第3話 : Sが沢山ついてると強い風潮
ゴブリン討伐を失敗し、おこぼれをいただいたあの日から数日が経った。そして、生活はほんの少しだけ潤沢になった。
まず、服が買えるようになった。ボロボロの村娘の服とボロボロの女神の服から、新しめの村娘の服と新しめの村の主婦の服になった。それから、武器が買えるようになった。といっても、剣はクソ重いので持てるはずがなく諦めるしかなかった。あと、盾も筋肉がないので簡単に吹っ飛ばされて使い物にならなかった。ということで、最終的にはボウガンと矢を買いました。
これなら遠距離攻撃ができる上に引っ張る力があれば攻撃力もなんとかなって解決。おかげさまで、安全な位置から矢を撃ち続けるだけでモンスター討伐も少しはできるようになった。これで生活にはちょっと余裕ができたので、ようやく本来の目的である
「長かった!ここまでほんッとうに長かった!」
「大変でしたねぇ〜……」
「何回水を被ったことか、でもこれで野蛮人生活も終わり!ようやく人並みの生活ができるよ……」
「お金稼ぎもかなり済みましたね、
「そういうこと!ここら付近の地図は覚えてるんでしょ?」
「はい!とはいえ、この世界はいわゆる
「わかったわ。よし、それじゃあ最後の支度を整えて出発ね!」
「はい!」
そうして私たちは、最後の準備に取りかかった。荷物の整理や水と食料の確保、残りの矢の本数などを見てショップに寄る。時折ニンリアが荷物を倒して整理のし直しになったり、私が買う物の量を間違えて想像以上の矢が手に入ったりとなかなか大変だったが、何とか整頓自体は終わった。
数週間にわたってお世話になったクリーンの村とも、一旦おさらば。私たちは
「冒険者1!ノイ!」
「冒険者2!ニンリア!」
「冒険者…冒険者?酒場のおばちゃんで〜す」
とさせるわけにもいかない。ド迷惑だもの。
「さて、ニンリア。そろそろ行こっか?」
「そう……いえ、少しだけ探したい人がいます。」
「え?誰……あっ、もしかして……?」
「はい、アルフさんです。助けてもらったのに、お礼がまだできていません。もしノイさんさえよければ、クリーンの村を探してお礼をしてから出発しませんか?」
「うん、賛成。好きな物とか聞いとけばよかったね、お菓子あたりで喜んでくれるかな?」
「いいと思いますよ。あの子も言ってしまえば年頃の男の子ですし、肉屋で買える干し肉をちょっと食べやすくしてプレゼントとかもありだと思います。」
「お菓子じゃないじゃん?」
「いいじゃないですか〜、食べ盛りですよ、きっと。それに、料理できるアピールと色香で今世は彼氏を、なんてのも……」
「無理無理、私はモサい女なもんでー。」
……結局、ニンリアに押されるかたちで干し肉を買ってしまった。しかも、それを薄くスライスして何枚かに束ねて、飾り包丁、もとい飾りナイフで模様を作ったジャーキーを用意してしまった。こんな茶色の干し肉を飾ったって何になるって言うんだ。
私は、死ぬ前は料理ができるタイプの独身女性だった。包丁の要領で扱える大きめのナイフはとても便利でよかった、おかげで釣った魚を人並みにバラして食べることもできる。プロみたいな腕があったら、今頃店開いてるんだけどなあ……
あと、食べられるかどうかはニンリアに聞けばわかったのも大きい。混じった他の世界のことはわからないにしても、この世界のことなら管理者だったニンリアに聞くのは間違いではない。おかげで、毒草や毒魚を食べなくて済んでいる。
「できましたね!干し肉を買ういい口実ができてよかったです!これでプレゼントも保存食も用意できて一石二鳥……あっ」
「ニンリア?これ高かったんだけど……まさか、自分が食べたかっただけなんて言わないよね?ちょっと……お話しようか。」
「あっ……お手柔らかにぃ……」
その後しばらくして、宿屋からは絞られてくたびれた顔のニンリアと財布を眺めながらもの悲しげな表情をした私の姿があった。資金稼ぎ、またやらなくちゃ。
結局、もう1件依頼をこなすことにした。ギルドの職員さんに聞いたところ、受注証明の紙と達成の証になるものがあれば別の場所のギルドでも達成報酬が貰えるとのことで、これなら次の場所に移動しながら倒していけば補給もできるようになる。そんな理由もあって、冒険者ノイとニンリアは、ジャンピーラビット討伐の依頼を受けることになった。
ジャンピーラビットはその名の通り、とても高い跳躍力を持っているらしい。なんでも、1回で木々の枝に登ってしまうほどの跳躍力があるとか。そのおかげで発達した後ろ足は非常に食料としての汎用性が高く、討伐報酬には「後ろ足」という追加項目がある。
依頼も受けたので、私たちは改めてアルフを探し始めた。普段あまり気に止めていなかったクリーンの村は、改めて見ると本当に平和だ。モンスターも強くないから、人によっては簡単にモンスターの対処ができる。そんな安心感もあってか、人々はみんな温厚で優しい。柵を囲んだ畑やのどかな景観がとても心地いい。そんな中、遠くから木を叩くような軽い音が何回も響いているのが聞こえてくる。
プレゼント用に袋詰めされた飾り干し肉をたずさえながら、その音の方向に私とニンリアは向かった。木剣がぶつかる音が近くなるにつれて、村からは少し外れた大きな家が見えてくる。そして、そこにいたのは、あの時私たちを助けてくれた暗色の髪色の少年だった。
「アルフくん!」
「お前は……あの時の冒険者?」
「アルフ、彼女たちは……?」
「ああ、お父さんですか?初めまして〜!私たち、アルフくんに助けられたんです。私はニンリア、この子はノイです。」
「そう、だからね!アルフくんはお肉好きかなって思って……中身は干し肉だけど、ちょっと工夫してみたんだ。よかったら、食べてくれないかな?」
「え、あ……ありがとう。これは、模様?」
「そう!私が作ったの。本当はもっと綺麗なものにしたかったんだけど、ほら……保存も大変でしょ?」
アルフは驚いた表情でノイの方向を見ると、気丈そうに振舞っている彼女もこの時だけは少しだけしおらしく見えた。
(ナイスですね!いい感じに意識させちゃえば、今後はいい感じの味方になりますよ!)
