第2話 : ノーコンティニュー専用なので

「ねぇ……ノイちゃんなんで口聞いてくれないの〜……」

「ねぇ……ねぇ〜〜っ……」

「うるさい!まずはその服と体なんとかしてよ!」

「え?この服も体も自前ですよ?」

「洗えっつってんだよ!」


 異世界転生。最強スキル、類まれなる才能、特殊な能力といった「特殊なことがら」が付与されることが多い。しかし、私はそのような特殊能力を持っていない。なぜなら──


「そんな特殊能力、あるわけないじゃないですか!なんなんですか?天を裂き地を砕き山を吹き飛ばしてドラゴンを瞬殺!みたいな能力を所望する方、最近多いんですけど……」


この女神は、現代に疎いのだ。


「いやあ、ノイちゃん!それにしても銭湯って最高ですね!湯って素晴らしいですね!」

「銭湯では静かに、潜るのも禁止。泳ぐなんて絶対ダメだよ。」

「わかってますよ、それくらい。久々のお風呂に興奮しちゃっただけです。ふだんは案外落ち着いてますから」


 結局、天から落ちてきたニンリアは神界に戻るために神々の説得を試みるもその評価は覆らなかった。天上の神々曰く、「自分の落とし前は自分でつけろ」とのこと。至極真っ当である。遥か空から降ってきたこともあって、その土煙や泥のしぶきでニンリアはもちろん、私までドロドロになった。ニンリアはともかく、私が泥だらけになっているのには納得がいかない。そんな理由で、私とおまけは先程から湯船に浸かっている。


(ニンリアはともかくってなんですか!?私のことはどうでもいいんで……ゴボゴボ……)

「どうでもいいです」

「ぷはっ!そんなこといわないでくださいよ!ちょっと潜ったからって頭沈めるのも反則です!バッドマナー!」

「はいはい、静かにね」

(なんだろう、既にノイちゃんに適当にあしらわれている気がする……私ってそんな頼りない?)


 そうして2人は一風呂浴びて、バスローブ姿で牛乳を一気飲み……たまらない。なぜ牛乳や銭湯は現代で知り得る見た目そのままなのか?それを気にしてはいけない。風呂を持たぬ者の最高の救いであることが、既に存在理由としては十分すぎるものだと思う。……ただ、気になるものはたしかに気になる。酒場のマスターは「風呂は樽に水を入れてかけ流すんだよ」と言っていたし、そんな世界からすればこの銭湯もオーバーテクノロジーのひとつだ。


「ねえ、こういう文化……というか施設って、神が持ち込んでるんでしょ?これを持ち込んだのって誰なの?」

「うーん……実のところ、神も世界が増えるにつれて新しく人を雇ったり、元々人間だった者が新入りの神として活動をすることも多いんです。」

「えっと……?」

「ですので、私も全てを把握している訳ではありません。この温泉を持ち込んだのが誰なのかまでは、ちょっと……一応検討はついているんですけど、あまりにも不確定なので意味は薄いかと。」

「なるほど。あんたじゃないんだ?」

「違いますね。他の神が干渉していることは間違いないと思います。」


 やはり他の神々がこの世界には存在し、この女神のように神界から突き落とされたというわけではないにしても知恵を授けているのは間違いないらしい。転生の神というのは、そんなに多くいるものなのだろうか?


「ええ。最近死傷者がぐっと増えまして、転生者を導くための人手が足りないのです。ですので、それを解決するために転生の神が増えたのです。天啓を授けているのは私ではない別の転生の神ということになります。」

「じゃあ、あんたはその中でも……」

「なんですか」

「星1評価の積み重なったポンコツってわけね……」

「イヤ〜〜〜!!!もうポンコツって言葉は聞きたくない!次言ったら私の!神の!神の暴力が!炸裂するから!」

「ポンコツ」


 その刹那、私の視界を埋めつくしたのはニンリアの拳だった。それはなんとも美しい右ストレートで、私の顔に命中しそのまま振り抜くその姿はまさに格闘家のよう。中心を完璧にとらえた拳が命中すると、私の顔面と首は悲鳴をあげるようにきしんで、どうやら曲がってはいけない部分までいってしまったらしい。

