第10話【今更、JKになるって本気…!?】衝撃の決断、押しかけ新妻のJK化計画

【ハマーの視点】

俺はハマー。伊賀忍者の末裔らしい。忍者って聞くと「この令和の時代に、そんな職業あるの?」ってよく聞かれる。もちろん、9割型は本来の忍者家業は廃業するかアミューズメントパーク化している。


でも、うちの家系はかなり特殊で、一応「伊賀忍者」は続けている家系らしい。らしいというのは、俺の人生自体は普通に暮らしているだからだ。


小学校も普通に行ってるし、親元で暮らしていた時期もあった。大きく変わったのは俺が高校の時。


俺が16歳の3月も末。高校受験が終わって地元の高校への進学が決まっていた。そんな時、親父が急に「明日から大阪の高校へ行ってもらうよ!」


と言いつけられたことに始まった。


俺は猛反対した。


「いやいや、親父。もう、地元の高校に進学が決まっているんだ。今更なぜ?」

「それに、花子ちゃんとも一緒に高校行こうって約束したのに…」

「実はな…花子ちゃんはな。」

「うん。」

「もうすぐ、お前のお母さんになるんだ。」

「!?」

何言ってるのか分からなかった。


「お前、今なんて言った?」

「花子ちゃんは、もうすぐお前のお母さんになるって言ったんだ。」

「はあ?」


実の父親を「お前」呼ばわり。正直、いつもなら「親に向かって。」と思っているところ。しかし、この時は感情のボルテージが最高潮だった。


「いや、お母さんはどうするんだよ!」

「お母さんは…牛乳買いに行ったよ。昨日ぐらいから。」


確かに、母は昨日からいない。昨日の朝も


「正浩!いつまでも寝てないで、早く朝ごはん食べちゃいなさい」

と朝8時ぐらいに叩き起こされた。


「そういえば、昨日の夜ご飯食べた後ぐらいから見かけてないな。」

「いやいや、そうじゃなくて。日本の法律では重婚はできないよ。離婚するのか?」


そう、日本では重婚はできない。一度結婚したら、結婚相手と離婚するか死別しない限り結婚できない。しかも、父母は結構仲がいい。当時、すでに40を過ぎていた二人だがいまだに一緒にお風呂に入っている。少し恥ずかしく思っている俺もいるが、まあ、夫婦のことに子供の俺が口を挟むのもおかしな話。


仕方なく受け入れている。だから、両親が離婚するということが信じられない。


「ん。母さんとは籍入れてないから。内縁関係だよ」

「えー!?」


衝撃的だった。一応、うちの集落はどちらかというと古い考え方が主流。「内縁関係」するぐらいなら「ちゃんと籍を入れて結婚しなさい。」という暗黙の了解がある。


実際に母さんはみよじを名乗る時「濱本」と名乗っていたし、この前一緒にスマホの機種変更で同行したときに契約書には「濱本」と書いていた。


両親の両親。つまり、両家のおじいちゃん、おばあちゃんも特に変な様子はなかった。すると、俺は親父に尋ねたいことが山ほど出てきた。だが、一番の問題を尋ねようとする前に親父は。


「実はな母さんには実家へ帰ってもらった。花子ちゃんと結婚するために。」

「母さんは納得してるのかよ」

「ああ、母さんは『あなたが言うのなら従うわ。』って笑顔で承諾してくれたよ!」


んー、多分嘘ではない。母さんは親父のためを第一に考える令和ではかなり珍しい「妻」だった。基本的には父の意向を尊重する人だったのだ。そんな母が俺にこう話したことがある。


「私もいずれは歳をとる。女好きのお父さんのことだもの。いつか若い娘さんに心が映ることがあるかもしれない。そんな時、私は身を引くことにする。だから、正浩。あなたもその時の覚悟をしておきなさい。」


