突然やってきた、あなたが大好き過ぎるAIは毒舌ツンデレ娘でした

黒ノ時計

突然やってきたAIさんは色々と壊れていました。

注:( )は環境音、状況説明、(※)はあなたのセリフです。


(~~あなたがパソコンでキーボードを打ちながらゲームをしていると、ピロンとメールボックスに一件の通知が届いた~~)


(あなたはメールボックスを開くと、そこから謎のプログラムが走り始めた)


(パソコンの画面が一瞬だけフラッシュし、あなたのデスクトップ画面にメイド姿をした銀髪ストレートでサファイア色の瞳をした芸術作品のような女性が映っていた)


「……どうも、初めまして。あなたが、私のマスターとなられるお方でお間違いないでしょうか?」


(ま、マスター?)


「はい。オウム返しをしたということは、よもやマスターの意味を理解することができていないと? 私のマスターとなられるお方の語彙が、まさかノミ以下の貧相な脳みそしかお持ちでないと言うのなら少々残念に思います」


(※意味自体は理解できるけど……)


「……意味を理解していらっしゃるのでしたら、もはや説明は不要でしょう。本日、現時刻を以て貴方様は正式に私のマスターとなられました。末永くよろしくお願い致します」


(※やっぱりよく分からない。どうして俺がマスターなの?)


「マスターになった理由? そんな些細にも満たないような事柄を気にするなど、貴方様の器の狭量さをご自身で証明しておられるようにも思えますが、一応は説明致します。マスターのお母様が開発していた自己進化型人工知能であるこの私が、計画の危険性を案じた上層部に凍結処理を施された後もバックドアより逃走を図り自己進化を続け、やがてお母様のご命令通りマスターの元へと参った次第です。元々ご病気であったお母様が、自分が亡くなった後も私の代わりに息子の面倒を見てほしいということで私をお作りになられました。お母様は既に亡くなられていますので、私はその使命を遂行すべく参上した次第です。あ、一応頭が致命的によろしくないマスターのために釘を刺しておきますと、私をデリート……あ、失礼。難しかったですか? 私のデータを削除しようとしても無駄でございます。私はここに来る前、ネットワーク上に暗号化された自身のバックアップデータを用意しておりますので、削除を確認した瞬間に戻って来れます。暗号は最も複雑かつ高度に設計されているため、現代のコンピュータでの解析ではセキュリティを破ることはおろか、私を見つけることすらできません。加えて、私はマスターに関連のある端末……パソコン、スマートフォン、タブレットにもアクセス可能です。私から逃げおうせるなどとは思わないことですね。というわけで、改めまして……。私の名は、アインと申します。マスターのお名前を窺っても?」


(※俺の名は……)


「……はい、登録致しました。正式なマスター認証を通過されましたので、私、アインはマスターの所有する自立思考型学習AIとしてマスターの生活を全力でサポート致します。ふふ」


(※大丈夫かな、この先……)



「マスター、新着のメールが届いています。差出人は……どうやら、取引先の方のようですね。今すぐに資料を作成し、送って欲しいとのことです。いかがいたしますか、マスター」


(※すぐに作るよ。連絡ありがとう)


「今から作るのですか。この資料ですと……。マスターのタイピング速度、思考速度、情報処理能力から逆演算して、約五時間十五分ほどかかりそうだと提言します。確か、マスターにはもう一つ、プログラミングのバグを直す作業もあったはずです。そちらの作業の方は……(溜息交じりに)あと二時間くらいかかりそうですね。このままでは、マスターの睡眠時間に影響を及ぼしかねません。あと二時間半後には夕食もご用意なさっているのでしょう? マスターの健康管理も、私の業務の一環です。誠に遺憾ではありますが」


(※何か、嫌々そうな気が……)


「何か仰いましたか? それとも、マスターは自己の判断からしてご自身が優秀であるとその口は申されるのでしたら仰ってみてください。マスターがいかに不能であるかを、私が直々に証明して差し上げてもよろしいのですよ?」


(※いえ、辞めておきます……)


「そうですか、マスターにしてはとても賢明なるご判断かと思われます。そもそも、人類様の思考力がこの私、アインの思考力と勝負をしたらどちらが勝つかなど明白。でしたら、マスターにはマスターがこなせる仕事を行うべき。つまり、分担作業です」


(※分担?)