 私の意識はそこで薄れて、ぼやけた視界から見えるのは遠く離れていくニンリアと空ビンだけだった。

いや、本当に殴ると思わないじゃん。


「…きて……さい……」

「おきて……さい……」

「起きてくださーーい!!!!!」

「ギャーー!耳壊れるッ!!!」

「あれ、生きてる……?」

「おはようございます、ノイさん。言ったでしょう?私、回復魔法が扱えるって。強く殴りすぎたのは謝ります。ですが、私だって傷つくんです。鋼のメンタルがあればよかったんですけどね。」

「……ごめん。私も言いすぎた。嫌なことを言われたら傷つくって、子供でも知ってるのにね。調子に乗ってたのかな……」

「ふふっ……」


 ニンリアはなぜか嬉しそうに私の頭を撫で回した。医務室のベッドで横になっていた私は上体を起こし、首や顔を軽くさすってみる。しかし、なんの違和感もないことに気付いて、やはり、神だけあって能力や才能自体はかなりのものなのだろう。正直、羨ましいとも思う。だが、今回は私の自業自得。今は悪口を言われたのにも関わらず、きちんと治してもらっていることに感謝しなくてはならない。


「私、今までいろんな人を異世界に送ってきました。ですが、きちんと反省し、相手を想い、ちゃんと謝ることができる。そんなことができる人は多くないのです。謝ってくれてありがとうございます、ノイさん。私、あなたを許しますよ。」

「……ありがとう。気をつける。」

「多少ならいいですよ!私も自分がポンコツだと知っているので。でも、本当に嫌な時は嫌と言いますから。そうでない時は、普段のあなたでいてくださいね。」

「うん……」

「体調は大丈夫そうですか?問題なさそうなら出発しましょう。忘れてませんよ、『お金稼ぎ』するんでしょ?」

「うん、そうだね……よし、大丈夫!行こう!」


 ニンリアには悪いことをしてしまった。また、世界の核を見つけて修復する理由が増えてしまった。でも、やると決めたのだから。冒険者ノイ、気合い入れていかないと!


「そうですね!気合い入れていきましょう!」


……度々思っていたけど、ニンリアには私の思考が読めるのだろうか?


「そうですね、読めますよ。」

「え?マジで?今までのこと全部?」

「はい、ウィンドウが出てますよ?」

「え?」


[なにコレーーーーーーッ!?!?どうやって切るの!?今まで全部筒抜けだったってこと!?]


 聞き馴染みのある単音の連続、真っ黒な板に電子的な文字の打ち方。レトロを想起させる「あの感じ」だ。私の思考はこの板を通じ、酒場のマスターにも……筒抜けだったのである……

 転生者リングであることがバレました、はーい。影響は知りませんけどー。たぶんなんもないと思うけどー。この銭湯の番頭さんにも泥だらけで受付とか早く済ませて風呂入りてーって思ってたのバレてるよ〜、泣いちゃうよ〜。


「そうですねー、筒抜けでした。ま、番頭さんにも同情されちゃいましたし。」

「あれってウィンドウ見てたからなんだ……」

「設定、切れますよ?切っときます?」

「切っといて!」

「わかりましたー。」


 ニンリアが指を弾いて軽く音を鳴らすと、なにかのスイッチのような音が辺りに響き渡る。やたらと軽いその音が響いた後、ニンリアは「これで問題ないはずです!」と言うので、適当に悪口を考えてみた。

 ……ニンリアはニコニコしているし、本当に見えていなさそうだ。


(ウィンドウは見えてないけど、あなたをこの世界に遣わせた神としての力があるからその悪口も見えないわけじゃないんですよねぇ……どっちかって言うと思念の盗み見みたいなものですが。)

「ねえ、ウィンドウ見えてる?」

「いいえ。私からは見えませんよ。」

「よかった……これであんなことやこんなことも考え放題だね……」

「ノイさん?」

「な〜〜んでもないです!さあ、お金集めを!お金集めをしましょー!」

「はぁ……」


 医務室でバスローブ姿の冒険者が2人。銭湯に入って体を綺麗さっぱりに洗い流したのはいいが、問題はまだ山積みである。


「まず服!服の新調!泥だらけの服で過ごせるかって話よ!それから旅支度のための資金集め!そして帰る拠点……になりそうな場所!旅は長いだろうから、ニンリアの力でいくつか場所を見繕って……」