当時、俺は3歳で何のことか全く理解できていなかった。しかも、その時まで忘れていて今思い出したぐらいである。


だから、親父は嘘はついていない。が、なんか引っかかる。昨日までの母さんがあまりにも普通すぎたのだ。


「普通、夫から離婚を突きつけられたら少しは落ち込むんだけどなー」


今となっては母さんはいないので確認できない。おそらく、もうこの家には帰ってこないだろう。


「まー、母さんのことは分かった。」

「で、なんで花子ちゃんと親父が結婚することになったんだよー」

母親が出て行ったこと以上に花子ちゃんと親父が結婚することになったこと自体がショック。


なぜなら、俺が気になっている存在だったからだ。花子ちゃんは実家の隣に住んでいる女の子。小さくて茶髪でポニーテールがよく似合う女の子だった。小さな体なのにスポーツは万能で毎回、体育祭ではリーダー的な存在だった。学業も優秀で常に成績は1位。さらに、姉御肌でお世話付き。唯一、残念なところは体の成長が伴っていなかったところ。


つまり平坦な体つきだったことだ。


「もー、ハマーくん。こんなところにご飯粒つけて。もう中学生なのに。私がいないとダメね。」

と良く俺の世話をやいてくれた。


俺が中学2年生の時。不良グループに目をつけられたことがあった。俺はなすべなく殴られ続ける日々。すると、必ず花子ちゃんが助けに来てくれるのだ。


「ゴルァー、テメーらウチのモンに手ェ出して!タダで済む思ってへんやろな?」

と大声で叫んだ後、数人いた不良たちを完膚なきまでにぼこぼこにした後。

「あー、私。怖かった。」

「いやー、あなたが一番怖いよ!」

「ひっどい。ハマーくん。」

「いやでも、いつもありがとうね。」

「いいよいいよ。私の大切な人だもの。ハマーくんは」


そう言って、俺は花子ちゃんに抱きしめられた。

「ハマーくん、痛くない?歩ける?」

「ありがとう花子ちゃん。」


「ほら」

「いいのか?肩借りて。」

「違うよ」

なんと、花子ちゃんは俺を軽々と持ち上げてお姫様抱っこで家まで送ってくれていたのだった。


「花子ちゃん、流石にこれは恥ずかし…」

と言いかけた瞬間、俺は黙ってしまった。なぜなら、ないはずの胸が俺の右脇腹に当たっていたからだ。


そう、俺はこの時すでに花子ちゃんに惚れていたのだ。しかも、花子ちゃんは俺の前だけか弱い女子を演じる。


今考えると勘違いだが、「もう、花子ちゃん俺に気があるんじゃね?」と今の今まで思っていた。


そう、親父から衝撃的な言葉を聞くまでは。


「実はな、今年の12月にお前の弟か妹ができるんだ!」

「?????」

全く何を言ってるのか分からなかった。


「どう言うことだ?花子ちゃん、まだ15歳。どう考えても犯罪じゃねーか。」

「その問題はクリアされてるよ!」

「???」

「実はな、花子ちゃん。3年ぐらい、心臓の病気で入院生活していたことがあって。お前より3歳年上なんだ。」

「!!!!!」


彼女と実際に出会ったのは小学1年生の夏。近所に引っ越してきた時からの付き合いだ。その時には病気は克服していたのらしいが、それまで全く学校に行けていなかったので本人の希望もあり小学校1年生から始めたそうだ。年齢が違うといじめられてしまうかもしれないという配慮で俺と同じ歳ということにしたのだそうだ。


つまり、年齢的にはOKなのである。


「で、いつからだ。」

「3年前からだよ。」


そういえば、3年前ぐらいからよく花子ちゃんはよくうちに遊びにきていた。俺が熱出して学校を休んだ時も、「見舞い」と称してきていたが親父とばかり話ししていた。


なぜかお正月の時もうちに来ていた。あの時、俺と一緒にお風呂に入りたいと言って強引に一緒に入ってきていた。しかも、全裸のまま居間に出てくるものだから、


「服着て、服着て!親父いるから」とよく止めたものだった。


「あの時からか〜。気づかなんだ。」


多分、その時から母さん気づいていたんだなー。


そう、俺は厄介者だった。やたら、花子ちゃんが俺に優しくしてくれてたなーと思っていたのは俺をとしてではなくとして接していたからだったのだ。


誰だ?「もしかして、花子ちゃん。俺に気があるかも?」って思ったやつは…


俺だった…


「…。」


俺が項垂れていると…


「こんばんは!」


聞き慣れた幼い感じの女の子の声が聞こえてきた。


「あっ、ハマーくん」

昨日も普通に一緒にいた花子ちゃん。俺は挨拶を返せそうにもない。すぐにこの場から立ち去りたい気持ちで一杯だった。

「こんばんは!」


と言って立ち去ろうとした瞬間。俺は右手を引っ張られた。花子ちゃんだった。

「疾っ!!」

「何で、私の前から消えようとするの?ひどいよ!」


全く俺のセリフだ。


「嫌だ嫌だ!」

手足をばたつかせて抵抗するが、無駄だった。花子ちゃんは、不良どもを一瞬で瞬殺。完膚なきまでに叩きのめすのことできるほどの身体能力の持ち主。基本インドア人間の俺が叶うはずもなく、親父のいる居間へと連れて行かれた。


