第12話【あれっ、おかしいな?】引きこもりウサ耳少女。宇佐美ララのおかしなJKデビュー

ちゅんちゅん。

部屋中ぬいぐるみだらけ。電気はつけたまま。その部屋の主人より体積の大きなPCハードウェアがせっせと働いていた。


「🎵〜」


スマホのアラームが鳴り続けているが、その部屋の主人は起きる様子がない。それもそのはず。宇佐美ララは、基本的には「ヒキニート」。つまり「箱入り娘?」なのだ。姉の瑠美には外出するように促されたこともあった。


しかし、「ちょ、ちょっとお腹が…」「今日はあのネトゲのイベントがあるから。」と外出したがらない。


今いる家族は瑠美だけ。かつて、数十人の弟子をまとめて指導ほど、伊賀流の師範としてカリスマ的な忍者育成係だった。もちろん、指導は「飴と鞭」でうまく指導できる。厳しい修行でも、彼女に憧れて卒業する伊賀忍者たちも多かった。特にクノイチに人気だった。


「師匠、くないがうまく的に刺さりません。」

「君はね、手首を動かしきれてない。」

「ほら、刺さった。」

「これを意識しながら、練習してみなさい。」

「無意識で勝手に手首が動くまで練習する。」

「忍術のセンスって練習量だよ!」

「ありがとうございます、師匠!」


「こら、礼子くん。またそんなところでサボって。」

「えっ、私はこのナイスバディーで籠絡させるって?」

「忍者にも、直接戦闘する場面も必ず出てくる。」

「それに、相手にするのは男性ばかりだとは限らないよ!」

「こら、舌打ちしない!」


「あっ、亜依くんはちょっと川から水を汲んできてくれるかね?」

「ありがとう。頼むよ!」


彼女のかつての弟子たちは個性的な性格の持ち主ばかりだったようだ。だから、必然的にそれぞれの個性に合わせた指導を無意識に心がけている。


しかし、実の妹に関してはダメダメだった。本当に危険な場合や明らかに間違っていることをしているときはともかく。基本的にはララの言いなり。甘々だった。


まるで、やっと生まれた初孫に甘やかせまくるおばあちゃんのようであった。欲しいものは何でも買い与えていたし、家事や仕事は一切させていなかった。この、宇佐美ララ良い大きい体積で、うん十万円モスルゲーミングPCも


「私、ハッカーになりたいから買って!」

と言われて、速攻で一括払いで購入している。


だから、この世界に来てから学校に行くぐらいの年齢なのに行かせていないのは

「私、外に出るの恥ずかしい。」

「あー、いいよいいよ。ララはゆっくり自宅警備員をやってくれたらいいよ」

とヒキニートを公認している。しかも3食昼寝つき。


昼間、瑠美は仕事しているのだが。ララの昼ごはんを作るためだけに、昼休憩を丸ごと潰して帰ってきている。まさに「超絶妹ラブ」。ハイパーシスコンである。同性の兄弟では珍しい。


しかし、ララにも試練は等しく訪れる。それは外出。しかも継続的に。そう、憧れの「黒猫亜依」に会うためにはPCだけでは発見できない。姉の瑠美に任せるという手段もあるが、彼女は仕事。ただでさえ、昼ごはんを作りに帰ってきてほぼ休憩なしで働き続けている。


「お姉ちゃん、昼休憩潰してご飯作りに帰ってこなくてもいいよ。」

「カップラーメンぐらいなら、私にも作れるよ」

と言っているが。


「何を言っている?カップラーメンにはリン酸が多く含まれている。」

「将来、骨粗鬆症になりやすくなる。」

「ララがおばあちゃんになる頃までに私は生きているかどうかわからない。」

「つまり、ララの介護はできない。」

「そんな時に骨折でもしたら寝たきりになる。」

「私はそんなララの姿を想像するだけで身震いする。」


と、妹の先の先のことまで心配しているのだ。


「だったら、お弁当の作り置きでもいいよ。」

というのだが、


「お弁当だったら冷たくなるじゃないか」

「温めればいいじゃん。」

「どうやって温めるんだ?」

「電子レンジでチン。」

「電子レンジはダメだ。マイクロ波が…」

とララにとって少しでも危険なことはさせないのである。


かつての伊賀忍者の師範とは思えないほど。ララに対しては甘々というより過保護すぎるのだ。


そんな瑠美の対応もあって、ララは「ヒキニート」から抜け出せないでいた。


しかし、ようやく「ヒキニート」から抜け出すチャンスがやってきた。それが、「黒猫亜依」の捜索。「ヒキニート」なのはこの世界に来る前から。元々、ララは人見知りタイプで友達を作るのがあまりうまくないタイプだった。