「無理ですよ、私は元々、緑星世界グリーンコスモの管轄ですから。緑星世界の地形しか把握していません。なので、融合した他の世界に足を踏み入れる際は地図を手に入れるべき!です!」

「えぇ……いや、そっか。神ってひとつの世界に1人、だったよね……」

「そう、だから私は知らないんです。ちゃんと見ていくしかないんですよ。」

「そっか……よし、行こう。特にお金に関しては早くやらないと!薬草なんて早い者勝ちだからね!」

「ちょっと、その点でひとつ……」

「?」


 ニンリアが持ちかけてきたのは、モンスター討伐の話だった。作戦は投擲物を持ち込んで、遠方から石を投げてモンスターを仕留めるというもの。ただ、私の体は強くない。その身体能力は一般的な14歳の村娘と同程度だと思ってくれていい。そこで木くずを組み合わせてパチンコのような攻撃手段を作り、ニンリアの投石を援護するというもの。うん、理にかなっていると思う。

 そのために、私たちは川で服を洗い、乾かしている最中に木を集めてせっせとパチンコをつくったり、石を集めたり……着実にモンスター討伐のために準備を進め、数日が経過した。


「できた!できたーー!!」

「イェーーーイ!!!拍手!ハイタッチ!投石!」

「ダメだよ!」

「あだぁ!ノイさんやめて!」

「でもこれで、モンスター討伐に行ける!」

「服も買えますね!」

「銭湯にも入れる!」

「もう冷たい川の水浴びなくていいんですね!」

「宿にも泊まれる!」

「草を重ねて枕にしなくていいんですね!……あれ?でもノイさんって酒場のマスターに気に入られてますよね?頼めばよかったのでは?」

「……あ。」

「しっかりしてくださいよーーーー!!!」

「ごめんなさーーーい!!!」


 そして、暫くの時間が経った。朝方に目覚めた2人が村のギルドに着く頃には、既に太陽は真上に強く照っている。


「いらっしゃいませ!ようこそ、こちらはギル……ド……で…………」


 そこでギルド職員が見たものは、絞った跡がいくつも見られる服を着た、水が濡れて乾ききらないメガネの娘と同じようにびしょびしょになった長身で美しい体と白髪を持った美女……なのだろうが、今の様子は目が死んでいて到底美女だとは思えなかった。くたびれた残念美人にしか見えない。2人の髪の毛からはぽたぽたと水がしたたって、床に水溜まりを作っている。


「あの……依頼……受けに来ました……」

「ゴブリン討伐を、お願いします……」

「え、あ、はい……少々お待ちくださいぃ……」


 バタバタと逃げるように走り去ったギルド職員を見て、2人は顔を合わせて首を傾げる。


「なぜだろう。問題があったのかな?」

「なんでだろうね。何がいけなかったんだろうね。」

「「うふふふふ。」」

「お持ちしました、よ……うぇ……」


 明らかに嫌な顔、間違いない。そして、それが仕方がないということもわかる。全身ずぶ濡れな服や紙を無理やり絞ってから、私たちは今この場所にいるのだから。ギルドに向かうまでの間に何があったのか、それは災難の積み重なりだった。

 ぬかるみを走る馬に泥をかけられ一難。ぬかるみで緩んだ足に転んで二難。そして、再度川で水浴びをして三難。ゴブリンの活動時間は基本的に昼のため服を乾かす時間が惜しいと2人でかけだして、このギルドにいる。ギルド職員には迷惑をかけてしまったようだが、まあ……災難のおすそ分けだ。


「あの……水で破かないようにだけ……お願いします。その紙に記録をするのもギルドの仕事ですから。」

「はい……行こう、ニンリア。」

「そうですね。」


 まっすぐに水の跡と冒険者の視線をつけて、2人は冒険者ギルドを後にした。その足で風に体を震わせながら、ゴブリンが出没する森林へと向かった。たまに吹く穏やかな風も、今だけは恐ろしい。

 事前に隠しておいた石とパチンコをそこらに転がっていた布に包んで、2人は顔を見合せた。この恨みつらみは全てあのゴブリンたちにぶつけて解消してやる!悪いが憂さ晴らしになってくれ!


