第26話 怪文書をだしたのは何故?

「そして火災の原因であるタバコの不始末ですが、寝タバコによるものだと警察は判断しています。寝タバコとは布団に横になりながら、タバコを吸ってそのまま寝てしまい、タバコの吸い殻が布団に落ち火種となって、大きな火災になってしまうというものです。そして墨乃地すみのち先生は焼死体として発見された訳です」


 桧山ひやま先生は唇を噛み締めて聞いている。

「火災があった当時、桧山先生は、そんなはずはないって警察に訴えたんですよね?」

 僕が話すより婚約者のことだから、より詳しく知っているだろうと思ったから桧山先生に話を促す。


康太郎さん墨乃地先生はお酒を飲めなかった。一口のお酒を飲んだだけで顔を真っ赤にしてしまうくらいお酒に弱かったんです。それなのに泥酔するほどお酒を飲むなんてありえない! 私からすると、どう考えてもおかしいんです!」

 と桧山先生は訴え、須水根刑事を見ていた。


「これがセントルミル中等教育学校へ桧山先生が怪文書をだした本当の理由です。墨乃地先生の火災のことをもう一度、調べてほしかったんです」

 と僕がいうと桧山先生は大きく頷いた。


 須水根すみずね刑事は眉間に大きく皺を寄せている。

「そうよ。私は警察にこの火災はおかしい。もっと調べてほしい、とずっと言ってきた。でも私が康太郎さんの婚約者で、身内同然だからか警察は聞いてくれなかった!」

 桧山先生は悔しそうに涙を流しながら訴える。角田校長は目を瞑ってじっと話を聞いている。


 その様子に心を痛めながら、僕は

「これが桧山先生が警察を頼れないと思った原因でもあり、今も婚約者だった墨乃地先生を殺した犯人を探し続ける理由でもあるんです」

 と話した。


「なんだそれは! 墨乃地康太郎の火災事故は本当に殺人事件だったと、そう言うのか!?」

 と須水根刑事は立ち上がり声を張り上げる。須水根刑事には悪いけど僕はそう考えている。


「今の説明では須水根刑事には納得がいかないでしょう? 警察の威信がかかっていますもんね。だから僕がこの火災事故を殺人事件だ、と考える理由をこれからお話していきましょう」

 と言ったのを聞いて、須水根刑事は不承不承ながらも腕を組んで座り直す。


 落ち着いたところで話を一旦切り上げ、次の議題を話しだす。

「では3年前の『墨乃地先生の殺人事件』のお話をしていきます」

 苦々しい顔をしている須水根刑事だけど、黙って話を聞いてくれるみたいだ。


「なぜ僕が墨乃地先生の火災事故を、殺人事件だと疑ったのか? 桧山先生にそう怪文書で示されたから? それもあります。でも、そもそも論でいったら、最初に角田かくた校長と話をしたときです。僕の質問に角田校長はこうおっしゃいました」

 と言って角田校長をしっかり見る。


「『咲見崎さみさきさんのことか。早くを解決してくれたまえ。警察に同じ話を何度もしたけど、結局のところ捜査の進捗はどうなっているんだい?』と角田校長は答えたんです。」

 僕の発言を聞いて角田校長はのけぞった。


「このセントルミル中等教育学校にきて、咲見崎先輩の事件のことを僕は殺人事件だ、とは一言も言ってません。でも角田校長は初めから殺人事件だと間違いなく言っていた。だからこそ僕は全てのことに注意を向けることにしたんです」


「そ、そんな発言を私は……」

「えぇ、無意識だったんでしょうけど、『殺人事件』とハッキリおっしゃっていました。だからこそ墨乃地先生の『殺人事件』に気づけたんだ、と思っています。助かりました」

 とお辞儀する。


 角田校長は複雑な表情を浮かべる。そんな角田校長を見て僕は周りの人の顔を見回す。僕の発言に目を見開いていたのは桧山先生だ。

「それ、本当なの!?」

 思わず声がでたようだ。


 そのあと「ごめんなさい」と桧山先生は消え入る声で謝った。信じていいのか悩んでいそうな様子を見た僕は、桧山先生に「本当です」と力強く頷いた。

「やっぱり、事故じゃなかったんだ」

 と桧山先生は小さく呟いた。


「さて、それではもう一度、当時の状況を思いだしてもらいましょう。3年前の終業式と同じ日に開催された忘年会です。あまりお酒を飲まない墨乃地先生も、12月の忘年会ということで、みんな浮かれていたんです」

 桧山先生は一言も聞き逃すまいとしてるようだ。


 僕は続ける。

「角田校長は一切お酒を飲まなかったようですが、『みんな楽しんで親交を深めてください。今日は無礼講です』とお酒を勧めたようです。お酒に弱い墨乃地先生はちょっとだけ付き合い程度に飲んで、いつも通り顔を赤くしていたそうです」

 そして僕は無海住むかいずみ教頭をじっと見つめる。


「お酒の弱い墨乃地先生にお酒を勧めたのは無海住教頭でした。でもこの場に桧山先生はいなかった。その少し前に倒れたお母さんの様子が心配で、この忘年会に出席していなかったからです。そうですよね? 桧山先生」


 急に話をふられた桧山先生は面食らっていたが

「ええ、えぇ。そうです! 私は倒れた母の容体が心配で、その忘年会にでなかったんです。あの時、一緒にいれば私が康太郎さん墨乃地先生を介抱していたと思います」

 その答えを聞いて僕は小さく頷く。


「そのあと酔っぱらってフラフラになっている墨乃地先生を心配して、無海住教頭が介抱してたんですよね?」

 と無海住教頭に問いかける。


 何か悪いことでもしましたか? とでもいうかのように澄ました顔をして

「そうだが、酔っぱらった墨乃地先生を介抱した。褒められることがあったとしても、それに何か問題があるのかね?」

 と無海住教頭は平然と話したのだった。

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