伊賀の里にいたある日、ララのうちに亜依がやってきた。亜依は人見知りはないが、里の人間からは遠ざけられていた。それは、彼女の呪いに関係する。彼女は、かつて「猫の妖怪」と交わったことのある先祖の末裔。つまり、彼女は「先祖返り」を色濃く受け継いでいる。人間にはない猫耳が特徴的である。


現代日本なら「猫耳最高」って受け入れられたかもしれないが、ララのいた世界はイメージ的に明治の日本。自分たちとは違うものには極めて排他的。亜依の家族ですら半ば育児放棄されていたのである。


彼女のおじいちゃんだけは亜依味方だった。しかし、先日肺炎のため急逝されてしまった。


そんな中、亜依は宇佐美家の居候となったのである。亜依はおじいちゃん以外からは「この化け物が」とか「こんな娘生むんじゃなかった。」とか疎まれていたが、彼女は人間不信にはなっていなかった。


それはおじいちゃんの教えの賜物。「亜依。今はみんな君に辛く当たっている。でもな、ずっと、それが続くわけじゃないんや!」

「少なくともおじいちゃんは、お前の味方やで」


その言葉が励みになっていた。だから、人間嫌いにはならなかったのである。むしろ、もっと人間の温かい心に触れてみたい。そんな欲望でいっぱいだった。


ララは亜依が初めて宇佐美家に来た日のことを覚えている。


「ララ、ちょっといいか?」

「ん、なに!?お姉ちゃん。」

「今日から我が家に新しい家族が来たよ!」

「今度はどんなお人形さん!?」


この時から既にララの部屋はぬいぐるみだらけだった。当時から人見知りで、友達のいなかったララにとってぬいぐるみだけが友達だった。


「はい、コチラが今日から家族になる黒猫亜依ちゃんです。仲良くしてください。」

「えっ、知らない人?」

ララは、サッと姉の後ろに隠れてしまった。


「ごめんな、亜依くん。この子は私の妹で宇佐美ララって言うんだ。」

「人見知りで私以外の人とは緊張するみたいなんだが、仲良くやってくれるか?」

「ちなみに、君たちは同い年だ。」

すると、亜依は瑠美の後ろに隠れているララを覗き込むようにこう話した。


「こんにちは、ウチは黒猫亜依って言います」

「君は、ララちゃんでいいんかな?」


急に距離を近づけられてびっくりしたララ。

「近づいてこないで」と手で止めようとすると。


なんと彼女の頭には猫耳があった。普通の人間にはない。


髪の毛はもふもふ、目の色は水色。フワフワで人間サイズにしてはやけに小さい。ララの持っているどのぬいぐるみよりも可愛い「ぬいぐるみ」だった。


「あっ、可愛い猫さん…」


彼女はどのぬいぐるみより猫のぬいぐるみを愛していた。あの自由に過ごしつつも甘える感じ。そこに惹かれていたのである。


「ん、これか?触ってみる?」

「うん!」


亜依はララに自分の猫耳を触らせてやった。

「あっ、動いた!」

「あんまり中までいじくらんといてや。くすぐったいから」

「うん、わかった。」

「髪の毛も触っていい?」

「ええで。」

ララは肩ぐらいまである亜依の髪の毛をもふもふし始めた。


「ごめんな、うちの髪。ゴワゴワで触りごごち悪いやろ?」

「ううん、もふもふして気持ちいい。猫さんを抱いてるみたい。」


先ほどまで、亜依に警戒していたララだったが一気に仲良くなった。まるで本当の姉妹のように。実の姉はというとまるで、それを微笑ましくみる祖母のようにうっとり見とれていた。


「どうやら、ララは仲良くしてくれるようだな。」

「うん、この猫さん大好き。」

「亜依ちゃんな。」

「うん、亜依ちゃん。」


ララと亜依。ほぼ同じ体格で同じ身長の同い年。それから、一緒にお風呂に入ったり、一緒にご飯を食べたり。忍術の修行もララはこの日から始めた。


それ以来ずっと一緒だったのだが、数年後のある日。瑠美が留守中に彼女の親戚と名乗る人が宇佐美家にやってきた。


「ちょっと、亜依に話したいことがあるから出してください。」

と言われたので亜依と合わせると。


その人は謎の言葉を唱えた後、亜依を眠らせてどこかへ連れ去っていった。ララは止めようとした。彼女も伊賀忍者の端くれ。戦闘の心得ぐらいはあった。しかし、彼女はその親戚を名乗るものを止めることはできなかった。


