第17話 かかと落としで時間を飛ばせ

次の作品の取材で、とある山奥にある武道場に訪れた。


「元輿付喪です、今日はよろしくお願い致します」


「こちらこそよろしくお願いします」


「まぁ、特段変わったことなんてないですけど、普段の稽古の様子とかを今日は見ていってください」


そう言われて中に入ると、見学用に用意してくれた椅子があった。


しばらくすると、練習生が集まり始め、挨拶をしてから準備運動をしたり、受け身の練習をしたり、投げの練習をしたりと大切なんだろうが少し退屈な時間が続いた。


二時間ほどして練習生たちの練習が終わり、僕はまたここの管理人の師範の人と話をした。


「まぁ、普段の練習だけ見ても正直退屈だったでしょう?」


「そうですね、正直言うと」


「やっぱりそうですよね、せっかくここまで遠路はるばる取材に来たんですから、今日は武道の一つの極地に至った私の編み出した技をお見せいたしましょう」


そう言うと、時計を自分の前に立て、息を少しづつ吸いながら力を溜め始めた。


「はぁーーーーーーっ」


集中した様子から、目を見開き、一気に時計の針に向かってかかと落としをする。


「やあーーーーーーっ!!」


そのまま時計を破壊することなく綺麗に針だけを動かし、僕は拍手をした。


「すごいですね、一点だけに力を込めて時計を壊さないなんて」


「それだけじゃないんですよ、ほら見てください、時間が進んでるでしょ?」


彼は自慢げに時計を指差す。


「え、まぁ、確かにそうですけど、それって針を動かしたからでは?」


「じゃあ、スマホで時間見てみてください」


「えっ・・・これは!?」


確かにかかと落としで動かした針の分だけ時間が進んでいる。


「ど、どういうことなんですか!?」


「私はね、かかと落としで時間を超越したんですよ」


「す、すごすぎる・・・」


僕はお世辞抜きで、その技に驚愕した。


僕のような術でもなく、土地の力などそう言う類でもなく、ただ一つ、一点だけに自分の力を集中させることだけで一つの境界を変えるなんて考えられなかったからだ。


「でも、進んだ分の時間はどうなるんですか?」


「それは、試しに料理を隣でしてもらいながらやってみたところ、時間だけがスキップされて料理の進行が進んでいるとかではないことが分かりました」


「なるほど・・・」


「まぁ、この技は封印してますがね、昔は調子に乗って億劫な"月曜日"とかの時間短くしてましたけど」


その発言をした瞬間、武道家の男は、場所は同じだが、自分だけしか存在しない薄暗い世界に飛ばされた。


「ここは・・・?」


「おい、お前、月曜日の時間を短くしたって言ったか?」


「お前は誰だ?」


「ふっ、名乗る必要もないが、私の名は!焦日月モンディーだ!」


「も、モンディー?」


「あぁ、そうだとも」


「月曜日を司る神的存在だとでも思っておけば良い」


「時にお前、さっき億劫な月曜日の時間をよく飛ばしていたなんて発言を抜かしていたな」


「それがどうしたんだ?」


「分からないかこの愚者め!」


「貴様は当時、みんなが嫌いな月曜日だからと言ってやっていたかもしれんがな、その行動は月曜日が嫌いというだけでは済まないほどの恐ろしい罪だ」


「お前が言ってることよくわかんねえけど、結局お前は俺に何をさせたいんだ?」


「せっかちな奴だな、まぁいい、単刀直入に言うぞ」


「過去の行動に関しては、何度も行われたにも関わらず気づかなかった俺にも非があるから水に流してやる」


「だが!今日というかけがえのない月曜日の時間を押し進めた現場はこの目でバッチリ捉えさせてもらったぞ」


「だから!お前はここで俺と決闘をしてもらう!」


「決闘だと?」


「そうだとも、貴様のその時間を推し進めるかかと落としと、我のムーンナイフで勝負をしろと言っているのだ」


「この勝負に負けてしまった場合、我は諦めて貴様を解放する」


「しかし!もし我が貴様に勝った場合、我のスーパーハイテク能力を駆使して、月曜日しか存在しない世界に放り込んでくれるわ!」


「なるほど、なら手加減はなしだ」


「ほぉ、貴様もようやくまともな面になったようだな」


「俺には練習生、そして家族がいる」


「この勝負、自分の全身全霊をかけて貴様を潰してやろう」


「その減らず口、すぐに聞けなくしてやる」


「はあーーーーーーっ!!!!!!!!!」


「さっき見たときよりもすごい気、先ほどは本気じゃなかったようだな」


カッ!!


「でやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」


「来たな、死と絶望のムーンナイフ!!!!」


互いの最大の武器がぶつかり合い、ぶつかり合っている場所よりも周りのものが全て吹き飛んでしまいそうなほどの凄まじい力と力がぶつかり合う。


「そりゃーーーーーーーーー!!!!」


「グヌヌ、なかなかやるが、俺は皆に月曜日にかこつけて文句を言われるたびに力を増幅できるのだ」


「つまり!月曜である今、力はさらに増していくぞ!」


「くそっ、押し返される」


「グハハ、そろそろ諦めたらどうだ?」


「いや、まだ俺は諦めぬぞ」


「その減らず口・・・なっ!?」


「我のムーンナイフとかかとのぶつかり合いで生じた熱が我のムーンナイフだけを溶かし始めている!?」


「ふっ、俺がかかと落としする時に達するかかとの硬度はダイヤモンドにも匹敵する」


「つまり、今の俺のかかとの融点は三千度以上でも平気ということだ」


「なっ、この我が負けるなんて、くそー!」


「その自慢のムーンナイフとやらが溶け切る前に降参するんだな」


「我がそんなことをすると思うか?」


「何?」


「我はプライド高き戦士なのだ、たとえ負けると分かっていても、降参するなら死を選ぶわ!」


「ふっ、貴様も貴様で立派な武人ということか」


「なっ!貴様なぜ技を解除して」


「貴様のような武人と心ゆくまで戦えたことに感謝する」


「・・・我の完敗だ」


「貴様は元の時間軸へ返そう」


「あぁ、ではさらばだ、新たな友よ」


「あっ、最後に一つだけ」


「どうした?」


「月曜日のことも愛してやってくれ」


「分かった、胸に刻んでおくよ、お前の意志と共に」


「はっ!?」


「どうしたんですか?」


「いや、何でもないさ」


「取材はこれで終わりですか?」


「そうですね、今日は貴重な機会を頂きありがとうございました」


「いえいえこちらこそ、こんな有名な方に道場を取材していただけて光栄です」


取材に来た彼を見送ったあと、俺は先ほどまで戦い、そして認めあった誇り高き戦士のことを思い出した。


「焦日月モンディー、お前のおかげでこれからは月曜日が大好きになれそうだ」


「次は友として、いやライバルとして、またお前と会いたいよ」


「その時には、人も物も、そして時間も殺さない新たな私の技をお見せしよう」


静かに目を瞑り、彼へと思いを伝える。


「フン、一度面を向かわせただけで随分と馴れ馴れしいやつもいたもんだな」


「・・・だが、貴様の目指す新たな極地」


「誰も殺さずに威力を極めるという苦難の道に、月のように美しい光が灯り、いつか大成することを心から願っておるぞ」

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元輿付喪の取材日記〜妖怪オタクが原因で平安から現代に転生させられた男は現代社会で小説家になる @sokkou

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