新・「ロワイヨーム・ソルシエール」

「クレマンスせんせー! 抱っこ!」


「ふふ。サーラ、あなたは甘えぼさんですね」


くすくすと笑みを零し、ぎゅっと、生徒達を抱き締めるクレマンス。


これが、「パッフェ・エレディタ」を子供に宿す、最高のコミュニケーションだ。クレマンスは、優しい。可愛い。いつも笑顔。どんな生徒にも、愛情をたっぷり注ぎ、産むことのできなかった、我が子を抱くように、沢山の生徒達を抱く。


すると、どうだろう。子供たちは、自然と笑顔になり、嫌がっていた魔法の授業も、進んで受けるようになり、


「せんせー!! 私、お父さんの畑の土に、えいようをあたえたいの! どういう魔法があるの?」


「せんせー!! 僕のうち、くだものがそだたないんだ……。せんせーの魔法なら、なんとかなる?」


などなど、積極的に、子供が魔法を知りたがるようになった。しかし、それをいたずらに使う……、その心配も、もう要らない。何故なら、夫であり、国王でもあるマティスと、リュカが、「コーレ・プーロ」を子供たちにかけてくれているからだ。そのお陰で、クレマンスは、成長させる方だけに専念する事が出来た。


クレマンスの生み出した魔法は、大人にも、重宝がられた。


日照りが続き、田畑が干からびそうになった時、クレマンスほどの力を持たぬ民は、子供たちの教育で忙しいクレマンスに迷惑をかけまいと、何人、何十人、何百人と集まり、一致団結し、雨を降らせる魔法、「ピオーヴェレ」を、唱え、見事に雨を降らせることに成功した。


その雨により、田畑や、樹木がうるおい、農民も、商人も、皆、悦び、クレマンスに感謝の言葉を伝えた。その国民の笑顔と、「ありがとう」と言う言葉に、クレマンスは、


(あぁ……わたしのしたことは、きっと、きっと、間違いじゃなかったんだわ……)


と、雨に隠れて、クレマンスは涙を流した。






しかし――……、マティスが、「ペルフェット・ドクトラ」として働いている昼間、その日、クレマンスは、「パーチェ・ディヴェルティメント」休校にした。「パッフェ・ゲリゾン」を使っても、治らないほど、熱が出たのだ。


今日は、マティスも、マティルドゥも、リュカも、この城にはいない。マティスとリュカは、「ペルフェット・ドクトラ」として働き、マティルドゥは、どうしても抜けられない王族と、貴族の茶会に出なければならなかったため、クレマンスを、三人とも心配して、マティスが残ろうか?と申し出たが、「仕事をしていただきたい」と言う、クレマンスの願いで、心配しながらも、三人は城を跡にした。






「ふ……うぅ……うぐ……」


マティスとクレマンスの部屋で、一人、泣いていたのは……、クレマンスだった。クレマンスは、本当に、自分がここにいて良いのか……。「パーチェ・ディヴェルティメント」を作ったのは、自分自身にちゃんと、絶体、間違いなかった、と言えるものだったのだろうか……。


子供も産めない自分が、本当に、子供たちを教育していいのか……、子供の親たちは、どう感じているのだろう?やはり、認めてくれていない民も、多いのではないか……。そんな心配と、苦しみが、一緒くたになって、この日、熱が出たのやも知れなかった。


しくしくと、泣いていると、仕事をしていたはずのマティスが、部屋に入って来た。


「ま、マティス! こ! これは……! ち! 違うのです! あの……その……」


泣いているのを、どう誤魔化して良いか分からず、クレマンスは、堪えきれず、マティスの前で、泣き出してしまった。


話を聞いたマティスは……、


「やはり、クレマンス、悩んでいたのだな……。それに、気付かぬほど、俺が鈍感だとでも思ったか?」


「……心配を……かけたくなくて……」


「それは、余計な気遣いだ。俺とクレマンスは夫婦なのだぞ? 辛い事、苦しい事、悲しい事、勿論、嬉しい事も、楽しい事も、一緒に感じなければならないのだ。それが出来て、初めて、俺とクレマンスは本当の夫婦になるのではないのか?」


「……マティス……」


「俺は、クレマンスに、本当に感謝している。そして、一魔法使いとして、尊敬している。子供たちに、「パッフェ・エレディタ」をかけるだけでなく、種まで残すとは、本当によく考え、実行に移したな。本当に、クレマンスは素晴らしい魔法使いだ」


「……ですが……わたくしをお認めにならない民も多いはず……。子供がいないのに、子育てが出来るのか……と」


「そんな事はない。クレマンスは、魔法を教えているのだ。その中には、子供たちを笑顔に導く魔法も、沢山あるはず。それをわからぬほど、この国の民は馬鹿ではない。クレマンスに感謝こそすれ、認めぬものなどいはしないさ」


マティスは、優しく、静かに、クレマンスをなだめた。


「……はい。そのお言葉、忘れずに、これからも、新しい『ロワイヨーム・ソルシエール』を築くため、尽力したいと思います! ですから、お傍にいさせてください!」


「何をいまさら! 俺が、クレマンスを手放すとでも思うのか? このような、勇敢で、人望も厚く、子供たちに好かれ、国の為にどんな困難も笑顔で乗り切ろうとする、そんなクレマンスが、俺は大好きだ」


「マティス……。ありがとうございます。これからも、『パッフェ・ディヴェルティメント』を、更に盛り上げ、活性化し、子供たちがのびのびと育つことのできる、そして、民が、幸せになれる魔法を考え、『魔法使い博士』として、この王国のお役に立ちたいと、心からそう思います!」


作り笑いではない、心からのクレマンスの笑顔が、そこにあった。


マティスは、クレマンスを嫁にしたことを、本当に、本当に、心から良かった……と、幸せな気持ちでいっぱいになったのである。











そして、後に、クレマンスの名は、伝説の「魔法使い博士」として、永遠に「ロワイヨーム・ソルシエール」の歴史に刻まれる事となる。


そう、この国を救った英雄、アントワーヌの様に……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法使いの王に嫁入りしたけど、子供を産むのを封印された!?それなら魔法使い博士になって、王と女王とこの国に恩返しします!! @m-amiya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