後ろから首に痛みを感じた後、眠ってしまった。それ以来、ララは亜依に罪悪感を抱いている。そして、家族を失うことの痛みを思い知ることになる。あれから数年後、亜依が現代日本にいることが分かった。


現代日本に行くのに瑠美の「ゴートゥーパラレルワールド」の術が必要になる。この術は使うたびに術者の寿命を削る禁断の術。それでも姉にお願いした。なぜなら、瑠美はいが忍術の超名人。確かに命は削られるが大幅ではなかったからだ。


「お姉ちゃんの寿命を削ってごめん。でも、私、亜依が必要なの!」

「もちろんだ。と言うより、私の方から提案しようと思っていたのだよ。」

「でも、ララから反対されるだろうなって言えずにいたんだ。」

「まあ、寿命が縮まると言っても。私の場合は1年程度で済ませられる。」

「元々、宇佐美家は長寿の家系」

「150年生きた先祖がいるという伝承があるぐらいだからね。」

「150年?」

「まあ、眉唾物だがね。」

「善は急げ、さあ、捕まって。術を発動するよ!」


それから約6ヶ月。宇佐美姉妹は戸籍を偽造し、お金もあっという間に稼いで今では大豪邸に二人で暮らしている。


「やっと、亜依ちゃんに会えるかもしれない。だから、ここは私が動かなきゃ。」

「お姉ちゃんから寿命をもらった。」

「もうこれ以上お姉ちゃんに無理はさせられない。」

PCでググってみると、彼女が住んでいる場所から電車で約30分のところの高校へ通っているらしい。


「ここの高校でJKやってたら行けるかもしれない!」

そう思っていた。


いつもより、30分早く起きたララ。時計を見ると6時30分。いつもなから、布団の中に入るところ。完全に昼夜逆転娘。彼女にとって昼は活動しにくい時間帯。引きこもりには辛い。


「ああ、眩しい。」

「やっと、亜依ちゃんに会えるかもしれない。」

ララは瑠美に調達してもらった服に袖を通す。


「ララ、パンだけでいいから朝ごはんを食べていきなさい」


姉に言いつけられて食パンを口に咥えて、初めてはく新しいスニーカーに足を入れる。


なかなか、玄関に手をかけられない。手がブルブル震え、額からは冷や汗が。頭がフラフラしてきた。


「ララ、私が一緒に行ってあげようか?」

「…」

しばらく、考え込んで。

「うん、大丈夫!」

「お姉ちゃん、私頑張ってくるわ。」


そう、玄関の扉を開けた。

最近流行りの「SU ICA」の使い方もバッチリ。学校までのルートもスマホの道順検索で完璧である。


「これで、亜依ちゃんに会える」


そう思い、電車の吊革を持とうとするも届かない。


「あー、身長が足りない。」

仕方なくドア付近の手すりを持つことにした。


「私、結構ちんちくりんなんだ。」

正直、ショックを隠せない。


しかも、なんだか周りの視線が気になる。まるで、自分に注目されているよう。特に、明らかに、アニメオタクのような格好をした男性からは

「スーハー、スーハー。これは、旧スク水!?」

「大谷氏、スーパー堕天使。あやねるちゃんの再来か?」


ララには全く何を言ってるかわからない。


「(なんだ。あの人たち、なんかキモい!)」

まだまだ、外の世界を知らないララ。あからさまに見られるのは慣れない。しかし、どこを見ても、目を逸らされるかじっと見られているか。周囲の人はララを意識しているようだ。