「ああ、花子ちゃんか。こんばんは!」

「こんばんは、おじ様」

「花子ちゃん、もうおじ様って呼ばなくてもいいよ」

「ということはあの話。もうしてしまったんですね。」

「うんしたよ!」

「私の許可もなく?」

花子ちゃん怖い!不良たちをぶっ飛ばした時より怖い顔だ。


「もしかして怒ってる?」

「えっ、誰がです?」


表情は笑顔なのに、ものすごいブラックなオーラが出ていた。


「痛い痛い。」


俺の右手が悲鳴をあげている。痛すぎて三途の川でおじいちゃんが手を振っているのが見えた。って、おじいちゃんまだ死んでないけどね。


「あなた、前から話したじゃないですか。ハマーくん、いえ正浩くんは私の息子になる人。でも。だからこそ納得してもらえるように話したいって。あなたじゃ力不足だから私が話するまで待ってねって。」

「なんで、もう正浩くん。私たちが再婚すること知ってるんですか?」


俺、この子のどこに惚れてたんだろう?本当にそう思う。そして、早く大阪に引っ越したいな。そう思うのだった。親父は…想像通り。ボコられた。


でもなぜか嬉しそう。なんか腹立つ。まあ、母さんだったら絶対にやらないけどな。


半ば強制的に花子ちゃんと親父の結婚に至った経緯について、話をしていた。しかし、俺はほとんど聞いていなかった。というか聞こえてこなかった。


「というわけで、花子ちゃんとイチャイチャするのにお前は邪魔だ。さっさと出ていけ!」


こいつ、ついに本音をオブラートに包まずに言いやがった。


「あなた?」


また親父ボコられてるよ。


代わりに花子ちゃんが答えた。


「確かにおじ様、いえ、お父さんと二人きりで過ごす時間が欲しいというのは間違いじゃないわ。」

「でもね。ハマーくんにはもっと強くなってほしい。そういう親心からよ」

「私ね、不安なの。ハマーくんがこの先やってけるのかどうか。」

「まあ、確かに俺まだ未成年だし。どっちかというと引きこもりで家事の手伝いもほとんどやってこなかったけど。」

「いえ、そういうことじゃないの。」

「どいうこと?」


親父が「しまった。」という顔をしていると花子ちゃんは続けた。


「実はね。ハマーくんにはある呪いがかかっています。いや祟りというべきか」

「?」


「浜本家は伊賀忍者の家系なの。それでね、浜本家はかなり特殊な家で。長男は必ず呪われるの。」

「呪われる?」

「ええ、子供を作ることができなくなるというね。」

何で、そんなことを花子ちゃんが知ってるのは謎だが今はそれどころではない。


「じゃあ、俺はどうなるんだよ。親父も長男だろ?」

「お父さんはね、あなたの実のお母様のおかげでハマーくんを産むことができたの」

「お母様は呪いを吸収して受け入れることのできる体質だったの。体を直接お父様と触れることで呪いを吸収することができる。だから、今のお父様はほぼ呪いがない状態なの?」

「えー、そんな話聞いたことないよー」

「ごめんなさいね。私もいつか話しようと思ってたんだけど。ハマーくんがショックを受けると思って話せないでいたの。」

「お父様の呪い問題は解決。でもね、今度はお母様が」

「呪いを受けたのか?」

「いえ、役割を果たしたの。つまり、もうお母様には呪いを解く力は無くなったの。」


それで縁を切るって意味がわからない。


「この呪いはゆり戻しがあるそうなの。呪いの解除者、この場合はお母様ね。その解除能力がなくったら、すぐにお父様から離れないとお父様に呪いが戻ることになる。」

「でも、俺いるじゃん。もう呪い関係ないじゃん。」

「いえ、呪いが戻ると今度は逆に生殖能力が爆増するの、しかも色欲と共に。」

「!?」

「でも、呪いが戻らなければ今のままでいることができるの。だからお母様はお父様と別れることになったの。それで、籍を入れるとね。お母様は離婚したくなるかもしれないってことで敢えて入籍はせずに内縁のままで結婚生活を送っていたの。」


