なんて事のないvtuberの復活配信

白黒猫

第1話

「やぁ」


 これが約3年振りとなる復活配信の第一声。


『!?』

『え?』

『ガチ!?』

『おどれは今まで何処に行ってたんじゃボケが!?』

『お帰りいいいい』


 同接数――127人。

 全盛期は当たり前に千人を超えていた為、これはかなり少なく感じる。

 しましまぁ突然の配信だ。それは仕方がない。なんせ告知は十分前で、今は深夜の2時だしな。寧ろこの時間帯に百人が集まったのは凄い。

 とりあえず集まってくれた視聴者に帰還の挨拶を交わす。


「はいはいただいまただいま」


『本物!』

『ガチでお帰り!』

『嘘っそだろお前!?』


「モノホンよ」


 コメント欄が本物やらお帰りやら――俺の帰還を喜ぶ文章が大量に流れる。

 適当な挨拶をしながらコメント欄を眺めていると、同接数は300人を超えていた。


「おーおー! 初めて5分と経っていないのに同接数300を超えおったぞ。意外と忘れられないものだね」


『リビングの創設メンバーを忘れっかよ!』

『忘れねぇよおおおおお』

『忘れてほしかったらもう100年は引っ込んでないと!』

『始まりの3人の内の1人が何言ってんだ!』

『お前がリーダーだろうが!w』


 コメントに多々流れるリギングとは俺が所属しているvtuberの箱の名前。ちなみに命名者は俺である。


「リビング……リビングねぇ? なんて酷い箱名だ事。一体全体何処の誰が自分の家のリビングに居ながら命名したんですかね?」


『お前だ!』

『おまえじゃい!!』

『お前しかいないだろうが!!』


「えー? 俺ー? マジそんな訳ー。俺ならもっといい名前にしますー……マイルームとか!」


『良い名前?』

『居間から自室に変わっただけじゃねぇか!!』

『センスが壊滅的』

『これは本物だぁぁぁ安心したよぉぉ』

『これはモノホンだw』


「おいおいこれこれ。人のセンスにいちゃもんたぁ良いご身分になったもんだなリスナー共」


『そらおどれのリスナーやし』

『ファンは推しに似ると言うし?』

『俺はお前から生まれたんだぜ? とっつぁん』

『パパ?』

『おいおい自分が生んだ子の顔を忘れるたぁ良いご身分になったもんだな!』


 悲報。俺は300人……いや400人のパパだった? ――そんなわけあるかいな!

 でもこの慣れ惜しんだゴミみたいな民度……正直安心した。この400人に膨れ上がった同接数の中には三年前のリスナーが変わらずにそこに居る。

 懐かしさのままリスナー達とプロレスをしていたら400人だった同接数は600人に膨れ上がっていた。

 

 ――うむ! そろそろこの配信の意図を伝える時だな。流れるコメントにも俺の帰還の理由や三年前に突然失踪したその理由を知りたがるコメントが流れていたし。


「さてリスナー共。そろそろ俺が失踪した理由と帰ってきた理由を教えたろう」


『!』

『!』

『!?』

『なに!』

『何があったって言うんだ!!』

『え? ずっと俺の傍に居たじゃん??』

『結婚したのか? 俺を残して……』


 数名頭がおかしい奴がいるが無視する。まぁ俺の古参のリスナーだと思うが……。


「まず最初に失踪の真相を――あ、ちなみに失踪の理由はなんだと思う?」


『夜逃げ!』

『借金!』

『マグロ漁船!』

『カニ!』

『身体売ってた!(中身)』

『俺に飼われてただろ? 言わせんな恥ずかしい』


 悲報。俺はギャンブル狂いの借金野郎だと認識されていた。そんなわけ――あるな。良く配信中にパチンコやスロット、競馬やらポーカーやらの多種多彩なギャンブル話をしてたし。

 でもマグロやカニは酷くない!? 俺ちゃんと万札と節制を持ってギャンブルに挑んでたよ!?


「舐め腐れおってからに……あーもうはいはい。普通に運営と揉めたのよ」


『あー』

『お前もか』

『やっぱりかぁ』

『なる』

『知ってた。信じたくは無かったけど』


 悲報。リスナーの皆、意外にもすんなりと納得した。本当に悲報だぁ。


『で、原因も一緒?』

『原因はやっぱり路線変更?』

『原因は?』

『原因はやっぱりアイドル路線への変更??』

『原因なにー??』


 リスナーの方から原因を問われ、大方流れてったコメントにもあった”路線変更”に目を向けながら徐に重い雰囲気を醸し出して


「実は――ぎゃ、ギャンブル好きが行き過ぎて中毒になってしまって……気づけば単位を落として留年しちゃいました! で、それを運営の人のせいにしたら怒られて、全てを知った家族にギャンブル依存症を治療する病院に監禁されてました!!」


『あほw』

『このアホー!!』

『このカスめ』

『病院で換金? 人生を?』

『まさかそんなしょうもない理由で失踪を!?』

『んんーこれはギルティww』

『待たされて損しました。チャンネル登録ボタンをダブルクリックします』


「なんだとぅ? 元はと言えばギャンブル系の配信をする度に煽ってきたお前達リスナーのせいだろうが!? あと病院で人生を換金ってなんやねん!!」


『なにおぅ!』

『なによぅ!』

『自分が生み出した忌み子に責任転換をするたぁ堕ちましたねとっつぁん!』

『ギャンブルは一日24時間までって言ったじゃん!』

『予算は生活費までって言ったじゃん!』

『貴方知ってギャンブルを覚え、妻と子供の捨てられた私を前にもう一度言ってみろ!』

『とっつぁんを知って初めて数千万の借金を背負いました! さぁもう一度同じ事を言ってごらん?』


 悲報。クズしかいないし数名俺よりヤバい奴がいる。

 実家の様な安心感は加速して流れていくコメントと共に遠くの何処へ。しかし一周して戻って大爆笑。リスナー達もコメント欄にて『なにわろとんねん!w』と、怒りのコメントと共に単芝を生やす。


「さて! 雑談はこれくらいにして――用意したゲームをやりますか! 今宵私がするのは此方――ドン! 兎の糞を兎より先に回収する”ラビットフンフン”!!」


『どうしてギャンブルしないんだ?』

『どうしてギャンブルじゃないんだ?』

『どうして推しがギャンブル以外のゲームをすんだよ。ギャンブルの教えはどうなってんだよ教えはよ!』

『病院に叩きもまれたのになに悪化してんだよ!』

『これ脱獄してきたんじゃ・・・』

『お前偽物だな! 本物を出せ!!』

『俺達はギャンブル配信を三年間待ってたんだぞ!!』


 配信者がろくでもないならそれに群がるリスナー達もまた同じ――つまりは同じ穴の狢である。

 そんな狢達の同接数はなんと1000人を突破していたのだった。


 ――ちなみに本当の原因は別にある。でもそんな事はリスナー達には関係がない事だし、最高のエンターテイナーは優しい嘘で観客を騙すのが生業だ。

 だから騙す。約三年間もの間、積もりに積った不安の全てを笑顔に還る為に。なんたって俺は生粋のエンターテイナーだから、ね?

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