「私、そんな美少女でもないんだけどなー。ただの引きこもりだし。」


見られるというのは引きこもりの天敵。「見られてる」って思うだけで家に帰りたくなる。しかし、今のララは最強。スターを取った「スーパーマ⭕️オ」である。


「亜依ちゃんに会うためなら、多少見られるぐらい平気」


どれだけ、亜依ちゃん好きやねんって突っ込みたくなるほどだ。そして、ララは学校に到着。

「これが学校?」

周りを見ると、ブレザーにチェック柄のズボン、もしくはグレーのスカート姿の少年少女ばかり。

自分より、大人っぽい。だけど、自分と同じぐらいの年齢の人たちが歩いていた。ララは周りの人との服装の違いに気づく。しかし、気にしない。


「私だけか。この服。まあ、初日だから仕方ないわね。里にいた時も最初は白服からスタートだしね。」


確かに、武道の着替えも強さごとに帯の色が変わる。しかし、高校にはそんなシステムはない。多少、学年で上靴の色が違うぐらいだ。


「まずは職員室。」

「ここかな」

「確か、ネットではこんな感じで挨拶しろって書いてたな。」

そして、職員室の扉を開ける。

「おはようございます。」

開けた瞬間、一斉に全ての教師はララに注目する。


そして、30代前半の女性教師がララの元へやってきた。


「宇佐美さん?ダメじゃない。制服でこなくちゃ!」

「??」

ララは全くなんのことかわからない。

事前に高校の「制服なるもの」もリサーチ済み。

「スクール水着」が夏の制服として最適であることがわかった。


よく見るアニメでも「スクール水着は正義。旧スクなら神」というセリフがあった。それを信じて姉にスクール水着、しかも今では手に入りにくい旧スクバージョンを手に入れてもらった。