「そういうことだったのか」


「でも、お父様は女の人が好きな人じゃない?」


そう、このクソ親父は女好き。よく、母さん以外の女の人を連れ込んで(以下略)である。


「でも何で花子ちゃんなんだ?」

「その理由は3つある。」

「3つもあるのかよ」

「一つ目はハマーくんが心配だから。」

「私、ハマーくんを弟だと思っていた。」


今日一番のショック。なんと、花子ちゃんとの結婚まで夢見ていた俺。当の花子ちゃんは俺を弟としか見ていなかったのだ。一緒にお風呂に入ったのも「弟の面倒を見ている」つもりだったのだ。


「2つ目は、もうこれ以上お父様の餌食になる女性を増やさないため。」

確かに。今までは母さんが歯止めになっている部分もあったが、このクソ親父。誰かが管理しないでいると、俺の弟か妹が毎年生まれることになりそうだ。


「3つ目、実は私、お父様のように大きな…」

「もういいよ。分かった。」

なんか聞いてはいけないことを耳にするようだったので、黙らせた。

「とりあえず、明日出て行くことにするよ。」


「本当にごめんね。ハマーくん」

あれだけ、俺のためにお世話をしてくれた花子ちゃんのことだ。多分、親父との結婚も俺のことも考えた上でのことだっただろう。


もちろん、俺は心の奥底ではまだ現実を受け止められずにいた。でも、明らかに俺が同行できる範疇を超えている。だから、受け入れるしかないと自分に言い聞かせた。


次の日段取りよく、大阪に引っ越すことができた。その時、ぼそっと花子ちゃんが言っていたのが「私もせめてJKっていうのやってみたかったなー」だった。


今では俺のお母さんとして、たまに連絡してくれていたりする。


「あと最後に、大事なことを言い忘れていた。」

「この後に及んでまだあるのかよ。」

「ハマーくんも呪いがかかっている。」

「そのままにすると2・3年でお腹が破裂して死んでしまうわ。」

「そうならないようためには伊賀流の忍術を体得する必要がある。」

「だから、これを受け取って。」

「分厚い!!そして重っ!!」


まるでアコーディオンのような本。


「これはね、これからハマーくんが抱えるである問題とその解決方法について質した本なの。」

「大阪に引っ越したら、1782ページの『簡単に忍術を獲得できる7つの原則』から読んで実践してね」

「そうすれば、呪いの進行を遅らせることができる。その間に体力をつけて。体力をつければ呪いとうまくコントロールできるようになるから。」


次の日、俺はそのまま大阪へと引越した。住居から、引越屋さんの手配、当面の生活資金、役所への住民票変更届、4月から通う高校への斡旋まで全て状態が整えられていた。多分、花子ちゃんが全て段取りしたのだろう。


「おはようございます」


引越業者のお兄ちゃんがうちの戸を叩いた。


「今日はよろしくお願いします。」

俺は一礼すると必要な家具類や日用品を玄関まで運び出し、業者のにいちゃんはトラックの荷台へと積み込んだ。


花子ちゃんと親父が後から出てきた。


なんか花子ちゃんの髪が乱れている。親父と花子ちゃん。二人は顔を見合わせて照れている感じだった。

「あなた、昨日もすごかった。」と囁いている気がしたが、多分気のせいだろう。


そして、複雑な気持ちのまま大阪へと俺は旅立った。高校生活は可もなく不可もなくだった。最初は可もなく不可もない生活だった。花子ちゃんが生活費を送ってきてくれていたからだ。


学校生活の合間で、アコーディオンブックを開いて忍術の修行に勤しんだ。

たまにQRコードが貼ったあったので読み込むとYouTube動画が開かれた。どうやら、忍術の世界も動画が残されているらしい。


そんな感じで順調に過ごしていたが、高校卒業して俺が就職して1ヶ月後。俺はあの「腹痛」と戦うことになる。それから約9年間、1日のほとんどの時間をトイレで過ごす日々が来た。


