日に亜依以外で初めてできた友達、悠夏のお下がりをもらった。
「この服、ゆったりでいいんだけど。特に胸の辺りが余ってる…」
宇佐美ララは高校1年生の16歳。しかし、JKとは思えないほどの幼児体型。身長は150cm、お尻も胸も全く凸凹のない真っ平。最近、「言われてみると、少しだけでてきてる?」程度のおっさんの腹より小さな胸の持ち主。彼女は小さな胸だけがコンプレックスに感じている。
「私、亜依ちゃんに勝てるかなー」
自分の胸を触りながら、そう呟く。基本的には「亜依ちゃん大好き」の宇佐美ララ。胸に関しては異常なまでに「負けたくない」という意識があるらしい。
そんな複雑な思いを持ちつつも、いつもの大きな池のある公園であんぱんを食べながらベンチに座って幼馴染の女の子を待っているのであった。
「あっ、お腹が痛い。」
よくみると賞味期限が切れていた。
「今、ここを去るとすれ違いになるかも…」
腹の痛みに耐えながら、待つのであった。
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一方、ハマー宅でも、一波乱あった。今度は、朝ごはんが問題。いつもは亜依が4時に早起きして朝食を作るのだが、今日は寝坊。なので、ハマーが代わりに作るのだった。しかし、ハマーは長年トイレ警備員だった人物。料理などほとんどしたことがない。なので、亜依が作るものより質素なものだった。
というより、トーストとインスタントで入れたコーヒーというシンプルで誰でもできる料理というのもおこがましいものが出来上がっていた。
「なんで、起こしてくれへんかったんよー。」
「だって、亜依気持ちよさそーに寝てたし。」
「ええんやって、ウチご主人様の猫型メイドやで。」
「あー、そういえばそう言ってたな。」
「もー、ウチの設定を忘れんといてや!」
「設定って。」
「パン食は、栄養バランスが悪いんやって。」
「和食の方が、バランス整えやすいんや。」
どうやら、ハマーが朝食を作ったことに不満を感じてるというより、和食を作りたかったらしい。
「ごめん。次からは起こすから。」
「いや、ご主人様わかってへん。」
「そういうの家庭科で習わへんかったん?」
今ちょうど、亜依が学校で習っている項目らしい。
「うちは、勝手に朝食を作ったのを怒ってる訳やないんやで。今から栄養バランスを考えない。とりあえず、お腹に何か入れたらええやんっていう行き当たりばったりなご主人様の考え方が気に入らんだけや」
なんか、めんどくさくなって明後日の方を向いているハマー。目は虚で、亜依の話の半分も聞けていなかった。
「なあ、ご主人様。聞いてる!!」
どこの家庭でもよく聞くフレーズである。大概、妻が旦那にやいやい言っているが、当の本人は聞くのを諦めてしまっている。タチが悪いのが、
「とりあえず、うんうんうなづいてしまえばいいや。」って思ってしまっていること。
一般的に男性より女性の方が、コミュニケーションスキルにおいて段違いに上。親子以上の差がある。だから、「聴いていない」察知スキルは男性よりも女性の方が高いのである。
この夫婦も例外なく、亜依の方が「聴いていない」察知スキルが高い。
「もー、こんなんやったら離婚やね。」
ついに言ってはいけないワードを出してしまった。
「べ、別に、俺から結婚してくれ言わなかったし。」
「もー、ご主人様。知らん。」
幸か不幸か、時計の針は午前7時を指していた。ハマーも亜依も出発しないといけない時間だ。
亜依は泣きながら玄関を飛び出して行った。そのまま学校に行くみたいだった。
「もー、亜依。そんなに怒らなくてもいいだろうに。」
「はー、結婚って難しい。まだ、籍入れてないけど。」
