第19話 崩れるアリバイ
「こちらも
と書類を引っぱりだした白川所長は続ける。
「タバコの不始末、いわゆる寝タバコが原因だったらしく、お酒に酔ってタバコに火をつけたまま寝てしまい、タバコの吸い殻が布団に落ちて火災になった、って話はしたよね。そして墨乃地先生の火災の追加情報だ。この火災の日はセントルミル中等教育学校での忘年会の日だ。年の瀬も迫ってくる慌ただしい日で、寒くて空気も乾燥していたらしい」
書類をパン! と叩きつつ
「忘年会は近所の居酒屋で学校関係者がほとんど参加したらしい。
無海住教頭がお酒を勧めてたのかと考える。それならと思い浮かんだ疑問があった。僕は
「
と聞いてみた。
「桧山先生はいなかったそうだよ。その少し前に倒れたお母さんの容体が心配で、欠席したって聞いたかな」
桧山先生は忘年会にいなかったのか、と僕は思った。これはちょっと考えてみる必要がありそうだ。
「ありがとうございました!」
と答え寮へ帰る。
今日の捜査は終わりだ。不本意だけど転校させられる期限は迫ってくる。それでもまだ時間はあると僕は一人呟いた。
◇
1998年12月20日は日曜日だったので、情報を整理して白川所長と話をしている間に終わってしまった。
◇
今日は1998年12月21日だから転校まであと3日だ。寮から出ると朝から何やら騒がしい。どうしたんだろうと見ていると
「これってどうなってるの?」
と北倉さんにそれとなく聞いてみる。
「警察がたくさん来てるんだよね。私も
髪留めの大きなリボンをピンっと引っ張り右足をちょこんと前にだして微笑んだ。まぁ、北倉さん流のいつもの挨拶だよな、と僕は一人納得する。
そこへ
「今度こそ逮捕だ!」
と息を捲いて暴走しそうな勢いだ。歩くのが速い須水根刑事は部下を置き去りして校庭の真ん中を突き進む。
「何があったんですか?」
「校長だ! 角田校長が犯人だ! 今度は絶対に逮捕してやる!」
と大声で騒いで勢いよく校長室へ向かって走り出した。さらに部下との距離が開く。
僕たちも校長室へ須水根刑事を追いかけた。
「さぁ、今日は洗いざらい吐いてもらうぜ? 角田校長! あんたがルミール橋で女性を車に乗せるのを見たっていう証言があったんだからな!」
椅子に座っていた角田校長は静かに目を閉じた。そのまま椅子にもたれかかり、目頭を指で押さえた。そして立ち上がろうとしたのか、肘掛けに両手をついた瞬間、
「その事件の日に角田校長先生を学校でみました!」
と
アリバイの崩れた角田校長の新たなアリバイを主張したのだ。
「何をしてたかは分かりません。俺が見たって校長先生の仕事は何してるのかなんて分かりませんから」
須水根刑事が校長が犯人だ、と大騒ぎしていたのを聞いて走ってきたのか息も絶え絶えにしている。
「本当のこと言ってるのか? 嘘じゃないのか!?」
との須水根刑事の怒鳴り声に
「刑事さんはセントルミル中等教育学校にいた訳じゃないんだから分からないでしょう? 俺は見たんですよ」
とぜぇぜぇ言いながら答えた。
須水根刑事は疑いの眼差しを葉積用務員に向けながら
「それでは、校長はいつ帰ったというんだ?」
と問いかけた。
「それは俺には分からねぇよ。ちらっと見ただけで角田校長先生と話をした訳でもないんだから」
僕は須水根刑事に
「どちらの目撃証言が正しいのか調べる必要がありますよね?」
と話しかける。
怒りを抑えきれない様子で須水根刑事は葉積用務員を問い詰める。
「咲見崎先輩の死亡推定時刻は11月24日の22時から24時頃くらいだ。そんな時間に角田校長が学校にいるのは不自然だとは思わなかったのか?」
と須水根刑事は苛立たし気に問いかける。
敵意まるだしで言われても葉積用務員は
「何か仕事があるんだろうなぁとおもったさ。毎日残業だろう? 俺には分からない大変さがあるんだろうさ。角田校長の仕事の邪魔にならないように働くのが俺の仕事だ」
と真面目な顔をしている。
なんでも答えるから聞いてみろ、とでも言いたげな様子に須水根刑事は躊躇する。頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった須水根刑事は部下に「行くぞ!」といら立ちをぶつけ校長室を後にした。またしても逮捕できなかった須水根刑事は自分の面子も潰され、自信も自尊心もボロボロだろう。
角田校長のアリバイが崩れたかと思ったら、葉積用務員が崩れかかったアリバイを主張して大混乱だった。
怪しい3人の容疑者が警察の前に、ニンジンのごとくぶら下げられている今日この頃という状況だ。須水根刑事が怒る気持ちはとても分かる。もうアリバイを崩して逮捕だと思った瞬間だったはずだからだ。
無海住教頭に転校しろと一方的に言われた僕の時より、ずっときついだろう。僕の転校のタイムリミットも近い。
あと3日で犯人を追い詰めないといけない訳だ。とはいってもあと3日もあると考える余裕をもたないと、いいアイデアなんて出てこない。僕はそういうタイプの人間というだけの話だ。
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