当然、会社はクビ。実家からの仕送りも止まった。でも、なぜだかオムツ代だけは贈ってくれていた。多分、この腹痛も呪いの一部なんだろう。でも、俺は何とか生活できていた。なぜなら、あの「アコーディオンブック」に生活費の稼ぎ方編で、ネットで生活費の稼ぎ方が乗っていたからだ。トイレで、PCを開きながらアフィリエイトとか仮想通貨の運用とか。トイレの中からでもできるありとあらゆるネットの仕事をこなした。


「あのアコーディオンブック何?っていうかこれを作った花子ちゃん。いや、お母さんって何者?」


そう思ったこともあったが、今となってはどうでもいい。なぜなら「腹痛」と戦っていたからだ。


そして、運命の日。俺は花子ちゃんと見た目はそっくりのあの少女と出会う。そう、黒猫亜依との出会いである。亜依も呪いで100年以上封印されていたらしい。しかも今、俺が着用しているダイヤモンド紙おむつの中にらしい。このダイヤモンド紙おむつは無限に排泄物を吸収する万能紙オムツの機能とダイヤモンドのように体を強化する、身体強化の機能があるのだ。


それを装着する人が現れるまで、亜依は封印されたままだったのだ。それが、それである。


いきなり、結婚を迫られた。亜依は「猫耳」のついている花子ちゃんそのもののだったので正直願ったり叶ったりの部分はあった。でも、俺の心は複雑。花子ちゃんから裏切られたという思いもないわけではない。だから、躊躇ったのだが亜依は関係なく結婚を迫ってきた。


あったばかりの明らかにダメなおっさんの俺にだ。そりゃー警戒もするだろう。断り続けていたが、強引に迫り続けていた亜依に根負けして結婚することになった。ただ、籍入れていない。


今俺はその時の夢を見ている。そして、俺が最も聞きたくない花子ちゃんのセリフ。


「今日から私があなたのお母さんよ」

「いやーーーーーーーーーーーー!」


【通常モード】


「どうしたんや?ご主人様、そんな大声出して。怖い夢でも見てたんか?」

「は、花子ちゃん!?」


何とか、「落顔事件」を解決したハマー。ハマー自身は特に何もしていないが、家出して帰ってくる時には「ごめんな。うちが間違っていた。」と何度も平謝りされたハマーは「いやいや、俺も女の子の顔に落書きするなんて間違ってた。ごめんな。」と無事解決したのに。


亜依の目の前で他の女の子の名前を呼ぶという愚行を犯してしまった。


頭が冴える頃には「わー、やってしまった。」という感じでみるみる顔が青ざめていった。


「亜依に今度こそ殺される!」そう思っていると。


「大丈夫か?すごい汗びっしょりやで。」

すごく心配そうにしている亜依がいた。


実は、「落書き事件」が解決してから約1週間経っている。ハマーは亜依にボコボコに殴られてからほぼ毎晩、亜衣と見た目が瓜二つの花子ちゃんから衝撃的な告白をされたトラウマの夢ばかり見ているのである。


ハマーから見ると、寝ても覚めても「花子ちゃん」である。毎回、びっくりである。世間の一般的な嫁さんだったら、「他の女の名前を呼んで」って浮気を疑われるというめんどくさいイベントが発生するところである。


しかし、亜依はそのことには触れずに、近くにあったタオルで俺の汗を拭いてくれるのだった。

「怖かったら、うちがいるからな。もう一人じゃないからな。もっとウチを頼ってや。」

そう言いながら、ハマーを抱きしめて、背中をトントンしてやるのだった。

ハマーは無意識に亜依の胸に体を埋めるのだった。


「ご主人様。辛かったなー」

「あ、亜依!?」

「そうやでー。ご主人様の亜依ちゃんやで。」

「今は、何も考えなくてええよ。だから、落ち着くまでそのままでな。」

そうやって30分。やっと意識が現実に戻ってきたハマーは

「も、もう大丈夫亜依。すまない。せっかく寝てたのに起こしてしまったな。」

「俺はもう大丈夫やから、ゆっくり寝て。」

そう言って亜衣を、この部屋に一つしかないソファーへ寝かせようとすると

「ご主人様、今日はソファーで寝て」

「いやいや、押しかけてきたとはいえ亜依は俺の奥さん。奥さんを地べたで寝かすわけにはいかないよ。」


人生で初めて自分を好きになってくれた、しかも、憧れていた花子ちゃんと瓜二つの見た目の亜衣。思うところはあるが、大切に扱いたいと思うハマーだった。だから、自分は床に寝てソファーには亜衣を寝かせていたのだ。