「確かに学校の制服ではあるんだけどね。」

「それはスクール水着で、水泳の時以外着てはいけません。」

「!?」


初めて高校にデビューしたのに、早速担任の先生からお説教。


「そんな格好できて、よく無事でいられましたね。」

とか、

「あなたのように、幼い感じの女の子を襲う人だっているんですよ。」

とか。

どうやらララのことを心配しているようだが。


姉にも聞いて決めた「制服」を全否定されているようでショックだった。


「全然違うじゃん。」


いつもは保健室に予備の制服があるのだが、生憎、数分前に別の女生徒が制服を濡らしてしまって、今はその女の子が使っていてない。


「宇佐美さん、今日は仕方がないのでその格好で授業を受けてもらいます。でも、明日は制服で来てください。」


「でも先生、私、みんなが着てるような制服ないです。」

「これが制服だって知らなかったし。」

「とりあえず、私の制服を貸してあげます。」

「先生、なぜ?」

「私、昔ここの生徒だったんですよ。」

「そうだったんですか。ありがとう。」

「って今着替えたほうが良くないですか?」

「意外と宇佐美さん、スク水可愛いので、今日だけそれで授業受けてください。」

「おいっ!!」


そして、ついに教室に案内される。ちょっと手違いはあったけど、些細なこと。

「やっと、亜依ちゃんに会える。どんな声をかけようかなー」


そして、担任の教師が先に教室の扉を開ける。


「宇佐美さん、ここでちょっと待っていてください。」


担任の先生は

「では、ホームルームを始めます。その前に、皆さんには新しいお友達を紹介します!」

「お友達って、私高校生だよ!」

「でも、やっと会える。亜依ちゃんに。」

「この服が制服じゃないのは、意外だったけど。」

「まあ、ちゃんとしたやつを買えば問題ない。」

「なぜか、お金だけは困ったことがないからね。」


担任の教師が宇佐美ララを手招きした。


「さあ、宇佐美さん。入ってきてください。」


「ガラガラ」

教室の扉を開けると、そこには高校1年生の男子、女子が座っていた。同じ制服を着て。


「さあ、自己紹介して。」

「う、宇佐美ララと言います。」


「わー、かわいい。」

「ララちゃんっていうんだー。」

「小学生みたい!」


ララへの評価は最高。少し照れてはいるが、悪くない気持ち。そして、ララは探した。亜依の姿を。


教室の奥、手前、窓際、廊下側。


教室の隅々まで探した。でも、亜依の姿はない。


「あのー。」

「ああ、宇佐美さんは。そちらの窓際の席が空いてるよ」

「あ、ありがとうございます。」

しかし、ララの知りたい情報はまだ知れていない。


「あの、先生?」

「トイレですか?」

「いえ、違います。」


見た目は小学生のララを完全に子供扱いをする担任教師。違うと言われて、首を傾げる。


「いやいや、首を傾げられても。」

「このクラスに黒猫亜依っていう女子生徒はいませんか?」

「いや、そんな生徒はいませんが?」

「もしかして、他のクラス?」

「他のクラスにも、『黒猫さん』という生徒はいませんね。」


「(おかしい。亜依ちゃんはこの学校にいるはず。でも、先生はいないって言っている。なんでだろう?」


「宇佐美さん、授業を始めるので席について。」

気になることはあるが、担任教師に言われて自分のせきに座る。

「ララちゃん、教科書ある?私の貸してあげる。」

「宇佐美、なんだその格好。今日はプールの授業ないぞ。」

「こら、男子!ララちゃんをいじめないで。」

すでに人気者のララ。


「ありがとうございます。一緒に見させていただきます」


愛らしく笑顔を返しながら教科書を一緒に見せてもらう。1時間目は数学の授業。ハッキングができるほどのララにとって高校1年生の数学は「1➕1」を計算するようなもの。


数学の授業を受けているそぶりを見せながら、別のことを考える。


「亜依ちゃん、なぜいないんだろー」


そのことばかり考えている。


隣の女生徒が


「ララちゃん、授業終わったよー」

「一緒におトイレ行かない?」

「ありがとうございます。私少し考え事したいので。」

とそっけなく断った。


「まだ、緊張しているのね。」

「次の授業も教科書貸してあげるね。」


とその女生徒はトイレに行った。

1日の授業の終了後、彼女はすぐにPC教室に向かった。


「なんで、この学校にいないんだろう。」

「確かにこの学校にいるはずなのになー」

と、学校のサーバーを漁っている。しかし、亜依の痕跡は愚か「亜」の文字すら出てこない。


「あー、全くわからない。やっぱり、この情報は間違っていたんだろうか?」


探しまくったが、皆目健闘すらつかない。


それから1時間。調べまくったがわからなかった。


そして、ララは重大なことに気づいた。なんだか、股の部分が冷たくなっていることに



「!!」

「もしかして?」


そう、彼女は朝起きた時から全くトイレに行ってなかったのである。彼女は夢中になるとトイレに行かない。我慢しすぎて、催してしまっているのも気づかないまま。


里では「お漏らしうさぎ」と揶揄われていた。それをいつも亜依が庇っていた。


「ああ、私。やってしまった。」

そこへ、朝隣に座っていた女生徒が。


「ララちゃん、いけない。」

「私のを貸してあげるから、トイレに行こうか?」

ララはその女生徒に言われるがままにトイレへ。


「大丈夫?寒くない?」

「ごめんなさい。あなたにまで、迷惑をかけてしまって。」

「でも、なぜ?」

「ああ、ララちゃん。朝から全くおトイレ行ってなかったでしょ?」

「なぜ、それを?」

「うちね、両親ともに介護士やってるの。」

「そのせいか、人がいつトイレに行ったとか気になっちゃうのよ」

「濡れたパンツは、この袋に入れて。パンツのサイズは大丈夫?」

ララはうなづいた。そして、その女生徒と亜依を重ね合わせていた。


「そういえば、昔も亜依ちゃんにこうやってトイレの失敗をお世話してもらったなー」


