懐中時計の男 ~クロノシタス~

コウセイ

第1話  序幕

 この祖父そふ葬式そうしきとむらわれた。



   ポク ポク ポク・・・



 大往生だいおうじょうだった。



   チーーーーン! 



 粛々しゅくしゅくすす葬式そうしきあと祖父そふいえでは、親戚しんせきあつまり、んでべてと昔話むかしばなしはなく。



    ガヤ ガヤ



ともえちゃん、綺麗きれいになったよ。そろそろ結婚けっこんちかいねえ」

「もう、やだ伯母おばさん」

 ともえれる。

 すると、となりすわ青年せいねんせきつ。



    スク



「おっ、比呂斗ひろと。どこへくんだ?もしかしておんなのとこか?」

「トイレだよ」

 った伯父おじかえすと、青年せいねんはトイレにかう。



    ジャジャ――ッ



 かれは、丸越まるこし 比呂斗ひろと大学だいがく年生ねんせいまわりからは、ヒロと呼ばれている。



    パタン



 トイレからると玄関先げんかんさき人影ひとかげえ──



    ガラガラガラガラ 



「おいっ、るか!?」

 ──引違ひきちがいけ、いきなりおとこはいってた。

「どちらさん・・・ですか?」

 ゆうが180はえている、とおもわれるおとこ

おれか?おれことはいい。丸達まるたつんだっていて・・・あずけてあったものりにた」

「マルタツ?あずけてあったもの・・・」

 おとこうことに、比呂斗ひろとなんことだかわからない。 

 はなしごえづいて──



    パタ パタ



「ヒロ、おきゃくさん?」

 ──あねともえた。

多分たぶん・・・祖父じいさんの会社関係かいしゃかんけいか、なんかのいだとおもう」

 大柄おおがらでスーツをこなすかんじが、サラリーマンをおもわれる。

「それはそれは・・・どうぞおがりください」

 おくはいるよう、ともえすすめた。

いやいい、あずけてあったもの・・・りにただけだから。それにしてもあんた美人びじんだな」

「まあうれしいです!」

 あねて──



    シゲシゲ



「(否定ひていしないんだ)」

 ──比呂斗はおもう。

「あのー、あずけてあったものって・・・なんですか?」

 比呂斗ひろとは、おとこいてみた。

「あーー、時計とけい懐中時計かいちゅうとけいだ」

 時計とけいわれ、比呂斗ひろとおもす。それは祖父そふ入院にゅういんした五日後いつかご見舞みまいにったときのこと。



 病院──



    ・・・スタ スタ ピタ



 病室びょうしつ入口いりぐちで、比呂斗ひろと名札なふだ確認かくにんして──

丸越まるこし 達雄たつお・・・あった」



    スタ スタ スタ



 ──病室びょうしつおくへとすすむ。

祖父じいちゃーん?」

なんだ?ヒロか」

 点滴てんてき祖父そふたが、わり元気げんきそうであった。

たおれたっていたから・・・たよ」

 すみにある丸椅子まるいすせ──



    ガタタン



 ──比呂斗ひろと腰掛こしかけた。

「そりゃあ、もうとしだから・・・あっちへちかづいてるだろうよ」

「まあた縦断じょうだんを・・・」

冗談じょうだんなもんか。それより大学だいがくはどうだ?」

「ちゃんとやってるよ」

 大学だいがくでの近況きんきょう世間話せけんばなしをしていると、昨日きのう一人ひとり見舞みまいにまごともえこわいと、祖父そふはなす。

 そのはなしいて、比呂斗ひろと苦笑にがわらいする。

「・・・そうそうわすれるとこだった」



    ガサ ガサ



 っておおきな紙袋かみぶくろから、ふるびたちいさなかばんす。

「これ、祖父じいちゃんがっててとってたかばん。それとかあさんにたのまれたもの、ここにいとくよ」

 ベッドのわき紙袋かみぶくろく。

ってたか・・・ヒロ、けてなかから手帳てちょう時計とけいしてくれ」

 かねはずすと──



    シュル シュル  



 ──ぼろぼろの手帳数冊てちょうすうさつこわれた懐中時計かいちゅうどけいはいっていた。

 懐中時計かいちゅうどけいあながあり、祖父そふはなしでは、それは弾丸だんがんあとだという。手帳てちょう祖父そふちちもので、懐中時計かいちゅうどけいはその友人ゆうじんもの。このとき比呂斗ひろとは、これらにまった興味きょうみがなかったのである。