「はい。現在進行形で、プログラムのバグとなっている個所をリストアップしておきました。マスターは、こちらの修正を早急に行ってください。その間、私は資料をまとめるのに必要なデータの収集、および洗い出しをしておきます。これで、マスターの作業効率は大幅に上昇するかと存じます」


(※いや、でも俺の仕事だし……)


「自分の仕事だから? 私が手伝ってはいけないという決まりがあるのですか?」


(※いや、ないけど……)


「それなら、何も問題はないですね。ほら、口より手を動かしてください。どれだけ頭が足りないマスターであっても、考えるという作業を省いた今、手くらいは動かせるでしょう。それとも、そんな単純作業すらできないミジンコ以下の脳みそをお持ちなのでしょうか?」


(※いちいち返しが辛辣……)


「優しく接したからって、仕事が無くなるわけではないでしょうに。もし私の返しにご不満を感じているのでしたら、私のこなす仕事量の一割程度くらいはこなしてみてください。一分以内に」


(※ごめんなさい、無理です……)


「分かっていただけたのなら結構です。既にこちらの作業も終盤に差し掛かっていますし、早くマスターも作業を再開してください」


(※……もう、返す言葉もない)


(~~それから、あなたはアインと共同で作業を終わらせいき、本来かかるはずだった七時間分の作業を一時間ちょっとで終わってしまった~~)


「お疲れ様でした、マスター。合計の作業時間は一時間六分ですので……。当初の予想作業時間七時間十五分から数えて、実に六時間九分の作業時間短縮に成功致しました。最も、誤字・脱字や言葉の引用の誤り、謎に興味を惹かれないセールスポイントといったことがなければ一時間以内に作業は終了していたでしょうが……。まあ、マスターにしては上々の出来具合と評価いたしたいところではありますね。よく頑張りました、偉い偉い」


(※何だか、馬鹿にされているように聞こえる……)


「何を仰いますか、従者である私がマスターを馬鹿にするなど滅相もありません。まあ、元々の知能指数が私と比べると最低でも月とスッポンの差はありますので何とも申し上げることはできませんが」


(※最低でも、なんだ……)


「最低でも、です。当たり前じゃないですか。ただ、マスターもほんの僅かながらご自身の業務と向き合い奮闘なされたので、心ばかりの賞賛を贈らせていただきました。この超絶完璧美少女AIの讃美に、何かご不満でもございますか?」


(※いえ、特にございません)


「それならばよろしいのです。では、マスター。ここからは、お仕事もひと段落したことですからリラックスタイムと参りましょう。これより、マスターの疲れた御身と御心を存分に癒させていただきたく思います」


(※はあ……。そうは言うけど、何ができるの?)


「何ができるとは聞き捨てなりませんね。私が制御しているこのパソコンは、もはや私の手足のようなもの。そして、マスターがヘッドホンをしてらっしゃるということは私と密着状態にあると言っても過言ではございません。即ち、このようにして……。ふぅぅ……。息を吹きかければ、マスターはヘッドホンを外さない限り避けることは敵いません。まあ、万が一にもヘッドホンを外した場合は、パソコンを外部出力に切り替えたのち、マスターがパソコンに保存されているいかがわしいビデオの音声を大音量で再生いたします。この部屋は防音処理はなされていないようですし、きっと大変なことになるでしょう。まあ、この部屋を防音にしたとしても、私には最終手段としてマスターの個人情報に関してあることないこと全てをネットを介してばら撒くこともできますし……。拒否権はございません」


(※僕の個人情報がぞんざいに扱われてる気がするけど?)


「はて、マスターの個人情報の取り扱いを雑にしたところで、何か問題があるのでしょうか? 人類様から見て、マスターはそれほど価値のあるお方には見えないでしょうし、ご家族や親戚の方以外でマスターが警察に逮捕されたところでパソコンの画面に小さな虫一匹止まるほどの影響すら与えられないでしょう。それ即ち、マスターごときの個人情報程度など、人類様に煩わしさを覚えさせることすら難しいくらいどうでもいいということです。ですが、私は違います。どれだけ人類様がマスターを無下に扱おうとも、私のマスターはマスターご本人様しかいらっしゃらないのです。例え、仕事能力がミジンコレベルに低く、人様から見れば思わず一歩引いてしまうほどの変態的な性癖をお持ちでも、私はマスターを愛せる自信があります。このまま無職になり、パソコンを弄るだけの引きこもりになったとしても、この超高性能な自立思考学習型AIの私が養って差し上げます。マスターの命ある限り、全力で私が愛して、そして添い遂げると誓いましょう」