そのまま、ほっておこうとしていたが泣いているのは嫁さん。
見た目だけは最高の嫁さん。
ハマーはどちらかというと中身の性格より、外見に重きを置く価値観の持ち主。常々、「ルックス重視。中身は後から擦り合わせればOK」という感じの男性。
「半ば強制的に結婚とはなったが、そのまま帰ってこなくなるとどうなるだろう。」と想像した。
「亜依?まだ、帰ってないのか?」
「あー、ご飯一人で食べるのか。なんか物足りないなー」
「お、お腹が…痛い。あー、このまま一人で死んでいくのかな?」
そんなことを考えると、亜依をこのままにしておくのわけにはいけないという気持ちになった。
「あー、もう。仕方ない。」
実は、亜依が高校に行くのが決まったその日。
ハマーは就職が決まっていた。もう、家を出ないと間に合わない。高校を卒業してから初めてついた仕事。7年間仕事を全くしていなかったので、就職は困難を極めていた。やっとの思いで雇ってもらった職場。
まだ、働き始めて1週間も経っていない。そんな立場での「遅刻」。そのまま「解雇」になっても仕方がない。嫁を取るか、仕事を取るか二つに一つ。
いや、もう一つの方法があった。上司に報告。
「あの、…さんですか?」
「実は、…ということがありまして。職場に着くの遅くなりそうなんです。」
「はい、はい。ええ。はい。…ありがとうございます。」
「何時につくか確実な時間は予測できないですが、できるだけ早く着くようにします。」
「はい、ありがとうございます。」
「それでは、失礼致します。」
多少、ハマーの評価は落ちてしまうかもしれないが「解雇」というほどではない。とりあえず、亜依を追いかけて行った。
「亜依ーーー」
「確か、学校はこっちからかな。」
「あいつ歩くの早いからなー。」
「全力疾走で走らなきゃ間に合わんなー。」
「暑っ。この時間でこの暑さ。」
「仕方ない、自分の身からでたサビだな。」
そのまま、玄関に鍵もかけずに
「亜依ぃぃぃー!」
愛するおしかけ妻のために、ダッシュした。すると。
ハマーは盛大にこけた。
それは、まるで後ろから押されたかのように。幸い。車は来てなかったので擦り傷ですみようだ。
「痛タタタタ。」
「もう、こんなところでこけてる場合じゃないのに。」
「と、振り返ると亜依が蹲っていた。」
「ああああああー」
かなり悶絶してるようだった。
「ご主人様、嫁を思いっきり蹴り付けるって酷い…」
「はぁ、終わった…」
ハマーは頭の中で「プッツン」何かの糸が切れた音がした。
「でも、謝らなくちゃな。」
「亜依、ごめん。」
もう痛みは治ったようだが、涙目の押しかけ妻。はまーに向き直って一言。
「月に代わって、お・し・お・き・よ❤️」
「…。」
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「はあ、はあ。また…生まれる。」
「しかし、ここのおトイレ汚い…。しかも落書きひどい。」
「なんだろう?この落書き。晴れマークみたいな記号?絵?」
「しかも、なんか変な匂い…。」
「しかもガッチガチのティシュが散乱してる。」
「もう、次からはここのトイレ使うのやめておこう。」
公園のトイレを使っていたララ。最悪の事態は避けられたが、次なる問題が。
「トイレットペーパーがない…」
一昨日、学校でお漏らししてしまったばかり。知り合ったばかりの天使のような青木悠夏に世話してもらったおかげでなんとかなった。そして、それからは学校に行っていない。お漏らししてしまって恥ずかしかったからではない。亜依がその学校に通っていないことが分かったからである。
「こうしてる間にも亜依ちゃん、そろそろ来そうな時間。こんなことしてる場合じゃないのに」
