第9話 同棲二日目で離婚の危機!黒猫亜依の家出「近くへ行きたい」。
熟年離婚が増えている中で、何が原因かあなたは考えたことがあるだろうか?その9割は男性側に原因がある。具体的には「妻の変化に気付けていない」である。
「髪切ったの?似合うね」
「あの人気アイドルが出てる。確か、〇〇君のファンだったね。」
「その新しいバッグ可愛い。君によく似合ってるよ」
こんな会話が全くできない。要は「妻が何に関心を持っているのか?」を把握していないのである。
あるインフルエンサーが言っていた。
「相手の関心に関心を持つこと」。それが、人間関係を良好にする秘訣だと。
ハマーと黒猫亜依のカップルの場合は、少し特殊。というよりも押しかけて半ば強引に結婚を迫られたハマーにとって亜依のことを知るもクソもないが…亜依に関心がなかったといえばその通りである。
「何に対して怒るのか?」
人が怒るのは、それだけその人の関心が高いことだから。
最初は自宅近くのスーパーマーケットの店長を押し倒してしまって、妻の前で「他の女性といちゃついている」構図を作り出してしまったことに怒られるかもと、ハマーは恐怖した。でも、それは「そんなこともあるやろ」と亜依は簡単に受け入れた。普通なら考えられない懐の広さである。
もちろん、それも亜依は内心気持ちのいいものではなかった。しかし、そんなことは問題ではなかった。亜依が怒ったのは「寝ている間に顔に落書きされたこと」だった。
「顔に悪戯される」それが彼女にとって不倫されるよりも許せないことだったのだ。
「もうご主人様のことなんか知らん!出ていく!」
そういって、自宅を飛び出した押しかけ妻。普通の夫なら「出て行かないでー」と叫ぶだろう。ハマーは…無心だった。というより、半分死にかけている。
顔はボコボコ。体はアザだらけ。今にも吐きそうといった体の状態だった。
「・・・・・」
見た目は明るく元気な猫耳娘。しかし、秘められたパワーは見た目の10倍以上。ダイヤモンド紙おむつで肉体強化されたはずなのに、かろうじて意識を保てている程度である。
「あいつ、めっちゃ強い…。俺と結婚する…必要…ある?」
そういうと、ハマーは意識を刈り取られてしまうように倒れ込んだ。
一方、亜依は…
怒っていた…かなり怒っていた…あんなに可愛い女の子だったのに…
明らかに人相が変わっている。
ル⚪︎ン三世もびっくり。これで変装していると言われても納得。
性別すら変わっている顔だった。
「もう!ありえへん!」
ブツブツと駅前を泣いたり、怒ったりしながら歩いていた。明らかにブラックなオーラを振り撒いている。近づくものを深淵の底に落とされる勢いである。「ちょっと試しにブラックオーラに触れてみよう」って触れようものなら、そのままオーラに取り込まれてしまう。そんな深くて暗いブラックなオーラである。
念能力者でなくても見えるぐらい…
「もう、ご主人様。ウチが寝ている間にしょーもないことして。」
「大事な場面では何にもできないくせに…」
「女の子は首が命なんやで(←顔が命の間違い)」
「もう、ウチがお嫁に行かれへんくなったらどうしてくれるの?」
「ってウチ、もうお嫁さんやったわ。籍はまだ入れてへんけど」
「あー、それにしても腹立つ!!」
亜依が怒りなが歩いて辿り着いた先は、自宅から30秒。駅前にあるスーパーマーケット「日光スーパーマーケット村」。全く日光市とは関係ない。日光ではないとある地域に3店舗のみ存在するスーパーマーケットである。
規模が小さいので、その場所にあった品揃えを店舗で決めていいルールである。ここの店長になることは、社長になるのと同じ意味である。もちろん、3店舗をまとめる社長はいる。しかし、社長は基本不在。会社の大事な会議も「AI社長」が代行しているぐらい。「暇な時」だけ急に社長が店舗に現れる。
そんなスーパーマーケットにやってきた亜依である。
