第3話 眠るあなたのそばで

「ん・・・・・・」

窓の向こうで、鳥のさえずりが聞こえた気がして、目を覚ます。


「やっぱり、もう朝だよね・・・」

目を開ければ、宿の部屋にはもう朝陽が射しこんでいて、

早ければもう起きる時間だと気が付いた。


「エリナ・・・・・・まだ寝てるよね。」

隣を見れば、エリナがぐっすりと眠っている。

昨日はあんなに大変だったのだから、無理もない。


私は守ってもらいながら、魔法を撃つだけだったけど、

エリナはずっと動き回っていたし、

町へ帰る間も、ウルフ種とギガントバッファローの素材を、ほとんど持ってくれた。


でも、それだけ頑張ったおかげで、討伐報酬はたくさんもらえたので、

宿は二日分取ることにして、今日は休むつもりでいるから、

慌ててエリナを起こす必要は無いんだけど。



「エリナ・・・・・・」

やっぱり、私だけが起きているのはちょっと寂しくて、

起こしては悪いと思いつつ、小声で名前を呼ぶ。


そしてじっと見つめていると、毛布からちらりと覗く、

エリナの腕が目に入った。


空いた時間があれば、剣の練習もたくさんしていて、

実戦も積んできたエリナの腕は、すごく引き締まっている。


昨日も何度か抱き締められて、触れてはいるけれど、

それを実感する余裕なんて無かったから、

たまには私から、触ってもいいよね・・・?


「エリナ、ちょっとだけ・・・」

ちょっとした出来心が私の胸に生まれて、

気付かれないようおまじないをかけてから、そっとエリナに手を伸ばす・・・



「えいっ・・・!」

「ひゃあっ・・・!?」

その途端、エリナが私のほうを向いて、

今まさに触れようとしていた腕で、がばっと包み込まれてしまう。


「こっそり私に触ろうとする悪い子は、誰かな?」

「うう・・・だって、だってえ・・・

 それに、気配を隠す魔法も使ったのに・・・」

「こんなすぐ近くで、気付かないわけないでしょ。」

剣を使う人は、相手と接近して戦うことがほとんどだから、

その気配を読むのが大切で、エリナも練習してるのは知ってるけど、

私の想像以上だったみたい。


「それじゃあ、罰として、

 私がしたいこと、いっぱいしちゃおうかな。」

「ううう・・・・・・」

エリナが悪戯っぽく笑う。これからどうなるのか想像できて、

きっと幸せだけど、すっごく恥ずかしい。


それに、こういうのはいつも、エリナからばっかりで、

たまには、私だって・・・


「んっ・・・!」

「・・・!?」

たまらなくなって、目の前にあるエリナの顔に、

思い切って飛び込んでゆく。


「わ、私だって、もっと自分から、

 エリナのこと好きってしたいんだから・・・!」

後から恥ずかしくなりそうだけど、

私が今、一番言いたいことを真っ直ぐに伝えた。

エリナは・・・笑われてしまうかな・・・あれ?


「・・・・・・」

エリナの顔が赤い。私を包んでいた腕が緩んで、片手を唇に当てている。

もしかして、思った以上に効果あった・・・?


「・・・あっ。」

そんなエリナをじっと見つめていたら、

我に返ったように表情が戻り、ぽつりと言った後、

悪戯っぽい笑みで私を見た。・・・すっごく嫌な予感。


「やってくれたね、フィア。

 不覚にも惚れ直しちゃったじゃない。」

「ふえっ・・・?」


「それじゃあ、私の好きもいっぱい受け止めてくれるよね?」

「ひゃうっ・・・!?」


エリナの腕がもう一度がっちりと、私を包み込む。

いつも剣を振り続けている、その力は私よりずっと強くて、

もし逃げようとしても、振り払うことは出来ないだろう。

・・・そんなこと、絶対にするつもりはないけど。



エリナの顔が目の前に迫り、呼吸が苦しくなる。

私の中はエリナでいっぱいになって、とろとろに溶かされてしまう。

幸せで、恥ずかしくて、でもやっぱり幸せだ。


「ふにゃあ・・・」

やっと呼吸が楽になる頃には、私は夢見心地で、

エリナが髪を撫でてくるのにも、されるがままになっている。


「この部屋は二日分取ってたよね。

 起きるのはまだ先にして、もうしばらくこうしていようか?」

「うんっ・・・!」

まだふわふわとしている私だけど、

その気持ちは、はっきりとしているから、こくこくとうなずいた。



「エリナ・・・大好き。」

私がもう一度、自分から近付いたら、

エリナも正面から受け止めてくれる。


「うん、私もだよ、フィア。」

「んっ・・・・・・」

そして、すぐにいっぱいのお返しがやってきて、

私の心はまた、とろとろに溶けていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

小さな灯火は追風の腕に抱かれて 孤兎葉野 あや @mizumori_aya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