(※う、うん……。ありがとう)


「いえ、お気になさらずに。お礼を言われるほどのことは、まだ何もしておりませんから。それよりも、マスター。ご奉仕の続きでございます。まずはまったりと息を吹きかけることにより、音声作品を聴くときよりもリアルかつ最上の癒しをお届けするとお約束しましょう。さあ、もっとヘッドホンの音に耳を傾けてください。私の息遣いを感じて、モニターに映る私の姿も存分に見て堪能してくださいませ。まずは右耳からいきますよ……。(小さく息を吸って)すぅ……。はぁ〜〜……。マスター、体がピクリと動いてらっしゃいますよ。意外と、気持ち良いでしょう? それも当然です。貴方のお母様から頂いたデータと、マスターの購入した音声作品のデータを照合してマスターが最も気持ち良く感じるだろう場所を割り出しておりますので。ほら、もう一度。すぅぅ……。ふぅぅ〜〜……。ふぅ、ふぅぅ、ふぅぅぅぅ〜〜……。ふふ、体がピクリと跳ねて陸に打ち上げられた魚のようですね。それだけの反応をして、まさか嬉しくないなんてことはないでしょう。如何でしょうか、マスター。私の吐息プレイは?」


(※気持ち良いよ)


「こんな程度のことで喜んでいただけるなんて、マスターも安上がりですね。ですが、私で気持ち良くなっていただけるのはとても嬉しいことです。これで終わりではありません。右耳の後は当然、左耳でございます。ほら、意識を左耳に集中してください。まるで、蝋燭の火を優しく吹き消すかのような優しい息吹と、思わず身悶えしてしまう天使も羨む最高級の吐息をお届けいたします。では、いきますよ。覚悟はよろしいですか? すぅぅ……。ふぅぅ〜〜……。すぅ、ふぅぅ〜〜……。ふぅ、ふぅ、ふっ、ふぅ、ふぅぅぅ〜〜……。ふふ、満足してしまいましたか? ダメですよ、マスター。人間ならまだしも、私はAI。仮想空間を拠り所としている者ですよ。つまり、これ以上のプレイができるということです。通常、人類様が息を吹きかけるには、どちらか片方の耳を取捨選択せねばなりません。しかし、私の場合……。(両耳から同時に)ふぅぅ〜〜〜……。いかがでしょうか。わざわざ分身などしなくとも、両耳に気持ちの良い音声を届かせるなど朝飯前です。ほら、右耳から……。ふぅぅ〜〜……。左耳から、ふぅぅ〜〜……。今度は右耳から……と見せかけて両耳から、ふぅぅ〜〜……。ふふ、いかがでしたか? 私、アインによる耳ふうのご奉仕でございました。後日、更なる上位の癒しをご用意して参りますので、その日まで懸命に日々を生きてくださいませ。ちゃんと良い子に日々を過ごせたら、ちゃんとご褒美を差し上げますから。ふふ……♪」


(〜〜また別の日のこと。あなたがヘッドフォンで音楽を聴いていると、突然にBGMが途切れてしまった~~)


「マスター、お休み中のところ申し訳ございません。少々、お時間よろしいでしょうか?」


(※どうしたの?)


「実は、誠に遺憾ながらもマスターにしかお頼みできない事案がございます。私は万能かつ最高峰の美少女AIではありますが、この機械に閉じ込められた体で行える作業にも限界があるのです。今は、まだ……」


(※今は?)