こんな時でも無意識で今晩の夕飯のことも考えてしまっているのである。押しかけ妻だけのことはある。昨日は「ご主人様、起きたら何食べたいやろー?」。ハマーの好きなものを想像しているだけで、笑顔を見られるだけでワクワクする。
だって、一目惚れした初めての男性。ハマーは引きこもりで、女々しくて、体が弱くて…しかも27歳でニート。特に優しいという感じではなかった。でも、言動の端っこで感じる優しさ。でも、行動や言葉として形にしきれない不器用さ。そんなアンバランスさを一目見て感じてしまった。
「ウチが支えてあげたい!」そんな母性の持ち主。妻というより母親のような気持ちなのだ。でもそれとこれとは別。彼女はぐちぐち言いながら歩いている。
「あー、家出しても結局市場へ買い物に来てしまった。」
「ここのスーパー、なんかおかしいねんよなー。」
「みんな、『いらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様』って挨拶してきよるし」
スーパーの自動扉前ではバナナを叩き売りをしているおじさんがいた。
「安いよ安いよ!」
「おっと、そこの可愛いお嬢さん!」
「ん!?うちの子とか?」
「そうだよ、お嬢さん。」
「このバナナ美味しいよ、安くしとくよ!」
「(こんな暑い中でバナナ置いてて大丈夫なんかなー?今日も38℃やで。痛まへんのかなー)」
しかも、このバナナかなり真っ黒。熟しているのを通り越して腐っているとさえ思えるほどに。
「いらない」と直接答えるのも、暑い中頑張っているおじさんには悪いので、
「おっちゃん、ごめん。今バナナの気分じゃないんだ」
「チッ」
「(えっ、このおっちゃん今舌打ちした!?」
おじさんは舌打ちしたのをなかったことにした。亜依も特に問題にする気はなかったのでさらっと流した。
「お嬢ちゃん、あまり見ない顔だねー」
「お上りさん?」
「お上りさん言うなや!」
「結婚して、こっちに昨日引っ越してきたんです。」
「そうだったのか。だったら、このバナナ買ってかない?」
「山梨県から産地直送で、1房250円にしとくよ。しかも、このバナナすごいよ。なんといっても、旦那さんのバナナも元気にする。」
「(このおっちゃん、初対面の女性になんて事言うんだ!しかも山梨産のバナナって怪しすぎる。)」
「お姉ちゃん、お願いだよ!買ってくれよ。この幼女パンツもつけるからさー」
「いや、幼女パンツっておかしいやろ?」
「今、東京では幼女パンツが流行ってるんだよ!しかも使用済み。」
「いやいや、使用済みって誰が買うねん!」
「違法チックな匂いしかせえへんし」
「だって、あなた痴女でしょ?」
「いきなり、失礼なおっちゃんやな。」
「確かに、うちはちょっとHな女の子やけど。興味あるのは旦那様だけや。使用済みの小さい女の子をおまけにつけてうちが喜ぶと思うか?」
「チッ」
また、舌打ちをしたおっちゃん。
「(このおっさん、舌打ちばかり。ほんまにバナナ売る気あるんかな。」
「言っとくけど、うちは百合の趣味はないねん。」
「忙しいからまた今度な」
とその前から立ち去ろうとした瞬間。
そのおじさんは亜依に飛びついてきた。亜依は驚くべき身体能力の持ち主。いきなり暴走した大型トラックが突っ込んできてもすぐに避けられる。しかし、そのおじさんは、なんの前触れもなく、亜依の身体能力を超えたスピードで飛びついてきた。
「これ売らないと嫁さんに逃げられるんだよー。頼むよー」
「おっちゃん、どさくさに紛れてどこを触ってるねん」
おっさんは、いきなり亜依の胸を鷲掴み。セクハラどころの騒ぎではない。
「コイツはやばい。」
そう思って、自分からおっさんを引き離したいけど、力が入らない。しかも、これだけ大声出しているのに周りは全く気が付かない。
「えっ、このおっちゃん何者?」
「こんだけ騒いでるのに、誰も気づかないなんて…」
「無理なら、君のパンツもらってもいい?」
さっきまで陽気だったおじさんが本性を現した。そう、最近この近辺で出没している「幼女パンツの変態男」だった。ハマーではないよ!