「お腹の痛みは治ってきたのに。」
すると、
「トントン」
ドアを叩く音が。
「入ってますよ」
「(こんな汚いトイレ、誰が使うんだろう?)」
自分のことは棚に上げて、ドアを叩いた人物をそう評価した。
「トントントントン」
「だから、入ってますってば」
「いや、違うんです。多分、トイレットペーパーなくて困ってるんだろうなー」と思って。
「!?」
「なんやて!?」
思わず関西弁になってしまった。
「とりあえず、トイレットペーパーを上から投げ入れるので受け取れますか?」
「いえ、私多分キャッチできないです。少し扉を開けるので、渡してもらえますか?」
「えっ、本当にいいんですか?」
「どういうことですか?」
「どういうことかは言えません。」
「じゃあ、上から投げ入れてくださいますか?」
「はあ、はあ。」
激しい吐息が聞こえてきた。なんか怖い。
「あの、お姉さん?おばさん。」
「いや、おばさんはダメだね。」
「お姉さん?」
「はあ、はあ」
外の人は全く返事してくれなくなった。
どんどん。
「あのー、お姉さん!!!」
思いっきりドアを叩いて、外の人に注目させた。
「はっ、あーごめんなさい。私のせいへ…いえいえ、ちょっとぼーっとしていました。」
「なんか、今性癖って言いかけませんでした?」
「気のせいですよ。」
「じゃあ、開けるのでトイレットペーパーお願いします」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。」
そして、トイレの扉を閉めようとすると、
「ガサっ」
閉めるのを止められてしまった。
「えっ、何するんですか!?」
「いえ、その。トイレットペーパーの使い方を」
「いや、それぐらいわかりますよ!JKなので。」
ララはあまりJKという言葉を使いたがらないが、思わず使ってしまった。
「へへへへ。遠慮しなくてもいいですよ!私が取り足取り。」
「だからいいですってば。」
「ここをこうやって、前から後ろに」
「うっ、うっ」
ついに泣き始めたララ。
「はっ、ダメダメ。ここで襲ったら。この子はもっと熟れる」
「私ったら、ごめんなさい。」
その女はそう言って、トイレの扉を閉めて去っていってしまった。
初めて「襲われると怖い。」ということを知ったララであった。それ以来、この公園のトイレを使うことはなかった。
とりあえず、腹痛が治って、トイレットペーパーも確保。後処理を終えてトイレを脱出?カオスな体験だった。
そして、いつもの公園で待ち伏せしていた。トイレに行く前と風景は変わらない。
時間は7時30分を過ぎていた。小学生や中学生、幼稚園児とその母。たまに、綺麗に黒のスーツを着こなしている中年男性がブランコでワンカップを片手に項垂れているぐらい。特に変哲もなかった。
「まだ、きてない?それとも、すれ違いになってしまった?」
さっきまでのカオスな状態は忘れて、亜依を探すことに集中していた。
すると、奥の方から何だか懐かしい、でもよく知っている声が聞こえてきた。
「もう、ご主人様。許してやー」
「なあ、ご主人様」
「あー、亜依ちゃんの声だー」
「今日も元気そう。」
「やっと会えるんだー」
そう思っていた。
すぐに飛びつきたいとは思ったが、念の為姿が見えるまで我慢した。
「あれは、亜依ちゃんの姿。服装は里にいた時と大分代わっているし、お胸も大分大きくなっているけど。間違いないわ。」
そして、亜依に飛びつこうとかまえる。
すると、亜依の後ろに何やら人影らしきものが見えた。
「亜依ちゃん誰かと一緒?誰だろー?」
「嘘泣きとか酷いぞ!」
「女は男のことを試したいものなの?女の子の口から言わせるってあなたどんだけ鈍いんよ!」
