第2話

 部屋の外に出ると、高級ホテルのラウンジのような空間が広がっていた。

 ……高級ホテルのラウンジなんて行ったことないから完全に僕の勝手なイメージだけど。

「びっくりした?」

 僕の反応を面白がるように、ルカがニコニコしながらこちらを見る。

「なんなんだよ、ここ」

「ここは、この世界でのあなたのステータスを決める場所。まぁ、あなた以外の人もすぐにくるとは思うけど」

 ルカがそう言った時、唐突にドアが出現し、そこから僕と同じような格好の男性が出てくる。

「ほら、ぼーっとしてないでカウンターに座りなさいよ」

 案内されるがままにバーカウンターに座ると、黒い大理石のテーブルの端から、近頃の回転寿司屋かのようにショットグラスが僕の前に滑ってきた。

 摩擦係数はどうなってんだ。

 あちらのお客様からです的なやつか。いや、滑らせたのは間違いなくルカなんだけどさ。

「どうしたの? 飲んだら?」

「いや……」

 毒とは言わないけど、緑色の液体はグラスを持ち上げて観察すると、光の当たり方でピンクにも黄色にも変わって見えた。

 なんか、液体砂時計? あんな色に似てる。

 食べものの色をしてない。アメリカ人だって敬遠しそうな色してる。

 訂正しよう本能が毒だと言っている。こいつは飲んではいけない気がする。あまりにもケミカルが過ぎるだろ。

 でも、喉は渇いているんだよな。

「死なないよね」

「何言ってんの、もう死んでるでしょ」

 僕の言葉に、アメリカンコメディぐらいでしか見たことのない笑い方で大袈裟に腹を抱えるルカ。

「……それ流行るかも」

 笑い過ぎて涙を流しながら、そう言うルカは無視することにして、謎の液体を喉に流し込む。

 氷を飲むこんだかのように、喉の奥から冷たさが伝わる。

「何これ」

「文句言わないの。これから自分から欲して飲むようになるんだから」

 え、変な中毒性の薬か何か? そんな美味しくは無かったけど。

 癖の強いエナジードリンクのような味で飲めなくはないけど、少なくとも何度も飲みたい味ではなかった。

「体力+10ね」

「へ?」

「今のドリンクで得られたあなたの経験値よ」

 体力? エナジードリンクみたいなもんか?

「能力もつくはずよ」

「何能力って?」

「さぁ」

 ルカはケラケラと笑う。

 そもそも体力+10とは何だ? そもそもの体力はいくつあるのか。

 体力が高いとどうなんだ。何か有利に働くのか?

 いささか説明不足というものだ。

「ルカ、もうちょっと説明してあげなさいよ」

 さっき出現したドアから出てきたであろう少女が、近づいてきてルカに話しかけた。

 どうやらルカと彼女は知り合いらしい。

「レイチェル、久しぶり」

 レイチェルと呼ばれた少女は、ルカとはまた違った美少女で、この娘もこの世のものとは思えない造形をしている。

 ルカ同様、この娘も神様が天地創造の後、全ての仕事をほっぽり出して創り上げた特別製であろうことが僕ですら理解できる。

 レイチェルもルカと同じように、さっき僕が飲んだドリンクを一緒に入ってきた男に渡した。

 男は怪訝そうな表情でショットグラスを見つめる。

「大丈夫ですよ。死にはしませんから」

 僕が言うと、ルカがふき出した。

 レイチェルも困った顔をして笑う。

「……レイチェル、この人、面白いでしょ」

「あなたが詳しい説明をしないからよ」

「死んだ後の世界って話はしたわよ」

 心外というように顔を膨らませるルカ。

「それに、どうせ始まれば嫌でも分かるわ」

 始まるとは何が始まるというのだろうか。

 もしかして転生? 転生の儀? 輪廻転生でもするのか?

 だったら、異世界のチートキャラが良いな、人生イージーモードで。なんて都合の良い妄想は、その後のレイチェルの言葉で粉々に粉砕された。

「これから殺し合いの勝ち残りをやるのに、知らないと不利でしょ」

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死んだ世界で殺し合え 零文 @0ven

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