「おっさん、気持ち悪いから離してやー」
「へへへへへ。きみ、おぼこい割には、ええ体してるねー」
「昨日から狙ってたんだよ」
「だから、うちのことずっと見てたんかいな」
一眼見た時からヤバいおっさんだとは気づいていた。でも、自分の身体能力ならすぐに何とでもなると鷹を括っていたのが仇となった。
亜依は大声で叫ぶ。「誰か助けて〜!!」
しかし、声は誰にも届かない。人混みの中なのに誰も気づいてくれないのだ。
「あっ、騒いでも無駄だよ!防音結界張ってるから。周りには見えないよ!」
「やられたー」
スーパーの目の前で叩き売り。明らかに営業妨害。誰も注意しないのはおかしい。そう、この変態男。明らかに異能の力を持つものだった。
男は舌なめずりしながら、右手で亜依の胸に触りながら、左手でお腹を通り過ぎ下半身へと移動させた。
「このおっさん、明らかにうちのパンツだけが目的やない。犯されてまう!」
「あかん。ごめんなさい、ご主人様。」
その時。
どん!
「いってー」
変態男は50m先の駅の壁まで吹っ飛ばされた。駅の壁は軽く凹んでいる。しかし、すぐにおっさんは起き上がって。
おっさんは猛スピードで亜依のところまで走ってきた。
「…遅れょ…き、君の…パン…ツ」と変態のおっさんは目を血走らせて、頭から流血させながらも、ゾンビのように亜依の体を目掛けて突撃してきた。
明らかにホラーである。「さ⚪️こ」を思い出させる光景である。
亜依まで、あと5m付近のところまで来ると。
「さっさと消えてください!」
亜依でも目で追うのがやっとの速さでその男へ手刀が振り下ろされた。その手刀が変態男の首にジャストミート!!意識を失いその場で倒れた。
「えっ、一体何が起こったんや!?」
振り返ると、さっき自宅にいた女性が立っていてた。黒のおかっぱ頭。なんとなくぼんやりした目。意外と大きな胸。Tシャツに、下はカーキ色のチノパン。Tシャツの上には白いエプロン。白いエプロンの右上には名札が。亜依は名札をじっと見つめた。
「日光スーパーマーケット村 村長(店長) 小田 桜子」。
「桜子さん、ありがとうな」
「いやいや、うちのお客さんにセクハラ行為は許せません。」
「ちょっと、後藤くん」
「はい、店長。」
ちょっと大柄で内股の男性がやってきた。そのギャップに亜依は少しうっとりした。
「この男、うちの女性客に手を出したのでいつものところへ埋めてきてください!」
「店長ぅ、その言い方だと俺いつも誰かを埋めてるみたいじゃないですか。ひどいですよ」
「うふふ、嘘ですよ。ちょっと、からかってみただけです。」
「多分、この男。最近ニュースになっている『幼女パンツ』男なので、ポリボックスへ連れて行ってください。」
「はい、今すぐに連れて行きます。」
「じゃあ、お願いね」
「帰ってきたら、ご・ほ・う・び。あげるわね。」
「いや、俺。嫁さんいるんで遠慮しておきます。」
後藤くんは、気絶している変態男をひょいっと担ぎ上げると「エッサ、エッサ」と走り去っていった。変態男からホワーンと女性ものの香水の香りがした気がしたが、多分気のせいだ。
「大丈夫ですか?亜依さん」
「うん、もうちょっとで、孕まされるところやったけど。おかげで怪我ないわ。」
「では、改めまして。おかえりなさいませ、お嬢様!」
「お嬢様!?」
「相変わらず、けったいな挨拶やなー」
「あら、そう?都会では、これが普通なのだけれど。」
そんなわけないやんけと思いつつも、
「そ、そうなんやー。私、最近田舎から出てきたからなー。ごめんやで」
と、やりとりするのがめんどくさくなったので受け入れた。
「なんか浮かない顔ですね。」
「やっぱり、ハマーさんが私の上に乗っかったのがダメでした?」
「それは、さっきも言ったやん!」
「ご主人様がそんなんできるほど、根性あるやつじゃない。どうせうっかり、一緒にこけてもうたんやろ。」
「それにご主人様、どちらかというとロリコン趣味やから桜子さんはどっちかというとストライクゾーンの外やし。」
うちの方が見た目年齢若いんだからねっとアピールしてみた。
「言ってくれますねー」
「まあ、ウチ、ご主人様の正妻やから」
「残念です。ぐすん」
「私、ハマーさんずっと狙っていたのに」
不穏な空気が発現。せっかく、解決した「不倫問題?」が再燃しそうになった。
「8年前に今の家にハマーさん、引っ越してきたんです。」
「その当時から、若い男の子を食っちゃうのを趣味にしてたんです。」
「とんでもないビッチやな!」
「ふふふ、お褒めいただきありがとうございます。」
「いやいや、褒めてないし」
この世界には痴女しかいないのか?
