第32話 動機
「動機がないと
最後の詰めだ。ここを間違える訳にはいかないと気合を入れる。
「説明できるもんならやってみろ! できる訳がないだろうがなぁ? ハッハー!」
怒鳴り声を上げて嗤う無海住教頭を、
「まず思い出してほしいのは、
と話をして、そういえば僕も不思議だなと思ったことがある。ついでだし確認してみようと思った。
「田魅沢先輩。そういえばなんで咲見崎先輩にだけ、墨乃地先生のアパートの近くで無海住教頭を見た、なんて話をしたんですか?」
僕もこの目撃証言がなければ、無海住教頭が墨乃地先生を殺したとは考えなかっただろう。
「中等部時代は
田魅沢先輩と咲見崎先輩は昔は仲が良かったのか、と考えながら続きを待つ。
「サヤは口が堅かったから、昔は色々と他の人にはできない話をしてたんだよね。それで今年の6月くらいだったかなぁ? 偶然デパートで会ってさ。
その日は暇だったから喫茶店に行って話をしたんだよ。そのときに
「で、その話を聞いた咲見崎先輩はなんて言ってました?」
「それが真剣な顔して黙っちゃってね。何を考えてるのか、と思ってたら『このお店のチョコパフェ、やっぱり最高だよネ!』って笑ったんだよ。でも笑ってるのに涙をぽろぽろ流しててさ。理由も教えてくれないから、あたしには訳が分かんなかったんだよね」
田魅沢先輩は話をしながら首を傾げた。
「分かりました。ありがとうございます」
と言って、僕は再び無海住教頭をしっかりと見据える。そしてニヤけた顔をしているコイツを絶対に追い詰めて逮捕してやると睨みつけた。
「今までのお話を踏まえて頂いた上で続けると、田魅沢先輩の話を聞いて墨乃地先生は無海住教頭に殺されたのではないか、と咲見崎先輩は疑ったんです。でもこの段階ではまだ疑惑です。
咲見崎先輩は自分なりに色々と調べたんでしょう。そして無海住教頭を脅迫したんです。その脅しに屈したのを見た咲見崎先輩は、墨乃地先生を殺したのは無海住教頭だ、と確信したんです」
僕の発言を聞いた無海住教頭の表情は消えていた。
「咲見崎先輩は急に金使いが荒くなった、という話もでていました。それを考慮すれば無海住教頭を脅しお金を要求した、と考えるのが自然です。『墨乃地先生の殺人事件のことで脅迫された』。これが無海住教頭が咲見崎先輩を殺した動機だと僕は考えます」
目を白黒させて焦点が定まらない様子の無海住教頭は、それでも抗う。
「だ、だがこれは私が墨乃地を殺した、という動機にはならないはずだ! そうだろう!?」
「いいえ、違います。逆にこれが動かぬ証拠と言っていい。無海住教頭は墨乃地先生を殺したのではないか? と咲見崎先輩に脅された。でも事実でなければそんなことは知らない、と突っぱねて無視すればいい話です。
警察に言われたって構わない。後ろめたいことなんてないと言うのであれば、裁判してでも争えばいい話です。そもそも無実なら警察が動きませんよ。ところが無海住教頭はその脅迫に屈してお金を払ってしまったんです」
無海住教頭は汗が止まらないのかハンカチでしきりに汗を拭いている。僕はさらに追い詰める。
「これで咲見崎先輩の殺人事件には、咲見崎先輩の指紋付きのスーツという証拠、そのスーツにぴったり合うボタンを握りしめていた咲見崎先輩の死体、そして動機も全てがそろった。墨乃地先生の殺人事件に関しても、あなたは咲見崎先輩の脅迫に屈してお金を支払った。
あなたの預金通帳からどんどんお金が引き出されているんじゃないですか? それを何に使ったのか、あなたはきちんと説明できますか? 通帳の履歴を見ればすぐに分かることですよ?」
僕の言葉を受けて、ニッと笑った須水根刑事が預金通帳をひらひらとさせている。
それを見た無海住教頭は
「バカな! こんなバカなことがありえるというのか!?」
髪を振り乱して僕を睨みつけてきた。それで動じる僕じゃない。やっとコイツを追い詰めた。
「これがそれぞれの殺人事件の全貌です。無海住教頭! あなたがこの連続殺人事件の犯人だ!」
と無海住教頭に僕は指をさして、そう断言した。
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