死んだ世界で殺し合え
零文
壊れたのは世界か、僕か。
第1話
いつからだろうか、夢を見なくなったのは。
無機質なアラーム音で意識を取り戻す。
ベッドから起き上がり、ラジオをつけると、トイレ、続いて洗面台に向かう。
繰り返されるモーニングルーティーンに、今日が何日なのかという曜日感覚すら破壊されながら、唯一の情報源であるラジオに耳を傾けると、陽気なパーソナリティが流暢な英語で洋楽の曲紹介をしているところだった。
ハミガキと顔を洗い終えると、二度寝の誘惑がようやく消え去った。
パジャマから脱皮して、無理やりスーツに着替えると、鞄と鍵を手に取り、革靴を履いて家を出る。
「行ってきます」
と、言っても返事は返ってくることはなく。
鍵を掛けた時のガチャンという施錠音だけが耳に響いた。
エレベーターの無い、4階建てのアパートの狭い階段を下りながら、イヤホンを耳に当てた。
聞こえてくる音楽で、自分を世界から隔離しながら、目的地へと向かう。
その代償とでもいうのだろうか。
僕には、危ないという声が聞こえなかった。いや、聞こえるのが遅れたという方が正しいのかも。
どちらにせよ、その言葉は間に合わず、何かによって体は吹っ飛ばされた。
周囲の声と流れ出る血で、僕は車に轢かれて道に投げ出されたというのが分かった。
痛いというより、起き上がるのも、痛みを口に出すのもダルいという感じだった。
大勢の通行人が集まり、僕を見下ろしてくるのを不快に感じながら、意識は遠ざかる……。
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「おはよう」
「おは……えっ?」
いつも鳴るはずであるアラームではなく、僕の人生に関わるはずのない美少女が起こしてくれるという願ってもないシチュエーション。
「これは夢か……」
だとしたら、久々に見るいい夢に違いない。
「夢だったら良かったのかもしれないのにね」
謎の美少女はニッコリと笑った。
「えっと、ここどこ。あなた誰?」
僕のモーニングルーティーンの環は完全に破壊された。
それどころか、記憶喪失者しかしないであろう質問をこんな美少女に、シラフでしないといけないことに、若干のショックを受けつつある。
「ここはどこか。う〜ん、死んだ後の世界ね。あなた死んだのよ。覚えてる?」
なんとなく、覚えている痛みが蘇った気がして体を触ってみたけど、傷一つ無かった。
「私は死神のルカ。よろしくね」
天使みたいな名前だ、なんて思ったのは彼女の綺麗な顔立ちから引っ張らたのかもしれない。
その前に聞き逃せないはずのワードを一度スルーするぐらいには、彼女の顔を見入ってしまっていた。
「ん?」
「いえ」
落ち着け。いや、おかしいな。
本来、こんな美少女を前にして、高鳴って仕方ないはずの心臓の音が1ヘルツも聞こえない。
「死んだ後の世界って?」
危ない危ない、会話に集中しないと。そうでないと、僕の余生はこの子を見ることだけに使い果たしてしまいそうだった。
いや、死んでるんだっけ。
「あなたは死んだのよ。車に轢かれて。覚えてない?」
「なんとなくは」
「で、ここにいるの」
そう言って無邪気に笑う彼女を見ていると、死んだ後からここに来るまでの間が明らかに端折られているけど、そんなことどうでもよくなってきた。
とはいえ、どうすればいいのか分からない。
「とりあえず、起きたら」
「あぁ、うん」
僕は黒のスーツに身を包み、大きな黒い革張りのソファーで眠っていたようだ。
体を起こしてみると、部屋全体が見渡せる。
真っ白な部屋はドアが一つあるだけ。
他には僕が今まで寝ていたソファーが一つあるだけの小さな部屋だ。
「ここは天国なのか?」
「天国に死神はいないよ」
「地獄なのか?」
「さぁ」
ルカは悪戯っぽく笑うと、ドアノブに手を掛けてドアを開きながら言った。
「自分の目で確かめてみたら」
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