転生して性転換とか聞いてないんですけど!?

みかんまん

第1話 sole


――――何処どこかにいた。


薄くぼんやりとした暗闇の中に彼女はいた。



――――わからなかった。


貴女あなたが誰かさえも。


突如、光が射した。 花が咲き誇った。

彼女は口を開いた。消えていった。




――――声が聞こえる。だんだん大きくなっていく…。


「起キテヨオ兄チャン!起キテヨオ兄チャン!」


ものすごく不愉快な声。昨年衝動買いした目覚まし時計『ドスケベな妹とHな俺~ハレンチな朝~DXデラックス』だ。

それにしてもこの棒読みはどうにかならないのかな。


何だかんだ使い続けているのは全然女の子に話かけられないから。

かなしいね…。


眠い目を擦りながら下に降りるとテレビが点いていた。

『今日のいて座の運勢は最高!大切なものをなくすかも!』だってさ。なんだそれ。


リビングの床にはストゼロ、テーブルには化粧品が散乱する中、1人カップラーメンをすすっている人がいる。


そいつは言った。


「なんでパンイチなんですか。死んでください。」


俺は女の子に話しかけられない。この万年独ひとは女ではない。


「黙れもうすぐ三十路みそじクソビッチ。汚ねぇ言葉を使うな。」

「あなたの方が汚くないですか?さっさと出発して帰って来ないでください。」


俺には家族がいない。小さいときの記憶も全くない。この顔だけは良いおばさん、西村愛菜(28)いわく、”ただの命の恩人”らしい。あとでたんまり金を請求するとも。


命の恩人は自称するものかどうかは分からないが一応恩は感じている。いつか返そう。いつか。


ふと時間を見るともう遅刻しそうだ。

とことん使えねーな、あの目覚まし。


カップラーメンは朝食べるものではない。

急いで顔を洗いトーストを口に咥えたまま玄関を飛び出して走る。JKに曲がり角でぶつかり、恋に発展するかもしれないという淡い期待を込めて。

最近はイヤホンで失恋ソングを聴いて悦に浸っている。


あぁ、blue spring――――。

英語にするとダサいな。


*


誰も興味無いだろうが、俺の名前は

長澤徹、西城高校1年、男。将来の夢はニートです。埼玉県のボロ一軒家に住んでいる。


生まれつき赤いひとみなので重い厨二病を患っています。


趣味はシコることです。学校帰りに毎日8回ヌいてます。シコシコこそ至高しこう

なんせ貧しいし2人住まいと言えど相手は赤の他人。何かと寂しいものがある。いつも傍に居てくれたのはチ〇コだけだった。チ〇コは俺にとって唯一の家族みてぇなもんだ。


――――学校そんな期待もむなしく無事に学校に着いてしまった。このあと死ぬことになるが。


「妹が全然起こしてくれませんでした。」と伝えると案の定殴られた。


俺の中では妥当な遅刻理由だと思ってたけど3連続はまずかったかな。


更年期が寄ってくる特殊能力でも持っているのかなとか考えながら席に着く。


先生、最近結婚したと言っていたが旦那さんがあまりにも不憫ふびんだ。家でもきっとああだろう。


朝のHR中に机に突っ伏してリア充に呪いをかけていると、2度目のチャイムが鳴り、女子は更衣室に向かう。1時間目は体育だ。いつも通り、俺は窓外から身を乗り出す。


体育はダルいがこの位置からだと僅かだが隣の更衣室の生着替えを拝むことができる。

ありがたや!

まさに体育の主食メインディッシュ

文字通り今日のオカズの1品にしよう。


ほとんどが白い下着だが中には派手なヤツもいる。勝負下着か?何だかイライラしてきた。


だが、この世界で1番性を実感しているのは自分だと思うとイライラはムラムラに変わる。


そういえばさっきからずっと視線を感じる。女子の下着姿を見ている俺を見て何か楽しいのだろうか。

振り返るが誰もいない。気のせいか。

未だに爆発しそうなチ〇コを鎮めて教室を出る。


さて、お気付きだと思うが俺の「」は、おばさんと先生との会話だけ(てかこれ会話かどうかも怪しいな)。つまり!


