第2章おしかけ妻のJKデビュー

第11話 【小さくても実はJK】ウサギ耳少女の宇佐美ララ

「カタカタカタ」

ぬいぐるみが敷き詰められた部屋。うさぎ、ぞう、くま、パンダ、ウマ、ネズミ。古今東西、いろんなぬいぐるみで埋め尽くされている。

ぬいぐるみの山にただ一人。

たった一人で作業する少女が一人。


黒髪のおカッパ頭。見た目は小学生。

胸はフラット。目の色はピンク。うさぎの耳が生えていると思いきや。実はヘアーバンドにウサ耳がついているだけである。


「ララ、ご飯ができたから降りて来なさい!」

「お姉ちゃん、今いいところだから先に食べてて!」


その少女は宇佐美ララ、16歳である。彼女は伊賀の里からやってきた忍者の末裔。しかし、ずっと引きこもっている。伊賀の里とは言っても、この世界の「伊賀の里」ではない。この世界とは違う世界の「日本」からやってきた。いわば「パラレルワールド」というやつである。


時計は午後11時。夕食には遅めの時間。世間の小学生は寝ている時間。しかし、彼女はご飯を食べることさえ後回しにして作業していた。


「とりあえず、これでOK」


作業がひと段落して、彼女の1階にあるダイニングへと向かう。そこには、彼女に瓜二つの姉がいた。


しかし、髪の色はピンクで瞳はゴールド。胸はララより少し大きい。この家の女性はあまり発育が良くないのだろうか?そう思わせる、小柄な体の姉妹。髪の色が同じなら見分けがつかないぐらい瓜二つである。しかし雰囲気は全く正反対の姉妹である。


「お姉ちゃん、今日も仕事遅かったのね。」

「そーなんだよ。今、会社は次の事業に向けて拡大しているから毎日、面接面接でねー。」

「人を見る仕事というのは、神経がすり減るねー」


今まで、ずっと残業していた人とは思えない笑顔で大切な妹にそう愚痴をこぼした。外はひっそりと静まり返っている。しかし、宇佐美家のダイニングだけは暖かくて楽しい雰囲気を漂わせていた。まるで、砂漠の中のオアシスのようである。


「ところで、ララ。」

「んー、何?」


さっきまでふんわりしていた雰囲気が急に緊張に変わる。


「亜依くんの捜索は順調にいってるのかね?」


この姉妹、この現代日本にやって来た理由。それは、黒猫亜依の捜索である。


「急ぐ必要はないけど、私たちには亜依くんの力が必要なんだ。」

「何軒か心当たりはあるよ。でも…」

「亜依くんがいないと、時代の流れがめちゃくちゃになる。そして、今は封印されし『ヴァルハラ(戦死者の墓)』が開放されてしまう。」

「そうなったら、この世もあの世も全て混沌となったあげく全てが無になってしまう。」


「今はこの時間のオーパーツでなんとか抑え込んでいるが、奴らこの時代。いや、この世界の時間軸にまで手を出して来ている。」

かなり深刻そうな姉の宇佐美瑠美。そんな姉の瑠美を励ますように。姉の肩に手を置くララ。


「大丈夫だよ。お姉ちゃん。時間軸がどうのこうのというのはわからないけど、私は親友の亜依ちゃんに会いたい。そして、今度こそ私が守る。それだけ。」

「私がこの世界に来た限り、絶対に亜依ちゃんは私が守る。」

そう、この姉妹はあの押しかけ妻の黒猫亜依の知り合いだった。


「本人は封印されている間に、ただ時間が過ぎただけだと思っているがね。自体はそんな単純じゃない。あの子が封印された時に奴らあえて、彼女を連れ去らずに時空のホールに投げ入れた。」

「間違って入れただけじゃない?あいつら割と仕事雑いし。」

「確かに、奴らの仕事はきめ細やかとは言い難い。」

「だが、意味のないことをしないのも事実。」

「だったら、ゆっくり探せばいいんじゃない?」

「そうも言ってられない。奴らは神出鬼没。いつどこに、どういう状況で現れるかは私でも分からない。」

「ちょっと癪だけど、礼子さんに協力して貰えば?」

「あの人、時空力だけは半端ないし。」

「んー、あいつ…私は苦手だ。もちろん、頼った方がいいのは分かる。でも…最後にしたい。ある意味、奴らより厄介な存在。というよりいちいち対応に疲れる。まだ一日クレーム処理をやっていたほうがマシだよ!」