どうやら、亜依は男性らしき人物と言い争っているようである。明らかに喧嘩。
「あのおっさん、亜依ちゃんの何!?」
「亜依ちゃんと仲良くするのも腹立たしいのに。」
「口喧嘩って。絶対ぶち殺してやる!!!」
そう思ってしまった。
「どんな男だ!?亜依ちゃんを泣かすようなやつは。」
すぐに飛びかかろうとするが、会話と雰囲気に違和感を感じた。喧嘩しているような感じなのに、やけに寄り添っている。そうしている間にも、二人は近づいてくる。そして、男の顔がはっきり見える。
「あ、あれは!?」
「昨日、家まで送ってくれたお兄さん!?でも、なんで?」
一昨日、道に迷っていたところ、この公園まで送ってもらったあのお兄さん。「あー、このまま私はのたれ死んでしまうのだろう」とララは覚悟していた。
そんな時に、「大丈夫か?」って声をかけてくれた男の人。その人が、命より大事な亜依と歩いていたのだ。しかも、仲良さそうに。
「えっ、えっ!?どういうこと?」
頭の中は大騒ぎである。そうしている間にも、亜依とその男はララの元へ近づいてきた。幸い、向こうはララの存在に気づいていない様子。
「あっ、くる。隠れなきゃ。」
本当はすぐにでも、「亜依ちゃん」と言って近づきたい宇佐美少女。しかし、思いとは裏腹に隠れるように移動した。
「もう大丈夫やから、もう会社行って。今日二日目やろ?」
「いや、でも。嘘とはいえ、俺亜依ちゃん泣かしてしまったから。」
「あれ、ご主人様亜依ちゃんって呼んだ?」
「えっ、俺そんなこと言ってないよ!」
「いや、言ったよ。」
「言ってない。」
やっと仲直りしたかと思ったら、ハマーが「亜依ちゃん」と言ったか言ってないかで言い争い始めた。というより、惚気ている感じである。
ちょうど、公園の噴水あたりで「井戸端会議」をしている年配の主婦の方たちも「あらまー、仲良しさんね。うちも昔こんな時代があったわね。」と微笑ましく思っている感じだった。
「んーーーーーーーーー!!」
それを除いているララは悶々としていた。命より大事な亜依。数年も離れていただけでも胸が張り裂けるような思いだった。まるで、内臓の一部が機能不全を起こしたように。苦しくて、痛くて、喪失感が半端なかった。
いわゆる「亜依ロス状態」だった。
「やっと会える。私の亜依ちゃんに」
と思っていたところ、他の人のものになっている感覚があった。しかも、それが一昨日迷子になっていたところを助けてもらった男性とである。
「沈める。沈めない?沈める。沈めない。」
とても物騒な言葉がララの心の中で反芻し始めた。
1m、また1mとララと亜依、はまー夫妻の距離は縮まっていく。
「あー、私なんかドキドキしてきた。緊張かなー?
「いやいや、とりあえず私は亜依ちゃんに声をかけるんだ。
ついに目と鼻の先まで。
「今だ、出ていかなくっちゃ。」
「…」
ついに、
「亜依ちゃん」
亜依は通り過ぎていってしまった。
すると、亜依は後ろを振り返る。しかし、何もいない。
「気のせいかな?」
「どうしたの?亜依?」
「誰かが私に声をかけてきたような気がしたんだけど。」
「亜依は家事のしすぎなんだよ。きっと疲れてるんだろう。」
「今日は俺が家事を…」
「はい、そっから先は言わないで!」
「えっ、でも。」
「ウチは猫型メイド『美人黒猫亜依ちゃん』やで」
「自分で言うのかよw」
「厚かましいやろ?」
「うん、ど厚かましい」
「こらっ」
「いやーん」
「ええねん。ええねん。確かに疲れるけどな。ええ疲れやねん。」
「疲れるって嫌じゃないか?」
「だから、ご主人様あかんって言うねん。」
「旦那様の笑顔を見れたらそれで幸せ。それで疲れるのは、カレーのスパイスみたいなもんやねん。」
「何言ってるかわからんぞ!」
