しずく

おじさん(物書きの)

きが

 見渡す限りの砂漠。不時着したこの星で、運がよかったのは空気があることくらいか。

「駄目ですね、通信機さえ動いてくれれば良かったんですけどね」

「そうか。通信機といえばうちの小隊のオペレーターの子かわいいよな」

「そうですね。でも隊長と付き合ってるって話ですよ」

「まじかよ。隊長って40越えてたろう」

「ええ」

 どうしてこんな事になってしまったのか。すべては戦争の結果。

 宇宙戦争。未知のエイリアンとの戦い――。

 まあそんな映画のような事ではなく、実際はコロニー間のエネルギー利権の争いだ。人間はいつになっても変わらない。

「なあ、あれ木だよな」

「木、ですね」

「木、だよなあ」

 幻覚か何かかと思ったのか、先輩はしきりに目をこすっている。自分の目を疑いたくなるのもよくわかる。目の前に現れた木は、我々の前を横切り移動していた。

「この星の木は移動するのか」

「そうみたいですね」

「……変わってんなあ」

「木があるということは、水があるのでは」

「何! そうか、追いかけてみようぜ」

 木の移動速度はかなり速かった。砂に足を取られているとはいえ、追いつくことすらできないとは驚きだ。暫くすると木々が集まっているのが見えた。

「お、おお。オアシスだ、水だ」

 ふらふらだった先輩が走り出す。

 小さなオアシスには数十本の木が集まっていて、木々が枝を揺らすたびにオアシスの水が減っていく。

「うおっこいつら飲むのはええな!」

「あ、しまった。待ってください先輩」

「なんだよ、水なくなるぞ」

「水質検査薬を持ってくるのを忘れました……」

「そんなもん、必要ねえっ」

 そう言うが早いか、先輩はオアシスに頭から飛び込んだ。

「ぷはっ、生き返る! お前は飲まないのか?」

「やめておきますよ」

「お前は心配しすぎだぜ。そんなんじゃ生きて帰れんぞ」

 確かにそうかもしれないが、得体の知れない水でお腹を壊す方が危険じゃないか。


 戦闘機まで戻ると、軽く常備食を食べ、いつ来るともしれない助けを待った。


 疲れのためかいつの間にか眠っていたようだ。

「先輩起きてますか? 先輩?」

 そこには一本の木が立っていた。昨日の木々よりだいぶ小さい。これは先輩なのか?

「先輩……ですか?」

 その問いに枝が揺れた。なんということだ、昨日のオアシスの水のせいだ、そうとしか考えられない。

 呆然としていると先輩が動き出した。恐らく、オアシスに行くのだろう。僕は検査薬を持って先輩を追いかけた。


 検査薬の色はすぐに変わった。

「やっぱり有毒ですよ先輩……」

 暫くすると小さな木が寄ってきてしきりに一本の枝を動かす。

「先輩?」

 何かを伝えようとしているようだが、どうしたらいいのだろう。

 僕はその枝をつかんでみた。すると細い枝は勢いよく折れ、雫が垂れた。まさかと思い、検査薬を使ってみるとそれは、驚いたことに飲める水だった。

「先輩……」

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しずく おじさん(物書きの) @odisan_k_k

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