第21話 それでは皆さん謎解きを始めましょう?

「やっぱり墨乃地すみのち先生って独特の考えをしてますね」

 と僕はニヤニヤが止まらない。


「何も言い返せなかった缶太城鉈に墨乃地先生は『人の子の親になるってのはそういう覚悟が必要だと俺は思うぞ? 責任がとれる男になってから言え。だから避妊は田魅沢わたしのためだ、必ずしろ。まぁ、墨乃地先生おれを養う覚悟はいらんけどな。時が経てば自然とうまくいくもんだ。今はまだ早いってだけだ。気持ちは分かる。俺もそんな時期はあったしな、だが焦るな!』ってビシッと言ってくれたんだよ」


「ド直球な先生だったんですねぇ」

「だろ? でもホントにいい先生だったんだよ」

 と田魅沢先輩はニッと笑った。


 我がことのように墨乃地先生を自慢する田魅沢先輩だった。


「んで缶太がしょげて帰った後で、『社会人になるまでお前一筋で付き合ってるようなら、お前から頼んででも城鉈しろなたと結婚しとけ。城鉈みたいなイケメンが、人として一番ちゃらんぽらんで誘惑が多い学生時代を過ごして、それでも一途に浮気もしないなんて、そんな相手とこれから先の人生で出会える可能性なんてほぼゼロだからな? 絶対に逃すなよ? ガッハッハ』って笑ってた。

 あたしが墨乃地先生に惚れそうなくらいだったんだよ。だからその言葉はあたしに残してくれた墨乃地先生の遺言だと思ってる。その遺言を守れるかどうかは缶太次第だけどね……」

「いいお話ですね」

 と僕は答える。


 綺麗な夕焼けが田魅沢先輩を心地よく話をする後押しをしてくれたのだろうか。オレンジ色に光る太陽と空に感謝しつつも、ちょっとしんみりした雰囲気を変えようかな、と鬼記島ききじま先輩の話をする。


「そういえば、鬼記島先輩って罰として、墨乃地先生に警察へ突き出されたことがあったみたいですよ? 知ってます?」

「知ってる、知ってる。腹抱えて笑ったわ。説教されてもずっと言うこと聞かなかったから『お前らのやってることは犯罪だからな?』って言われて、警察に突き出されたらしいね。やりたい放題だから当たり前だって思ったわ」

 と田魅沢先輩は笑いだす。僕も同志よ! って思って一緒に笑ってた。


「ですよね。でも本人たちは警察に突き出した墨乃地先生が悪いって未だに言ってて、もう何を言ってもダメなのかなって思っちゃいました」

「そうなの? あいつら、ほんとに頭いいんだか悪いんだか、分かんないねぇ」

 なんて言って田魅沢先輩は笑ってた。そういえばと思い出したことを言ってみる。


「城鉈先輩が墨乃地先生に分からないところを教わっている最中でも、無海住むかいずみ教頭が『帰れ』って騒いでたなんて話も聞きましたよ」

「缶太から聞いたなー。それ言ってたわ。あの教頭もホントに最悪なんだよね。鬼記島の肩もつしさ」

 という話を聞き、やっぱりみんな考えることは同じだな、と僕は一人で納得する。


「らしいですね。でも、そんなに親身になって教えてくれてた墨乃地先生って、火災で亡くなったんですよね?」

「そうよ。タバコの不始末が原因の火災だって聞いた。墨乃地先生はヘビースモーカーだったから、ありえるのかもしれないけどね」 


「タバコは気をつけないとダメですよねぇ」

「でも墨乃地先生のアパートの近くで無海住教頭を見た気がするんだよね。すっごく寒い日であんまり見えなかったんだけどねぇ」

 その言葉を聞いて目を見開いた僕は、慎重に言葉を選ぶ。


「墨乃地先生のアパートの近くに無海住教頭が1人でいたんですか? っていうか田魅沢先輩は墨乃地先生のアパートを知ってたんですか!?」

「教頭1人だったよ。住所は知ってるよ。だって年賀状を書いたんだから住所も分かるっしょ」

 墨乃地先生のアパートの近くに無海住教頭が1人でいたのは分かった。


「なるほど、無海住教頭を見たのは3年前の火災の日です?」

「あぁ、そうだよ、間違いない。『これから仕事だから子供はさっさと帰れ』って墨乃地先生に学校から追い出されたんだよ。『終業式のあとに仕事があるの?』って聞いたらさ。『大人の付き合いは色々あるんだ。酒も飲めん俺は行きたくないだが』って言ってたね。