「私もやー」
「お前もわからんのかい!ルネッサンス!」
「古っっっ!!」
「それ、若い子わからんぞ。」
と言うどうでもいい会話ですっかり仲直りしていた。
その後ろ姿を見ながら。
「私より仲良くしてる。羨ましい。」
親友だと思っていた人が、自分だけに仲良くしてくれていたと思っていた友人が…自分の知らない人と仲良くしていた時。自分を責めてしまう癖のある人になってしまった。
「〇〇ちゃん、私と一緒にいる時より楽しそ。私、いらない子かな?」と。
「あの時…里にいた時、私に優しくしてくれたのは嘘?」
昔の思い出まで、嘘だと思ってしまうほどのショックだった。
トボトボと歩いていくと、公園のブランコでワンカップ片手にスーツ姿で項垂れているメガネ姿で七三に分けている中年のおっさんが座っていた。
「失礼します。」とそのおっさんに挨拶してその横のブランコに座ろうとする。
「失礼するんやったら帰って。」
おっさんに拒否された。
「なんでだよ!」
「お前みたいなおしっこくさい小便ガキに座られるとイラッとするんだよ!」
見た目に似合わず暴言を吐いてきた。
「えい!」
「あわわわわ」
そのおっさんに、思いっきりヘッドバッドをかまして家に帰ることにした。
「うっ、うっ。おっさんにまで、馬鹿にされた。やっぱり、私みたいにおしっこくさい女の子は誰も好きにならないんだ。」
泣きながら走っていった。途中で、汗まみれになりながらも、まだ「井戸端会議」をしている年配のお姉様方が声をかける間もなく猛スピードで通り過ぎていった。
家に帰ると、誰もいない。姉は会社へ行った後。「ミーン、ミーン」と少し早い蝉の鳴き声が逆説的にララの寂しさを増幅させていた。
「信じていたのに。」
まるで、長年信じていた親友から裏切られた気分。
そんなことはないはずなのに、そう思ってしまう自分がいた。
いつまで経っても「自分はいらない子」と自分を責めながら泣き続けた。
ララは気がつくと自分の部屋のベッドで眠っていた。どうやら、泣き疲れたらしい。お昼も通り越して、外は暗くなりかけていた。
「えっ、もうこんな時間?」
そう思ったものの、何もやる気が起きない。
窓の外から見える隣の家の眩しいまでの明かりを見つめつつ、蝉の抜け殻のように呆然としていた。
すると、
「ララちゃん。もう帰っているのか?」
「あっ、お弁当食べてないじゃないか。」
瑠美手作りのお弁当。仕事だけでなく、料理、洗濯、掃除と家事も万能にできる優れ者。なぜ、男の影すらないのか不思議なくらいである。
いや、原因は里にいた頃の話に戻るがそれはまた別の話。
「ララ、部屋か?入るぞ!」
「どうしたんだ、ララ?亜依君は見つからなかたのか?」
今まで見たことのないぐらい、赤い目の妹を見てショックを受けた。元々、ララはピンク色の眼の持ち主で泣いても赤くなっているかどうか分かりにくかった。それでも、傍目から見て明らかにずっと泣いていたのがわかるぐらい目を赤く腫らしていた。
「ううん。見つかった。」
「でも…」
「その様子だと、声かけられなかった。」
少し一息置いて、
「うん。そうなの?」とララは頷いた。瑠美は思わず
「あんなに『亜依ちゃん、亜依ちゃん』って言ってたのに。何があったか、聴いてもいいかね?」
「うん、実は…」
宇佐美ララは、自宅近くで黒猫亜依を見つけた。しかし、誰かと一緒で仲良くしていた。すぐに声をかけたかった。そんな思いとは逆を逃げ出すようにその場を後にしていたことを瑠美に伝える。
「自分でもなんで逃げ出したのか分からない…」
「ただ、自分の知らない亜依ちゃんを知っている人がいると思うと、なんか悔しくなった。」