(いい感じいい感じって……本当にこれでいいの?私、ちゃんとできてる?)
(できてますよ〜!大丈夫ですって!続けちゃってください!)
「前は、迷惑かけてごめん……でも、私もちゃんと対策したんだ!ほら、このボウガン……前に助けてもらった時のお金で買ったんだ。おかげでちゃんとモンスターも相手にできるようになったよ。」
「……そっか。お前も頑張ってるんだな。」
「うん。最初に助けてくれたからだよ、ありがとう。」
「いや、いいよ……俺は、俺が見殺しにしたせいで傷付くのが嫌だっただけだ。」
(ナイス!ナイスですよノイさん!これこそ青春って感じ、来てますよ!!!)
(えぇ〜……でも、ちょっと楽しくなってきた感じがする……)
(楽しんじゃってください!)
「じゃあ、私はもう行くね。色んな町を見て回りたいんだ。アルフ、本当にありがとう。」
「……その、ノイだっけ。嬉しいよ。頑張ってな。」
「アルフ。いい子じゃないか、あのノイという子。」
「礼なんていいのに……父さん、俺、もっと頑張るよ。」
「ははは、いいぞ!父さん、そういうの嫌いじゃない!なんなら父さんも似たような感じだったな…」
「父さん?」
「ま、お前も立派な剣士になるんだろ?守るものは多い方がいいな。」
「父さん!」
「そう困った顔をするなよ、はははは!」
結局、途中から楽しくなって思わせぶりな態度でふるまってしまった。まあ、こんな誘惑なんて言葉とは程遠いメガネ女の誘惑なんて気にしないよね。
「ノイさん……」
「なに?」
「いいでしたねえ〜〜!!たじろいで、恋愛に慣れない
「いや……元々は28だよ。」
「今は14ですから!」
「あ、うん……」
興奮するニンリアを片目に、ノイたちは改めてクリーンの村を後にした。依頼書を持ち、昼休憩を挟みながら行きがけにジャンピーラビットがいないか目を凝らし……そして、ノイたちは気付いたのだ。
「行き先が分からない!どこに向かってるの!?よく分かんないままついて来たけど!」
「え?ああ、言ってませんでしたね。この先には、『リッジ』という街があるんです。クリーンとは違い魔物が活発になっているんです。状況が少し違うので、冒険者ギルドが精力的に活動している街でもあります。」
「リッジ……そこに行けば、情報収集も捗るかな?」
「ええ。かなり捗ると思います!」
人呼んで、「冒険者の街」リッジ。たくさんの冒険者を輩出し、活発な魔物を討伐することで様々な産業へと役立てている、まさに冒険者の街と言うにふさわしい場所。ここでは、様々なパーティを組んだ冒険者たちが日々魔物の討伐に勤しんでいるんだとか。私の目的は冒険者として名を上げることではないので、深く冒険者ギルドに関わるつもりはない。けれど、否が応でも関わることになるんだろうなって思ってる。だって、冒険者登録しちゃってるんだもん。
絶対、「よぉ!新入りがこんな所で何の用だ!?ガキはそこのママの胸でも吸ってな」……みたいな感じになるに決まってる!かといってニンリア1人放り込んだらスタイルのいいお姉さんに食いつく悪い冒険者のナンパの餌食になって最悪の展開だ!どうしたらいい!?私たちはどうしたら無事に帰って来れる!?
