似た者同士 2人用台本

ちぃねぇ

第1話 似た者同士

登場人物

女:速水心菜(はやみここな)34歳、男の上司

男:石田健人(いしだけんと)28歳、女の後輩




男:お疲れ様です、速水さん

女:(すごく疲れた感じに)お疲れ石田君…

男:あれ、なんかめっちゃ疲れてません?

女:あー…わかる?

男:そんなだるそうな返答されれば誰でもわかりますよ。溶けてます?って言うか、萎(しお)れてますね

女:お昼休憩なんだから、溶けても萎れてもいいじゃない

男:確かに

女:それに、私だってだらけていい相手とそうでない相手は見極めてるって。部長の前ではやんないし(笑)

男:俺相手ならいいんですか

女:いんじゃない?石田君だし

男:なんですかそりゃ。(小声で)喜んでいいんだか…微妙だな

女:ん?なんか言った?

男:なーんにも。で、なんでそんな萎れてるんです?今そんなに厄介な案件抱えてましたっけ?

女:あー…違くて

男:ん?

女:仕事のことじゃなくて

男:あなたの疲れはどこから?

女:風邪みたいに聞かないでよ。プライベートからよ

男:それ、俺が聞いていいやつです?

女:石田君さ、レンタル彼氏って借りたことある?

男:あると思って聞いてたら怒りますよ

女:やっぱ無いかぁ

男:無いですよ。というか、速水さんの口からそんなワードが出てくるとは思いませんでした。速水さん借りたいんですか?

女:親がさー最近、結婚はまだか、いい人いないのか、お見合い組むぞってしつこくて

男:あー

女:でー、あんまりにもしつこいからさー思わず言っちゃったんだよね。今付き合ってる人いるから!って。そしたら今度は引き下がるどころか、どんな男なのか会わせろ、写真を送れってひっきりなしに電話かかってきて

男:わぁ。墓穴掘りましたね

女:ほんとマジ勘弁して。そんな相手いないから。もうアラサーの娘なんかほっといて、兄貴のとこの初孫に構えっての。産まれたてピチピチのギャルがいるじゃんか

男:ギャルって。確か先月産まれたんでしたっけ

女:そうそう。よく覚えてんね、石田君

男:まあ、記憶力いいんで

女:言ってられるのも今のうちよー30超えたらどんどん忘れっぽくなるからね

男:まだ2年も猶予あるんですね、やった

女:やだうっざーい。その若いエキス吸い取っていい?

男:妖怪ですか。あーでも、だから余計にじゃないです?

女:なにが?

男:お兄さんの子供ってことは、速水さんのお母さんからしたらお嫁さんの子供ってことですよね

女:そうね

男:産まれてすぐの赤ちゃんって外に出せないって聞きますし、まして娘じゃなくてお嫁さんが産んだ子供なら、そう頻繁(ひんぱん)に写真送ってもらったり会いに行ったりは遠慮しちゃって、構いたくても構えないから矢印が速水さんに向けられてるのかも

女:あー…そういう感じ?

男:あとは単純に、お孫さんが産まれたお兄さんと対比して余計に娘が心配になったとか

女:ほっといてよ…娘は娘で幸せに生きてるっつの

男:毎日ネトフリで?

女:うっさい。石田君が面白いものばかり勧めてくるのが悪いんじゃない

男:じゃあ速水さんの幸せ、俺が作ってるんですね

女:なんで嬉しそうなの

男:(無視して)で、窮地(きゅうち)に追い込まれた独り身娘はついにレンタル彼氏に手を出すと

女:言い方。手を出すってやめてよね、救いを求めようとしてるだけじゃない。でもさー基本料とか指名料とか3時間パックとか、調べれば調べるほど「え、私こんな気の乗らないサービスにこんなに金払って貴重な休みを潰さなきゃならんの?」ってみじめになってきて

男:レンタル彼氏って高いんですか?

女:ピンキリみたい。(携帯見せて)ほら、ここのサイトなんか最近料金値下げしたっぽいよ。知らんけど

男:こんなところにもコロナの影響が?

女:かもね

男:えっと…1時間5000円の基本料に交通費食事代…

女:あと会員登録費用。2,3時間は借りなきゃだろうし…あーもうっ!こんなつまんない休日を過ごすためにいくら掛けなきゃいけないの、私。でもほっといてもそれはそれでめんどくさいし…

男:半値以下

女:え?

男:ランチ代だけで借りられるレンタル彼氏いたら、借ります?基本料ゼロ円

女:え、うっそ借りる。速攻借りる

男:はい

女:え?

