最終話 解けない魔法

「り、莉子ちゃん…パニックになってましたけど…大丈夫かな…?」

「さあ?今はこっちの話の方が大事だから。」

茉白は遙斗に真顔でみつめられて赤面する。

「…え、えっと…さっき…結婚とかって…」

「言った。」

茉白は首をぶんぶんと大きく振った。

「む、無理です…!雪村専務と私なんかが結婚なんて…」

「なんかって…俺は茉白が良いんだけど。」

「無理です!…社長になるより無理かも…」

茉白は下を向いて目を逸らした。

「君は“無理”と“だめ”しか言わないな…」

遙斗は溜息をいた。

「だ、だって…雪村専務はみんなが憧れてるような人で…」

「じゃあ、俺がそのみんなの中の誰かと結婚してもいいの?」

「………」

「俺は茉白が影沼と結婚するって言ったとき、すげー嫌だったけど。」

「………私だって…嫌…です…」

茉白は困ったような上目遣いで遙斗を見た。

「でも…雪村専務はやっぱり凄い方だから…」

「俺は全然そんなこと思わないけど…俺に相応しくないとか自信が無いって言うんなら、自信が持てるようにLOSKAを成長させればいいだろ?」

「………」

「だいたい俺はまだ専務だけど、茉白は社長だしな。」


「会社の規模が全然違—ん…っ!」


反論しようとする茉白の唇を遙斗の唇がふさぐ。


「往生際が悪すぎる。」

真っ赤になる茉白の額に、遙斗は額をコツンとつけた。

「………」


「いい加減本音を隠すのはやめて、素直にYesって言ってくれませんか?」


遙斗の言葉に、茉白の眉がまた八の字になる。


「……………はい」


遙斗は優しく微笑んで茉白の額や頬に優しく触れるようなキスの雨を降らせると、そっと抱きしめた。



「さっき…ここに来た時は全部おしまいだって思ってたのに…今はこんなに幸せで…やっぱり頭が上手く整理できません…」

遙斗の腕の中で茉白が言った。

「雪村専務に—」

「俺の名前は専務じゃないって、この前教えたはずだけど?」

「…遙斗…さんに出会ってから、いろんなことが上手くいき始めて、考え方も変わって…世界がキラキラして…魔法…みたいです…」

茉白が遙斗にギュッと抱きついて言うと、遙斗は茉白の頭を撫でた。

「魔法なんかじゃなくて、全部茉白が自分で手に入れたものだ。」


「ところで…」

「ん?」

「どうして“クロ”なんですか?」

茉白はあのSNSアカウントのことを聞いてみた。

「………」

遙斗が珍しく答えたくなさそうに沈黙する。

茉白は遙斗の顔を見上げた。

「“黙られると余計気になる”…です。」

「……時計クロックワニクロコダイル

遙斗がボソッと言った。

「え…!?」

「………」

遙斗が照れ臭そうな顔をする。

(商品化も楽しみにしてくれてたし…)

「ワニ…そんなに気に入ってたんですか…?」

「…別に」

今度は照れ臭さを誤魔化すような、不機嫌そうな声で言った。

(あの雪村専務が…かわいすぎる…)

「私が社長になったら、ワニの商品いっぱい企画しますね!」

茉白はいたずらっぽく微笑んだ。

「またあのワニの絵が見られると思うと、涙が出るほど嬉しいよ。」


茉白と遙斗は幸せそうに笑い合った。

これからずっと解けない魔法にかけられて。


fin.

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チクタク時計ワニと雪解けの魔法 ねじまきねずみ @nejinejineznez

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