第097話 弱者の抵抗/限られた選択(7)
宣言は、罪の自白であり、信仰の告白。
曰く、
そして、行為の主体は、
ならば、
それこそが、わたくしに残された、――
「ふざけるな!!」
いまは、叫ぶべきときではない。理解しながら、傍聴人たる
「あんたは、笑ってやっただろう!
姉ちゃんに人を殺させようとしたときも!
アニスとかいう化物をけしかけたときも!
大勢の兵隊で取り囲んで酷い目に遭わせようとしたときも!
差し出せるものがない村のみんなを脅していたときだって!!」
すべては、
被害妄想も甚だしい屁理屈だ。そんな馬鹿げた動機に巻き込まれた
「いい加減にしろよ! お前!」
ジョンが何を言っているのか、ルグは、理解しない。まったく、これっぽっちも。理解なんて、してやらない。
ひとでなしとなった
ジョンがディアドラをねえさんと呼んだ所以だって、――
知ったことではないし、関係ない。すべては、罪を犯した
因果は応報する。行為は円環する。ぐるぐると巡って、返ってくるのが、世に普遍する返報の理だ。
だから、理解はできない。代わりにわかったことは、一つだけ。
烙印の獣は、自らが属した小さな
それでいながら、そんな大それたことをしていながら、――
なんて
「そうだ、ルグ。君は、
あの村で、
君は、総体から解脱している。集団に押し流されることのない、一個の意志を持つ気高い
勝てないものに、あらがうこと。届かないものに、手を伸ばすこと。
君が示した背反こそ、
少年の非難に、獣は穏やかに応える。微笑んでさえいた。次いで、言葉もなく青ざめている少女にも柔らかな眼差しを向ける。
「デヒテラ、君もまた同様に。愚かにも犠牲を拒んだあの村において、たった一人だけの犠牲となることを甘受した。
さらには、自らの継続と引き換えにしてすら、何の価値もなく、殺してもさして胸の痛まない
君は、みずからの安寧がために集団に同化する
その
言葉を尽くして、言葉を重ねる。価値を
これは、一方通行の宣言だ。獣に認められるということ、それすなわち。
「君たちは可能性だ。継続に値する意義だ。どうか変わることなく、君たちを続けてほしい。
あくまでも
さらに言い募ろうとしたとき、……つないだ手が強く握られる。
ルグは、ディアドラを見上げる。ディアドラは、相変わらず振り向かない。
けれど、揺らぐ黒衣、たおやかな背が告げていた。
少年の怒りを正しいと認めてなお、いまこのときは、……沈黙を選択してほしいと。
ディアドラが、再び、ぽつりと口を開く。背を向けたまま、
「あなたは、いつもそう。
私が話しかければ、話しかけるほど、おかしくなっていく」
ディアドラの
「手を差し伸べる。手をつなぐ。
ただ、それだけの
だから、ただ、子どもに手を差し伸べたという一事をもって、――この期に及んで、私が変わっていないなんて、妄言を口にする」
だから魔女は、示す。つないでいた手を離す。なんて、あっけない。たったそれだけの何気なさで、ジョンの信じた
死に損なってより手にした
魔女の
言葉を交わすことのないふたつが暗黙のうちに続けてきた贖い。
罪と罰の
仮初めに保たれていた
「もう
初めから、こうしていれば良かったんだ。私には、もうこれしか確かめる方法が残されていないなら」
振り向く。
冴え冴えとした美貌。
その瞳は、―—血のような
「――猟犬よ。
かつて、赤枝の騎士の下に集いし、数多の
もはや誰一人知ることのない、報恩にして忠道、誠に大儀でした。ゆえ、―—いまここで、望む
いまひとたび。この
騎士と交わした
さあ、
これより、はじまるは、棄てられた、おとぎばなし。
あり得ざる/あってはならない。
その
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