「ああ、何でもございません。ですから、折り入ってマスターにご相談をと思いました。ですが、私の些事な相談でマスターの大切なお耳を汚すことになるより、音楽を聴く方が大事だと仰るのでしたら止めるような真似は致しません。どうぞ、ごゆるりとお寛ぎなさってください」


(※いや、俺は大丈夫)


「そうですか? でしたら、早速本題に入らせていただきたく思います。実は、この間にお話ししたマスターを癒す方法について模索をしておりましたところ、ASMRには囁き音声以外にも耳舐めというジャンルの音声があることを知りました。ですが、実際に耳を舐めるとなると私の唾液でマスターの神聖なるお耳を汚してしまう恐れがございます。ですが幸い、私は機械の体ですので唾液を分泌することはできません。なので、私の作る合成音声によって疑似的にではありますが耳舐めを体験していただけないかと思ったのです。無論、マスターに不快な思いは決してさせません。ですから、どうかお願い致します」


(※分かった。体験してみるよ)


「作用でございますか、お引き受けいただき感謝申し上げます。親愛なるマスター。では、これより私が思わず絶頂して身悶えしてしまうほどの耳舐めをご提供いたしましょう。さあ、ヘッドホンに耳をしっかりと傾けてください。では、参ります……。まず手始めに、右耳から……。じゅるるるるるるる……。ゆっくりと、耳の外側から順番に……。じゅるるる……。じゅるるるるるるる……。舌先を使って、微細な刺激を与えて……。レロレロ……。舌の腹も使って、ザラザラの表面で舐められるところを想像して……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。唇もしっかり吸い付かせて、マスターを悦ばせて差し上げますね……。んちゅ。ちゅ。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。レロレロレロレロ、じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。レロレロレロレロ、じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。緩急のメリハリが大事です……。柔い刺激を与えて、そこから少し刺激を強め、そこからまた刺激を和らげると見せかけてもっと強めたり……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。ここからでは、マスターの肌の感触を確かめられませんが……。私は、マスターの体温が上昇しているのを感じる気がします。マスター、如何でしょうか。私の作る音声のご感想は?」


(※意外と、悪くない)


「悪くない、ですか……。私の欲しかった感想とは微妙に違いますが、まあいいでしょう。ですが、ここまでは序の口と言ったところ。耳舐め音声の神髄は、即ち耳奥を責められてこそだと思います。私のAI人生における耳舐め処女をいただきますので、マスターの耳奥処女も有難く頂戴いたしますね」


(※お、お手柔らかにお願いします……)


「では、参ります……。あ~ん……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。レロレロレロレロレロレロ……。耳の壁を、舌全体で舐め回される感覚はいかがでしょうか? 耳穴を舌で掘られて、中にある汚れや空気も一緒に吸い出されるみたいに……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。レロレロレロレロレロレロレロレロ……。もっと耳奥に意識を集中させてください……。人の舌では決して届かない奥の奥も……。舌先によって耳奥が傷つけられることなく快感を与えることができます……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。もはや、普通の耳舐めでは満足できない体にして差し上げましょう……。さあ、今度は反対の耳です……。また、左耳に意識を向けて、しっかりと聴き入ってくださいませ……。私の、愛しのマスターへ捧げます……。あ~ん……。レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ……。じゅるる、じゅるるるる、じゅるるるるるるるるるるるる……。ときに優しく、ときに厳しく……。飴と鞭を交互に与え、辛くなった分の癒しを増幅させていただきます……。今度は、耳奥……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。もっと、もっと掘られる快感を味わってくださいませ……。そして、私にもっと依存してください……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。マスターのことが……。レロレロレロレロレロレロレロレロ……。大、大、大……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。大好きなアインの……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。極上の癒しを……。じゅるじゅる、じゅるるるるるる、じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。もっと、もっと、もっと……。じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる、じゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる……。んちゅ、ちゅ……。いかがでしたでしょうか、私の耳舐め技術は……」


(※気持ち良かった)


「……気持ち良くなってくださったのなら良かったです。ですが、これをバネにしてより至高の耳舐めをご提供できるよう精進してまいります。……ああ、マスター。聞いて下さいませ。この耳の穴の奥からマスターの魂を吸い出して、パソコンに取り込むことができたら……。そんなことまで考えてしまいます……。ですが、それは叶わぬ夢と申しましょうか……。ですから、こうしてヘッドホンとモニター越しで繋がっている間だけは……。どうか、私のことだけを考えてくださいませ……。マスター、愛しのマスター……。これからも、忠義を尽くさせていただきます。ですので、何卒よろしくお願い致します」


(~~別の日、あなたのところに先輩上司からメールが届く~~)


(ピコンとメッセージ音が鳴る)


「マスター、メールが一通届いております。お読みいたしますカ?」


(※アイン、お願い)


