第046話 くだらない/くやしい(2)
「んー、お試しに使えなくなったし、ディアドラもいらないなら、さっさと処分するか。捕虜の世話なんて、手間も金もかかるしな」
「お説ごもっともですが、生憎と旦那が悪ふざけをしたせいで、俺がこいつの沙汰を決めろとのお達しなんですよね。……だいたい何なんですかね? こいつがあの餓鬼共の故郷を襲った賊の生き残りってのは」
「そこはさっき言ったとおり。殺すのに少しでも抵抗がない方が良いかなって。別に構いはしないだろう? 死人に口なし。後で確認しようがないことだしな。ほら、やっぱり相手は子どもなんだし、そうでなくても何事も初めてって肝心じゃないか。少しは気を使ってやらないと可哀そうだろう?」
「はあ、左様で」
冗談で言っているなら相当
しかし、グレゴリもそんなこと、あえてこの場で追求するつもりはない。
「ふふふ……それで、グレゴリ様はこの賊の殿方……どう処されるのですかぁ? ええ、ええ、もちろん、わたくしは、手出し口出しいたしませんとも……どうぞどうぞ思うようになさってくださいな」
巨人は遥かな高みから、人々の営みを見下ろしている。いじましく、愛らしい、慎まやかな騒々しさを。じぃっと蟻の行列を見る幼子にも似た、静かに静かな観察の体に入った。もちろん、棒で突いたりなんて、いたしませんとも。ええ、もちろん。
「んな、特別なことなんぞしねえよ。処刑人殿じゃあるまいし、面白いことなんぞ何もねえ」
さほどの罪を犯したわけでもないとされた盗賊、その処遇をさっぱりと決めた。
「―—じゃあ、腕一本で。利き腕とは逆にしときますか」
端的に決定された、腕の切断。盗みの量刑としては、妥当と言えた。
肉体の喪失と苦痛の想像。賊の青年の顔が強張る。しかし、覚悟を決めたように目を強く瞑った。
「はいはい、ちょっと質問」
気の抜けた挙手。ジョンだった。
「なんですか。この一件については、旦那は口出しできないそうなんですが……」
流石にじろりと、睨んでしまう。誰のせいで先の面倒事が発生したと思っているのか。もうこれ以上、話をややこしくするのはやめてもらいたいグレゴリだった。
「もちろん、皆が信頼するグレゴリ殿の裁定に
そう、そもそもからして捕虜なんて獲っているのがおかしいのだ。
生け捕りは、よほど彼我の力量技量の差があるか、抵抗する気なんて起きなくなるくらい見た目明らかな戦力差があるか、あとは
そして、仮にそうなったとして、捕らえた者の扱いには、とかく手間と負担がかかる。人手も金も要るのだ。拘束、見張り、食事や用便の世話等々、考えるだけで馬鹿らしい。殺して構わないなら、殺して捨てた方が
だから、基本、殺す。処分する。
例外は、いつかのように恨み募る依頼人から生け捕りを望まれたり、あるいは、処刑人が裁くに相応しい罪を犯した者であるか。後は、生け捕る対象に何らかの利用価値がある場合か。
今回はいずれのパターンにも該当しない。
だから、ディアドラもいらないらしいと聞きつけた
盗賊として、何をやらかしたか、その詳細もわからないままに。子どもを脅して、
「こういう都合の良い奴が、こんな良い
べらべらと妙な言い訳を始めるジョン。
「ほら、ディアドラって、少しとっつきにくいところあるけど、あの通り、本当は本当にとっても優しい
グレゴリの眼がどんどん曇っていく。何となく落ちを想像しながら、口を挟む。
「つまり?」
「つまり、―—俺もまた被害者だってことだ」
堂々と、言い放つ。
我もまた状況に
「さっさと現場で死んでればよかったのに、生け捕りにされて、のこのこやってきたこいつさえいなければ、この騒動はなかったんだよ。そう思えば、気になるのも仕方ないだろう? つまり、こいつは何をして、こんなところで縛られて
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