序列22位の俺が現場の猫人にとことん優しくしたら、なんかめっちゃ慕われて工事もはかどり、王位継承筆頭にされたからヨシ! ……いや、ヨくねえ!
ケン・ヨーチ・ルタカは眠れない(事実をありのまま端的に述べたサブタイトル) その1
ケン・ヨーチ・ルタカは眠れない(事実をありのまま端的に述べたサブタイトル) その1
――王になる。
そうと決めてからの行動は、我ながら迅速なものだった。
いや、これに関しては、マサハやメキワの尽力が大きいか……。
二人は陰ながら動き、兄弟姉妹で俺に好意的な者たちを集め、まとめてくれていたのである。
だから、協調してくれる者全員で話したいと言った時、彼らは素早く集まってくれた。
「皆……よく集まってくれた。
この場には、俺より先に生まれた兄や姉も多いが、その上で宣言する。
――俺は王になる。
と、いうより、このスタジアム建築においては、今より王そのものとして振る舞う。
皆には、その力となって欲しい」
文官にお願いして借りた王宮内の会議室……。
背後にアンを従え、大円卓の上座へ着席した俺は、開口一番にそう宣言する。
その言葉にまず反応したのは、マサハを始めとする王子たちだ。
「存分にやってくれ。
今より、我らは貴様の臣下だ。
兄と思わず、自分の手足がごとく扱うがいい。
――と、これは主君に対する言葉遣いではないかな?」
第二王子の言葉に、兄弟たちが笑みをこぼす。
――器でなければ見限る。
暗に、そう告げているからであった。
だから、俺も苦笑いで返す。
「そういうのは、正式に王となってから変えてくれれば……。
なんなら、生涯気にする必要はない。
何がどうなったって、兄は兄で、弟は弟なんだから」
続いて俺は、王女たちを見る。
こちらはこちらで、結構な人数がおり……。
そもそも、継承レースに興味がないだろうミケコはともかく、これだけの人数が俺を支持するため集まったのは意外だった。
というか、これほぼ全王女だよな?
「姉上たちも、よろしいですか?」
「もちろんです」
俺の言葉に、第一王女――キュー・ハイ・ルタカがうなずく。
「わたくしたちの狙いは、あなたを
ミケコ様にとって最も操りやすいあなたが王となるのは、願ったりかなったりですわ」
――フ。
――
王女たちの笑い声が、会議室に響き渡る。
「――フ、さすがだ。
我が国の出生率が右肩下がりなのは、てめーらが原因であると確信できる」
どうあがいても――絶望。
その事実に、兄弟全員で震え上がりながら、俺は不敵な笑みを浮かべた。
「……それで、お兄ちゃんは、わたしたちにどうして欲しいの?」
兄を超える妹……。
真なる次代の王。
KING OF KINGたる妹姫ミケコが、いつも通り気怠く眠そうな態度――理由は推測すまい――で、俺に問いかける。
「……やはり、全員で一丸となって、ケン兄様に資金や人員の提供をし、数の暴力で工事を進めるミチカチへ対抗するのでしょうか?
こう、一肌脱ぐような形で」
メキワが、恐る恐るといった様子で挙手した。
ただし、こいつが恐れているのは、別に俺ではない。
その視線が向いているのは、ミケコであり……。
「ふひひ」
我が妹が気色の悪い笑みを浮かべると、恐怖で身を縮こまらせたのである。
……確かこいつ、抗議活動をした猫人たちの要望をかなえるため、ミケコに借金を申し入れたんだっけ?
そうか、一肌脱いだだけで済んだか。
「
「
――
……いや、最終的にその程度じゃ済まねえな、これ。
俺の背後に立つアンや、王女たちの不気味な笑い声に身をすくませながら、首を横に振った。
「いや、俺一人にリソースを集中する必要はない」
「――そんな!