 ただ手帳てちょうについては、祖父そふからすこはなしいていたのであった。曾祖父そうそふ政府せいふ仕事しごとで、アジア諸国周辺しょこくしゅうへんまわっていたという。そのとき出来事できことを、日記にっきのようにメモったというのだ。

 日本にほん帰国きこくしてからも、そのおとこ何度なんどうことがあり、とてもわったひとだったとく。

「わしがんで・・・そのあとにでもたずねてたらかえしてやってくれ」

 と、ちちからことづかっていたのだという。

 おとこは、ハードボイルドで、ハイカラで、バガボンドのようなひとだと。



祖父じいさんからたのまれてました!」

 すぐに二階にかいがり、納戸なんどはいり──



    ドタタタッ



 ──いそいで玄関口げんかんぐちもど比呂斗ひれと

「これですよね!」

 時計とけい手帳てちょうせた。

「これだ!これ!」

 おとこると懐中時計かいちゅうどけいを──



    クリ クル



 ──おもてうらたしかめるようにる。

駄目だめだな・・・なおせるのか?あいつ?」

 こわれてうごくことのない懐中時計かいちゅうどけい半信半疑はんしんはんぎ様子ようすおとこは、スーツのうちポケットにしまう。

「この手帳てちょうは・・・どうします?」

 と、比呂斗ひろと

手帳てちょう?それってまる手帳てちょうか!よくっていたな!そうえば・・・まるはちょくちょくんでたよ!よくりゃ、おまえさん!まるてるな!そっくりだ?」

 てるとわれても、比呂斗ひろとにはわからないが、祖父そふちちわかころてるとわれたことがあった。

「もしかしたらだが・・・またえそうながする。おれかんはよくたるし、よくはずれるときてる。ま、あてにしないでくれ」

 一頻ひとしきしゃべると、おとこ玄関げんかんめずにかえってく。



    カツ カツ カツ



「ちょっと面白おもしろひとね」

 おとこかえうし姿すがたて、ともえ一言漏ひとこともらす。

 このよる両親りょうしん祖父そふまり、あねともえおとうと比呂斗ひろとはホテルにまる。

 あねがシャワーをびているあいだ比呂斗ひろとはベッドによこになって手帳てちょうていた。



    ・・・スタ スタ



「ヒロ、シャワーいたわよ」

「・・・わかった」

 バスタオル一枚いちまいあねを、普段ふだんなら文句もんくっている比呂斗ひろと。だが、あえてあね無視むしする。ところがバスタオルをって、はだかあるまわ行為こういには、比呂斗ひろと我慢がまんできなかったのだ。

なにしてんだよ!」

 比呂斗ひろと文句もんくうと──



    ・・・ウロ ウロ



になるならなけりゃいいじゃない」

 ──あねにそうかえされる。

 あねくちではかなわない比呂斗ひろとは、げるようにシャワーをびにった。



    ジャバジャバーーッ



 でも手帳てちょうつづきがになって、シャワーをカラスの行水ぎょうすいですませ、比呂斗ひろとる。



    スタ スタ・・・



なんでまだ!そんな格好かっこうしてんだ!服着ふくきろよ!」

 はだかではなかったが下着姿したぎすがたあねに、比呂斗ひろとえた。

「ヒロがせてくれるなら・・・いいわよ」

 悪戯いたずらぽっくかえあねに、比呂斗ひろと言葉ことばてこない。

「・・・・・・」

 あきらめた、というよりか手帳てちょうつづきがたくて、比呂斗ひろとはベッドにがる。

 ベッドで夢中むちゅうになって、手帳てちょうている比呂斗ひろとに──



    ペラ・・・



「ヒロ、その手帳てちょうって面白おもしろいの・・・?」

 ──あねともえはなけてるがみみはいらない。

 はじまりは、第一次世界大戦終結だいいちじせかいたいせんしゅうけつから、二年後にねんごのことだった。





 








 








  







  



    

  






 


  


   

  

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