「さあ、ゴブリンども!」

「私たちの今晩の宿代になってもらいますよ!」


 さあ、討伐作戦開始だ!私たちはここでゴブリンを一掃して、草に寝っ転がりながら魚を釣る生活から逃げ出してやるのだ!毎晩毎晩宿屋のマスターに泊めてくださいとお願いし続けるのも迷惑をかけてしまう、私にも矜恃というものが……!


「わがパチンコの力、とくと見──」


「あっ」

「えっ?」


 その瞬間、石を引っ張るゴムの部分から根こそぎ枝が折れたのだ。ばきりと音を立てて折れた木くずと石は地面に転がって、そこには小さな棒を構える変人村娘と驚愕している一般女神だけが取り残された。


「えっと……これ、もしかしてやばい……?」

「ですね」


 ゴブリンは決して待ってはくれない。向こうからすれば、自分を倒そうとしてきた敵なのだ。威嚇するように1匹のゴブリンが吠えて、それに感化されるようにほかのゴブリンたちが森の中からぞろぞろと現れてくる。

 それらはこちらに敵意を剥き出して、地面に生える雑草を踏みならしながらその足で走り出した。標的はもちろん、ノイとニンリアである。


「ヤバい!逃げよう!」

「我ながらいい作戦だと思ったんですけどね〜…」

「落ち込んでる暇なんかないでしょ!?」


 なんでこの女はこんなに余裕そうなんだ!体がデカいと心まで大きくなるのか!?私の体が貧相だからこんなに危機感を感じてるのか!?


「走ろう、とにかく村まで逃げよう!そこまで行ったら多分大丈夫だから!あと、この世界、やっぱり死んだら終わりだよね!?」

「当たり前じゃないですか!転生者リングはゾンビじゃないんです!蘇生魔法なんてふざけた魔法がある世界もあるようですが、少なくともこの近くにはそんな場所ありませんよ!」

「まぁ、女神たる私は死んでも魂となり再び神界に帰還できるのですが……」

「ズルっ!なんか余裕だと思ったらそういうこと!?」

「ふふ、私は神ですからね!魂は天に昇り再び同じ世界に返り咲くのです!」

「じゃあ神界じゃなくて混沌世界に帰ってくるだけじゃない?」

「あ」


自分の発言の矛盾に気付いたようだ。


「じゃあ死んだら意味ないじゃないですか!ゴブリンの慰み者なんて嫌ですよーーー!あぁ〜っ、誰か助けてぇ〜!」

「あんたなんなのよ!?」


 村からこの森までの距離はそこまで離れておらず、全速力で走ればなんとか間に合う……といったところ。距離にするとおおよそ2kmほど、ノイの体では走って10分くらいだ。しかし、問題は体力が持つかどうか。運動がお世辞にも得意というわけではないノイが、何分持つのか?というところにある。


「でもヤバいって、全速力で走ってたらもたないよ!もう、ちょっと、しんどくなってきた!」

「えーっ!?早くないですか!?もうっ、仕方ないですね!」

「ちょっと!?何を……うわあああああっ!?」

「よいしょっと……さあ、走りますよ!」

「えっ!?あんた運動できるの!?」

「ノイさんよりはできます!私も得意じゃないですけどね!」


 走りながらニンリアはノイの腰に手を回し、一気にノイを持ち上げる。ノイとニンリアは子供と大人、その身体能力も差が大きい。

 お姫様抱っこの要領で持ち上がったノイの体は簡単にニンリアに捕まって、気付けばノイはニンリアになすがままとなった。


「あっ……」


 私を担いだその姿が、なんだか、とても頼もしく見えた。たまに見える真面目で必死な顔が女神であるということを納得させる美しさを伴って、私の目をとても惹き付けた。知り合ってまだ短いが、そんな顔ができるなんて思っていなかった──