瑠美はララの目を見つめた。確かに目に、「嫉妬の炎」が燻っているように眉間の皺が険しくなっていた。しかし、それでは説明できないような。複雑な瞳の色を感じていた。赤色というよりオレンジに近い迷いの色。
ララは話を続けた。
「しかも、その男の人は一昨日に私が道で迷ってたら家まで送ってくれた人なの。」
「初めて男の人に優しくしてもらった。そんな人を海の底に沈めるなんて…」
瑠美は自分の耳を疑った。
「(えっ、海の底に沈める?どこで覚えてきたんだ。あんなに、穏やかな妹だったのに。)」
「ララ、結構スゴい嫉妬だなー。」
瑠美は思わず、心の中の声が漏れてしまった。幸い、小声だったみたいでララには届いていない。
「?」
「いやなんでもない。」
ララが亜依と一緒にいた男性への嫉妬と戸惑い。それを瑠美はこう分析した。
「ウチの集落は男尊女卑が酷かったからなー。だいたい、男は威張ってばっかりだった。」
「母がいなくなった時、ララを連れて家を出たのはこれ以上父と一緒だと壊れるからだと思っていた。」
「私、多くのことはあまり覚えていないけど…お母さん。毎日、あのくそ野郎に殴られていた。なんか、可哀想だったし。怖かった。」
その時のことを思い出すとララはガタガタ震え出した。
「で、その男の人は怖くないのか?」
「うん、なんかヘーキ。」
「亜依君と仲良くしてる姿見ても大丈夫?」
「うーん?」
男性に対する不信感というより、亜依が他の人と仲良くしている状況というのがネックになっているようだった。
「(これは大丈夫じゃなさそうだ。)」
「でも、その男の人と仲良くなりたいと思うか?亜依君のことを抜きに考えて。」
「そうだねー。」
一度しか会ったことのない男性。男性恐怖症のララにとって、それは奇跡のような現象。その男の人と会うこと自体は問題ない。
問題なのは「亜依と仲良くしている他の人」だった。
そして、ララは話を続けた。
「なんか、あの男の人ちょろそう。甘えさしてくれそうだから好きになれるかな?」
「男の人って『ロリ好き』で『上目遣い』で頼んだらイチコロなんでしょ?この世界では。」
また、瑠美は耳に入ってきた言葉を疑った。
「(だんだん、いつものララじゃなくなってきている。)」
「(それはともかく。この妹は本当に人を殺しかねん。万が一に備えて、私が行かねばならんか)」
「分かった。私がついて行ってみよう!」
「いいの!?、お姉ちゃん!!』
「今のままだと亜依君に声掛けられないだろう?」
「多分、そうなの。」
「(私も一緒に声をかけることもできるが…それだと、ララは弱いままだ。今まで甘やかし過ぎたツケがまわったか。ここは心を鬼にして)」
「一緒に声はかけられないが、そばで見てるので思い切ってやってみなさい。」
「どうしても、無理そうなら私が出ていく。」
「ほんとにー?」
「ありがとう、お姉様♪」
満面の笑顔で姉に抱きつく妹ララ。こうやって見ると微笑ましい姉妹である。
瑠美は妹に抱きつかれる状況を嬉しく思うも「お姉様」と呼ばれるいつもと違う状況に照れてしまい。
「お姉様はやめなさい!」
と妹に注意してしまった。しかし、妹は構わず愛情表現を続ける。
「お姉ちゃん、大好きー(*´³`*) ㄘゅ💕」
「ララ、君は本当に…」
同性の兄弟の瑠美ですら「キュン」とさせられる。これだ異性だったとしたら。完全に「男たらし」になること間違いない。
瑠美は心の中で「(末恐ろしい子)」とララを初めて怖いと思った。
しかし、気持ちを切り替えて。
「では、詳しい場所を教えてくれるか?」
「かしこまりー!」
次の日、姉妹は今日の公園で亜依を待ち伏せすることになる。
(14話に続く)
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