第33話 クズとしか言いようがない理由

 僕は無海住教頭を犯人だと断定した。そう言われた無海住教頭は眼鏡をクィッと直し


「フ、フハハ。そうだな。高校生探偵の君に、私は全てを見抜かれた訳か。墨乃地すみのちのことを調べだしたと鬼記島たちに聞いて嫌な予感がしていたんだ。

 だがな、アイツは! 咲見崎さみさきは、ほんとに最悪の奴だったんだ! 墨乃地だってそうだ! 正義を振りかざすアイツが私は本当に嫌で嫌でたまらなかったんだよ!」


 ドン! と無海住教頭は机を叩いて、周りの人を睨みつけ怒りを表す。

「咲見崎と初めて会ったのは、彼女が中学3年のときだった。私は若い女が好きだった。援助交際という言い訳は、私にとって実に都合がよかった。

 家庭で親、そうだな……親に限らず人間関係がうまくいってない女なんてものは、探せばいくらでもいたんだ。だから私は彼女らを買うために金を払った。当然の話だ。彼女らの春を買ったのだから」


 淡々と話す無海住教頭はつきものが取れたかのようだ。そして右手で顔を覆い、絶望した様子で話を続ける。

「墨乃地は教員の分際で私に歯向かう奴だった。城鉈しろなたの件もそうだ。勉学をサボって、明らかに学力が足りない城鉈を、補習と称して依怙贔屓えこひいきした。

 よりによって授業時間外に落ちこぼれ共に、手を差し伸べたんだ。あのまま落第して別の学校に行ってくれれば、我が校にはもっといい人材が集まり、良い学校へ進学してくれて、我が校はさらに良い評価を得ることができただろうに!」


 この発言にはさすがの鬼記島先輩と不良2人も目を点にして聞いている。他のみんなも、なに言いだしてんだ、この人? という顔をしている。


「様々な女との出会いを繰り返すうちに、繁華街に1人立ち尽くす咲見崎が私の目に止まった。制服も着ていない私服姿の咲見崎が、私には誰だか分からなかった。

 だから話しかけデパートを見て回り、欲しいものを買ってあげて高い食事をし、ホテルへ入ろうとした瞬間だ。あの男、墨乃地が現れたんだ」


 無海住教頭は拳を振り上げ机を叩いて、怒りのままに咆哮をあげる。

「私と咲見崎を見た墨乃地は、あろうことか私を殴り飛ばした。そして咲見崎に話しかけ、私に軽蔑した目を向け『アンタは人として最低だ』と言い残して、咲見崎と去って行ったんだ!

 私が咲見崎が欲しいというからデパートで買ってやった数々の出費、高い食事に使った私の金はどうしてくれるんだ!? おかしいだろう! 私は報酬を先払いしていたのに成果を得られなかったんだ! こんなおかしな道理はないだろう!?」 


 そもそも道を踏み外しているんだから、おかしいもクソもないだろう、と僕は心の中で呟いた。さらに無海住教頭は個人的な怒りを机にぶつける。理不尽に叩かれる机が可哀想だ。


「私の邪魔をしたあげく、墨乃地の奴は教頭である私に『援助交際なんてやめましょうよ、教頭。バレたら身の破滅、そもそも犯罪ですよ?』なんて正義感ぶって言いだしやがったんだ! 私の唯一の楽しみにケチをつけやがった!

 私より地位の低い、たかが教員の分際でだ! こんなことが許されていいのか? いいや、許されるわけがない! 私の名誉に傷がつく。だから私は墨乃地を黙らせるチャンスを待っていた。そんな私にチャンスが巡ってきたのが3年前の忘年会だ」

 と無海住教頭は暗い笑みを浮かべる。


「酒を飲んだ墨乃地を介抱する桧山ひやまもいない。腕っぷしがいくら強かろうが、泥酔した状態の墨乃地には戦う力がない。酔ったアイツを連れて歩くのは、だいぶ難儀した。それでもうまいこと墨乃地のアパートへたどり着いた。

 だから部屋に入ったら更に酒を勧め、もういらないと言っても無理やり飲ませた。そして高いびきをかいて布団で寝ているアイツの手元に、火をつけたタバコの吸い殻をおいて私は逃げた。

 そして私の計算通り火災が発生し、墨乃地はタバコの不始末で死んだ訳だ。ハハハッ! どうだ? これが私の完全犯罪だ!」


「墨乃地先生に買春がバレたから、口封じのために殺した。これが墨乃地先生を殺した本当の動機ですね?」


「あぁ、そうだよ。アイツの正義感ぶった態度が気に入らなかったし、生徒からなぜか評判が良いのも納得いかなかったんだよ。あんな奴のどこが良いっていうんだ!?

 私の方が金もある。私は教頭でアイツはただの一般教員だ。どう考えても私が評価されるのが当たり前だろう! だというのにキサマらは……!」


 忸怩じくじたる想いがあるとでも言いたげに、この場にいるみんなを無海住教頭は睨みつけた。そして狂気に囚われたかのように荒い息を吐く。


「咲見崎はもっと最悪だ!」

 そして無海住教頭は冷たい目つきで嗤いながら、咲見崎先輩との過去を話しだしたのだった。

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