ララは昔のことを思い出していた。


「うー、またお漏らししてしまった。7歳にもなって恥ずかしい。」

「大変だったねー。でも、私がいるからね。風邪引く前にお着替えしよー」

「亜依ちゃん。毎回、毎回ごめんね。」

「ん、何がー?」

「お漏らしで着替え手伝わせるの?」

「そんなのどうってことないよー」

「私たち、一緒に住んでる家族なんやから。」

「困ったら助ける。当然でしょ?」

「それより、このパンツ。サイズ大丈夫?」

「うん。ありがとう」


「あの時も、亜依ちゃん私に優しくしてくれたなー」


「亜依ちゃん…」

「亜依ちゃんって、ララちゃんのお友達?」

「そうなんです。」

「よかったら、亜依ちゃんの話聞きたいなー」


そこから、ララは話し始めた。いつも優しかった亜依との思い出を。


「じゃあ、亜依ちゃんとララちゃんって同い年なの?」

「そうなんですよ。でも、亜依ちゃんの方がお姉さんみたいで。」

「私、二人の優しいお姉ちゃんがいるみたいで。親はいませんが、それだけで幸せでした。」

「じゃあ、早く行方のわからない亜依ちゃんを探したいわね。」

「そうなんですよ。」

「じゃあ、その亜依ちゃん。特徴教えてくれる。もしかしたら、力になれるかも?」

あれから5年以上経っている。大体の見た目はPCでシュミレーションしている。


その結果からの見た目を話てみる。


すると、その女生徒は。

「うーん、頭にミコ耳がある茶髪の女の子。」

「何か、手掛かりありますか?」

「なんか、思い出せそうなんだけどなー」

女生徒は顎に手を置いた。


「あっ、ダメだわ。思い出せない。」


あきらめたその時。


「あーそうだー。1週間前に駅前の大きな池のある公園で散歩しているのを見かけたわ。なんか男の人と言い争いながら歩いていたから間違いない。」

「えっ、男の人。」

ララが驚くのも無理はない。


里にいた頃は、特に男性から忌み嫌われていた。


「こんな不吉な耳を生やしやがって。俺に近づくな。」

「お前が近くにいるだけで、呪いがうつる。しっし」


だからこそ、女所帯の宇佐美家のお世話になっていたのだ。


「亜依ちゃんを受け入れる男の人がいるなんて…」

でも、猫耳のある少女など亜依意外にララは知らない。


「一度、行ってみる価値はあるかも?」

「青木さん。」

「 悠夏(ゆか)って呼んで!」

「悠夏さん。その女の子が歩いていた時間帯とか教えてくれますか?」

「いいわ。それは…」


青木悠夏によれば、日曜日の午前7時。池の近くのベンチあたりでよく見かけるのだという。いつも、20代後半の男性と言い争っているらしい。


「言い争っているっていうことは喧嘩?その女の子は無理やり従わされている感じですか?」

「んー、というより。その女の子の口調がきついのよ。よく『アホか』って言ってたりするのよね。」

「(間違いない。関西弁の猫耳少女。亜依ちゃん。)」

「ありがとうございます。悠夏さん。一度探していみます。」

「ララちゃん。」

「はい?」

「転校してしまうのね。」

「そうですね。私はこの学校に亜依ちゃんがいると思ってたので。」

「でも、この学校にいないのであればここにいる理由はありません。」

「ねえ、一つお願い。」

「なんですか?」

「私とお友達になってくれないかな。」

「別に構いませんが。」

「やったー」

悠夏はララに抱きついた。


「ううっ。」


激しいハグに、吐き気を覚えた。


「あっ、ごめんごめん。」

「実は私。ララちゃんによく似た妹がいたの。」

「めっちゃ可愛いかった。」

「でも、2年前にね交通事故で急に亡くなってしまったの。」

「あの時、もっといろんなことしてあげればよかったなーって」

「だから、これからもララちゃん。あなたのために何かしてあげたいの。」

「そんなに、妹さんとよく似ているですか?」

「うん。よく、何かに熱中してお漏らししてしまうところとかもね。」


ララは悠夏から目を背けた。顔が真っ赤だ。


「ごめんごめん。からかうつもりはなかっただよ。」

「あー、私の罪の意識をなんとかしたいだけなんだけどね。」

「私も一緒です。亜依ちゃんはいつも私のために動いてくれていたのに。あの時も私は何もできなかった。」

「じゃあ、私たち似たもの同士ね。」

「そうかもですねw」


トイレで着替えが終わったララは悠夏と途中まで一緒に帰った。

「1日だけだったけど、同級生になれて嬉しかったわ。」

「次の学校に行っても元気でね。」

「はい、学校が変わっても悠夏とはお友達です。」


すでに時計の針は18時を超えていた。しかし、太陽は沈む様子がない。季節は7月。やっと、梅雨が明けたばかりである。


帰り道。やけに周りが騒がしい。どうやら、最近駅の近くには変質者が出没しているらしい。特に幼女が何度も猥褻行為を受けている。幼女に無理やり履いているパンツを要求する。


幼女たちは恐怖のあまり、パンツを差し出してしまう。


しかし、犯人の顔を覚えているものはいない。集めた幼女パンツを何枚もかぶっているからだ。


犯人にとって、ララは最高の獲物である。


「お嬢ちゃん、その格好はまずいよ。」


途中で知り合った男性に、よう言われると。


「お嬢ちゃん、お家どこ」


「八百街道公園前です。」

「ああ、あそこは高級住宅街じゃないか。」

「俺、近くまで送って行くね。」

その男は30近くの男性。一見頼りなさそうだがなんでもいうこと聞いてくれそうな人。


「ありがとうございます。」

「実は俺の家もこの近くだから、ついでだけどね。」



実はその男。ララの人生を左右する重要人物。今のララに知る由もない。


玄関を明けたララは姉に「お帰りなさい。早かったじゃない。」

「まあね。」

「今日は疲れた。」とばかりにそのままベッドイン。朝までそのまま眠り続けるのであった。」




(13話へ続く)

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