宇佐美瑠美は対人スキルは超完璧。この世界で働き始めた約半年。今では、彼女の会社の代表取締役のサポートをするまでになっている。


「まあ、どちらにしても次の異空間操作可能期間まで5年ぐらいある。今年中には見つけられたらいいかなとも思っている。」

「でも、早めに見つけておくに越した事はない。引き続き、亜依くんの捜索頼むよ!」

「うん、わかったー」

「それで、ララ。さっき、心当たりが見つかったと言っていたな。なんで、あまり乗り気じゃないんだ?」

「君は昔から『亜依ちゃんのお嫁さんになるの」って言っていたぐらい。亜依くんのこと好きだっただろう?」

「うん、今でも『結婚したいぐらい』好きだよ。」

「すぐにでも、ハグハグしたい。」

「だったら何故?」

「んー、どうやら亜依ちゃん。この世界の『高校』という寺子屋みたいなところへ通っているみたいなんだ。」


そう言いながら、遠い目をするララ。目の前に宝物がある。しかし、手を出すためには、多くの困難があるらしい。


「あー、なるほど。」

納得する瑠美。


「でも、それなら私がJKになりすませばいいのでは?」

「何言ってるの!確かに、分身の術を使えばお姉ちゃんは今の仕事もしながらJKになりすますこともできる。でも、それは命を縮める術。あまり多様はしちゃだめ。

「でも、愛弟子のためなら多少のリスクは…」

「多分、亜依ちゃんだって『何考えてるんですか、師匠』って言うに決まっている。」


亜依のモノマネをしながらそう、説得するララ。


「でも、ララ。君は引きこもりじゃないか。事実、君はここに来てからもずっとPCしか触ってないじゃないか。外に出るのは怖くないか」

「正直怖いよ。おしっこちびりそう。」

「だったら、多少のリスクは承知で私が。」


やれやれ、私のお姉ちゃんのくせにわかってないなーという感じで、


「私だって、その気になったらJKになれるんだよ!それに、一回スケバンっていうものをやってみたかったし。」

「おまんら、許さんぜよ!」

「いや、それ。この世界ではかなり古いドラマらしいぞ」

「えっ、そうなの?この前15時にやってたけど、あれリアルタイムじゃないの?」

「君はPC操作得意なのに、こういうことには疎いね。」

「まあ、とにかくやってくれるというなら頼むよ!」

「それで、どこの高校かね。」

「それは…」


_________________________________


時を遡ること、宇佐美姉妹がその会話をする約1ヶ月前。ハマーのうちでは、一触即発の状態だった。というより、亜依がキレそうになっていた。


「えっ、ご主人様!!ウチにJKやれってどういうこと?」


それもそのはず。この押しかけ妻は勉強が大の苦手。もちろん、ハマーはそのことを知らない。出会ってまだ1ヶ月も経っていない。ようやく、妻として認め始めてきたハマー。でも、何も知らない状態から同棲を始めた。


まだ、入籍はしていないので結婚しているかどうかは微妙な感じだが少なくとも「夫婦」という感覚がハマーにも定着しつつあった。だから、必用ないと思うのだが。ハマーは頑なに亜依の高校進学を強く押していた。


「だから、言ってるだろ?」

「高校生になって、お友達といっぱい思い出作りをするんだ。」

「俺は、高校の時家の事情もあってほとんどいい思い出を作れなかったんだ。」


そう、幼女パンツを履いてる変態男ハマーは半ば無理矢理に父親と幼馴染で継母の花子ちゃんに半ば強制的に大阪の高校へ入学させられた。入学試験を受けないといけないはずなのに、どんなコネを使ったのか?無試験で入学させられた。


仕方なく大阪の高校へ進学。しかし、自分で選んでいない高校だけあった、ともだとと呼べる人はほとんどおらず。中学生時代のように、不良グループに絡まれる事はなかった。でも、ほとんど思い出と呼べるものはなかった。何故なら、大阪に出てくる時に渡されたアコーディオン教科書を元に忍術を自力で体得しなくてはいけなかったから。


彼には呪いがある。子供ができなくなるという。彼も男。自分の子供は欲しい。呪いを解くというより呪いを抑えて上手く付き合うために忍術体得が必須。そう、彼の父親と継母の花子ちゃんから教わった。