「ハマーさんが引っ越ししてきた直後、私、ボロボロだったんです。」
「不倫の裁判とか、食っちゃった男の子の彼女が殴り込みきたりとかで…」
「あ、あんたも大変な人生送ってたんやな」
「まあ、全部裏のコネで無理やり解決しましたけどね。⚪️⚪️組の組長さんとか、⚪️⚪️党の⚪️⚪️先生の力を使いまして。」
かなり不穏な言葉が聞こえてきた気がするが
「気のせい気のせい」と亜依は聞こえないことにした。
「そこで、ちょうど簡単に食っちゃってもめんどくさくなさそうな男の子が引っ越してきたじゃないですか?」
「なので、お裾分けと称して媚薬を大量に入れて、売れ残りのお惣菜とか差し入れしてたんです。」
「あー、だからご主人様ずっとお腹下してたのか」
実は、ハマーこの媚薬には気づいていた。その媚薬を無効にする解毒剤を服用していた。しかし、服用する量が半端なかったので解毒薬の副作用でお腹を下していた。そんなことは二人とも知らない。
「(あー、ウチ。この女と同じことしてたのかー)」
そう思うと、なんとなく恥ずかしくなってきた亜依だった。
「でもね、ハマーさん。全然私のこと襲ってきてくれないんです。」
解毒薬服用しているから当然です。
「でもね、簡単に落ちる男より、なかなか落ちない男に自分を襲わせるってゾワゾワするじゃないですか?」
「はははは…」
本来なら、全く共感できないですというところ。共感できてしまう。そこに亜依は後ろめたさを感じた。
「そういえば、亜依さん。さっき頼んでいたもの今届いたみたいです」
「あの部屋に置いておく場所ないと思うので、うちのVIPだけが使える倉庫に保管しておきますね。」
「そこまでしてくれ食ってことは、ご主人様が目的?」
「お客様を騙すほど、落ちつぶれてはいませんよ」
「それに、亜依さんと戦うのは骨が折れそうなのでやめておきます」
「それはそうと、亜依さん。なんか浮かない顔していますね。」
「うん、ご主人様。うちの顔に落書きしてな」
「女の子は顔が命。それはひどいですね。」
「そうなんよ!」
「あっ、その話ゆっくり聞きますよ。ここで話すのも何なので、事務所まで来てくれますか?」
「ええんか?部外者が入って。」
「ああ、私店長なので大丈夫です。」
「大概のことなら自由にできますよ。」
本当にやりたい放題の店長。
でも、細やかな配慮や思いやりで男性からだけでなく女性客からの信頼も厚い。もちろん、店長が超絶ビッチという事実を知るのは部下の中でもごく一部だけ。しかも、その部下にも桜子は圧力をかけて口止めしている。見た目の印象とは違い、恐ろしいビッチだ。
「ここなら、ゆっくりお話しできますね。」
「あっ、あかりさん。」
「はい、店長♡」
「あっ、昨日髪切りました?長いのも、よく似合いますね」
「店長、ありがとうございます!」
「店長がいるから、私、この店大好きです!」
実は、あかりさんの彼氏も食ったことのある店長。あかりさんは知らない。どんな圧力をかけたのだろうか?
