第2章 天の導きか悪魔の罠か

第13話 怪文書の目的

 僕がなんとなく呟いたことを聞いた北倉さんが

「他の目的って何かしら?」

 と首を傾げる。

「なんだろうねぇ?」

 と僕も腕を組んで考える。


「なんだ。君はそんな意味深なことを言っておきながら答えはないのか?」

 とがっくりする須水根刑事だったが情報を1つくれた。

「じゃぁ、これは知ってるか? 『鬼記島ききじま健三けんぞう田魅沢たみさわカテナのことを調べろ』って今回の怪文書に書いてあったんだが、この咲見崎の件と関係があると思うか?」

 と聞かれた。


「僕が怪文書を書いた訳でも犯人でもないですから、さすがに関係があるかないかは分からないですよ。それが分かったら、もうその人が犯人でしょう」

 と僕は自分の言葉に頷く。


「そうか、さすがに分からないか」

 と呟き、不機嫌になった様子の須水根刑事だ。でも警察の情報を僕に教えてくれた。情報はギブアンドテイクだと白川所長からも言われている。


 ここで情報を隠してしまえば使えない奴ということになり、これから先、僕に情報はこなくなるのではないかと考えた。


 だから僕は鬼記島先輩は無海住教頭を尊敬していて仲がいいことを話した。ついでだし知ってるとは思うけど、念のため鬼記島先輩の親が政治家だということも話しておいた。

 田魅沢先輩は怪文書で名指しされた城鉈先輩の彼女です、くらいの情報しかないですと正直に答えた。


「そんな繋がりもあるのか。頭に入れておく」

 とだけ言い残して須水根刑事は去って行った。どれだけ捜査の役に立つかは分からない。でも、怪文書が調べろと言ってきた人物だ。何かあると思って間違いないだろうと考えた。


 怪文書の1番目の内容は城鉈先輩を調べろ。2番目は鬼記島先輩と田魅沢先輩のことを調べろ。と名指しで指定してきた。


 調べろといわれても、何を調べればいいのかなぁと思った。怪文書を書いた人物の狙いはなんだろうと考える。まぁ、鬼記島先輩と田魅沢先輩は警察が取り調べしてるだろうから今は話なんて聞けないだろう。


 城鉈先輩の時は運よく阿武隈先輩を北倉さんに紹介してもらえたから話を聞けたけど、鬼記島先輩からこちらが聞きたい情報を話してもらう、というのはさすがに無理だろう。


 いや、待て。阿武隈先輩はどうだろう? 同じ学年だし知ってる可能性はあるんじゃないか? と思った。

 さっそく僕たちは阿武隈先輩を探すのだった。


「あ、阿武隈先輩。この前はどうも~」

 なんて様子を伺いつつ挨拶をする。

「お~、お前らか。俺の彼女の話でも聞きたくなったか? 仕方ないなー。実はさ、今日の帰りにデートの予定なんだよな。いや~モテる男はつらいよな? 本当にさ~」

「順調なんですね~。きっと可愛い子なんでしょうね!」

 と北倉さんがフォローを入れてくれる。


 助かる! どんどん阿武隈先輩を褒めておだててあげて! と大げさに手を天井に向け、上げて上げてと動かしてサインをだす。


「阿武隈先輩の彼女ですもんね! 可愛いに決まってますよね!」

「お前ら、分かってきたじゃねぇか! 先輩として嬉しいよ! なんでも聞きたいことがあったら聞いてくれ!」

 こっそりサムズアップして見せると、嬉しそうに北倉さんは大きく頷いた。


「鬼記島先輩について聞きたいんですけど、何か知ってらっしゃいます?」

「お、おう。でもそこは俺の彼女の話じゃないのか? この話の流れからして……」

 とブツブツ文句を言いながらも

「俺が知ってることなら教えてやるよ」

 と言ってくれた。


「ありがとうございます。鬼記島先輩ってなんであんなに無海住教頭と仲がいいのか知ってたりします?」

 と僕は聞いてみた。すると

「そのことか? 鬼記島ってお父さんが政治家してるだろ? だから顔が広いし、知り合いが一杯いるんだよ。無海住教頭もそのうちの1人って訳だ」


「なるほど、鬼記島先輩ってかなりやりたい放題やってると僕は思うんですけど、そこはどう思います?」

「それって鬼記島とその仲間たちをぶっ飛ばしたお前が言うことか? 俺には鬼記島をぶっ飛ばした本人が、鬼記島がやりたい放題してるけどって聞いてくる方がよっぽど謎だぜ? 俺から見ればお前も鬼記島も大差ないぞ?」

 と笑いながら肩を叩いてくる。


 阿武隈先輩って言いたい放題いうけど悪い人じゃないんだよなぁ、と思うと僕も自然と笑みがこぼれた。

「僕は鬼記島先輩が政治家の息子なんて知らなかったんですよ。転校してきたばかりでしたし……。でも鬼記島先輩のしたことを考えたら、ぶっ飛ばしたことを後悔なんてしてませんよ?」

 北倉さんが頬を染めて下を向く。


 その様子を見た阿武隈先輩が

「お前も良い子みつけて、いい雰囲気でいいじゃねぇか」

 ガッハッハという勢いで阿武隈先輩はおちょくってくる。

「もう、やだ~!」

 と照れる北倉さんに背中をバンバン叩かれた。


 なんで僕が叩かれてしかも結構、痛いのはどういうことなの? と思いながらも阿武隈先輩に話を振る。

「なにか城鉈先輩と鬼記島先輩、そして田魅沢先輩に共通点ってあるんでしょうか?」

「「共通点?」」

 と阿武隈先輩と北倉さんの言葉がハモる。


「なんでまたそんな発想になったの?」

 と北倉さんは首を傾げる。

「ほんとにな。でもあの3人に共通点なんて思いつかないけどなぁ」

 と阿武隈先輩も顎に手を当てて考えている。


「城鉈は田魅沢といつも一緒にいるし、鬼記島は手下2人を従えてる。でもこれって別に共通点でもないだろう?」

 自分の顎にぐりぐり拳を押し付けて、悩んでいる阿武隈先輩の頭の中は混乱の極みか?


「何もないですよねぇ。僕もちょっと思いつかないんですよね。なんでこの3人なんだろう?」

 怪文書で名指しされた3人の共通点はなんだろうと僕は頭を抱える。考える必要もないかもしれないんだけども阿武隈先輩の話を受けて想像する。これだけなんだけど阿武隈先輩と話をするのは楽しいんだよなぁ。


 話しやすいし色々知ってるし、と思っていたら阿武隈先輩に

「大丈夫。明日もきっといいことあるさ!」

 と、何が大丈夫なのか分からないけど自信たっぷりの様子で、肩を叩かれ励まされた。ほんとに悪い人じゃないんだよなぁ、と自然とにやけてしまう僕につられて、北倉さんも笑顔になるのだった。

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