第2話 ザ・ワールド!(時の進む速さは一定ではない、絶対)
ふわーお、今何時?だいたい6時半ってところか。昨日寝すぎたせいで、眠りが浅い。今日はおたのしみがある日だから、それもあって早く起きてしまったのかもしれない。カレンダーには、ご丁寧にも「ちゅーぼう」とスケジュールが書いてある。我ながらどうかと思うけど、こういう楽しみがないとやってられんのよ、実際。
何を隠そう、この私、「ど」という接頭語がつくほどの変態であると自認している。ド級である。ちなみにこのド級の「ド」はイギリス戦艦ドレッドノートからきていると聞いたことがある。どの国でも、「ド」の音からはパワーを感じるらしい。円がドルに勝てないわけだよ。
「朝からなんて不毛なこと考えとるんじゃ」
あら、おはよう。ゆかりん、今日もかわいいね。
「まったく調子のよいやつじゃの。ちなみに貴様よ、よゆうぶっこいておるが、あと10分で9時だぞ」
え?まじで?
なんということだ、夏だからといって油断した。夏の開放感の前では、酒をたくさん飲む系のサークルに所属する大学生はもちろんのこと、時間の感覚すら狂ってしまう。もう少しで出勤しなければいけない時間だ。いくら私が「ど」がつくほどの変態であっても、時間を止めることはできない。そんなことができるのはDIO様か、にのまえじゅういちか、AV男優くらいのものだ。(他にもいっぱいるだろうけど。)
「うわ~!遅刻遅刻!」
お決まりのセリフをうたいながら、私は慣れた足さばきで芸術的迷路を脱出し、TENGATシャツを脱ぎ捨て、白Tシャツとジーンズというオシャレ上級者がとりあえず勧めてきそうな格好に着替えて、顔を洗い、トイレをすませ、食パンを一枚くわえると、ゆっくり咀嚼した。それから、味チェンのためにマーマレードジャムを塗った。マーマレードって、ジャム以外で名前きかないけど、ふだんは何してる人なんだろう。
それからゆっくりとした足取りで、階段を降りると、職場に着いた。
「よし、間に合った!」
「あなたね、なんで三階に住んでるくせに毎回遅刻寸前なの?」
そう、私は職場が入っているビルの三階に住んでいた。だから、食パンをくわえて家を飛び出したところで、転校生にぶつかることなどありえないのだ。あの古典的展開を最初に考えたのはいったいどこの誰なんだろうね。
「まあまあ、間に合った人を責めるのはよくないよ、ワトスンくん」
「だれがワトスンじゃ! 渡辺って立派でありふれた名前があるんだから、渡辺さんとお呼びなさい」
「りょうかい、ワタさん」
「渡辺の前半を使って呼ぶのは少数派なんじゃないかな…」
私は型にはまりたくないタイプの人間だからね。
このワトスンことワタさんこと渡辺さんは、私の愛するべき先輩である。忘れっぽい私をいつも助けてくれる。丸い眼鏡からのぞく狐目が鋭いため、なにかと怖い人のように思われがちだが、実際は面倒見の良いお方なのだ。
「よ~し、今日もみんなのきったねえ歯をとぅるんとぅるんにしちゃいましょうかね~」
五階建てのビルの二階にある、「柳井デンタルクリニック」に歯科衛生士として、私は勤めていた。地方とはいえ政令指定都市ではあるので、それなりに人が来る。予約は一か月先までパンパンである。ネットのレビューもそれなりに良い。特に、女性の方々に人気だ。
「そんなことより、さっき副院長が呼んでたよ。けっこう怒ってたみたいだけど、なんやらかした?」
思い当たる節は、ないとは言えなかった。
デンタル・キャピタル・リサイタル 壊し屋本舗 @landmark1551
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