男:ここに一人、今月の土日ががら空きの基本使用料ゼロ円男がいますけど

女:やだ寂しい子

男:お呼びじゃないみたいなのでデスク戻りまーす

女:待って待って待って!!お呼び!めっちゃお呼びだから!私を救って石田様!

男:ったく、人の好意は最初から受け取るべきですよ、速水さん

女:すみません。でも、いいの?

男:なにがです?

女:半日くらい付き合わせる形になると思うんだけど。貴重な休みなのに

男:寂しい休みなんで大丈夫です

女:あ、根に持ってる

男:ダメだったら最初から提案しませんよ。いつもお世話になってる会社の先輩の為ならこれくらいなんでもないです

女:優しくしてきてよかったぁ

男:自分で言いますかそれ。あ、そろそろ休憩終わりますね。俺今のとこホントに今月いつでも空いてますから、また日程決まったら教えてくれますか?

女:了解っ!ほんとにありがとね!また連絡するわ

男:待ってます



0:土曜日。レンタル当日



女:今日はありがとね。親もう店に来てるみたい。まだ約束の20分も前なのに、せっかちなんだから

男:それだけ楽しみなんじゃないですか?

女:うう…それを言われると少しだけ罪悪感が…いやでもほっといてくれない親が悪いんだし、これは苦肉の策って言うか

男:(紙袋を差し出して)あ、これどうぞ

女:え、なにこれ

男:さっきそこの百貨店で買いました。手ぶらなのもどうなのかなって。お宅訪問じゃないけど、なんかあった方が心証いいじゃないですか。ご両親あんこ大丈夫です?一応ちっちゃめの日持ちするやつの中から選んだんですけど

女:そんなことまで気にしてくれたの?なんて出来た後輩!うちの両親、甘いもの大好きだからきっと喜ぶわ

男:よかった

女:お金いくらだった?あとで払うから

男:あー…いいです。それは受け取ってください

女:え?

男:日頃のお礼ってことで。もしご両親があんこだめなら速水さんに渡すつもりで買ってきましたし

女:ダメよ悪いって!ただでさえめんどうなこと頼んでるのに

男:いいから、受け取ってください。ほら、この間プレゼンの資料作り手伝ってくれたじゃないですか。そのお礼ってことで

女:…いいの?

男:はい。ご両親に渡してください。あ、でも俺の方から渡したほうがいいのかな…彼女の親に挨拶ってやったことないからわかんないことばっかりで…もしなんかしくじったらすみません

女:そんな…せめて美味しいもの食べてってね。今日のお店、美味しいらしいから遠慮しないでなんでも注文して

男:了解です。今日の支払いは速水さんが?

女:うん。めんどくさい両親だけど、最近実家帰ってなかったし、親孝行…と言うには不誠実だけど…まあ、私が出してやろうかなって

男:じゃあ、いったん俺が支払いしますね

女:え?

男:彼女に奢らせる男って、ちょっと不安になるかもしれないじゃないですか。会計俺がしますよ、今日多めに持って来たんで。あ、でもこれは後で請求しますからね?

女:もちろん!ありがとー!持つべきものは出来た後輩ね!

男:後輩じゃないでしょう

女:え

男:今日は彼氏なんですよね、俺

女:まあ、そう…だけど

男:ってことで、こっからは名前呼びしましょうか、心菜(ここな)さん

女:え?

男:下の名前呼ぶ方が自然でしょう?

女:それはそうだけど

男:心菜さんも、俺のこと名前で呼んでください

女:んっ…

男:あれ、もしかして俺の名前知らない感じ?ちょっと傷つきますよ、俺

女:なわけないでしょうが。入社5年の付き合いよ

男:じゃあ俺の名前、呼んでみてください?

女:…健人(けんと)くん

男:正解

女:正解って何よ

男:あ、あと…手

女:え

男:ご両親、もうお店で待ってるんですよね?外から見てるかもしれないし、繋ぎませんか?まあ、無理にとは言いませんけど

女:…いいの?

男:いいのってなんですか。嫌だったら提案しませんって。心菜さんが嫌じゃなければ

女:私は、いいけど

男:あー喋り方も敬語はおかしいから止めましょうか。…止めよっか、心菜さん

女:…石田君がこんなに役者だなんて知らなかったわ

男:石田って誰?

女:う…さっさと行くわよ!健人くん

男:了解



0:食事会終了。駅で両親を見送った後



女:ほんとお疲れ石田君。マジで助かった、ありがとう。これであのしつこい連絡ともおさらばできるわー

男:ご両親安心してくれましたかね?