王子たちで組んずほぐれつ、大乱交レッスルパーリィをする特典イラストの計画が、白紙に戻ると言うのですか!?」
「やはり、俺らに借金負わせて、いかがわしい企画のモデルをやらせるつもりだったか……。
そんなパーリィは、てめーらの脳内だけでやってろ」
背後から悲嘆的な言葉を発したアンに、振り返ることなくそうつっこむ。
……なんだろう。倒すべき敵をミチカチとして結集したのに、真に倒すべき巨悪は他に潜んでいるっつーか、ド真ん前に集結している気がしてならねーぞ!
さておき、気を取り直して俺の計画を説明する。
「まず、俺たちはこうして集まったことで、圧倒的な利を得ている。
他でもなく、効率の利だ」
あらかじめ用意していた図面を、円卓の上に広げた。
そこに描かれているのは、スタジアム建築現場全体の見取り図であり……。
「……青く色分けしてあるのが、この場に集った人間の担当工区だ。
さすがに、数が集まっただけのことはあるよな。
飛び地になってる工区もあるけど、隣り合っている工区が実に多い」
俺がそう言うと、全員が見取り図を覗き込む。
その上で、疑問を口にしたのがマサハである。
「しかし、工区同士が隣り合ったりしたところで、大して変わりはないのではないか?」
他の者たちも同じなのか、今ひとつ、理解が及ばないという顔だ。
そこら辺は、現場へ実際に行かないと分からないだろう。
「それが、大きく変わる。
例えば、資材の搬入出……。
これまでは、各王族がそれぞれバラバラに、種々様々な資材を自分の工区へと搬入させ、用済みの品を搬出していた。
これって、目茶苦茶効率悪いよな。
宅配の荷物を届けようってんじゃないんだ。
建築現場の搬入出っていうのは、相応の時間がかかる。
だから――だ」
見取り図の中……。
メキワと、それからミケコの担当工区にペンで印を付けた。
離れ小島となっている工区を除けば、俺たちの勢力は大きく二分化されている。
この二人が担当する工区は、二分化されたそれぞれの中間点に位置していた。
「メキワとミケコの担当工区には、資材の搬入出を引き受けてもらい、ヤードとなってもらう。
それだけじゃない……。
荷揚げ――
これらも担当してもらい、俺たち全体での作業効率化を図る。
安全な
それだけじゃなく、皆の工区で働く猫人にも講習を受けさせよう」
スラスラと語った俺の言葉に、数名が感心の吐息を漏らす。
「なるほど。
どこかに仕事を一極化することで、全体の効率が上がる、か……。
バラバラに競い合っていては、絶対に出ない発想ですね」
重要な役割を得たメキワが、目を輝かせ……。
「問題ない。
創作においては、誰が攻めて誰が受けるかの役割分担は非常に大事。
時には、その段階で作品の良し悪しが決まる」
ミケコもまた、無感情な顔でそう言い放つ。
……俺の妹を関わらせると、いちいち話が脱線する。
「非常に狭い創作世界の論法を、一般論として語らないよーに。
……さておき、一極化するのはそれだけじゃねーぞ。
これからは、ここにいる全員が抱えている猫人を、一つの組織としてまとめ上げる。
まとめた上で、各分野ごとに長を決め、作業計画も練り直す。
ケン陣営の工区全体が、一つの生き物として動く。
隣り合っている工区同士は、通行可能にして動線を作り、人と物の行き来に関しても効率化を図る」
その言葉に、待ったをかけてきたのが長女キューだ。
「お待ちになって。
それだと、肝心のあなたが他工区へかかりきりになって、進捗を遅らせてしまうんじゃなくて?
わたくしたちの目的は、あくまで、あなたを王に据えることでしてよ」
その上で、ミケコが支配する闇の帝国を築き上げるんですよね? よーく分かっております。
そんな彼女へ、俺は自信と共に口を開く。
「多分だけど、こうすれば結果的に、俺の工区も作業が早まるさ。
まあ、見ていてくれ」
こう断言すると、文句もないのだろう。
皆が、押し黙る。
ここで、俺はあえて黙っていた問題点を
「ただ一つ、これをやる上で問題点があるとしたら……」
「問題点があるとしたら……?」
マサハが、力強い視線を向けてくる。
俺は、疲れ果てたような……どこか諦めのこもった笑みを浮かべながら、答えた。
「俺が、寝れなくなる」
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