第14話 城鉈先輩と墨乃地先生
「高等部に進学するのに成績が
「どこから聞いてきたんだ? そんな話」
と余計なこと言いやがってと毒づいている。
「でもおかげで
「お前らに情報を流した奴はいったい誰だ!?」
「まぁまぁ、いいんじゃないですか? 今が幸せなら。周りからは妬ましい、大喧嘩しろって言わせておけばいいんですよ。怒ると田魅沢先輩と仲が悪いからだって誤解されちゃいますよ?」
とトレードマークの髪留めの大きなリボンを引っ張りながら右足をちょこんと前にだして北倉さんが言った。そのポーズの破壊力は抜群だ。
「お、おぅ。すまなかったな」
と城鉈先輩は北倉さんから目をそらしつつ、大人げなかったと反省している。僕ならこうはいかないだろう。まず間違いなく
(お前、喧嘩売ってんのか!?)
と怒鳴られる未来が見える、間違いない。
でもせっかくだ。田魅沢先輩のことも聞いておこう。
「どうやって成績をあげたんですか? 田魅沢先輩が自慢げに『私のおかげだ』っていってましたけど」
「あぁ、それか。遊びに行こうとしてたら、どこに行っても
「ほうほう。それは田魅沢先輩との初々しいお話ですね」
「じじぃかお前は」
「おじいさんですね。先輩の意見に私も賛成です」
「だよなー!」
「そうですよねー!」
なんて2人で同意してるけど、僕はその話を何事もなかったかのごとくスルーする。
「それだけで勉強ができるようになったんですか?」
僕の質問に城鉈先輩はなんだかんだ言いつつ答えてくれる。
「んー、俺もよく分かんないんだよなぁ。カテナは俺について来て本読んでるだけでさ。特になんか教えてくれた訳でもないんだよ。ただそばにいて本読んでただけ。
そんで俺がどこか移動するとついて来て、逃げ出そうとすると捕まって、図書室に連れていかれてカテナの読書に付き合わされただけなんだよなぁ」
なるほど、それはなかなか興味深い。それは田魅沢先輩だけの思い付きではない、と僕は考えた。その作戦を考えて田魅沢先輩に教えたブレーンがいるに違いない、と思ったのだ。
そして読書に付き合わされたと言っているけど、実は城鉈先輩に机に向かう抵抗をなくさせることが田魅沢先輩の目的だ。そして徐々に勉強する習慣をつけさせられた、と考えられる。そのことに城鉈先輩自身は全く気づいていない。面白いことを考えた人物がいたものだと僕は思った。
その人物に僕は興味が湧いた。
「そういえば先輩が高等部に上がるのに救世主って呼ばれた先生がいたとかなんとか? たしかス……スミ?」
「あ~、
「そんなに遅くまで見てくれていたんですか?」
「そんな時に
「それすごーい! 男の意地ですね。城鉈先輩が高等部へ進学できて田魅沢先輩も喜んだでしょう?」
と北倉さんが城鉈先輩に感嘆の声をあげて言う。
先輩は照れながら
「まぁそうはいっても墨乃地先生は将棋部の顧問してたから、空いた時間に分かんないとこだけまとめて教えてもらってたんだ」
「でも
「落第しそうな生徒に教えてるのに『帰りなさい』って言ったんですか? それって見方を変えたら退学しろ、って言ってるのと変わらないじゃないですか! ひどいですよ、それ!」
北倉さんがそれはいくらなんでもあんまりだと憤る。
「だろう?」
「ほんとにひどいですね」
「それでも無海住教頭をとりなして、分からないところを教えてくれたのが墨乃地先生だったんだよ」
「なるほど、そんな横やりが入っても、田魅沢さんがいつも一緒にいてくれた?」
「そうそう。でもカテナはいるだけで、俺に勉強を教えてくれた訳でもなんでもないんだよ。教えてくれたのは墨乃地先生でな。カテナは隣にいただけだったんだけど、いつの間にか周囲から付き合ってると思われてる状況になっててさ」
「ふむふむ!」
北倉さんがなんかやたらノリノリだな。手帳まで取り出してメモしてる。一体どうしたっていうんだ? と僕は思っていた。
「俺もずっとカテナといるのが普通になってたから、そのままなし崩し的にな。高等部に進学してから正式に付き合うことにしたんだ」
「な、なるほど~! メモメモ!」
「ちょっと離れて。北倉さん! 城鉈先輩に失礼でしょう」
「はっ! ついつい、ごめんなさい」
小さくなっていく声と態度に
「まぁまぁ、そんなに怒らなくていいからさ」
と城鉈先輩は気にしないでくれ、と笑っていた。
だが、それは本意なのかは謎だ。僕の隣に立っている人物のせいだ、と分かるからだ。怒りの表情を浮かべていた人物は怒鳴り声を上げる。
「ちょっと何?
「はっ! 田魅沢先輩!?」
と、隣にそびえたつ田魅沢先輩に気づいて城鉈先輩から距離をとる北倉さんと、青ざめた顔をして田魅沢先輩に謝り続ける城鉈先輩がそこにいた。
口では『田魅沢先輩はいただけ』とか『教えてもらったことなんてない』とか言っていたけど、城鉈先輩はしっかり田魅沢先輩の尻に敷かれているねぇ、なんて思いながら僕は見ていた。
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