「どうしようもないんですけど〜〜〜!!!!」
「わー!なんですか急に!」
「うわっ!?どうした!?」
「誰!?」
1人で考え込み、そして1人で叫ぶ変人に驚いている女神もどきの隣にいたのは、赤髪と赤い瞳、そして黒のファーコートと腰から杖を下げている男だった。見たところ若いようには見えない。ただ、それでいて歴戦の雰囲気を持っている。どんな素人でも一目見てわかる、「圧倒的な強者」の姿だった。首からはギルドの紋章をかたどったネックレスを下げ、堂々とした佇まいでそこに立っている。
「あ……ごめんなさい。この先の街で情報収集をしようと思ったんですけど、冒険者ギルドに入るのは怖くて……」
「ああ……確かに、冒険者上がりの中にはゴロツキや素行が良くない者もいる。君たちは女性だから、そういった輩に狙われてしまうのも無理はないだろう。申し訳ないが、お世辞にも強そうには見えないし……」
「ええ、まあ……私たちは冒険者登録こそしていますが、生活を間に合わせるためにしているので本職ではないですし、そういうことに巻き込まれるのも……」
「そうか、冒険者……ならば、どんな理由があろうと冒険者には礼儀に倣って自己紹介をさせてもらおう。我が名はヴォルガ・ラクス!パーティ『
「「ランクは?」」
「SSSSSSSSSSSSSSS……」
(多ッ!)
(長くないですか?)
「SSSSSSSSSSSSSSS……」
(長いわね、これいつまで続くの?)
(どれだけ強いんでしょうね?)
「SSS……はぁ、はぁ……SSSSSSSSSSS……」
(疲れてる)
(今日の晩ご飯、お肉がいいですねぇ……)
「SSS……だ!えーと……Sの数は47だったかな?冒険者ギルドでは、武勲を上げるとランクが上がるんだ。ただ、最近は頼られっぱなしでね……」
「えーと、どういうことなの……?」
「ああ、初めはみんなそういう反応をする。すまないね、説明するよ。」
ヴォルガの説明によると、ギルドでは功績を上げると冒険者の証であるカードに刻印が押され、ランクが上がるしくみになっているらしい。そして、最高はSランク。ただ、それ以上の武勲を上げた者や戦いに貢献した者はその功績を讃えてSの隣にもう1つSが付くのだそうだ。つまり、ヴォルガのパーティはとても強い。それこそトップパーティということになる。
ただ、本人はそれをあまり好いていない様子だった。武勲を上げ続けた、というより、ギルドからの要請に応え続けた結果、Sの隣にSが増え、さらにその隣にSが増え……という事態になったそうだ。
「邪魔くさいんだ、冒険者は自分の強さや立場を周りに適切に知らせるためにランクを言うんだが……その度にやたら長い言葉を延々と綴らなくちゃいけない!Sは47個って言っても伝わらないんだ!それってどれだけ強いんだ?じゃないんだよ!俺疲れたよ!全部言っても『Sがこんなに!?』ばっかりだ!だったらSは47個でも伝わってくれ!」
「あー……ヴォルガ、さん?あんたも苦労してるのね……」
「ううっ、他人に、しかも子供に……こんなことを言うものではないんだが……冒険者、やめたいんだ……でも俺はもうパーティ単位で目立ちすぎて今から辞めようものなら周囲からとんでもない眼差しで見られて過ごせたものじゃない!どうすればいいんだ……掲げ上げられるのも勘弁してくれ……長く冒険者してるだけで、俺だって、俺だって一般人みたいなものなのに……」
「あの……」
「あー……取り乱してすまない……何の用だったかな?」
そうして、ようやく本題に入った私たちはそれが世界の
ヴォルガには、ギルドに行ってそういう情報を得てきてほしいとお願いをすると、彼は快く了承してくれた。やはり、こういう上に行く人達は困っている人を放っておけないのかもしれない。
「よし、行ってくる。君たちは、ギルドの近くの宿か何かで待っていてくれ。この先を真っ直ぐ行けばリッジという街があって、ギルドのある通りに宿屋も一緒にあるからな。1階は自由に使えるんだ、だから待っていてくれ。」
「うん、わかった!」
そうして先に走り去ったヴォルガの後ろ姿を見たのち、私たちは顔を見合せた。ずっと上の存在でも、苦労は絶えないんだと……なんだか、同情した。でも、それが面白く感じて2人で笑ったりもした。
私たちもリッジの街に向かうことに……いや、その前にやらなくてはいけないことがある。
「ねえ、ニンリア。」
「なんですか?」
「ジャンピーラビット、狩らないと!私たちの今日の宿代ないよ!?」
「あ……!忘れてました〜〜〜!!はやく行きましょう!!!」
こうして私たちは、新たな街と面白そうな人に出会った。これからは街で情報を集めながら活動する。しばらくはこのリッジの街を拠点に、世界の
出発前に道具は整えてるんだし、頑張りますか!
混沌世界生活 進捗3 : クリーンの村を出て、リッジの街へ向かった
転生は女神の尻拭いから始まる 別状 @bets_
★で称える
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