 12月中はずっと図書室に缶太と籠ってて、墨乃地先生に追い出されたのは終業式の日だけだった。その日はあたしの誕生日だったんだ。その誕生日の夜に墨乃地先生は亡くなった。だからこれをあたしが間違える訳がない」


「ちなみに、このことを話した方って他にいます?」

「……サヤ咲見崎だけ、かも?」

「警察には言ってない?」

「あたし警察キライだもん。言う訳ないじゃん」

 そう言って、あっけらかんと笑う田魅沢先輩だった。


 そのあと探偵事務所に行って、

「……っていう話を田魅沢先輩から聞いたんですよ!」

「そんな事実がでてきたのかい!?」

「そうなんです。あとは今、警察が調べてくれてるあの件の裏取りができれば、謎は全て解けると思うんです。でも……」

「何か思うところがあるのかい?」


 僕は自分の躊躇いを言葉にする。

「僕の推理通りだとしても、咲見崎先輩は何を考えていたのか? この謎は永遠に分からないんですよね。もう既に亡くなってますから……」

 と白川しらかわ所長にしょんぼりしながら報告する。


「どうしようもないことはあるものさ。できることを全力でする。そうしたら後は運を天に任せる。人間にできることなんてそれくらいさ。さぁ明日に向けてしっかり準備して万全の状態で頑張るんだ。

 須水根すみずね刑事に主要人物を集めておいてくれるように連絡を入れておくよ。明日の主役は君なんだからね?」

 と、白川所長は僕に気合を入れるように言ってくれた。


 僕は白川所長に感謝しながら考える。1998年12月24日が僕の捜査協力のタイムリミットだ。この1日で連続殺人事件の犯人を追い詰める必要がある。できることは全てした。それでもタイムリミットに向けて情報を丁寧に整理し続ける僕がいた。


 ◇


 今日が1998年12月24日、決戦の日だ。僕の捜査協力のタイムリミットでもある。昨日、白川所長と一緒に須水根刑事に

「僕が捜査協力できる最後の日だから、24日だけわがままを聞いてください。お願いします」

 と無理を言って放課後にこの事件の主要人物を集めてもらうようにお願いした。


 そして今日で犯人を特定し追い詰め、逮捕しなければならない。葉積用務員が主張した角田校長のアリバイは、須水根刑事があのあと葉積用務員を問い詰めて崩したそうだ。


 北倉きたくらさん、白川しらかわ所長、角田かくた校長、無海住むかいずみ教頭、桧山ひやま先生、葉積はづみ用務員、城鉈しろなた先輩、田魅沢たみさわ先輩、鬼記島ききじま先輩と手下2名、阿武隈あぶくま先輩、そして須水根すみずね刑事とその部下3名が集まってくれた。


 広すぎだろうと思っていた応接室が狭く感じる。須水根刑事に事情を話して、僕が集めてもらったメンバーだ。 


 現在、桧山先生と角田校長の2人はルミール橋の上にいたのではないか? と疑いがかかっている状態で、葉積用務員に明確なアリバイはない。そしてルミール橋の上で一般の方の目撃証言の内容を、桧山先生と角田校長に確認する必要がある。だから本来なら須水根刑事に無視されても、文句を言えない。僕は探偵と名乗っているだけの単なる高校生なのだから。


 そんな状況なのにも関わらず自分の捜査を後回しにして、僕が頼んだこの事件に関わる主要人物を集めてくれた須水根刑事には、本当に感謝しかなかった。こうして場は整った訳だ。


 そして僕は集まったメンバー全員に

「それでは皆さん謎解きを始めましょう?」

 と、静かに語りかけるのだった。

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