第22話 葉積用務員の過去
僕の言葉を受けて
「
僕は葉積用務員に向き合う。
「もう犯人が誰か僕には分かっています。葉積用務員さんも本当のことを話してください」
「俺を疑っているのか!? 俺が殺す訳がないだろう! バカにするのもいい加減にしろ! それに角田校長は殺人なんて絶対にする人じゃない! 俺は角田校長を信じている! 俺を助けてくれた角田校長が殺人なんてする訳がない!」
と言った葉積用務員の言葉に頷く。
「そうですよね。葉積用務員さんは角田校長をかばっているだけです。事件の当日、セントルミル中等教育学校にいたのは葉積用務員で、角田校長を見ていない。どこにいたかも知らない。それが葉積用務員さんの知っている真実ですよね?」
信じてもらえると思ってなかったのか、ポカーンと口を開けて葉積用務員さんは僕の顔を見つめる。
「そ、そうだ。角田校長は人を殺すようなお方じゃねぇ。だって俺みたいなクズを助けてくれたのは角田校長なんだから!」
と泣き崩れ角田校長の無実を主張した。
「葉積用務員さん、あなたの知っていることを話して頂けますか?」
と泣くのがおさまった様子の葉積用務員を見つめて僕はお願いする。そして葉積用務員は自身の過去の話をしてくれるのだった。
☆葉積用務員の過去☆
だが、葉積用務員は酒と賭け事が大好きだった。安定した用務員という職業に就いていたのに、生活費を競馬や競輪につぎ込むことも少なくなかった。
「あなた、賭け事は止めて。この子の運動着すら買えない。給食費だっているのよ!?」
そう奥さんに言われるとき大抵、葉積用務員は競馬に負けて、酒を飲んでいた。
「俺が稼いできた金だ! 俺が使って何が悪い!」
「私たちが生きていくためのお金でもあるでしょう!? なぜそれが分からないの!」
「うるせぇ!」
と葉積用務員は奥さんを殴ってしまう。
それを見ていた娘は
「なんでお母さんを殴るの!? お父さんなんて大っ嫌い!」
と叫び、泣いていた。殴られた奥さんは葉積用務員を睨みつけた。
◇
いくら揉めても使ってしまったお金は戻ってこない。仕方なく奥さんは、実家からお金を借りてやりくりしていた。
自分で稼いだ金だから、と競馬と酒に葉積用務員はお金をつぎ込んだ。勝てるときもあったが賭け事は胴元が勝つ仕組みになっている。続ければマイナスになるようにできている。
だから葉積用務員は賭け事に負け、奥さんとは何度も喧嘩になった。酒を飲んでいた葉積用務員は奥さんに手をあげることも多かった。そしてついに奥さんが実家からお金を借りてきたお金を、競馬と酒に使い込んだ。
奥さんは烈火のごとく怒った。
「あのお金は私とこの子のためのお金よ!? 自分の稼いだお金を『俺の金だ』と私に相談もなく勝手に使い、あげくこれは私が借りてきたお金なのに勝手に使うの!? あのお金はあなたが稼いだお金じゃない! もう、あなたにはついていけない!」
と言って葉積用務員を引っぱたき、奥さんは娘を連れて出て行った。
葉積用務員は今まで文句は色々と言われても、やさしかった奥さんに引っぱたかれて酒の酔いが醒めた。だが、全ては遅かった。奥さんは悩んだ末での決断だ。それが葉積用務員を引っぱたいたことに現れていた。
奥さんに全て任せっきりだった生活から、一変して全てを自ら行うことになった葉積用務員の生活はうまくいかなくなった。上手くいかないから、それを忘れるために酒を飲んだ。
学校の設備も管理が行き届かなくなった。そのせいだと思われる怪我人も出てしまった。葉積用務員には解雇という2文字が頭に浮かんだ。そして心の底から後悔した。
解雇寸前で、泣きくずれ頭をさげる葉積用務員の話を聞き、事情を理解し解雇にならないように配慮してくれたのが
「揉めた原因であるお酒と賭け事を一切やめなさい」
それが角田校長と葉積用務員の絶対の約束事だったのだ。
※
過去を話してくれた葉積用務員に「ありがとうございました」と僕はお礼を言う。
「そういう訳です。角田校長は葉積用務員にかばわれていたんです。そうなれば一般の方の目撃証言が気になります」
といって須水根刑事をちらっと見る。
それに頷いた須水根刑事は
「まず一番最初の目撃証言だが『制服を着た女の子と誰か分からない人が口論していた』これが咲見崎サヤの事故、自殺説に、大いに疑問を抱くことになった発端だ。この証言がなければ我々警察は、咲見崎サヤの一件は事故もしくは自殺として処理していただろう」
とみんなの顔を見ながら発言した。疑いのある人物の表情を見るためだろう。
そして警察手帳を見てこう続ける。
「そしてさらなる捜査の結果、我々警察は『セントルミル中等教育学校の制服を着た女の子と誰かが口論になっていた。そして2人は揉み合いになりその誰かは女生徒を橋の上から川へ突き落した』という証言を得たんだ」
と言い、コホンと咳払いをして須水根刑事は警察手帳をパン! と叩いてみんなの視線を集める。
「これにより事故や自殺という線は、限りなく薄くなった。殺人事件だと断定し、我々はあらゆることを疑い本格的な捜査に入った。地道な聞き込みを入念にしたんだ」
といってみんなの反応を見逃すまいと須水根刑事は睨みつけるのだった。
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