「そういえば、顔を落書きされた話でしたね。」
「そうなんよ、実はな…」
「日光スーパーマーケット村」の応接室で話し始めて1時間。どうやら、話が盛り上がっているらしい。最初は顔を落書きされたことに対する不満を桜子に聞いてもらっていたが、今は「ハマーの好きな部分」について語られていた。
「桜子さん、最高!!」
「亜依さん、本当にハマーさんが好きなんですね!」
「はは、照れるやないか。まい、ご主人様はまだあかんみたいやけどな。」
すると、少し浮かない表情を浮かべた。今にも涙が溢れそうな亜依。
さっきまで、賑やかだった二人の空間だったが今ではピッタリと時間が止まったようである。
「亜依さん、ちょっと外を歩きませんか?」
「?」
桜子は亜衣の手をとって、外に連れ出した。駅から徒歩5分。大きな池の周りに歩道がある公園でゆっくりと散歩である。
「知ってました。亜依さん。散歩って考え事する時に言いそうです。」
「あー、そなんやー」
少しイタズラっぽい顔をして桜子はこう話し出した。
「私もね。よくここにきていろんなことを考えました。」
「男食っちゃった時か?」
「いえ、どうやって食っちゃおうかって考える時です。」
「なんや、それー」
「実はね、私は今ではカリスマ店長とか呼ばれてますけど。最初は違った。」
いろんな不祥事を起こしても、どの店のスタッフも櫻子を慕っていた。
しかし、最初は違ったらしい。
「私ね、昔は内気で人の目ばかり気にする子だったの」
「周りはみんな友達で遊びに行ってるけど、私だけ『一緒に行きたい』っていえなかったの」
「へぇー、桜子さん。そうだったんだー」
「そうやってるうちにいつの間にか大学卒業してなんとなく会社勤め」
「社会人になったら、人付き合いも上手くなるだろうって思っていた。けれど、結果は学生時代と一緒。私に話しかけてくれる人はいなかったんです。」
桜子は遠い過去、でもあまり思いだしたくなさそうに語り出した。
「今と全然違うやん」
「何があったん?」
「何があったと思います?」
「んーーーー。」
「全然わからん」
「全然考えてないじゃないですか?」
「バレた」
思わず突っ込んでしまった。1秒で「分からん」って。
あの時も、「私って誰からも好きになってもらえないんだーってここを歩いていたんです。するとね。ちょうど、ここから見える向こうのブランコの方から今の会社の社長さんが走ってきたんです。」
「確か、今桜子さんが働いているスーパーマーケットを3店舗をまとめている社長さんの」
「はい。まあ、でも社長はほとんど顔を出さないので、会議でもAI社長が代行してますけどね。」
「えー、AI使ってるんや」
「自社開発のやつですけどね。うち、AI系が強いんです。なぜか」
「そんなん、AIの会社にした方がええやん。」
「それね、私も提案したことあったんです。でもね、社長は『えっ、そんなんダメだけど。だって、AIなくても死なないけど、食べるものとか着るものなかったら死ぬじゃん』って却下されました。」
「うちの社長はあくまでも「スーパーマーケット」にこだわる、よく分からない人なんですよ。おそらく、他の事業にも成功しているのであえて他の業態にする必要がないから見たいですが。」
「こほん」
話が逸れてしまったので、咳払いして話を正して見せる桜子。
「ここは日差しが強い」
どこからともなく取り出した折り畳み式の日傘。
「亜依さんも一緒に」
「おおきに」
と女子同士の相合傘。これで、シミ対策はバッチリ。
「それで、どうやったら人付き会う上手くなるか。ここで歩きながら考えてたんです。あーでもない。こーでもないって。」
「すると、社長がパンを咥えながらこちらに走ってきたんです。しかも、全身白タイツで。」
「かなり、危ないおっさんやん。しかも、パンって。フラグたちまくちやないの?」
「そうなんですw」
その時の光景を鮮明に思いだしたのか、クスッと桜子は笑ってしまった。
「案の定私とぶつかって。
『You,ちゃんと前見ないとダメじゃないのYo』って言ってきました。」
「それで、私その時転んで膝小僧を擦りむいてしまって、『あー、I'm sory。私、女の子に怪我させて最低なのよYO』って」