「ロリ巨乳と…。ロリ巨乳と…。」学校から帰って来てから、彼は毎日そう唱え続けながら修行した。


道ゆく知らないおっさんに頼み込んで「亀」と書かれた石を遠くまで投げてもらいとってくる修行とか。毎朝、16時に起きて牛乳配達のバイトをさせられたり。実家から送られてきた1枚50kgあるTシャツを常に着ているように言いつけられるなど。

「いやいや、ドラ⭕️ンボールの見過ぎだろ」

そう思ってしまう修行を重ねてきた。


高校卒業する時には男子高校生の平均以上の体力はついた。しかし、高校卒業後は呪いの力が猛威を振う。亜依と。ダイヤモンド紙おむつと出会うまでほぼずっとトイレの住人になるのだった。


だからこそ、ハマーは願う。

「亜依には、俺との結婚生活を続けていく前に。一度しかないJK生活を味わってほしい。俺が楽しめなかった分まで。」

これは彼のエゴである。勝手な思いである。でも、大切なだから一度は経験してほしい。楽しい思い出をハマーだけでなく。高校の友達とも共有してほしい。そう切に願っているのだ。


しかし、そんなハマーの思いは亜依には通じていなかったようだ。


「うち、聞いてへんで」

「うん、そうだな。今初めて話したからな。」

「なんで、もっと早く言ってくれへんのん?」

「だって、お前話したら嫌がっただろ?」

「なんでそんなこと分かるんや?」

「お前、寝言で。師匠、算数はもうやめて。算数だけは堪忍や。ってずっと言ってたぞ。」

「えー、うち。そんな恥ずかしいこと言ってたんけ。」


初めて知らされる自分が言っている寝言の内容。ハマーは寝言の時に必ず起こされる。亜依は寝る時は歯軋り、イビキ、寝言の三点セットの体得者。横に寝るものを寝かさないぐらい。大きな音なのだ。幸い、ハマーがさりげなく「防音結界の術」で遮っているので近所迷惑にはならない。しかし、ハマーはお陰で慢性的な寝不足状態である。


そんなことは亜依は知らない。


「もー、奥さんの寝言を盗み聞きって。ご主人様やらしいわー」

盗み聞きとは人聞きが悪い。むしろ、無理矢理聞かされている。


「やっぱり、算数苦手だから学校行きたくないのか?」

「それもあるけど。ウチ、100歳越えのババアやで。どうせ、誰もうちのことなんか相手にしてくれへん。」

「大丈夫。お前はどこから見ても16歳のJKにしか見えない。制服着たら完璧。それに、戸籍の方は親父に頼んで偽造してもらった。書類上は16歳。」

「えっ、うち16歳なん!?」

本来なら100歳超えている亜依。だが、体力的にも見た目的にも16歳JKとしてやっていくのになんの問題もない。


「なんで勝手にそんなことするん?」


余計に亜依を怒らせたみたいだ。


「もう1回16歳を経験できるんだぞ?チャンスだと思わないか?」

「思わない。」

「なぜ?」

「だって、ウチ親おれへんやん。籍入れる2年先になってまうやん。」

「(おっ、気づいていたのか。チクショーめ)」


同棲していたこと事実で籍を入れることを忘れていたと思いきや、きっちりと覚えていた。後ほど、亜依に聞くと。夫婦生活を営んだ次の日に無理矢理入籍させるつもりだったとのことだった。