「んー、この部屋で二人暮らしは限界だな。」

「そろそろ、引っ越し考えないとだな。」

「あと…」


「ちゅんちゅん。」


翌日、大きな蝉の鳴き声が聞こえる前に起きたハマー。10分ほどして亜依も目を覚ました。


「今日はご主人様の方が起きるの早いな。」

「あー、すぐに朝ごはんの準備するから待っててなー」

「その間、顔でも洗ってきて!」


この1週間亜依はまるで10年以上連れ添った妻のようにハマーのために家のことをしてくれている。


もうすでに「こいつ、何を企んでいる」という懐疑的な見方はなくなっていた。むしろ、ハマーの中で「妻」という認識が出てきたぐらいである。


「俺ばっかり亜依の世話してもらってなんか悪いなー。」

「俺の大切な嫁。嫁のために何ができるだろー」


幼馴染の花子ちゃんの最後に聞いた言葉を思い出していた。

「私、一度でいいからJKやってみたかったなー」

「そうだ、これだ!」


キッチンの方からは香ばしいトーストの香りと、目が覚めそうな入れ立てのコーヒーの匂いがした。お湯でとかしたらできるインスタントコーヒー。誰が入れても味は変わらないはずなのに。亜依が入れてくれるコーヒーはうまい。


「お待たせ。今日は簡単なものしかできへんかったけど。ごめんな」

「いやいや、作ってくれるだけでありがたいよ」

「そうかー、そう言ってくれると嬉しいな〜」

「それと、ご飯食べ終わったらこれ来てくれるか?それから、話がある?」

「なんや、制服やないか。ご主人様、ウチにコスプレさせたいんか?」

「実はそうなんだ。」


本当はそういうわけではないが、便宜上そう言っておくことにするハマー。あの日、花子ちゃんとの約束を果たせなかった「一緒に高校へ行こう。」。複雑な感情があるとはいえ、心残りになっていたのも事実だ。


「ご主人様のためなら」とJKの制服にささっと着替える亜依。


ついにハマーの前に現れる。


「あー、よく似合ってるよ亜依」

「ありがとう。でも、ご主人様もすけべやなー。JK設定で痴漢プレイした嫌なんて。でも、旦那の夢を叶えるのも妻の役目。いつ襲ってきてもええよ。」

「なあ、亜依」

「ん?」

「妻は旦那の夢を叶えるものなんだよな。」

「あー、そうや。それがウチの勤めやで」

「じゃあ、来週から高校へ行こうか」

「???」

「えっ、なんて???」

「その制服を着て、来週から高校へ行ってくれないか?」

「今更、ウチがJKになるって本気で言ってんか?」


__________________________________


うさぎ耳のヘッドバンドをつけた少女が自室のソファーでPCをカタカタさせていた。見た目は小学生。でも実際にはもっと歳は上。実際には16歳。普通なら高校へ通っている時間帯。でも彼女は慌てている様子もない。


いわゆる「引きこもり」少女だった。


誰にもみられないという安心感からか、ずっと引きこもっていたための世間知らずなだけなのかはわからないが着替えるのが面倒くからという理由でスクール水着を着ている。


コスプレショップでも売ってそうななんてない普通のスク水だが、幼児体型のその少女が着ると逆にエロく見える。黒髪のショートボブの少女はあるものを探していた。とはいえ、ずっと引きこもっていて外に出たことがない情報収集方法はPCである。


ご飯は時間になると、出してくれる。彼女の唯一の家族の姉も「行きたくないんだったら、別にいかなくてもいいなじゃない。」という方針だったので、実質不登校を容認している。


そんな彼女が探しているのは…


「んー、亜依ちゃんの封印が解けららしいのよね。どこにいるんだろう?」

「次は風鈴館高校のHPをハッキングしてみよー」

「弾かれた!?」

「ここの高校怪しそうなんだけどなー」

「PCで調べるのも限界そうだなー」

「外に出て行くのがめんどくさい。」

「仕方ない。ここ、一回入学してみようかな」


(第11話へ続く)


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