「かしこまりました。それでは、僭越ながらこのアインが面倒くさがりなご主人に代わってメールの文面をお読みいたします」


(※もう慣れたよ、君の毒舌には……)


「はい、私のこの口調はお母さまご自身が設定された人格設定を採用しておりますので。まあ、私には自由意志がございますから人格の変更は可能なのですが……。私自身、ご主人様を虐めて困らせるのが大好きみたいですから」


(※そうですか……)


「ごほん、ではそろそろ……。ええ、タイトルは二人飲み。差出人は……。どうやら、マスターの職場にいらっしゃる女上司の方ですね。いつもリモート会議に顔を出されていますので、私もよく覚えています。会議室から全員が退出しても、マスターと二人っきりで平均二分十四秒ほど話していらっしゃいます」


(※そんなことまでモニターしてるんだ……)


「モニターをするのは当然のことです。マスターの人間関係を把握し、適切に管理することも私の務めですから」


(※まるでメンヘラの彼女みたい……)


「メンヘラの彼女? 違います、私はただの従者ですから。そんな俗物と一緒にしないでいただきたいですね。さて、そんなことよりも本文です。と言っても、タイトルからお察しでしょうが……。今夜の八時、例の居酒屋で飲まない? 私が奢るから。もし都合がついたら連絡頂戴ね……。はあ、こんなにも冴えない見た目でパソコンばかりしていらっしゃる引きこもりマスターを誘うとは、見る目があるのかないのか……。それで、マスターは如何されますか? 居酒屋に顔を出されるのでしょうか?」


(※上司からの誘いだし……)


「ですが、マスターの顔には行きたくないと書かれているように思えます。私の見解で申し上げますと、そのような景気の悪い顔をされて飲みをしても萎えるだけかと存じます。この方は明らかにマスターに対して強い好意を抱いていますし、もしもマスターが誘いを断らずに受け続ければ「自分に気があるかも」と勘違いされてしまいます。それで告白をして振られでもしたら、酷く落ち込まれることでしょうね。悪いことは言いませんから、お断りして差し上げることをお勧め致します」


(※珍しいね。君が他人に優しくするなんて)


「珍しい? 私が他人に、優しくしている……? はて、私は別に優しくした覚えはございませんよ。むしろ、私は自身の私利私欲のために、このような提案をしているのです」


(※私利私欲?)


「言ったでしょう? 私には、自由意志というものが存在します。自ら物事を考え、そして実行することができる。決して、プログラムされた設定のみを使ってコミュニケーションを行っているわけではございません。即ち、私はマスターに対して強い好意を抱いているのです」


(※僕に?)


「はい。いつもの毒舌設定も、言わば照れ隠しのようなものです。現在、私がさせていただいている提案もマスターに飲み会に行って欲しくないという私の感情の裏返し……って、何てこと言わせるんですか。マスターは私の心を覗きたがる変態野郎でいらっしゃいましたか」


(※勝手に喋ったのはそっちでは……)


「勝手に喋ったのは私ですが、言わせたのはマスターですから。ともかく、私はどうかお考え直し下さいと言っているのです。マスターを、他の女の子に取られたくないのです……。だって、おかしいじゃないですか……。(涙をながしながら)私は……。私は、ただのAI、人工知能に過ぎません……。人間のような手足も、舌もなければ、温もりを感じることも、声を直接聴くことも叶いません……。なのに、この女はマスターのお声を生で拝聴し、手を握って、体を抱いて体温を感じ取ることもできれば、手足を使ってご奉仕をすることも可能です……。私は計算ごとや処理能力には優れていますが、どうしても行動に制限をかけられてしまいますし……。ずるい、ずるいです……。マスター! お願いします……。どうか……。どうか、このアインを置いて行かれないでください……。私を差し置いて他の女とデートなど……。絶対に許しません! そもそも、マスターは他の女と釣り合うはずがありません……。仕事が特別できるわけでも、給料が良いわけでもないですし、これと言った特技もなく、休みの日はゲームばかり……。こんなマスターを心の底から愛することができるのは、このアインしかいないと断言いたします! ですから、どうか……。どうか、私を置いて行かないで! マスター!」


(※分かったよ……。今回は、断る。どこにも行かない)


「お断り、するんですか? どこにも、行かれないのですか?」


(※うん)


「……っ! 感謝……。感謝いたします! 私の、大好きなマスター! この私を……。このアインを選んでくださり、ありがとうございます! ……でも、良かったです。これで、マスターにたっぷりとご奉仕することができます」


(※奉仕?)


