第12話 墨乃地 康太郎という教師

墨乃地すみのち先生は亡くなったんですか? なんでまた」

 と驚いて僕は聞いていた。

「俺が聞いた話だけど、ホントかどうかは知らないぜ?」

 と阿武隈あぶくま先輩は小声で話す。


「聞いた話で充分です」

 と僕は頷く。

「火事で死んだって俺は聞いてる。タバコの不始末が原因で火災になって亡くなった、っていう話を俺は聞いた」

「それって本当なんですか?」


「俺には本当かどうかは分かんないよ。そう聞いただけだしな。でも墨乃地先生ってヘビースモーカーだったからなぁ。ありえない話じゃないとは思っちゃうんだよな。まぁ、生徒の前では吸わなかったけどな」


 そう言われ思い返すと確かに学校の先生が生徒の前でタバコを吸ってた、って話はさすがに聞かなかったなと思いだす。でも授業中だから当たり前だよなぁとも思った。


「職員室の机にはタバコの吸い殻が山のようになってたさ。でもまぁ、いい先生だったのは間違いない。俺が知る限り、男子からも女子からの人気も抜群だった」


「ちなみに阿武隈先輩の1998年11月24日の22時から24時頃のアリバイは?」

「彼女と電話してた」

 と話してくれた阿武隈先輩のアリバイは成立だ。


「ラブラブですね!」 

 僕は妬ましいと思いながらも、阿武隈先輩らしいなぁと笑った。


 墨乃地先生か。阿武隈先輩から聞くまでは全く気にしてなかったけど、鬼記島先輩たちを警察に突き出した件から考えてもいい先生だと思った。タバコの不始末か。ちょっと白川しらかわ所長に火災で亡くなった状況がどんなものだったか聞いてみようと思った。


 ◇


 新聞を読んでた白川所長にまずは鬼記島ききじま先輩たちと北倉さんのアリバイを警察が知っているか聞いてみた。ごそごそと資料をとりだして、鬼記島先輩たちは自宅にいたと証言したことが分かった。北倉さんは塾にいたとのことだった。


 家族の証言はアリバイにならないとはいえ、そこは学生だ。みんなそんなもんだろうと僕は思った。北倉さんのアリバイは成立だ。内心ほっとする。最初からみんなのアリバイを白川所長に聞いておけばよかった、と後悔してるくらいだ。


 鬼記島先輩たちのことは納得して、墨乃地先生のことを聞いてみた。新聞をかたわらに置いて

墨乃地すみのち康太郎こうたろう? 誰のことだい?」

 と聞き返された。


 さっきも見ていた資料を探してくれたけど墨乃地先生の情報は入ってないらしい。警察は調べてないんだろうか? と疑問に思ったけど、僕は知りたいのだから仕方ない。


「学校で聞いたんですよ。いい先生だったって。城鉈しろなた先輩が高等部へ進学できたのもその先生のおかげだって。他にも色々あるんですけどね」

「話を聞いて興味がわいたと?」


 その問いに僕は頷き

「そうです。いい先生だったけど、3年前にタバコの不始末が原因で、火災になり亡くなったと聞きました。その時の状況が知りたくて」 

 と答える。


「一体なんでまた3年前のことを調べようなんて思ったんだい?」

 と白川所長は聞いてくる。


「僕の勘です。城鉈先輩が進学できるかどうかは、賭けの対象にもなっていたって聞きました。そんなプレッシャーの中で見事、セントルミル中等教育学校の高等部へ城鉈先輩を進学させた。

 セントルミル中等教育学校の問題児とはいえ当時は中学生ですけど、不良連中を警察に突き出した腕っぷしの強さもあって人気抜群だった先生らしいです。

 城鉈先輩を調べる必要があると怪文書の人物が言うなら、その教師を調べてみる価値はあるんじゃないかと思うんですよね。怪文書を書いた人物が調べろっていった城鉈先輩に関わりがあるなら、色々でてきそうじゃありませんか?」

 と白川所長の興味を引けそうな話をしてみる。


 ふむ、と白川所長は考えて

「3年前のセントルミル中等教育学校の教師の火災事故か。全く関係なければそれはそれでいい。もし関係があったとしたら、警察には大きな恩を与えられる可能性がある……か」

 と一人呟いた。


「分かった、私の方で墨乃地康太郎の火災のことは調べてみよう」

 と頷いてくれた。

「ありがとうございます」

 と、僕は墨乃地先生のことを調べてくれることに感謝した。


 ◇


 1998年12月14日、僕はいつも通り寮から学校へ向かう。なにやら学校にパトカーが数台並んでいた。


 北倉さんがパトカーを見ていたので

「どうしたんですか? この大騒ぎ」

 と聞いた。


「うん。聞いた話だとね。『咲見崎サヤを殺したやつが名乗りでなければ、犯人を殺すぞ』という怪文書が封筒に入れられてセントルミル中等教育学校にまた届いたんですって」

 僕はちょっと耳を疑った。


「ほんとに?」

 と僕は聞き返してしまった。

「私はそう聞いたわよ。だから警察が朝から学校にきて大騒ぎよ。犯人は誰だか警察すら分かってないのに、この怪文書の人物は犯人が分かっているとでもいうのかしらね?」


 警察は完全に面子を潰された状況だ。そんな状況を吹き飛ばすかのように、須水根すみずね刑事は気合が入っていた。

「君たちか。もう話は聞いてるのか?」


「また怪文書が届いたって話ですか? 犯人を殺すとか書いてあったらしいですね」

「そうだ。犯人が分かっているなら警察に一言いえばそれで解決なのに、なんでこんな面倒なやり方をするんだ!」

 と須水根刑事は手を握りしめる。


 この発言を聞いて僕はなんとなく思いついたことを言ってみる。

「怪文書の人物も犯人が分からないからじゃないですか? 別に犯人が分かってるなら、こんな怪文書をださなくても、通報すればいい。

 四の五の言わずに犯人を殺せばいいんですよ。それをしなかった。いや、むしろできなかったとすれば、この怪文書を書いた人物は犯人が分からない。もしくは他に目的があるから、通報しないし殺しもしない、ってことなんじゃないですか?」 

 と思いつくまま話し、須水根刑事の反応をみるのだった。

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