第17話 3度目の怪文書

 翌朝の1998年12月18日、学校へ行くとパトカーが集まり大騒ぎになっていた。

「また何かあったんですか?」

 と僕はそばにいた桧山ひやま先生に聞いた。


 そこへ

「おはよー。何事なの? この警察官さんたち」

北倉きたくらさんもやってきて話に加わる。


 聞かれた桧山先生は困った顔をして

「それがね、学校の校長宛てにまた怪文書が届いてね」

 と話した。


「また怪文書ですか? どんな内容だったんです?」

 と疑問に思った僕は聞いてみた。


「それがね。私が聞いたのは『お前たちの隠している事実を白日の下にさらしてやる。覚悟しろ』っていう内容だったのよ」

「隠している事実ってなんですか?」

 と北倉さんが不思議そうに聞き返してきた。


「なんだって言うのかしらね? 咲見崎さみさきさんの件といい、何度も届いた怪文書の件といい、不穏な感じなのよね」

 と桧山先生はため息をつきながら話す。


 僕は腕を組んで考える。隠し事があるから晒してやる、と怪文書が届いた。

「それだけでこんなに警察官が集まるんですか? なんか殺気立ってるというか、ずいぶん物々しい雰囲気だと思うんですけど……」 

 と僕は桧山先生へ、ざわついてる雰囲気に疑問を呈す。


北倉さんも

「そうね。咲見崎さんの事件を調べるために、警察官は巡回も増やしてくれてたのになんでこんなに集まったのかしらね」

 とこれだけの警察官がきている事態を不思議に感じたようだ。


 すると桧山先生は眉をひそめ小声で

「どうせ分かるでしょうから教えるけど、実は『このまま墨乃地康太郎の殺人事件の犯人が捕まらないなら、また人が死ぬぞ』っていう脅しのついた怪文書だったのよ」

 と話した。


 聞いた北倉さんは

「そんな内容だったんですか!?」

 と驚いた。僕も

「墨乃地先生の事件って事故じゃなかったんですか? それにその後の文って殺人予告みたいなものじゃないですか」

 と焦る。


 僕は首を傾げる。

「この怪文書って墨乃地先生の火災事故を、なんで殺人事件って断定しているんですか?」

 頭の中はクエスチョンマークが飛んでいる。


 この怪文書の人物は真犯人を知っているとでもいうのだろうか? 北倉さんは

「墨乃地先生って先輩たちが話してた先生でしょ? でも墨乃地先生って色んな人に話を聞いた感じだと、悪そうな人じゃなかったよね? むしろみんなから感謝されてるいい先生って感じだったし」

 北倉さんもなんでかしらね? と顎に指をそえている。


「そうなんだよね。僕はこの怪文書を書いた人物は、墨乃地先生のことを知っていそうだと思うんだ」

「そうよね。知らなければそんなこと言えないものね」

 と北倉さんも同調した。


 そこで僕は思考する。

「事故という形で幕を閉じた事件を、殺人事件だという根拠はあるのかなぁ?」

 と僕は呟いた。北倉さんは

「文字の筆跡とかで分かったりしないんですか?」

 と桧山先生に問いかける。


「それがね。文字の大きさもフォントも全て統一されてないらしいのよ。色んな雑誌から切り抜いた文字を貼り付けたみたいで、犯人が書いたものではないみいたいだから筆跡は分からないらしいのよね」

 と桧山先生は再度ため息を吐きつつ話した。


「そうだとしたら僕らにできることは現状ない。これはもうお手上げですね」

 と僕は両手をあげる。警察の動きがどうなっているか、白川しらかわ所長に連絡を取ろうと考えていた。


 ◇


 学校も終わり白川徳三郎探偵事務所に向かう。歩いてる途中も3回、送られてきた怪文書のことを考える。そして事務所の椅子に座って、優雅にコーヒーを飲んでいる白川所長に問いかけた。 

「3度目の怪文書の件、白川所長はどう思います?」


 白川所長は

「そうだね。怪文書の内容は墨乃地の火災事故を調べなければ人を殺す、といってるに等しいと思うよ。文脈だけ見たら『また人が死ぬぞ』って書いてあるから、咲見崎さんを殺したのもこの怪文書の人物と考えるのが妥当なのかもね」

 とコーヒーを少し飲んだ。


「白川所長はこの怪文書の差出人が犯人だと思うんですか?」

 と文書のコピーを見ながら僕は話す。

「私も色んな事件に関わってきて、相手のいうことを鵜呑みにしない方がいいって学んだんだよ。手痛い経験だったけどね」

 と白川は穏やかに話す。


「この人物が犯人ではないと白川所長は考えるんですか?」

 と僕はさらに詰め寄った。


「探偵の仕事は良くも悪くも人の一生を左右してしまう。疑わしきは罰せず、が鉄則の世界さ。

 憶測で物を言っておいて外れてたら知りませんでした、というのはさすがに言われた方は納得いかないでしょ? 冤罪えんざいをかけられた方はたまったもんじゃない、と私はいつも思うんだよ」

 と白川所長はコーヒーの匂いをかいで幸せそうだ。


「この怪文書自体が捜査を攪乱するためのフェイクだ、とでもいうんですか?」

 と僕はさらにそんなことがあるんですかと問い詰める。


「そこを調べるのが君のお仕事さ。私は君に期待してるんだからね? 井波田君?」

 と白川所長はにこやかに僕に笑いかける。僕はため息しか出てこなかった。

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