俺は典型的なコミュ障ド陰キャなのだ!《ドン!》


恋人なんて言語道断。友人すらいない。

人間関係ほど面倒臭いものは無い。女同士のそれはもっと酷いらしい。男でよかった。ありがとう神様!

…よく考えたら男でも女でもコミュニケーション能力皆無の俺には関係無かった。


1時間目の半ばも過ぎて試合は白熱していた。突っ立っている俺を除いて。


運動も出来ねぇんだぞ?すげぇだろ?泣いていい?バスケといえばシュートした瞬間に女子の胸が揺れる現象は実に神秘的だよな。思わず眺めてしまう。


そんなとき今まで攻勢だったのが転じて

ドリブルを仕掛けてきた。

自陣ゴール手前で守りを固めていた俺は…逃げた。…んだよ笑うな!


だが相手はゴールに構わず突っ込んでくる。

俺のことが好きなのだろうか。こののコートには男しかいないはずだが…。

AV女優の名前を全部暗記した俺もBLはよく分からないので困惑する。


どうゆうところが好きなのだろう。

無口なところ?女子の着替えを覗き見してるところ?どちらにしろ、男だろうが顔が良ければ射程圏内しゃていけんないだ。


顔を見ようと目を凝らしていると、迫ってくる相手の顔は絵の具でベタ塗りしたようかのように漆黒しっこくで、そもそもボールすら持っていなかったことに気付く。


辺りは時が止まったかのように動かない。


怖い。愛が恐怖に変わる瞬間だ。


これは現実なのか?


とにかく逃げよう!久しぶりにこんな走るな!ハァハァ…っもっと速ければなぁ!

神は万物を与えずと言うが何物も与えやしなかった神を恨んだ。さっきの感謝は取り消し!


既にコートから離れ体育館裏の扉に差し掛かる。


こんなのっ…ドッキリに違いない!でももうちょいおもろいやついただろ!ハァハァ…。


扉を開けた瞬間ダイビング!

これで撮れ高はバッチリ!


やっとの思いで着くと、非力な腕でいつもより重い扉を開く。


刹那せつな、俺は鳥になった。緩みかけていたズボン、ユ〇クロで買った480円のパンツと俺が宙を舞う。


そこには《ドッキリ大成功!》の文字の代わりにキスする寸前の陽キャ2人、絵に描いたようなバカップルの姿だけがあった。


衆人環視のもと下半身を晒しているが、羞恥心なんて微塵みじんも無い。相手がリア充なのはしゃくだが助けを求めよう。


「ハァッハァ…授業サボってイチャイチャしてんじゃねーぞゴラ!」⦅助けてください!⦆


相手に反応は無い。やはり時が止められているようだ。ただ、くちびるが触れ合う寸前のその一瞬はすごくえっちだ。


そして、俺を追いかけていたそいつは目の前までくると黒々とした炎を腕にまとい、俺の何かをかすめ取った。


息が切れる。呼吸音だけが辺りに響く。

何をしたのか分からない。何も考えられない。ただこいつ首元のまばゆい光だけは、目に、脳に、焼き付いていく。


見下ろしてくるこいつの顔は黒く染まっているが、嘲笑あざわらっているようだった。無性に腹が立つ。


回復していく意識の中、妙に股間に痛みが走る。あぁ…やだなw 嫌な予感がする。家族だから、理解わかるんだ。


四つんいになりながら恐る恐る確認する。そこにあるのは真っ赤な血だけ。俺のチ〇コは…


息が止まる。手元にある純白じゅんぱくの花を握り締めた。何故なぜそうしたかは分からなかった。


俺 は 家 族 を 失 っ た 。


その瞬間、落ちていった

幽幽ゆうゆうたるその空間は


声を求めて、落ちていった

まるであの夢のような


ゆっくりと、落ちていった

赫赫かっかくたるの花園へ


――――目が覚める。青が広がる。

雲一つ無い、群青ぐんじょうの空は、この世のものとは思えなくて。


途端、空には雲がかかり、涙という名の雨がこぼれる。


どうしてこんなにさびしいのだろう


空はみるみるくらくなる――――。


1話完

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