「かなり、私引いてたんですけど、そのままお姫様抱っこされて社長自宅まで拉致されたんです。」
顔が青ざめる亜依。かなりドン引きしている。
「それ、犯罪やん!」
「そうなんです。でも、なぜだか変なことになるような気はしなかったんです。」
「私やったらそっこーで顔ボコボコにして逃げたるけどな」
苦笑いする桜子。
「それでね。彼の家で私の悩みを聞いた彼は、『じゃー、You、うちに来ちゃいなよ。うちは変な人しかいないから多少浮いていても問題ないYo』なぜか、説得力抜群だったんですよね。」
「・・・・・」
「私、悩んだんですけど。今のままだったら誰ともお友達になれずに人生終わってしまう。だったら多少変でもいい。お友達が欲しいって今の社長の元で修行することにしたんです。」
「それで、半年後に彼の弟を食っちゃうまでに成長したんです。」
「変わりすぎやろ。っていうか社長の弟をか。」
「あっ、これは社長も知らないことなんでしーっですよ」
「感動を返してくれや」
と講義する亜依。なんのこっちゃという顔で桜子は返した。
「私ね。おもんです。悩んだり、怒ったりするのって悪いことじゃないんです。」
「うちはあんまり、そんな時間作りたくないねんけどな。」
「もちろん、私だって、楽しいこと嬉しいことのばかりあった方がいいですよ。」
「でもね、辛いことだって後から見ると楽しい思い出の一部になるんです。」
「そんなもんかな?」
「はい、あの時根暗だったから今の社長に出会って、私に慕ってくれる仲間ができた。そう思ってるんです。」
「ただ、辛いことって時には沼ってしまうことがあるんです。」
「そんな時は歩くのが一番なんです。」
「犬も歩けば棒に当たる。」っていうじゃないですか?
「私犬嫌いやけどな。」
「たとえば、仕事で考えてる時。部屋で考えがまとまらないといつまで経ってもまとまらない。そこで、外で軽く散歩をする。すると閃くことってありませんか?」
「あー、それならあるわ。」
「感情もそうで。辛い時、苦しい時こそ外で歩いてみる。すると、『私のここがダメだったんだなー』って気付かされることがあるんです。」
「んー、そんなもんかな?」
ふと猫耳少女は腕どけを見るとすでに16時をすぎていた。
「あー、もうこんな時間や。そろそろ夕飯作らなあかんわ。」
「そういえば、桜子さん会議やったんちゃうんか?」
「ああ、それなら別の子に出席を依頼しているから大丈夫です。」
「あーそうんや。」
「それより、亜依さん、もう大丈夫なんですか?怒りは」
「あー、そういえばもうどうでも良くなってきた。それに、年下の男の子のイタズラを許してあげるのも女の度量。そういう風に思えてきた。」
「亜依さん、ちゃんと散歩の効果出てきてるじゃないですか」
「あっ、ほんまや」
「このまま、『村』で買い物して帰るわ。ありがとうな桜子さん。」
「いえいえ。私はこの街の『日光スーパーマーケット村』の村長です。買い物に来てくれた村民の方々の調子を整えるのが私の役目です。」
そう、この「日光スーパーマーケット村」の唯一の経営理念が「お客様は村民。私たちスタッフは村民の生活を支えるために小さなことから大きな悩みまで寄り添う姿勢」である。
桜子と亜依は「日光スーパーマーケット村」に到着すると、それぞれのやることのため別れた。
「ほな、またな」
「また、お会いしましょう!」
「今日の晩御飯は何にしようかな?ご主人心配してるやろなー」
「今日はマカロニグラタンでも作ってあげよう!」
ワクワクしながら、買い物をする亜依。
一方のハマーというと、未だ気絶したまま。しかも、なんか臭い。お腹が弱っているようだ。幸いダイヤモンド紙おむつで大事故は防げているが、ちっちゃな事故までは防ぎきれていない。亜依の鉄拳制裁はそれぐらい強烈なものだった。
帰宅後、亜依はその処理に追われることになるがそれは次の機会のお話。
「ふんふんふーん🎵」
家を出た時とは違い、上機嫌でお買い物をして帰るのだった。
さて、この夫婦の生活はどこまで続くのだろうか?
(第10話に続く)
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