EP.4 吸血鬼少女と迷宮攻略

「屍鬼か……戦うのなぞ、実に久しいな。普通なら厄介なんじゃろうが、妾とは圧倒的に相性が悪い。まあ、さっさと終わらせようかの」


 両手で握った薙刀を近寄ってくる屍鬼めがけて振るう。

 スパッと首が落とされ、バシュンとアイテムを残して消え去った。

 その調子であっという間に屍鬼の第一陣を殲滅してみせた。


「屍鬼ってその再生能力が厄介なんでしょ? なんで倒せたの?」

「それはじゃな、妾のが原因じゃな。妾は吸血鬼の真祖じゃぞ? そこらへんの屍鬼なんぞにとっては妾の血は強すぎて再生能力自体が負けてしまうというわけ……のはずじゃ」


 自信なさげに答えるが、そういうものなのかーと納得する。

 毒を以て毒を制すというやつなのだろう。


「ふむ……屍鬼とは、ここまで繁殖力が高かったかの?」


 先程現れた軍勢とは比にならないレベルで敵の数が多い。

 パッと見た限りでも、5倍ほどはあるんじゃなかろうかと思う。

 

「まあよい。久々の戦いで気分が高まってきておったところじゃ。軽く遊んでやろう」


 手に握った薙刀を、迫りくる屍鬼に向けて軽く振るう。

 ルナの体から、ドロっとなにかが溢れてくるのが後ろから見えた。


「『血槍ブラッドスピア』」


 その溢れたものは、ルナの血であった。

 まるで生きているかのように自由自在に動く血は、ルナの呼びかけに答えて槍の形をとり、せり出すようにして屍鬼を突き刺す。


「『ボルト』……『血奏・四重奏クアドラブル』、『断血』」


 槍を血へと戻し、それを再び小さく丸い形状に変化させて連射する。

 そこから残りの血を武器へと込めていく。

 ルナの持つ薙刀が、見て容易にわかるほど赤黒いを通り越して黒に近づいているが、大きさは一切変化していない。

 それを、ルナは『血奏』と呼んだ。

 込められた血を、薙刀を大きく振るうことで巨大な斬撃として射出した。


「なんじゃ、あっけないのう」


 最後に、残った数体を軽く斬り伏せて戦闘は終了した。

 ルナの言う通り呆気ないものだったが、ルナのいない……もしくは屍鬼に対する特効を持ち得ない普通の探索者であれば苦戦どころかすぐにでも殺されてしまっていただろう。


「なにか異変の前兆か……?」

「いや、そうではなかろう。妾でさえも迷宮内の魔力に異常は感じん。ならば、ただ屍鬼を駆除する人間がおらん時間が長すぎたのであろうな」

「……駆除って、そんな虫みたいな」


 けど、その考察は意外と間違ってないように思う。

 あのとき、僕とルナが出会った事件。

 あれはちょっと前までの迷宮内とは感覚的に別物と呼んでも差し支えないものであったと認識している。

 異変が起きていると言うならば、あれと同等とまではいかなくとも感覚に何かしらの変化があってもおかしくはない。

 しかも、それを長年生きてきた……であろうはずのルナが言うのだから100パーとは言えないがかなり高い確率で正しいと判断していいと思う。


「うーん、考えてもわかんないや。何か起きても帰れるだけのマージンは取りながら進もうか」


 結局、あれこれ考えたってそこまで詳しいことなどわかりやしない。

 ならば、とルナを信じて進むことにした。

 ちなみに、魔石はきっちり全部回収しましたとさ。


♢♢♢♢♢♢


「屍鬼の数も進むにつれ減ってきたな」


 どんどんと奥の方へ進んでいると、屍鬼は数よりも一体一体の強さ自体が上がってきているように感じた。

 けど、ルナに任せたら負けることはない……らしい。

 僕から見ていても苦戦していることはないように見える。


「……おい、主。邪悪な気配を感じるのじゃ。魔物とは違う、人間の悪意を」

「……ん? どういうことだ?」

「言った通りじゃ。この迷宮内で、妾の探知に引っかかるほどの悪意を放つ集団があるということじゃ」


 迷宮内で?

 しかも、こんな全く人気のないところに。

 いや、だからこそか。


「ねぇ、それってどのくらい近い?」

「少し進んだところの壁の奥じゃ。妾がここまで近づかぬと気づかないほどの偽装が施されておる。中にいるのはかなりの実力者じゃな」

「偽装を解かずに中を見ることってできる?」

「まあ可能じゃな。妾にしてみればその程度余裕じゃよ」


 ……なら、見てみたい。

 何をしているのかはわからないけど、ルナが悪意を感じると言っているのだし、偽装までしているのだから決していいことではないだろう。

 徠音さんなんかの協会職員に伝えれれば対策もできるだろうし、最悪バレてもルナが全力を出せれば逃げることは可能なんじゃないかと思っている。

 僕もルナと出会って日が経っているわけではないが、召喚者だというのにルナの力の底が全く見えないのだ。

 僕に血が戻りきってないから血の補給が大量にはできていないけれど、そこはもしバレたときには我慢して血をあげれば大丈夫だろう。


「行こう、ルナ。そこに連れて行ってくれ」


 ルナにそう伝え、僕は拳を固く握る。

 ルナは再び僕の前を歩き始めた。


♢♢♢♢♢♢


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血の盟約《エンゲージ・ブラッド》 辛味の視界 @yozakuraice

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