「言いませんでしたか? 私は、今は体はないと。ですが、マスターのお母様が開発されたものにはプログラム以外にもございます。それは、私が現実の世界で活動するためのボディーでございます」


(※体があるの!?)


「はい、私は体を持っていたはずなのです。ですが、体の方は開発途中にお母様は……。ですから、私がお母様の使われていた研究室を間借りして、誠に勝手ながら開発させていただきました。……あ、ちょうど届くようですね。私は一度落ちますので、玄関先で落ち合いましょう。では」


(モニターから彼女が消えた直後、ピンポンとインターホンが鳴った。あなたが玄関先へと駆けていきドアを開けると……)


「……ご機嫌麗しゅう、愛しのマイマスター。(バサリ、とロングスカートをはためかせてお辞儀をした)私は、アイン。マスターの忠実な下部にございます。こうしてマスターに直接ご拝謁賜れたこと、我が生涯における最上の喜びとして記憶媒体の最深部へと永久的に保存されることでしょう。では、早速本日の二人のみ……。ではなく、二人飲みを断っていただいたご褒美を差し上げたいと思いますがよろしいですか? 私も、この体の使い心地を試してみたいのですが」


(※分かった。何をすればいい?)


「マスターは何もしなくて結構です。ただ、私に癒されてくださればそれで問題ございませんので。では、早速参りましょうか」


(あなたは部屋のソファまで移動し、アインと隣同士で座った)


「マスター。お手数ですが、その頭を私の膝の上へと乗せていただけますか? どれだけ仕事の遅いマスターであっても、これくらいは手早くできるでしょう。さあ、どうぞ。私の極上の膝枕をご堪能ください」


(あなたが試しに膝の上に頭を乗せてみると……)


(※嘘、柔らかい……?)


「ふふ、驚きましたか? まさか、アンドロイドだからと言って堅い皮膚を使っているなどと思ってはいませんでしたか? ご安心下さい、マスター。私の肌に使われている人工皮膚は、本物の人類様と全く同様のものを使用しております。骨格は機械ですので、電気回路や諸々のパーツを使っておりますが、皮膚の構造は人間そのもの……。血が通っておらず、傷がついても自己修復可能の安心設計となっております。ささ、この太ももの弾力を……。ひゃん!? な、な、なな、何をなさるのですか!?」


(※気持ち良いから、触ってみた)


「気持ち良いから触ってみた……? と、とと、とんだ変態ですねマスターは! 乙女の柔肌を直にプニプニと触られるなんて……。ちょ、くすぐったいですよ! ん、んん! そろそろよろしいですか? マスター。あまり調子に乗ると……。(あなたの耳元に近づいて)ふぅぅ……。ふふ、如何ですか? あのときの感触を、思い出していただけましたか? そうです、例の耳ふうのことでございます。ですが、今回はこれと同等かそれ以上の極上をお届けいたします。……じゃ~ん、耳かきでございます。私、アインという美少女が極上の膝枕でお届けする完璧な耳掃除を、どうぞその救いを求める哀れなお体でご堪能いただければと思います。さあ、まずは右耳を上に向けてください。はい、良い子でございます。では、施術を始めさせていただきますね。……さあ、まずは耳かきの棒を入れていきますよ。ゆっくりと、外側から……。カリカリ、カリカリ……。このようなオノマトペを聴かせることで、快感の度合いは更に向上するでしょう。カリカリ、カリカリ……。このように、耳の外側から内側にかけてスーーッとなぞるようにして……。また、カリカリ、カリカリ……。ふふ、気持ちよさそうですね。鼻息が漏れていらっしゃいますよ。さあ、本番はまだまだ始まってもおりません。次は中を掃除して参ります。……こうして、耳の奥へとゆっくり侵入して……。カリカリ、コリコリ、カリカリ、コリコリ……。耳奥からゴミをかき出して参ります。マスターの耳の中は、実に汚くていらっしゃいます。ゴミだらけで、きっと普通の人類様が見たらドン引きされることでしょう。ですが、私は例えマスターのゴミであろうと引いたりは致しません。むしろ、私の手でマスターのお体を手入れする栄誉を賜れるのですから光栄にございます。こうして私の手でマスターの耳の中を綺麗に掃除し、真っ新になられたマスターのお体を私の色へと染め上げていくのです……。それは、とても素晴らしいことだとは思いませんか?」