「あぁ!もう限界!ノイちゃんはこんなに軽いのに、私も衰えたなぁぁ〜……」

「まだ3分も経ってないわよ!?」


 いや、やっぱり見間違いだったのかもしれない。


「ふー……へぇ……私、500超えてるから……古参の転生の神だから……ぜぇ……」

「そういう問題じゃなくない!?どうせ観察にかまけて運動とかろくにしてこなかったんでしょ!」

「うぐぅ!あぁぁ……ゆるしてぇ……」


 図星だったらしい。


「いや違う!どうするの!?すぐそこまで来てるって、走らなきゃ!」

「そんなこと言われたって!ヘトヘトで走れないですよ〜〜!あ〜〜〜!!!誰かぁ〜〜〜!!!」


 木陰を走る音。騒ぐ2人には聞こえないほどの静かな足音が地面を蹴っている。


「ひぃ!?こっち来てる!あんな棍棒で殴られたら一撃でやられちゃうんじゃないの!?」

「ノイさんは間違いなく一撃ノックダウンですね!私の拳でもダメなんですから。」

「いや〜〜……あれはね……じゃないって!」


 丁寧に、音を立てないように腰から下げた長剣を引き抜く。その影は背後から忍び寄るように剣を振り抜いて、群れの最後尾から切り進めていく。


「ヤダーー!!!殴られる!殴られる!もう無理ぃーーッ!!!」


 ノイの目の前までゴブリンが近付き、その棍棒を振り上げる。それが振り下ろされようとした刹那、ゴブリンの腹から肩にかけてを両断する一太刀が入った。その剣筋は愚直な程に真っ直ぐで、すぐにぐらりとゴブリンの上体が揺れて地面に倒れ込む。とっさに目を閉じていたノイはゆっくりとその目を開くと、その瞬間に視界に入ってくるのは赤黒い液体だった。ドクドクと溢れる血がノイの足元まで広がり始めて、ノイは慌てて尻もちをついたまま後ずさった。


「……大丈夫か。」

「ええ。おかげさまで。助けられてしまいましたね、はじめまして。私はニンリア、あの子はノイ。訳あって旅をしているの。」

「大変だな。なぜゴブリンに追われていた?」

「ギルドの依頼をこなそうと思って作戦を立てたんだけど、失敗しちゃって……お金も筋力もないから武器が取れないんです。」

「魔物を相手にするのは危険だ。金がないんだったか、手柄はお前たちにやる。ただ、次から魔物を相手にする時はちゃんと装備は整えろ。丸腰で挑んでいい相手じゃない。」


 暗色の髪色をした青年の表情は、あまり良い感情を表しているわけではなさそうだ。そこまで裕福な格好をしているわけではないあたり、後ろに見えるクリーンの村の剣士見習いというところか。

 ニンリアが視線を後ろにやると、そこには狩り尽くされたゴブリンの群れだったものが転がっている。見習いと言えど、きちんと修練を積んでいるように感じた。


「強いのね。ノイ、こっち来てお礼言わないと。」

「あー……えっと、助かりました!ありがとうございます!」

「いや、礼はいいよ。叫び声が聞こえて何事かと思ったら……ゴブリンの群れに襲われてた。びっくりしたよ。」

「「あはは……」」

「俺はもう行くよ。父さんの稽古に遅れちゃう。じゃあな、次はこんなことするなよ。」

「うん、気をつける!」

「そうですか……名前だけ最後に聞いてもいいですか?」

「アルフ。ルドリア・アルフだ。」


 そうしてアルフはそのまま村へと走っていってしまった。目の前に残されたゴブリンの群れだったものを残して。その赤色にはまったく慣れないが、手柄をくれると言っていたしこれで帰れば討伐されたことになるのかな……?

 この世界の討伐された魔物の扱いが分からずたじろいでいると、ニンリアがゴブリンの頭を持って近付いてくる。


「ノイさん。この世界の討伐の証は、モンスターの一部やその素材を持ち帰ることです。」

「え、まさか!?」

「はい。持ち帰りましょうか、耳。」

「やだぁ〜〜〜!!!」

「これも嘘偽りなく認めてもらうための正当な手続きですよ。」

「うぅ……」

「あぁ、それと。ノイさん、私たちの関係は、周りから見れば大人と子供のような扱いになるはずです。ですから……」

「子供のフリしてたほうが都合が良くなる、と?」

「はい、そういうことです。ついでに言うと大人を騙せるあざとさが欲しいですね!」

「地味メガネにそれを言うかな……まあ、得になるなら頑張ってみるけど……」

「ふふふ、お願いしますね。」


 私たちはゴブリン討伐に失敗した。本当ならこの世界のエサになっていたんだ。それを運良く救われて、私たちはなんとか生きている。異世界を舐めていたんだと言われれば、たぶんその通り。浮かれていたんだ。


次からは準備は怠らない。私はそう、強く思った。


混沌世界生活 進捗2 : ゴブリンのクエストをクリアした

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