第24話 角田校長が桧山先生をかばう理由

 そして僕の話を聞いていた桧山ひやま先生の顔色も同じく悪い。

「その後です。角田かくた校長は車から揉みあいになり女の子を突き落した場面を見てしまった。

 そして車を止め、駆け寄ってみるとそれは桧山先生だった。雨でずぶ濡れになって呆然としていた桧山先生を、とりあえず雨にぬれないように車に乗せた。そして家まで送った。これが僕が考えるルミール橋での出来事です。いかがですか?」

 と桧山先生と角田校長を見つめる。2人とも下を向いてしまっている。でも桧山先生が疑問を口にしてくる。


「本当に見てきたように君は言うのね。じゃぁ、角田校長が私をかばった理由はなんだった、と思っているの?」

 その発言を聞いて僕は白川しらかわ所長を見る。


「それについては私、白川が話をしよう。私が調査した結果、角田校長と桧山先生は実の親子だ」

「「「親子!?」」」

 とみんなが声をそろえて驚く。


「名字が違うのに!?」

 と田魅沢たみさわ先輩が驚きを言葉にだす。


「名字に関しては桧山先生のお母さんの旧姓を使っているようだね。だが2人は血のつながった親子で間違いない」

 と白川所長は淡々と書類を読みながら指ではじく。


「だから父親の角田校長は娘である桧山先生をかばったっていうこと?」

 と北倉きたくらさんが疑問を呈す。

「そう。これが咲見崎さみさき先輩が溺死した事故と考えられる一面ですね」

「事故? 殺人事件ではなく?」

 と桧山先生が疑問を呟いた。


 うんうん、と僕は頷きながら話をする。

「僕から話せるルミール橋の案件は、ここまでです。僕がセントルミル中等教育学校で調べている最中に怪文書が3回も送られてきました。今はこちらの謎を先にお話をしましょう」


 (私が犯人だ)と騒いでいた角田校長も、逮捕されると思っていたらしき桧山先生も、そして角田校長をかばい泣いていた葉積はづみ用務員もみんな呆然としている。他の方々は黙って聞いてくれている。


 僕は周りを見回し

「じゃぁ説明していきましょうか」

 と実際に送られてきた怪文書のコピーをみんなに見せる。


「最初は『城鉈しろなた缶太かんたという人物を調べろ。被害者の咲見崎サヤと揉めていた』とセントルミル中等教育学校に怪文書が届いたというお話でした。当然ですが警察は城鉈先輩から事情を聞きました。

 僕も城鉈先輩からすぐに話を聞きたかったですが、警察の邪魔をする訳に行かないので、北倉きたくらさんの紹介で阿武隈あぶくま先輩に会って、話を聞くことができたんです。そのとき墨乃地すみのち先生という先生が城鉈先輩にとって、進学するための救世主だったという話を聞いた訳です」

「おうよ!」

 と阿武隈先輩は親指で鼻をこすり、自慢げに頷いた。


 桧山先生はそっと自分の手に視線を落とした。

「さらに阿武隈先輩は城鉈先輩の彼女である田魅沢たみさわ先輩を僕に紹介してくれました。話を聞くと田魅沢先輩は城鉈先輩の進学のためにどれだけ頑張ったか僕に教えてくれました」

 田魅沢先輩は満足気に頷いている。


 城鉈先輩は異議がありそうだけど、揉めさせるのも可哀想だから黙っておいた。

「城鉈先輩に話を聞いても、咲見崎先輩と揉めたというほど大喧嘩した訳でもないようでした。そして咲見崎先輩の死亡推定時刻の11月24日の22時から24時頃には、一緒に見たお店の特産品の話を家の電話で話してたということです。これで2人のアリバイは成立しました」


「あの怪文書は、ほんとに迷惑だったよ。警察にしつこく聞かれてさ。ほんとに散々だった」

 と城鉈先輩は愚痴っていた。


「そして2回目の怪文書がまたしても、セントルミル中等教育学校に届きます。内容は『咲見崎サヤの犯人が名乗りでなければ、犯人を殺す』という内容でした。そして須水根すみずね刑事が『鬼記島ききじまと田魅沢のことを調べろ』という内容も書いてあったと教えてくれた訳です。」


「「そんなことが書いてあったのか?」」

 と名指しされた2人は声を上げる。殺人事件の容疑者枠に一時は入ってた訳だし、驚くのも無理はないか。僕は話を元に戻そうと発言する。


「そうです。でもまずは城鉈先輩に阿武隈先輩の話を確認しようと思いました。そのときに田魅沢先輩がとった作戦を城鉈先輩から聞いた訳です。その勉強をさせるための作戦は実に巧妙なものでした。だから僕はその作戦を考えた人物に興味をもったんです」

 と言って周りを見回した。


「僕が興味をもった作戦をたてた人物は、墨乃地先生という方でした」

 それを聞いてハッと顔をあげた桧山先生に、僕は気づかななかったふりをして話を進める。


「そして無海住教頭の妨害と鬼記島先輩の邪魔にもめげずに、見事セントルミル中等教育学校の高等部へ城鉈先輩は進学することができて現在に至る訳です」

「私は妨害などしてないです。誤解される発言はしないで頂きたい!」

 と非難されたと考える無海住むかいずみ教頭の語気は強めだ。


「そう無海住教頭がおっしゃっても『生徒は帰る時間です。早く帰りなさい』とか『墨乃地先生の邪魔になるでしょう』とか『君の親御さんが家に帰るのが遅いと心配するだろう?』とおっしゃったと聞いています。

 結果的にそうだったなら『誤解だった、申し訳ない』とまずは謝るべきお話ではないですか? もしかしたら城鉈先輩のやる気を削いでしまい、先輩は進学できなかったかもしれないんですよ?」


 鬼記島と手下2人を除いた全員の生徒から、睨まれ怯んだ無海住教頭は

「須水根刑事はこんな生意気な生徒の発言をこれ以上、許すとおっしゃるんですか!?」

「「「そうだ、そうだ!!」」」

 と無海住教頭の僕へ向けた発言に、鬼記島先輩たちは同調する。


「黙って聞け!」

 と須水根刑事から怒鳴られて渋々といった様子で無海住教頭たちは黙った。須水根刑事に「ありがとうございました」とお礼を言って僕は話を続けるのだった。

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