「お腹の中に、ご主人様の子供がー」とか言って既成事実にして迫る予定だったらしい。彼女は猫の妖怪の覚醒遺伝の女の子。妊娠力が高いそうだ。


「これじゃ、ますますうっかり。その行為できないな。」そう思うはまーだったのだ。


それはともかく、怒って眉毛が「V字のまま」

「もぉー」と膨らんだ頬が凹む様子はない。


「でもなー、お前見た目は本当にJKなんだ。そのまま、昼間とか外を出歩かれたら補導されるしなー」

「歩道?道の端っこならいつも歩いとるで。車道歩いたら危ないからな。」

「いや、それは『ほどう』違い。警察の厄介になることだよ。」

「じゃあ、ご主人様はうちのことより世間体を気にするんか?なんて酷いご主人様や」

ますます怒らせてしまった。もう、JKしなくていいよっていうだけでは治らなくなってきた。どうしたもんかと困り果てていると、ハマーに天啓が降りてきた。


「(そういえば、冷蔵庫に新作の巨大プリンがあったな。そんなので誤魔化せるとは思わないが…仕方ない、一か八か。やってみるか。)」


「わかった。わかった。じゃあ、冷蔵庫にある昨日買ってきた限定100個のビッグプリン。俺の分まで食べていいよ!それで許してくれ!」


亜依は食い意地が張っているわけではない。食べる量もJKの一般的な量より少し多いぐらいである。特に食べ物に頓着がある様子でもない。だから、あまり効果はないだろうと思っていた。


「えっ、プリン?そんなんでウチがこけるとでも思ったか?」


ああー、やっぱりかそう思った時。押しかけ妻は転けた!しかも、お腹を上に向けている。完全に白旗をあげた証。こういうところは猫の習性を受け継いでいるようだ。


「ほんまけ?やったら高校行く!JKでもJCでもなんでもなってやるわ。だから、約束通りプリン頂戴!」


なんと、効果的めん。本当はこっそり一人で2個食べようと思って昨日買って帰って来たのだが、ここで使うことになるとはハマー自信も予想しなかったのである。


「あのプリン滅多に食べられないんだけどなー。まあ、この次の機会に期待するとしますか。」


「あとそれと、俺来週から新しい職場で仕事することになったから引越しするよ。」

「そうかー。」

亜依はハマーからもらったプリンに夢中でほとんど聞いていなかった。だが、引っ越すだけなら、亜依も同意してくれることだろう。

ハマーの「亜依ちゃんJK化計画」は一番の山場を超えて実現する方向に動いた。


亜依はというと「プリン、プリン🎵」。プリンに夢中だった。普通サイズの6倍はあるプリンを貪っている。


「食べ方汚いなー」


その辺にプリンの塊を飛ばしていた。

_______________________________

時間を戻すこと約1ヶ月後、宇佐美ララは迷っていた。愛衣が通っている高校に通ってみるかどうかをではなく、高校へどんな服を着ていけばいいか。


姉の瑠美は、今日は戻ってこないらしい。会社のクレーム処理で北海道まで宿泊出張らしい。どんな服を着ていくか自分で考えていた。そこで、ララは一つの結論を出す。

「そうか、スクール水着というやつでいけばいいんだ。」

かなりズレている。

「私はJKやったことないから知らないが、多分そうじゃないか?」

宇佐美姉妹はこの世界では落第者である。


初の瞬間、季節外れに鶯が鳴き始めた。


引きこもりの宇佐美ララ。ご飯を食べている時と寝ているとき以外はほぼ全ての時間をPC操作に時間を割いている。市役所のPC程度ならハッキング可能!しかも、誰にも気づかれずに情報を抜くことができる。


こちらの世界に来てから約1ヶ月。ララのハッキング技術でも、亜依の居場所が掴めずにいた。それが、今日やっと「亜依が知るかもしれない場所が高校。」。

しかし、宇佐美ララは人見知りだった。


亜依と瑠美以外の人と会うのは緊張する。ドキドキする。心臓が口から吐き出しそうになる。今考えただけでも震えてくる。しかし、もう1年ぐらいあの猫耳でポニーテールがよく似合う少女に出会えない。


「外出るの嫌だなー。」

「でも、亜依ちゃん…ウチが迎えにいかないと。」

「亜依と…」


「ララちゃん!」

「なあに?亜依ちゃん」

「キャっ、亜依ちゃん?何するの?」

「君は天上のシミを数えているだけでいい」

「その間に昇天させてあげるよ?」

「やだ…恥ずかしい…」

「はあ…はあ…」

「ほらほら、体は正直だね」


「あー、亜依ちゃん。ムフフふふ。」


かなり、妄想が豊かなララである。JKになろうとしている年頃の娘にあってはならないような、鼻の伸ばした顔である。まるで、飢えたおっさんの顔である。


「亜依ちゃんとのセ…じゃなかった…愛を育むために頑張らないとね。」

「とりあえず、一通り高校入学するための書類は偽造した。」

「あとは、明日行けばいいわ。」

「待っててね、亜衣ちゃん。」


そういうと、ぬいぐるみの海とかした自分のベットへと飛び込むララであった。


(12話へ続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る