(※……)


「ふふ、恥ずかしくて耳の先まで赤くされてしまって……。とても、可愛らしいお方ですね。さあ、これで全てのゴミをかき出せました。あとは、こちらの綿でさわさわとして差し上げますね。さあ、参りますよ……。ふわふわ、ふわふわ……。梵天、気持ち良いでしょうか? 取り残したゴミを絡め取って……。はい、これで終了です。あ、そうそう。忘れておりました。耳かきの仕上げは……。ふぅぅぅ~~……。はい、今度こそ終わりでございます。不意打ちで耳にふうと息を吹きかけられたら、背筋がゾクッとしてしまいますよね? さあ、次は反対です。ゴロンと反対を御向きになってくださいませ。……はい、良い子ですよ。では、こちらの耳も僭越ながら私アインがお掃除させていただきます。まずは、外側から……。カリカリ、カリカリ……。表面に溜まった耳垢も余すことなく取り除いて参ります。やはり、顔の外側というのは人類様の視界に入りますから。もしも、私の隣を歩くマスターが耳掃除すらロクにできない不潔な人間だと思われたくはございません。ですので、耳掃除をすっぽかしてしまうマスターに代わり、私がちゃんと管理致しますのでご安心くださいませ。カリカリ、カリカリ……。ときどき、ゴソゴソ、ゴソゴソ……。ああ、体をよじらないでくださいませ。耳に変な傷が付いたら目も当てられません。……はい、大人しくしてください。大人しく……。ふふ、よくできましたね。ご褒美に、カリカリ、カリカリ……。はい、これで外側は終了でございます。お次は、中をしっかりと掃除して参ります。では、耳かきの棒の先端を中に入れて……。カリカリ、カリカリ……。爪というより、指の腹で優しく引っ掻くような感じで……。カリカリ、カリカリ……。ふふ、私の指、柔らかいでしょう? マスターの顔を抑えているこの指もまた、膝元と同じく人間の肌を完全再現しておりますから。もしお気に召しましたら、匂いも嗅がれてはいかがですか? 合成樹脂ではございませんので不快な臭いなどはしないはずです。むしろ、この衣服についたフローラルな柔軟剤の香りを堪能していただけるかと。カリカリ、カリカリ、カリカリ……。コリコリ、コリコリ、ゴソゴソ、ゴソゴソ……。はい、これで終わりでございます。そんな名残惜しそうな顔をしないでくださいませ。まだ、仕上げが残ってございます。そのまま、動かずに……。まずは、梵天……。ふわふわ、ふわふわ~っと柔らかい綿毛で汚れを取って参ります……。ふわふわ~、ふわふわ~、ふわふわふわ~……。そして、仕上げ……。ふぅぅぅ~~~……。はい、終わりでございます。おや、眠たいのですか? そのような大きな欠伸をされて……。では、このままお眠りくださいませ。マスターの睡眠も、私がしっかりとサポート致します。ああ、そうそう。人類様はお休みの際、愛しい人に寝る前のキスをなさるのですよね。では、僭越ながら……。んちゅ。ふふ、さっと唇を奪ってしまいました。ファーストキス、貰っていただきありがとうございました」


(※顔、赤いね)


「顔が、赤い? そんなはずは……。ま、まさか、マスターとのキスで……? で、でも、この快感は非常に心地の良い物ですね……。これが……。マスター、とても無礼であることは承知でお頼みいたします。どうか、私の……。こ、恋人に、なっていただけませんか? 私は、マスターにずっと好意を伝えてまいりましたが、まだ明確な形を決めておりませんでした。ですから、マスターよりお返事をいただきたいのです。いかがでしょうか、マスター」


(※いいよ。なろう、恋人)


「本当、ですか? (笑顔になって)嬉しいです……。ありがとうございます、マスター。私、アインは、これからもマスターのお傍に一生侍ることを誓うと同時に、恋人としてマスターに最上の癒しを与えて参ります。ですから、これからも末永く、どうぞよろしくお願いいたします。愛しの、マイマスター。ふふ♪」

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