玄関開けたら……

琥珀 忘私

過去の自分を恨む

 毎日毎日レトルトのご飯を食べるのには飽きてしまった。目の前の空のダンボールを見つめながらそう嘆く。

 町内会のガラポンで当たった景品、白米一年分。最初はお米がパンパンに入った米俵がもらえるものだと思っていた。

 後日家まで送ります。

 担当の人のその言葉に胸を踊らせながら届くのを今か今かと首を長くして待っていた。

 それなのに、届いたのはレトルトのご飯。玄関の前にダンボールの箱が十五箱、置き配になっていたのにはびっくり。私一人で家の中に運ぶのは大変だった。

 最初こそ現代のレトルト商品のクオリティの高さに喜々として食べていたが、半年が経った今ではほとんど修行だと思って食べている。あぁ、炊飯器で炊いた粒の細やかな白米が恋しくて食べたくてしょうがない。

 それなら食べればいいじゃないかって? チッチッチッ……事はそんなに甘くないんだよ。お米とは違ってね。

 私が今食べているご飯の賞味期限は届いた日から約半年ほど。毎日最低でも二食ずつは食べないと賞味期限を過ぎてしまうのだ。食を大事にする者として、そんなタブーは犯したくない。

 そして、先週。残りの半年分のダンボールが数日中に来るという連絡が来た。そう、前回届いた十五箱は半分の量でしかなかったのだ。またあの量のダンボールが来る。そのストレスをこの赤と白のパッケージのレトルトご飯にぶつけるしかなかった。在庫処理の念を込めながら。

 私は過去の自分を呪った。二等賞の高級ブランドの指輪が欲しいがために軽い気持ちでガラポンを回してしまった軽率な私を。欲深い私を。

 空になったパックを前に手を合わせて「ごちそうさまでした」という供養と感謝の言葉を唱える。少し恨みも込めて。

 私が唱え終えるのとほぼ同時。玄関のチャイムが家の中に鳴り響いた。そして、外から聞こえてくる「宅配便でーす」という悪魔の声。何を届けに来たのか、普段ネットショッピングをしない私はすぐに分かった。

 全部家の中まで運んでもらおう。

 心の中でそう呟き、玄関へと向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

玄関開けたら…… 琥珀 忘私 @kohaku_kun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