女:そりゃもうすっごく。母さんだけじゃなく父さんまで「娘のこと頼んだよ」って、もう石田君にメロメロだったじゃない。結婚の挨拶かっつーの!こちとら罪悪感で胸が痛いくらいよ

男:そんなに俺の彼氏っぷり板についてました?

女:完璧よ完璧。でもリップサービスが過ぎるわよ?

男:はて、何のことでしょう

女:必要以上に私のこと褒めるし将来とか匂わせちゃうし。あんなにいい彼氏っぷり発揮されたらそりゃ「頼んだよ」って言っちゃうわよ。頼んだ私が言うのもなんだけど、ギア入れ過ぎよ?ペテン師ね、石田君は

男:俺、おべっかとか苦手ですよ

女:またまた~そんなこと言って

男:今日の俺の言葉に嘘は無かったんですけどね

女:え?

男:お母さんたちに伝えたのはほんの一部ですよ。速水さんのどこが好きか…まず仕事に取り組む姿勢が好きです。いつでもお客様のことを考えて行動できるところが好きです。業務量半端ないのに、困ってたら声掛けてくれて手伝ってくれてさらっと助けてくれて、めちゃめちゃ憧れます。尊敬してます

女:やめてよもーさっきも聞いてて照れちゃったのに

男:抜けてるとこも好きです

女:え?

男:気を許した相手だと途端に緩くなるとこが好きです。可愛いと思います

女:ちょ、石田君?

男:もっと仲良くなったらもっと気が抜けるのかな、とかふにゃふにゃに甘える速水さんどんなだろうなーとか妄想しながら部長の小言聞き流したり

女:小言はちゃんと聞きなさいよ

男:やですよ、部長ねちっこいですもん

女:そりゃそうだけど…って石田君?あの、なんかまるで告白みたいな感じになってるけど

男:はい。俺、今速水さんに告白してます

女:…マジ?

男:はい。いい加減、ちゃんと言わないと気づいてもらえないみたいなので。…気づいてなかったでしょう?

女:懐(なつ)いてくれてるとは思ってたけど

男:今日一日、俺楽しかったんですよ。速水さんを心菜さんって呼べてすごいテンション上がったし、健人くんなんて恥じらった表情で呼ばれて昇天するかと思ったし

女:昇天って…

男:手ー繋いだだけでドキドキするとか中学生以来で。離したくないなぁとか、このまま時間止まればいいのにとか本気で考えたし

女:涼しい顔して繋いでたじゃない

男:俺、ポーカーフェイス得意なんですよ。今も心臓うるさいし

女:うっそだー

男:嘘じゃないですって。…ほら(引き寄せて女に自分の腕を触れさせる男)

女:え…なにしてるの

男:脈測ってもらえば信じてもらえるかと

女:脈って…ここはさ、普通、抱きしめて心臓の音聞かせるもんじゃないの?

男:そんな強引なことして嫌われたらどうするんですか。立ち直れませんよ、俺

女:どうするって…ふふっ…どうするって

男:…ちょっと、何笑ってるんですか。人が真面目に告白してるんだからそういうムード作りましょうよ

女:ムード…、ムード…ふふっ

男:速水さーん、小刻みに震えないでくださーい

女:駅前で…脈測らせながら…ムード作れって、ふふっ

男:あーもう。いいです、今の全部忘れてください。今のナシ

女:嫌

男:は?

女:やーよ。久々に言われたのよ、好きって。勝手に取り上げないでよ

男:勝手にって

女:ねぇ、もっかい言ってよ

男:はい?

女:私のこと、好き?

男:…好きですよ、悔しいくらい

女:ふーん、そう

男:ちょっと、ニヤついてないで返事くださいよ

女:んー?やーだ。まだふわふわしてるものー

男:わー生殺しだぁー

女:脈アリだって前向きに捉えなさいよー

男:それ脈と脈掛けて遊んでません?

女:すっごく早かったわよ、石田君の脈

男:あーもう最悪。やんなきゃよかった

女:なんでー?私は今最高に気分がいいのに

男:でしょうね。…ほんとに脈アリなんですか

女:さぁて、どうでしょう

男:速水さーん?

女:石田君、明日も空いてるんだっけ?

男:空いてますよ。土日全部空いてる寂しい男なんで

女:何か美味しいもの、食べに行く?

男:……また手、繋いでいいなら

女:どーしよっかなぁ

男:ちょっと

女:ふふ、惚れた弱みよ、甘んじて受け入れなさい

男:それ自分で言います?性格悪いですよ

女:(ぼそっと)やられっぱなしは性に合わないのよ

男:ん?なんか言いましたか?

女:別にー?…こんな私のこと、好きなんでしょ?健人くん

男:(ため息)ムカつくほどに好きですよ、心菜さん


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